エリスタリアにおいて、図書という文化は定着しているとはいいがたい。
長期間にわたり知的能力の減衰しない
エルフや樹人たちは情報を記憶によって保存し、口伝によって継承する。
文字とは装飾の一つにすぎず、儀礼的な場面にわずかな役割を見出すことができるばかりである。
例外的に
ホビットは彼ら独自の色彩豊かな文字を持ち、羊皮紙や布で巻物を作り保管する。
知識の貯蔵という感覚は薄く、絵や織物といった手の込んだ装飾品の一種と見なされている。
こうした中、新都エリューシンでは地球人による新たな試みが好評を博しつつある。
チャールズ・ラーキンはオックスフォードで歴史学を専攻していたが、休暇で訪れたエリスタリアに魅了されて現地で英語学校を開いた。
だが教材として持ち込んだ教材が問題の種となった。
エリスタリアでは花は性器とみなされ、公共の場での取り扱いには注意を要することは有名である。
同様に、教科書やノートなどの紙類が、死体を加工したものであるとみなされて恐慌を巻き起こしたのである。
もちろん、異世界でも地域によっては植物由来の紙はポピュラーなものであるがエリスタリアに持ち込まれることは稀であり、免疫がなかったためにこうした問題が起きたのだ。
学校の計画はついえたが、ラーキンはこれを逆に利用することを思いつく。
それが、『ラーキンの残虐行為記録保管所』である。
オックスフォードのボドレアン図書館を模して建造された店内には地球式の本が並び、訪れた客たちはそれらを指さしては目を潜めて囁きかわす。
仕切られた閲覧室では本に直に触れられるほか、もちろん読んでもよい。
興味津々の客たちが怖いもの見たさで列をなす、要はお化け屋敷としての扱いである。
ラーキンはロンドン塔の蝋人形館にヒントを得たと語っている。
なお、展示されている本は紙ではなくプラスチックでそれらしく作られたあくまで偽物であり、入店時にはその旨アナウンスされる。
当初こそ大いに物議をかもしたが、現在では受容も進み、本の中身に興味を示すリピーターも増え始めている。
ラーキンは英語の教育講座も開設しており、数々の名作を教材として授業を行っている。
一番人気はシャーロックホームズであるとのこと。
ラーキンの試みは、英国とエリスタリアの文化交流において大きな成果を上げている。
有名な旅行案内書『ベデカー』エリスタリア版でも、エリューシンの名所の一つとして取り上げられているほどである。
但し書き
文中における誤り等は全て筆者に責任があります。
千文字。
- 世界樹の国で植物の国だからこそのエピソード。逆にそれを使って一つの見世物にするというのは予想の斜め上だった面白い -- (名無しさん) 2014-09-04 02:37:10
- 人体の不思議展的なあれか……いや、あっちは実物を特殊処理したもんだけどさ。 -- (名無しさん) 2014-09-04 04:42:30
- これ凄い面白いなあ。ラーキンさんのエピソードでシリーズ作れるかも -- (名無しさん) 2014-09-04 19:44:17
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最終更新:2014年09月17日 23:24