【ローリングフォレスト】



「ねぇ!何か地面、傾いてない?」
「主よ、ここら一帯はまだ根の浅い森でございます。留まるは危険でございます!」
「ねぇねぇ!これ絶対傾いてるっしょ?!」
「はい。皆、走りますのでついてきて下さい!」
「え?走るって何処に」
「いちいちうるせぇ新入りだな!【山】に決まってるだろ!」
「え?え?山??」
「なーにが新入りじゃぃ。ワシの後にお前で、最後に入ったくせに偉そうにの!
山と言っても鱗なんじゃ。ささくれ立った龍鱗に向かっておるんじゃ」
「龍…鱗?」
「最後?ツグンノ、貴様の方が最後だろうが!」
「いーや!隊長の前に先に落ちたのはワシが先じゃぃ!」
前後左右に揺れる中でどんどん世界が傾いていってるにも関わらず関わらず、
何でこのどんぐりの背比べなゴブリンドワーフは喧嘩しながら走ってるのさ?!
「背に積もった土に根を張る木々では駄目なのです。直接体より生える鱗であれば【回天】が収まるまでの足場として磐石なのです」
速っ!?意外に速っ! 亀人ってこんなに速く走れるんだ!ベンさん凄い。
「あの、ベンさん、さっきから龍とか龍とかって一体何の ──

 ヴァゴォァアアアォォオオオオーーー

地の底から響く耳を劈く咆哮再び。
鳥はやたら鳴き飛び回り、小動物があちらこちらで走り回る。野生阿鼻叫喚!
「この地の高き高き場所、もしくは飛び空へ出た者であれば知ることができます。
私達の立っているこの地が、巨大な【龍】の背であるということが」
既に傾斜は45度を越えて傾きまともに立っていられぬほど。
驚愕!の告白をすぐさま裏付けるかのように右の彼方と左の彼方が捲れあがるように隆起した。
「つば…さっ!?」
木々の隙間から見える遠い空。そこに山より高く舞い上がったのは明らかな翼膜とふとましい骨格、筋肉。
「かつて私は風達に連れられ空の高く、その上よりも高くまで飛んだことがあります。
その時、黒い空から見下ろした先に悠然と雲海を滑り泳ぐ龍。山と森と水を背に湛える龍を見たのです」
「へぇー!そうなんだ!」
太い幹の上…横に立つ。既に直角を迎えていた。
「主は常に冷静でおられる…」
それまで一心不乱に駆けてきたが足場が地から木へと変わったことで一同は慎重に歩を進める。 何せ下は ──
「うわー…何か色んなものがぱらぱら落ちていって小さな点になって雲に吸い込まれて…あの後どうなるんだろ…」
「落ちたらそりゃ平らよ平ら真っ平らよ!」
「なぁに心配するでない嬢ちゃん。痛いのは一瞬だからの!グライフリッターは墜ちることなぞ恐れんぞぃ!」
余程空に慣れているのかゴブリンのターダブさんは兎も角として、ドワーフのツグンノさんの身軽さが意外も意外。
「これ、このままいくとひっくり返るんですよね?どーするんですかそうなったら!?」
「これを」
背の荷箱から鉤爪をしっかり結わえ込んでいる縄を取り出したベンが皆に配る。皆、無言で腰に巻きつけぶんぶんと振り回してみせる。
「ぶら下がる?」
「はい」「そうです」「その通り!」「簡単ぞぃ」
暫く進むもいよいよ角度は180度に迫り立てる場所がごっそり無くなってしまう。
「うーん…私が飛べる鳥人だったら良かったのにって今ほど思ったことないよ」
「はっはっは!娘、空を飛べたら楽とかそれは素人の考えだ!」
「えー?だって空飛んでたら引っ付いたり引っ掛かったり苦労しないじゃないですかー」
「そりゃ何もない空ならそうなんじゃがの。 ほれ、落ちて行く動物どもを見てみるぞぃ」
視線の先、木々にしがみ付くも振り落とされていく動物達にここぞとばかり襲い掛かるは数多大小の猛禽だの昆虫だの。
空のその場で集られ啄ばまれ引き裂かれ、骨まで砕かれ霧散していく。
「天地が逆さになった今、丘と空の力関係が逆転しているのです。鳥の様に飛べたとしても力なくばたちどころに消えてしまうでしょう。
せめて、ヨイチくらい速く自由に飛ぶことが出来れば話は別ですが…」
「そういえば遠方偵察に出たっきり帰ってきておりませんね」
「あの蟲、火種のシズカまで連れてったもんだから暖もとれずに待つハメになってたってのに」
「仕方なかろうもん。精霊の目は我らで見えぬものも見えるんじゃ。 我らの進む標を探すためじゃ仕方なしぞぃ」
 ゴゥゥウッ
ほぼ反転しきった森の中、無事な木々伝いに逆さになってなお聳える山を目指す足元の枝が激しく揺れる。
 ギシャァアアッッ
「ベン!」
抱える重みで他より行動が一瞬遅れたベンを狙いすましたかの如く枝と幹が巨大な鋏顎で食い千切られる。
川瀬が呆気に取られる前で三人が一斉に鉤縄を放るも無情に届かず。その先で4メトルはゆうに越すまるで鍬形虫の様な青黒い巨大羽蟲がベンと激しく交錯する。
硬い腹甲と皮膚のおかげか切断は免れてはいるものの、ぎちりぎちりと食い込んで離さない鋏顎は手足から血を溢れ出させる。
「お願いします!風よ!」
何の躊躇いもなくその身を頼るもの無き空へと放り出す黒髪の。瞬きと待たずに風は彼に集まりその身を矢の如く羽蟲へと飛ばす。
 ぞっ ぶんっ
背から弧を描いた太刀は顎の一つを根元からばさり斬り落とす。
縛より放たれたベンが落下するのを苦悶の表情で受け止めた少年へとターダブとツグンノが鉤縄を放り投げる。
すぐにそれを掴んだベンは二人によって枝上へ引き寄せられるも、少年は戻らず尾髪を翻し突撃してくる羽蟲へと向き直り構え。
気がつけば三匹に増えていた羽蟲であったが、少年と交錯する毎に一匹二匹と真っ二つに割れ墜ちていく。
流石に躊躇したのか、片顎の落ちた羽蟲が羽ばたき様子を伺っている処に ──
「痛っ!?鼓膜が痺れる!」
突如押し寄せる不協和音の波に川瀬が思わず両耳を塞ぐ。
瞑る片目が見る先で、羽蟲が飛来した黒い影に齧り潰された。
「!親分、早く戻ってくだせぇ!」
「隊長!そいつは【風喰い斑(ギャラガーン)】ぞぃ!風精霊が散ってしまう!」
二人の激すぐに木々へと反転した少年であったが、影が目の連なる如く斑走る八枚の翅を広げ激しく擦り震わせるや否や動きが止まり、あても無い向こうの空へと吹き飛ばされた。
「空気が澱んでるし風が変!」
「あの黒蟲は風精霊を狂わせる!」
「あやつが飛べば精霊駆動の飛空船も墜落してしまうんじゃぃ!」
「どうすんの!どうすんの!?」

 キィィィィィイイイイイイイイイインンン
更に耳を劈く高周波が彼方の空から迫ってくる。少年への一直線軌道を弾丸の如き速さで。
「あれは!」
「戻ってきたぞ!」
「そのまま隊長を助けるんじゃ!頼むぞぃ!」
引き裂く雲とは対照的な黒曜の光。鏃を思わせる円錐に鋭角で生える甲翼の全体像はさながらステルス戦闘機。

 「やーん、これってすっごくオイシイとこに戻ってきたんじゃん?」
 円錐に抱え込まれる様に提げられたランタンの中で炎精霊が目を丸くして指差す。
 空を乱れ飛ぶ少年へと微妙に角度をずらし調整する黒い弾道が、爆音を上げ空気の壁を打ち鳴らし加速する。
 「マスターの周辺に風精霊の不在を確認。 これより救助行動に移りマス」


空飛ぶ龍の背中の上で窮地に次ぐ窮地!
そこに飛んで駆けつけたのは一体? 次回に続く!

  • 振り落とされたらまたいちから森や動物は元に戻っていくのかな?逃げ場がないからしがみつくように生きているとか… -- (名無しさん) 2014-11-23 00:44:40
  • 川瀬以外はキャラ全部源義経関係っぽい?落ちたらアウトの空中戦は緊張感ある -- (名無しさん) 2014-11-26 19:55:52
  • 天地逆転阿鼻叫喚のジェットコースターアクションがたまらない。弱肉強食捕食関係が地上と空で逆転してるのも面白い -- (名無しさん) 2017-04-10 13:44:32
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最終更新:2014年11月22日 04:26