アットウィキロゴ

【スカイパーティー】




  背中の翼はとても小さくて、とてもじゃないけど空なんて飛べもしなかった
  それでも私は掲げた手の先の青い空を望まずにはいられなかった
  「じゃあ水の中はどう? ここも空と一緒の青色よ」
  スキュラの杉浦さんに誘われるまま入った水泳部で私はもう一つの“空”
  ここでなら私も… 飛べるっ!!


「ありがとうするする!何度でもするからっ!!」
絶賛降下中、首飾りから飛び出した蒼い光に手を伸ばし懇願すると更に強く輝く滴石。
突如周囲の雲、霧が石へと収束する。 開ける空。
『ワタシの中に飛び込んで。受け止めるから』
落下する直下の何も無い、その場に膨らみ現れた人より大きな水の球。
「うわぉ!?」
落下の速度を水の抵抗で打ち消して ──
 ドボン! ズボボボボ! バシャーー! 水球を突き破る川瀬の体。
「うわーぉ!!」
加速によって生まれた重量はそう易々と止めることはできないようで。
『もっと作るから。ココには水が沢山ある』
ぶわっと再び出現した水球だが同じ様に落下しても恐らく結果は同じ。
「これなら…どうっ?!」
水球に入った瞬間から身を捻り水中でうねりをあげて落下方向を曲げる。
今度は直下ではなく斜め下方に飛び出すと、続いて発生した水球に錐揉みで飛び込むと勢いは上方へ向かう。
「やっふーー!」
悲壮な表情から一変して満面の笑顔。 異世界の空に飛べない鳥人が飛び出した。
次々と生み出される水球を跳ね飛んで移るその姿はまさしく飛翔。
「水の中だけじゃない!空でも飛んでる!飛んでるっしょ!?」
『あ』
出現したのは小さな小さなテニスボール大の水玉で、流石にそれで何をどうこうできるわけもなく。
『長い間寝ていたから力がすぐに尽きちゃった。許してくれる?』
「うん。うん」
光が止まり胸に収まる首飾りから少し漏れ出る水塊がぷるぷる震えるのを、川瀬は掌で優しく撫でた。
 一生飛べるはずがないと諦めていた空を飛べた。 我が生涯に一片の悔いも無し。 空はやっぱり青かった。
今までに無い晴れ晴れとした気持ちで天を仰ぎ両手を伸ばす。 徐々に近づく森を背に感じるものの、不思議と焦燥も恐怖も感じない。
「異世界の空って本当に綺麗。どこまでも高く大きく広がって、吹く風も良い匂い…」
 ビュウ ビュウウ ビュウウウッ
「って強っ!?背中曲がるっ!」
突風には違いないがその風は優しく温かく、落下する背を力強く押し上げる。 そして ──
「もし。このまま落ちてしまうと無事では済まないと思い抱えた次第、邪魔でなければ共に降りましょう。どうか?」

 それは人間。
 男の子。ぱっと見では十五歳前後の少年。
 大きな黒い瞳と頭後ろで結び尾の様になびく長く深い濁りのない黒髪。
 粗末で簡素な服装を帯で縛り、背には体に対して大きいと思える太刀が鞘に収められていた。
 川瀬よりも背丈は低いが、背を抱える両手は力強く一切の揺れがない。
 少年が空を浮いているのは、その周囲に周り飛び従う多くの風精霊のおかげであるのは一目瞭然である。

「あの、このままお願いします」
覗き込む真っ直ぐな視線に少し心しどろもどろになり応えると、少年は微笑み頷く。
囲む風精霊がくるくると回れば二人は緩やかに森林へと降りていく。
「風の皆、ありがとう御座います。助かりました」
少年が深くお辞儀すると、風精霊達はその足元からくるくると回り長い黒髪を撫でる様に空へと昇り消えていく。
(旅行者?にしては精霊の扱いが上手いし…そもそもここって何処なの?!)
「大丈夫ですか?」
「はっ!いえそのあのその、急に色んなことが起きちゃって何が何だかもうさっぱりで… ところでここってどこなんです?」
「…ここは ──
 ガサガサッ ガササッ
「悠々と飛んでいると思えばまた人助けですかな、主(あるじ)よ」
大人の頭大はある広葉を掻き分けて出てきたのは2メトルをゆうに越すずんぐりとした巨体の亀人である。
甲羅の背に合わせて作られたのであろう大きな担ぎ箱を背負っている。
「すまない、ベン。見過ごすことができなくてね」
「いえ、責めてはおりませぬ。それでこそ主です」
「…二人はお知り合いですか?」
川瀬の問いに下からと上からで顔を見合わせる少年と亀人。亀人少し目を細めて川瀬へと向き直る。
「私の名はベン=ケイン。ラ・ムールの生まれで諸国の書物を見聞し回っている中でオルニトの大図書館に立ち寄った際、ある一冊の古い書物を見つけまして
その中身を解読している最中に…」
「最中に?」
「気付けばここにいたという訳です」
「本当ですか?」
「本当です。 そしてこの森当てもなくさまよっていたところ凶暴な獣に襲われ、そこを主に助けられたのでございます」
聞くだけならホラにしか思えないが、今の川瀬には自身の境遇から納得できてしまう。
「“主”は大層だからやめて欲しいと言っても聞いてくれませんので諦めました」
「何を言われる主よ。刀を振るう姿は力強さと美しさを兼ね備え、差し伸べられた手と慈愛に満ちた眼差し…命救われた私が忠を誓うのは当然でしょう」
理解不能な事態で窮地を救われたらショックも嬉しさも倍々なんだろうなぁ。何となく分かるなぁ。
 ガサガサガサッ ガササガサササッ
「隊長!揺れが激しくなっておるぞ!こりゃやばい!」
「親分!こりゃ後一回二回吼えたら“始まります”ぜ!」
競う様にぶつかり合って茂みを押し倒し開き出てきたのはドワーフゴブリン。どちらも同じくらいの背丈。
「ターダブ!しゃしゃり出るな!いい加減そのもやし頭を叩き割るぞぃ!」
「ツグンノ!グリフォンのいないグライフリッターがどれだけ雑魚か思い知らせてやろうか!?」
「何を言うか!飛空船のない空賊こそ雑魚中の雑魚じゃろうが!」

 ヴァアオォオオオォオーーー
喧騒を突き破る大気の激震。地は立てない程に揺れ震える。
「主よ!荷物はもうまとめております!」
「早く何かに捕まらなければいかんぞぃ!」
「待て待て!こんな所で始まったら空の奴らに狙われる!もっと安全な場所を ──
ターダブと呼ばれたゴブリンの言葉が終わるよりも早く“異変”が始まった。

「あれ?何かどんどん…傾いてない?」


飛んできたのは川瀬だけではなかった?
急転?直下?次回【ローリングフォレスト】に続く!

  • 水球渡り面白い。出てきた面々の種族もどう動いていくのか楽しみ -- (名無しさん) 2014-10-27 23:06:57
  • ガサガサと出てきた連中の名前がもじってそうでそのまんま吹いた -- (名無しさん) 2014-10-29 02:42:11
  • 昔の人物が登場とか多そうに思えて時間移動のないイレゲだとほとんどないだけに展開気になる -- (名無しさん) 2014-10-31 23:38:27
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

i
+ タグ編集
  • タグ:
  • i
最終更新:2014年11月22日 04:25