【夜行颪】


※SS内に登場する妖怪とは、『生物としてミズハミシマに存在する河童や天狗のような妖怪種』ではなく『自然現象の延長線上において、姿形を形成するに至った高位の精霊たち』のことです。
季節を左右するほどの力をもった高位精霊たちの姿は、ミズハミシマの人々から良く知られており、天気や明日の運勢を占う指標の一つとなっています。
これらの高位存在は大妖怪と呼ばれ、彼らと対話を行う祀族を陰陽師とよんだりするかも知れません。

夜行颪

 黒い鳥は不吉の吉兆。
 烏は象徴。
 黒翼は悪事を煽る。
 それはきっと、戒めの印。


 夜。
 屋台通りを歩く。
 異世界とは言え、人通りは多い。
 所狭しと屋台が並び、酒を煽る人々で溢れている。
 ふと、影に気が付く。
 屋台の提灯が照らすぼんやりとした光が作る影は、境界線が曖昧だ。
 ばさっ、と音を立てて、影の境界線が“羽ばたいた”
 先ほどまで提灯が作っていたはずの影がなくなっている。
 いや
 正確には、提灯の火が消えていた。
 ぎゃあ、と烏に似た鳴き声が聞こえた気がした。

 何かの縁だろうと思い、提灯の火が消えた店で飲むことにした。
「店主、提灯の火が影に呑まれて消えたようだよ」
 そう告げた私を見て、店主はぱちくりと眼を見開く。
 ばつの悪そうな顔をした店主は、やられた、と呟いた。
 夜行颪の仕業だ、と。

 この土地に長く居着く夜行颪は、静謐の妖怪なのだという。
 夜行颪に提灯を消された店は、一週間ほど客足が細くなるのだとか。
「はた迷惑な妖怪だ」
 と返した私を、店主は諌めた。
 精霊の行うことは身勝手かもしれないが、それがこの世界を回しているのだ、と。
 迷惑を感じているのは、人間様の勝手な解釈でしかない、と。
「それでも店主、客足が途絶えると迷惑だろう」
 揚げ足を取った私を、異世界人らしい考え方だな、と店主は嘲笑した。
 それならそれで、一週間は休暇でもとってのんびり過ごすさ。
 働き過ぎも良くないしな、と返された。
 なるほど。
 あるいは夜行颪は、そうやって人々に安らぎを運んでいるのかな、と思いついた。
 迷惑だ、と断言した私は一体何様だったのか。
 反省をする。

 客が私一人ということもあって、店主が色々とおまけしてくれた。
 夜行颪が提灯を消したなら、客入りはもう望めない。
 せっかくの食材を腐らせるのも勿体無い、という理屈らしい。
 食が進めば、酒も進む。
 ついつい飲み過ぎて、懐が寒くなる。
 店主はそんな私を笑って、夜行颪を見たもんは、大抵そうなる、と言った。
 夜行颪は、静謐の妖怪。
 大金持ちとは対極の存在なのだという。


 翌朝、案の定二日酔いとなる。
 店主に進められるまま酒を呷ったせいだろうか。
 知り合いにこのことを話すと、
 羽が生えた夜行颪は、何かしらの不運を運んでくるものだ、と言われた。
 その羽根は不幸によって世界を戒め、この世の静謐を願うのだという。

  • 風が起こすできごとは偶然か仕業なのか。異世界で見れる今は見ることの少なくなった風情と情緒ある付き合いがあった一本 -- (名無しさん) 2014-11-29 20:36:46
  • こういう感想はあんまり褒められたものじゃないんだろうけど、思わず蟲師の雰囲気で脳内再生してしまった。 -- (名無しさん) 2014-11-29 22:09:23
  • 妖怪の概念が地球にやってきた異種族→異世界に飛んだ人間というように伝わっていったとしたら?とか想像した -- (名無しさん) 2014-11-30 21:02:13
  • ちょっとしたことだけど妖怪も人とかかわりを持ちたいのかな? -- (名無しさん) 2015-04-23 23:10:48
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最終更新:2014年11月29日 00:24