【彼が帰って来た日】

注意 「エルフを拾った日」及び「拾ってから何日か」の続きです




夢を見た
まだ自分は幼くて
その日は村で小さなお祭りをする日で
幼馴染の子と一緒に遊びに行った
小さな手に小銭を握りしめて
真夏の日差しが暑くてかき氷を買った
日陰で座って二人で一緒に食べて
お神輿を見に行こうって二人で手をつないで駆け出した
めったに手なんて繋がなかったから私は繋いだ手ばかり気になってしまった
もうずっと昔の話だけど私の大事な思いで
けれど
きっとあの子はもう覚えていない


しとしとと雨が降っていた
仕事帰りのバスの中は暖かくてねむくなってくるけれど
村に近づくほどに強くなる雨を見ていれば眠気よりも嫌気のほうが強くなるというものだ
バス停から自宅まではなかなか遠い
なにせド田舎なものだから。うちの村は
今バスが通っている道だって田んぼの真ん中とぶち抜いたような道なのだ
私が何年も通い続けているいつものバス停にバスが着く
雨はやはり止んではくれなかった
季節は冬で、今日も気温は低い
お気に入りの赤い傘を持つ指先が冷える
指先の冷たさに耐えかねてこまめに傘を持つ手を入れ替える
歩きづらくない分雪よりはましだけど、やはり雨は好きになれない
まぁ私の実家は農家であるので雨が降らないのもそれはそれで困るのだけど
ばしゃばしゃと水を跳ねさせながら黙々と歩く
周りを見渡しても田んぼと畑と昔からある木造の家しかないのだし
ただ足を進め続ける
雨によって湿った土のにおいが広がる
そういえば私が小学生の頃はこの道はまだアスファルトも敷かれていなかった気がする
そう、あの子と一緒に遊んでいた頃はまだ・・・
何も変わっていないように見えたこの田舎の村も少しずつ変わってきている
私も大学生で
そろそろ就職とか考えないとで
昔とはずいぶん変わってしまったように思う
変わらないものは、と考えて
ふと足を止め、視線を上げる
その先にあるのは幼馴染が住んでいた家
もうずいぶん前にこの村を出ていった彼
彼も今はずいぶんと変わってしまっているのかな
なんて思いながら見つめるその家は彼が出て行ってから全く変わった様子がない
誰も住んでいないのだから変わらないのは当然だけれど
でも私は、自分の家に帰る途中で何も変わっていないその家を見るのが好きだった
別に村や山の開発とか新しい人がやってくるのが嫌なわけではないけれど
でも思い入れのあるところは変わらずにいてほしい、と思う
思うのだけど、
何も変わっていないように見えた彼の家だけれど
歩きながら眺めていると家の裏手に車が止まっているのが見えた
「えっ」
思わず声が漏れた
もしかして、とうとう新しい人があの家を買って引っ越すのだろうか
後になって思い返せば、そんなことを考えたのは、これまであの家には何の音沙汰もなかったから
それだけではないかもしれない
もしかしたら私は彼と会いたくなかったのかもしれない
思い出は壊されたくないから
どちらにせよ、その時の私はついに来るべき時が来たのかと恐る恐るその家の様子をうかがった
そして私は車から降りてくる外国人であろう珍しい色をした長い髪の少女を見て
あぁやっぱり誰か越して来たのかと落胆して
その子と一緒に降りてきた人物を見て思考が止まった
そこから降りてきたのは紛れもなく
幼馴染の彼だった
髪形も少し違って、顔も少し大人っぽくなっていたけれど
それでもなぜか、変わってないな、と
そう思った。


気が付けば私は家に帰って自分の部屋に入って座り込んでいた
どうやって帰ったのかも覚えていない
彼の姿を遠目に見るだけで心がこう、ぐわーってなって
そのままのテンションで家まで走って来たのだと思う
息が荒い、久しぶりのダッシュで頭がくらくらする
それでも私の心は変わらず、よくわからない感情に埋め尽くされている
学校を卒業した後ただずっと流されるままに生きてきた
これでいいのかな、とか、こんなもんなんだろうなとか
そんな適当な感じでずーっと流されるままで、「なんか昔はこんなんじゃなかった気がするんだけどなぁ」なんて思っていたけど
思い出した
そうだ、「こう」だったんだ
彼の居たあの頃は
彼を見るまで忘れてた
初恋の人だったなんて思ってたし、それは事実で、忘れてなかったけど
でも忘れてたことがあったんだ
恋ってこういう気持ちだったんだよ!
私は外から戻って来たままの、コートすら脱いでいない状態だってことも気にせずベッドの枕に飛びついた
そのままギュッと抱きしめる
「はちきれそうだ
飛び出しそうだ
生きているのが素晴らしすぎる!」
どこかで聞いた歌の歌詞を思い出した
わかる
凄くわかる
今私その気持ちすごいわかるよ!
私は今でも社交的ではないけれど、以前はもっと内気で他人と話すのが苦手だった
幼いころは自然に話せていた彼とも少しずつ話しずらくなって、
でも心の中はいつも今と同じ感情で満たされていた
ずっと彼が好きだった
本当に
けれど伝えられなくて
でも彼は帰って来た
だから今度こそは伝えたい
「あなたのことが好きです」と
顔が熱くなってくるのが分かった
そこでまだコートを着たままだと気付いて、同時に雨に濡れたコートのせいでベッドまで濡れてしまっていることに気付いた
「げっ」


その夜、私はまた夢を見た
学生時代の夢を
二人で学校に残って作業をして、
遅くなって、先生に叱られて
二人で急いで帰り支度をして
私はそれだけのことがとても楽しくて
そして
「このまま時間が止まればいいのに」
そう言った
彼はよくわからずキョトンとしていたけど
でもそれは、当時の私にできた精一杯の告白だった


  • 過ぎた時の中で彼に起こったことを考えると悲しいかなこの再会と彼女の想い -- (名無しさん) 2015-02-17 02:30:15
  • 前回から相手の方へ場面転換とは予想外だけど相手はもう…うわぁ切ない -- (名無しさん) 2015-02-19 23:31:21
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

j J
+ タグ編集
  • タグ:
  • j
  • J
最終更新:2015年02月17日 02:28