「嘉灯(かとう)君、話聞いてる?」
何を?という声より先に首に伸し掛かる蛇尾。声が塞がれる。
同級生の蛇人、慧呼(けいこ)と一緒の下校途中だということを思い出す。
下からうねる体勢でこちらを覗き込んで何か話しかけてきているのは認識できるが、中身は全く入ってこない。自分でも信じられないくらい上の空である。
海の向こうから夕暮れが差し込んでくると、彼女の家である神社へと続く石段を鮮やかに染め上げた。
「あれ。何だろ?」
また明日、という挨拶を遮る問い。彼女は真っ直ぐ前を向いている。 ── その先
『久しぶりだな加藤。まさか本当に人の身になっていたとはな。 おかげで探すのに苦労したぞ』
擦り切れたカセットテープから聞こえてくるような声になりきれてないくぐもった声のようなものを発する、黒に赤斑のマントで全身を覆う人影。
先ほどまで感じていた春先の温さが一瞬で冬へと逆戻る。
『忌まわしい眠りから覚めてみれば時代はえらく変化していたが… 我らの意思は何一つ変わりはない』
人影は一歩たりとも動いてはいない筈なのに圧迫感はこちらに迫ってくるのが肌で分かる。
隣の慧呼は金縛りになったかのようにひと這いも動けずにいる。
勿論全く見も知らぬ相手である。 ある筈なのに胸の奥から沸いてくる感情は何だ。 何だ?
『向こう側へと攻め入り先生が住むに相応しい世界へと造り貌(か)える。 まずは先生に害を成す
エルフ共の排除だ。
…以前とは変わったお前だ、一度だけ聞こう。 どうだ?再び我らと共に歩む気はないか?』
『ある訳がないだろう。 私は先生の意志に従う』
その言葉は己のモノである筈なのに全く無意識に発せられていた。
全身が総毛立つのが分かる。 指先が燃えるように熱くなっていく。
『…やはり、か。 しかしな加藤、お前と意志を同じくするアドルフは既に落ちたぞ?
残念だ。 が、他の者に屠られる前に我が一瞬で楽にしてやろう。 なぁに、その体はこのベルテアクスが有効活用してやるから安心しろ!』
マントが激しく翻ると同時に濁った笑い声が木霊すると、地が盛り上がり割れ腐った人間が何体も這い出してきた。
「神社に逃げろ慧呼!」
指先で彼女の肩に触れると、それまでの硬直が嘘のように解ける。 一つ頷いてあっという間に石段を擦り登っていく。
『やるか?やれるのか? 今のお前からは何の脅威も感じぬぞ?!』
「嘉灯様っ!」
聞きなれた声。同級生のエルフ、孔沙凪(くさなぎ)だ。 詰襟のままでどこからともなく飛んできた。
いつにも増して鮮やかな動作で着地、立ち上がると両手でこちらの右手を握る。
「刻は来ました。 私の力、存分に御振るい下さい」
いつもはお茶らけた二枚目の彼の表情が、今は真剣な眼差し。
自然と頷けば、彼の体が碧の光を発し… ── ひと振りの剣へと変わった
『い、いいっいイぎぃいイィイイっっ!? 何故だ!?折れた筈!折った筈だぞ!我らの血と肉と骨の残響が!折った筈だぞ!
…なのに何故そこにある!?在(あ)るのだ!草薙の剣ぃぃいいいいーーーッッ!!』
横一閃。煌く光の帯に包まれた蠢く腐人が塵へと還る。
そう、これは確信していた戦い。 世界と力を越えて人が共存するための、彼女に救われた者同士の戦い。
今の平和はかつて先生の望んでいた世界。 夢幻の花園で眠る先生が求めた世界。
「少し思い出してきたよ、マイケル。 今度は海の底、この国の礎にでも埋め込んで差し上げよう」
かつて妖精郷よりやってきたエルフ。 彼女がこの地で築きし楽園は多くの者を救い、導いた。
しかし、平和を望む彼女の心とは別の、彼女を想うが故に狂い始めた歯車。
一度は崩れた歯車は、時を越えて今再び凶詩を奏でようとしていた。
人間に転生し平和を生きた彼は再び歯車を、かつての同胞を倒せるのだろうか? ── それとも
【 陰陽の剣 】、次週より週一更新始まります!
嘘ですエイプリルです
- 溢れる厨二臭が逆に清々しい。魔女先生の教え子たちってどんな人物がいるんだろうね -- (名無しさん) 2015-04-01 22:26:42
- イレゲ作品ってドギツイ邪悪とかあんまりないけど文献書籍には勧善懲悪とかで出てきそう -- (名無しさん) 2015-04-02 23:35:28
最終更新:2015年04月01日 03:45