それは竜宮城直下刀捜索“子(ね)班”がポートアイランドに向けて出発する少し前…
竜宮城が鎮座する海域に浮かぶ何てことはない島。 人の多く住まう島の隣にありて静かな島に慌しく舞い降りる三本の脚持つ巨大な烏。
次々と烏の背から降りてくる物々しい人影達。
「員の容態はどうなっているっ!?」
「運ばれてすぐに処置し、眼を穿った“破片”は取り除いたのですが…高熱は収まらず痙攣も続いており予断を許さぬ状況です!」
「…っ!刀に斬られたのか!? 待て、破片はあると言ったな?ならばその破片を員の傍へ。封棺処置を施してな!」
先に降りていた大烏の先にある急場凌ぎの陣幕の中から、台の上で苦しむ青鬼人を篝火が照らし出す。治療の真っ最中である。
指揮者と思しき大柄だが夜に輪郭の溶け込む黒装束の黒鬼人が次々と指示を送る。
「ムラマ様!“鬼骨手甲”準備できて御座います!」
身軽な戦闘装束の中では目立つ、白に祝詞が書き並べられた仰々しい着物の鱗人が手に持つのは、これまた祝詞がびっしりと書き込まれた布で包まれた厳しい手甲。
息粗い青鬼人の傍らに刃物の先端と手甲が並び置かれると何やら物々しくも激しい祈りが始まる。
白着物の一喝により祈りが〆られると即座に破片は手甲の甲の中へと押し込まれ、息つく時も与えずに紐と帷で塞がれる。
「私の経験上、精神と結びつく刀の場合は使用者と共にあることで安定するのだが… 許せ。今はこうするしか出来ぬのだ」
ムラマと呼ばれた黒鬼人が滲む汗を覆面に染み込ませながら、ゆっくりゆっくりと手甲を青鬼人の右腕に填め込んでいく。
すると、青鬼人は動きを落ち着かせて息も緩やかになった。
「日本に…ですか?」
夜もとっぷりふけた真っ暗闇。 篝火はおとされ灯りの一切はない。
そんな中でもしっかりと闇に溶け込むムラマを直視し問いかけたのは蜘蛛人だった。
「そうだ。日本だ。 員が寝ている間に発した言葉をまとめた所、どうやら刀の在り処についての情報が得られると判断したのだ」
「あの場にあった刀二振りと使用者二人はまだ
ミズハミシマにいるものと思われますが?」
すぐさま意を出したのは蜘蛛人の隣にいる鱗人。
「その通り。まだ門所や港からそれらしき人物が出たという報告はない」
「ならば何故ミズハミシマを離れ異界の地へ赴けと?」
最もな言にムラマは目を閉じ軽く息をつく。 一呼吸おいた後 ──
「“まとも”に追っては刀に辿り着けぬからだ。 刀そのものではなく周囲に散らばる穴を埋めることで道が開かれる。
今まで“刀捜”の長として努めて来た経験からの結論だ」
「ではあの刀についての手がかりが異界にあると」
「うむ。 刀と結びつきを得た者の言葉だ、手掛かりとしては十二分だろう」
暗闇がそぞろにざわめく。 異世界の国なら未だしも、門を越えた先の世界に刀の手掛かりがあるなどと。
「疑問に思うことは多かろうが、此度は有力な物もある。 員が回復次第、数名を日本へと送る」
「異界…確か地球だと言ったか」
「“向こう側”には精霊も神もいないと聞いたぞ?」
「うちの知人が日本へ行ったことがあるが、何とも息苦しく水も不味い過酷な地と言っていたな…」
「落ち着け!確かに勝手も何もかも違う国ではあるが、そこまで大層なことではない!私も行ったことがある。心配するな」
ざわめきは少し収まったが、それでも場に溢れる疑惑の念は払拭できずにいる。
実際、地球へ赴いての刀の捜索など前代未聞のことである。
「隊長が日本へ…確か乙姫様の渡界外交の護衛でありましたか?
一つお聞きしたいのですが…あちら側には頼んで直ぐに料理が出される店があるとかないとか…」
「料理?…う、む、確かヨシノヤやらマツヤやらマクドという香むせ返るような食い物屋に入った時は、頼んで直ぐに料理が出てきたが…
見たことも味わったこともない料理が信じられぬ早さで出てくる… 厨房で腕を振るう料理人達は相当な腕前であろうよ」
周囲が再びざわめきだす。
「私も一つ。 あちらには“こすめ”なる化粧の品が豊かにあるとかないとか。
城や町の女衆の中でも噂になっています。 隊長は何かお買いになりましたか?」
「こすめ…化粧品… う、む、あの様な店には何かこう男が入れなくなる“気”というか“匂い”があってな…
確かにそういう品を置いてある店は多かったのだが、乙姫様が入られる際は代わりの女官に護衛を任せた次第だ。面目ない」
何かこう残念そうな溜息が一部から漏れる。
「まぁ聞け。 此度、私が日本行きを行うには一つの仮説を元にしてなのだ。それを今から説明しようと思う」
「我々が捜索している刀、“変体刀”。 全て把握しているわけではないが、その形状と見た目は当時のミズハミシマでは見かけることのなかったものだったが、
門で世界が繋がった今、それが日本に伝わる日本刀と酷似しているものと分かったのだ。。
熱した鋼と鋼を合わせ打ち伸ばす…独特の精錬法は元より、造り出された刀身に宿る波紋は“海を喰らった刃”として海の兵から恐れられた。
争乱時に戦の場に現れ陸側が振るった刀。その中でも使用者を飛躍的に強化し猛威を振るった十二本…」
「製造者は遂に発見できず仕舞い…でしたか。 白鬼人であるとまで調べておきながら、鬼の角に宿る力を察知する呪詛探器まで使った“鬼狩り”が発見できなかったと。
そうなると、そもそもが白鬼人では無かったのではないのでしょうか?」
「そうですよね。そもそもそれまでにミズハミシマに無かった技法を用いたという時点で、今なら門でやってきた人間という線もあるのではないでしょうか?
もしくはその者から技法を習得した鬼人以外の種族とか…」
「他種族であったのなら何故陸に加担したのだ? ともすれば海から討たれるかも知れないんだぞ?」
「皆のように私も考えたことがある。 だが、刀の製造に白鬼人が関わっていたのはほぼ間違いなく、鬼狩りの捜索を逃れ続けた理由も大方判明している。
竜宮城が保有してある数少ない変体刀真打ちの解析が進んだからというのもあるのだがな」
「あの…隊長の角を斬った“餓魂”ですか? 使用者の命と引き換えに強力無比の斬撃を繰り出すという」
「あぁ、そうだ。解析の結果、刀身に使われている鋼に白鬼の角の成分が混入していたのだ」
「「「な、な、なっなんだってーー!?」」」
「うむ。そこから導き出される推論は…」
変体刀の製造には人間が関わっている可能性が高い
変体刀には白鬼の角が使われている
角を失った白鬼人の製作者は鬼狩りの鬼探しによって発見されなかった
「ということである」
成る程そうだと頷く一同。
「しかし隊長、そこまで解析が進んでいるのであれば我々も刀を用いて他の刀を探せば良いんじゃないんですか?
刀は刀と引き合うというのは事実なんでしょう?」
「君は…」
「隊長すみません!この者は最近配属されまして…変体刀についてまだ理解が浅いのです」
「え?何か俺間違ったこと言ってますか?」
「えぇい!お前はもう一度作戦書を読み直せ!」
部隊長に諭された蛙人が裾を引かれ座らされる。
「…そうだな。作戦書に書かれていない私の考証も合わせて今一度刀の特異性を説明しておこうと思う。
あくまで仮説の域ではあるが、刀の性質を考える上で大きな峠となったものなのだが… それは ──
「「「「それは?」」」」
夜の闇は海の黒を飲み込んでさらに濃くなっていく。
周囲は夜鳥の鳴き声が時折響く以外、漣が揺らめくのみ。
灯り無き影の講義は更なる深い場所へと潜っていくのだった。
── 次回に続く
長くなりそうなので一端トイレ休k…
間を挟みます
- それは?それは? スレネタのまとめに味付けってふうなSSだね -- (名無しさん) 2015-04-24 21:18:53
- 言われて見れば日本刀の造り方って独特というか変態じみているんだよなぁ。刀身に波を持つとか面白い表現かも -- (名無しさん) 2015-04-24 22:11:31
最終更新:2015年04月24日 04:00