「「お母はん~お母はん~」」
今日は飯店も珍しく休みの日。とは言っても棚卸しだ何だと忙しいのは相も変わらず。
そんな店内は、客はいなけれども従業員が掃除や模様替えや仕込みだと上下左右に動き回る。
その足元をちょこちょこと上手い具合にぶつからずに小走る影が二つ。
テーブルの上に帳簿を広げて狸人と狐人があれやこれやと小難しい話をしているその下に影が二つ到着する。
にゅっと獣の手が椀を持ち上げテーブルの上に。思わずそれに注目する二人。
「あ、ちょっと待ってローラン。ファーレン、ユーリどないしたん?」
んしょんしょと一生懸命に椅子を登りひょこっと顔を机の上に置く子二人。
「「今日はお母はんにかんしゃをこめておくりものをする日なんよ。ふたりでつくったんよ」」
子供が両手で軽く持てる中程の大きさの椀には黄金色に光沢を靡かせる漆黒の汁。そこの中央にちょこんと頭を除かせる茶色の小島。
「何ですかこの真っ黒な…汁もの、にしては飲めそうもない雰囲気ですわ」
「匂いで分からへん?醤油やで。あと真ん中のは味噌やね」
「醤油に味噌、姐さんの好きな調味料ですけども…流石にこれはちょっと…」
醤油と味噌。確かに素晴らしい調味料ではあるがどちらも塩分を含み生(き)のままで食すなどまず在り得ないだろうし体にもよろしくない。
「お母はんこれつこうて」
「まんなかをすくって」
小さな手が匙を差し出す。それを受け取った狸人は一考した後に ──
「えいっ」
味噌を掬い口の中へ。
「「どない?どない?」」
「隠れとったんは酒芋団子やね。うん、醤油と味噌のまろやかな旨味がよぅ染み込んでるわ。上手いことできとるんやないの」
母親の太鼓判を受けて諸手をあげて喜ぶ子二人。その隣で首を傾げるローラン。
「姐さん、塩っ辛くないのですの?」
「ローラン、匂いで分からへん?醤油も味噌も塩っ気を抜いてるんよこれ。 飲もうと思えば醤油も飲めるようになってるんやで。
それにしても何時の間にこんなの作ったんやろ?」
「あ、旦那さんいましたよ二人」
「うん?どないしたんマオ」
マオと呼ばれた狸人ファーレンとユーリを見つけて店の奥へと声をかけると、目をカッと見開いた人間男性が飛び出してきた。
「うォおぉーい!蔵に寝かしてあった醤油と味噌を使ったのは誰だ!?その椀か!ファーレン!ユーリぃ!」
思わずビクっと身を強張らせる二人を福与かな腕とお腹が包み込む。
「こらユーノジ!大声出すから子らが泣きそうになっとるやんか!どないしたんよもぅ」
「ふぅう~…どうやら二人で間違いなさそうだな。勝手に秘蔵の醤油と味噌を使ったンはぁ~!」
目が据わっている。料理人ならそうなるのも致し方なしではあるが。
「それくらいええやん!食材なんて使わな腐ってまうんやで!料理人の子供なんやから料理するんは当然やろ!」
「「うんうん」」
姐さん狸が茶毛を逆立たせて剣幕を張るとローランとマオが二人して頷く。
「ユーノジもこれちょっと食べてみぃな。そしたら納得するわ。 二人がウチのために作ったんやで」
「うむむ…これか。どれどれ」
まず味噌と団子を合わせて掬い口の中へ。一頻り噛んだ後に醤油汁を一杯掬い飲む。 一時の静寂。
「醤油の塩気は綿大根と一緒に煮込んで吸着させて、味噌は網昆布でこして中和させたンだな。成る程、これならそのまま食べれる」
「酒芋団子も店の酒を数種合わせてふかした大金芋にしっかり練り込ませて味を馴染ませてるんやで。
ウチの好きなものでウチのために作ってくれたんやで」
「よっしゃ、よーく分かった!流石犬塚飯店の子だと認めざるを得ンな。
だがしかし、勝手に食材を使うのはダメだ。中にはちゃンと仕込みしないと毒にもなるのもあるからな。
これから何か使いたい時はちゃんと俺に言うこと!後休日は包丁の使い方の特訓だ!」
「「うん分かった!お父やん!」」
「良かったですわね二人とも」
「やっぱり旦那さんの血ですかねー」
丸く収まったところで皆がうんうんと頷く。
「しかしここまで黒い汁だとちょっと店には出し辛いですわ。地球の甘い菓汁ならまだしも、醤油の辛いという先入観が出てしまうますもの」
「うーん、汁ってところで飲むとか浸かるとかの印象が強くなるからかなぁ」
「あれ?ユーノジは?」
「「お父やん、ちゅーぼーにいってもうた」」
ドドドドド… どーーん!
「これでどうだ!勇人作“不思議団子”だ!」
何かを作っていたのか、ユーノジもとい勇人が急いで駆けてきた。 手には小皿、その上には ──
「え?なんやのこれ!宙に味噌で包んだ酒芋団子が浮いてるやん!?」
「「お母はん、これとうめいなだんごなん」」
小皿のに指を伸ばした二人がぷにぷにとした触感を得る。
「ふふっ。まぁ食ッてみろよファンナ」
不思議な団子をひょいと口に運びひと齧り。すると透明だった柔らかい層の内側が真っ黒に変化する。
ほんのりした甘さと醤油の旨味の後に味噌と酒団子の甘辛い味が渾然一体となって押し寄せてくる。
「どうだ!団子を味噌で包ンだ上に塩抜きした醤油を甲羅寒天で固めて出来上がり!
やや硬く透明度の高い甲羅寒天は、光の屈折で齧って内側を見るまでは透き通って見えるってェ寸法よ」
「すごいやんユーノジ」
「「すごーい、すごーい」」
「これなら十分店に並べれそうですわね。お持ち帰りにも出来ますし」
「見た目にも面白いからお土産とかよさそうー」
店は締まっていれど中から賑やかな笑い声響く。
店の前を通る人人が香る甘辛い匂いに鼻をくすぐられれば、明日に寄ってみようと思い過ぎて行く。
勇人の肩に抱えられたファーレンとユーリは、大延の何処までも澄み渡る青空に団子を光らせて口いっぱいに頬張った。
大延国にある犬塚飯店の母の日の風景を想像してみました
【異人食祭記】から各キャラをシェアさせて頂ました
- これは良い -- (名無しさん) 2015-05-18 01:36:44
- 親の隠し本を探し当てるかのように食材を見つける子供!おそろしい子! -- (名無しさん) 2015-05-18 02:09:32
- にこごりみたいなもんかな?食べてみたい美味しそう -- (名無しさん) 2015-05-18 21:14:57
最終更新:2015年05月17日 23:27