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【半人半半竜半半神(イージーモード)】

ここは異世界、大陸の端。

ざざーん、ざざーん……。
海岸線に波の音が響く。東を向けばどこまでも続く海が、西を向けば砂と岩だけの荒野が見渡す限りに広がる、少々見晴らしの良すぎる風景。
未だ人の手が入らない、ひたすらまっ平らなその場所に、カカシのごとくにょっきりと生えたシルエットがあった。
股から男の証を下げ、たった今海から生まれたとでも言わんばかりの丸裸だが、手には一冊の本が握られている。
その本の題はこうだ。
『異世界竜図鑑』────後付を見れば、初版。
誤植の残るその本は、地球で僅かに出回っているだけしか存在しない代物だった。
本の主は、やがてただ一言だけ呟いた。


「ここどこ?」



【半人半半竜半半神(イージーモード)】



《だから何度も言っただろう、潮の流れではまともな港に漂着する"はず"だったと────》
「うるさいばーかばーかしね」
正気に返るまで1日、荒野を歩き詰めてまる10日。男はようやく、かろうじて林と呼べなくもない、貧相な場所に辿り着いた。
茶色い立ち枯ればかりの中でようやく人心地つくと、自分をこんな僻地に送り込んだ相手にふつふつと怒りが湧いてきたのだった。
「途中でシャチのおもちゃにされて違う潮に乗って、しかもハピカトルに巻き上げられてフルチンにされたってんだろ? 竜ってのは言い訳のスケールもでけーよな!」
本はしばし黙り、
《大したことでもないだろう》
「んなわけあるか!」
開いた本の頁は本来、まえがきの裏で白紙のはずだったが、今は赤い塗料で彩られている。
精巧な竜のイラストがまるで生きているように動き、男はそれと会話をしているのだった。
イラストの下部には拙い日本語でこう書かれている。『あれっくす。ちょうかっこいい。さいきょー』
「こんにゃろ……」
苛立たしげにその記述を爪で削るが、どれだけ引っ掻いても削った上からきれいに直ってしまうのだった。『さいきょー』
本を地面に叩きつけると、ゴムボールのように飛び上がって手元に戻ってきた。なんだこれ。
《まあ細かいことは気にするな。竜というものは身体ひとつでも無敵、不便はないだろう?》
「おかげさまで文明的な暮らしとは無縁だけどな!」
手近な木から皮を剥ぎ、ばりばりと齧りつく。竜の胃袋というものは何でも栄養にしてしまうらしく、石や瓦礫でもなければ大抵のもので腹は満ちるのだった。
砂利の上に裸で寝ても全く平気だし、喉が乾けば雨が降るまでいつまでも眠っていられる。なるほど竜というものはどこでだろうと生きられるのかもしれなかったが、夜中には地球で食べたケーキの味が恋しくなり、舌寂しさにしくしくと泣くのである。
「とにかく服もない、金もないじゃあ、まともに人里には出られねーじゃねーか! このまま一生、野で暮らせとでも────」
《なんだ、その程度。奪えばいいだろう》
当たり前のように言い放ち、頁の中の竜は鼻を鳴らした。
《世界の全てのものは竜のもの、むしろただ貸したものを返してもらうに過ぎん》
「……んなこと言っても、都合のいい相手がいないだろ」
そんなことできるか、とは言わない。緊急避難が適用されると思っている。
《そうかな。竜は往々にして、素晴らしい偶然を拾い上げてしまうものだぞ》
まさか。とは思ったが、本当にそういうものらしく、ちょうどその時遠く遠くから風が運んできた剣戟の音が、竜の耳に届いてしまうのだった。


「ええいロウゼキモノめ! 命が惜しくないならかかってくるでゴザル!」
蜥蜴顔の男が短刀を振り上げ威嚇する。その背には馬車が、足元には敵と味方が死屍累々と混ざって斃れていた。
それを囲むのも、やはり蜥蜴顔の集団。砂色の肌を持ち、荒野の景色に紛れての急襲と得意とするこの蛮族は、待ち伏せを最も得意とする。
護衛の蜥蜴顔────ジョンは先に死んだ他の護衛よりは、多少の手練と自負していたが、形勢はざっと見て8対1。絶体絶命である。
(どうする、逃げるでゴザルか……)
今後の仕事がなくなろうと、野垂れ死ぬよりはマシである。馬車の中で震える依頼主をちらりと見やる。なんとか隙を見て、一緒に逃げられないものか────。
「ギャッ!? ギャッギャッ!?」
蛮族がにわかに騒ぎ出した。ジョンもすぐにその理由に気付く。遠くから何かが────猛烈に砂煙を出し、異様な速度で、ここに近付いてきている!
ジョンは聞いたことがあった。荒野一帯を根城にする、獰猛にして貪婪な暴食の怪物、ウェイスト・ドラゴンという生ける災害の話を。
あるいは、その噂の主が本当に現れたのかもしれない。だとすれば好機だ、とジョンは思った。
「聞け、ロウゼキモノども! おそらくあれは話に効くウェイスト・ドラゴン! ソレガシもお前らも、早く逃げないと食われるでゴザルよ!」
蛮族のざわめきが一層大きくなる。確かに、近づいてくるあれは尋常のものではなさそうだった。しかしジョンも蛮族も、揃って目測を誤っていた───あまりにも、速すぎる!
地平線の点にしか見えなかった姿はもはや眼前に迫り、砂煙を割って現れたその姿は……ジョンは目をしばたいた。何だか小さくないか?
聞けばウェイスト・ドラゴンは、体長50メートルにも及ぶ巨体だったはずだ。しかし実際に現れたものは、人間大のサイズの、……人間である。フルチンの。
そのフルチンは蛮族の一人の後ろに素早く回りこみ、首に腕をかけて締め上げた。
スリーパーホールドの構え! そして耳元に口を近づけ、
「お前、服をよこせ」
締められている側もこれには思わず顔を見た。なんだこいつ。
何しろ脇に本を挟み、股のアレを遮るものなくぶらぶらと揺らしているのだ。緊迫した戦場に挿入されるには、ちょっと奇妙すぎる絵面だった。
突然の闖入者はその場全員の意識を完全に奪い去り────しかし、一番先に我に返ったのはジョンだった。
「テヤーッ! ニンポー・カマイタチ!」
精霊の力盛んなこの大地において、技の名前を発音するというのは戦の常識と言ってもいい。
ニンポーという耳慣れない術を気に入った風精はキャッキャと喜び、真空の刃を作り上げて2人の蛮族を切り刻んだ。
さらに手裏剣の投擲で1人の頭を割る。12本を乱れ投げて1本命中、ジョンも必死だ。残りは5人!
「スケダチ感謝いたすでゴザル! ソレガシら、賊に襲われて危機一髪のところでゴザッタ!」
ジョンは、とにかくこのフルチンは味方であると判断した。1人で2人半相手の計算なら、勝機はあると見たのだ。光明である。
しかし返事はない。今現在、男は自分の事で忙しかった。
蜥蜴人間を締めあげたはいいが、なにしろ腰みのしか身につけていない。フルチンも蛮族スタイルも、文明度でいえばそう変わらないのではないか?
《殺してから剥げばいいだろうに》
「いや、何か変なもん漏らしそうで……」
もたもた。逡巡しているうちに蛮族はもがき、なんとか腕の中から脱出しようとしていた。
なお、本の言葉は男にしか聞こえていないので、傍から見ると脇に本を挟み股のアレを揺らしながら独り言を喋る男ということになる。
「おいこら、動くな」
ちょっと強めに締めただけのつもりだったが、もういいかな、こいつろくな服も着てないし。そんな思いが少しばかり込める力を強くしすぎた。
「ギッ!? ギッ!? ギャーッ!?」
めきっ、めきめきめき、めきっ……。
鶏を絞めたような断末魔が響き、蛮族の首は栓でも外すかのように、取れてしまった────肉と背骨のおまけをつけて。
《おおう?》
「げっ」
温かい血と小水が流れ出る。ばっちい、という風に男が手を話すと、首のもげた身体は前倒しに倒れた。
「むっ、無体でゴザルーっ!?」
「ギャギャッ!?」
ジョンと蛮族は揃って声を上げた。むごい! 殺すにしても方法というものがある。
生理的に"くる"光景だが、何も戦場にマナーがあるとか、そういう話ではない。戦術としてマズいのだ。
なぜなら、精霊も同じようにドン引きしていた。ないないあれはない。エグすぎっていうかかっこわるすぎ! 悪役決定!
「む、いかんでゴザル! ニンポー……」
ジョンは咄嗟に構えを取ったが、風精はそっぽを向いた。気まぐれな精霊は見切りも早い。
今や男を中心とする場所は"無精霊地帯"となり、精霊は蛮族達のもとに集結する。
蛮族側も怒り心頭だ。首領格であるらしい蜥蜴は首飾りを投げる。仲間の弔いであると同時に、決闘の合図でもある。
「ギオ! グオ! グオオ!」
それは一族に伝わる祈りの言葉。太陽に捧げるように剣を構えると、その刀身に炎が宿る。
対して男はあまりにも適当だった。
「なんかごめん」
めんご、程度に心のこもった角度で頭を下げる。手が滑ったんで事故です許して、と謝ったのだ。どこまでもふざけている。
首領は目を細め、この無礼な男に心中で怒りを燃やした。その怒りに精霊が呼応し、熱は一層と膨れ上がる。
「ギオ! グラ! ガラッハ!」
敵の血は我が神のもの。私の剣は神の剣。炎はより大きくなり、風がそれを取り巻いて、灼熱の柱のようになった。
精霊を使った戦いとはつまり精霊人気の取り合いで、悪役は徹底的に貶められ、主人公役はとことん贔屓される。
つまりは一度精霊の人気を失ってしまえば、その舞台ではもう負けが決まったようなものなのだ。
一方、男は男で自分の落ち着きっぷりに気持ち悪さを感じていた。普通、相手が渦巻く炎を自分にぶつけようとする時は、焦るものなんじゃないか? せめて顔を庇うとか。
「おい、大丈夫なのか」
これ、と炎を指さす。
《そよ風みたいなもんだ、欠伸でもしてろ》
まるで日向ぼっこのような呑気さだった。
そして首領は、自分の脇と喋る水挿し野郎を丸焼きにする準備を整えた。
「ガアアーッ!」
裂帛の気合と共に、剣を水平にして渾身の刺突を放つ。灼熱が男を貫いた。
炎の竜巻に巻き込まれれば、もはや消し炭も残らない。
はずだった。
普通なら。


「あ、ほんとだこりゃそよ風だ」
炎は男の身体に当って放射状に散っていく。男を切り裂くはずの炎の剣が、逆に切り裂かれていく!
首領は驚愕した。手元の剣から、精霊力が萎んでいく……全てを吐き出して繰り出す攻撃が、ただ雲散霧消していくのが感覚でわかる。
剣を持つ手が震えた。炎が邪魔で相手が見えない! 一方、男も身震いしていた。
「あんまり平気すぎて本当に気持ち悪い。どういう理屈なんだこれ」
《目をこらしてよく見てみろ。臆病なハエどもが見えるだろう。炎の方から避けてしまうのが竜のオーラのなせる技というものだな》
「ふーん、確かに。……」
見ようと思えば、竜の目には見ることができた────精霊達が己の眼前まで来ておいて、なんか怖い! 後ろのやつ頼んだ! と逃げ去っていく人をなめくさった態度を。そのくせ数だけは多いからひたすらちかちかと眩しい。
気づいてしまうと、ふつふつと怒りが湧いてくる。己は竜だ。たとえ半身だけでも。その己がちょっと服を"もらう"、それだけの事に揃って盾付きやがっててめぇこの矮小なゴミクズカトンボども覚えてろよざけんな百倍返しだぞ……云々。
「なあ、てめえ"ら"……」
竜の血が傲慢さを運んでくるのだった。はっきりと自覚した感情ではなかったが、漏れでた言葉はさっきの『てめえ"ら"』。
更に募る胸の燻りが、やがて一言に集約される。

《《《 しゃらくせえ!!! 》》》

ドラゴンシャウト。古来より竜は、精霊をしもべのように扱うとされる。
竜が上、精霊が下。それは竜の中では決まりきった序列。その序列を絶対にするだけの力が、竜の咆哮にはあった。
その咆哮をまともに食らった精霊たちは、一気にばらばらに吹き飛んだ。
なにこれ!? なにこれ!? なにこれ!?
精霊達は大混乱に陥った────と同時に、なんだか楽しくなってきた。わーい! 精霊は酩酊を起こし、興奮に任せて、鰯の群れのようになって空をぐるぐると駆け巡った。
男はぱんぱんと手を打ち鳴らし、
「お前らここに座れ!」
その瞬間、精霊たちは大人しく……とはならず、やはり荒れ狂ったままだった。あれ? おかしいな。
男は首領を見る。首領は顔で語った。こっち見んなよ知らねえよ。お前が何とかしろよ。残りの蛮族らを見る。ただ単にあわあわしていた。駄目だこれ。最後にジョンを見ると、既に逃げる体勢を決め込んでいる。
男がその背に呼びかけると、物凄く切羽詰まった顔で振り向いた。
「あのさあ、後で馬車の中の奴に、服を────」
「それより頭の上のものを何とかするでゴザルー!?」
精霊は酩酊を通り越して今や泥酔状態になり、急速に発散したがっていた。
あーもーなんかわけわかんなくなってきた。何すればいいの。え、爆発する流れなんですか。そうですか。じゃあ、ぱーっといきますか!
再収束した精霊の塊は巨大な火の玉の風船と化し、文字通り爆発寸前にまで膨れ上がる。太陽が目の前にあるみたいだな、あっちーなあ。と男が思っている間に、ジョンだけは依頼人を抱えて遁走していた。
《おい、流石に制御の効かないハエどもが群がってくると熱いぞ。走れ》
「そういうことは先に言って!」
慌てて地面を蹴り、直後、精霊達は縦横無尽に広がったのだった。

フラッシュ、爆音、そして振動。きのこ雲がもくもく。
取り残された馬車と死体と4人分の新しい死体を区別もなしにぶち撒ける、全く酷いありさまだった。



弾丸のような砂利嵐を背中に受けたジョンはぎゃっと叫び、よろけるように地面に伏せた。
身体の上を熱風が通りすぎていく。もうソレガシ死んでいるのではゴザラぬか。何もわからぬでゴザル。
重い頭を何とか持ち上げると、下敷きにしてしまった依頼主はどうやら無事らしい。泡を吹いているが死んではいない。
視界の端にぶらぶらしたものが映った。
「ウワーッ!!?」
「なるほど、こうするのか……」
片付けろ、と男が命じると、裸体に付着した砂埃や血の汚れを、風精が丁寧に掃除していく。
ついでにジョンの身体も綺麗にしてやる。竜の声で命じれば、こういう使い方もできるらしかった。
綺麗になったジョンに手を貸してやり、立たせる。できれば依頼主の方も綺麗にしてほしかったが、口には出さなかった。
男はにっこりと微笑む。ジョンもつられて笑みを返した。
「ア、アリガトゴザイマース……」
「服をよこせ」
「は?」
爆発の余波で耳鳴りが酷い。ジョンは眉根を寄せた。フクヲヨコセ? 何の呪文だろう?
「ふ・く・を・よ・こ・せ!」
「ヒエーッ!!?」
荒野にはウェイスト・ドラゴンよりもよほど恐ろしいものがあったのだ。妖怪フクヲヨコセ! ジョンは今その脅威に晒されていた。
「よ・こ・せ! よ・こ・せ!」
「ハ、ハイ……タダチニ……」
男はとうとう手で拍子を取りながら催促を始めた。ジョンは着ているものを神妙に脱ぎ、そっと差し出す。地球かぶれが高じて自作した自慢の忍者装束だったが、命よりは安い。
「あの、サイズは大丈夫でゴザルか……?」
「微妙にゆるい」
「さ、左様ででゴザルか……」
フンドシ一丁になったジョンと、忍者装束の男が出来上がった。
巨人のような体躯であると思い込んでいたが、どうやら男のあまりの所業にジョンが起こした錯覚らしい。
実際には男が頭ひとつ小さく、上から見下ろすのが怖いのでジョンは中腰にならなければならなかった。
「カタナも差し上げるでゴザル……。業物で、精霊も喜ぶ逸品でゴザル……」
言外に、今後は首を引っこ抜くような戦い方はやめろというニュアンスを含んでいる。
それを知ってか知らずか、男は短刀を懐にしまい込んだ。
と思えば、すぐに取り出してまじまじと短刀を見つめた。
「お前、ゴザルとかわざわざ日本語で言うと思ったら、この刀も地球製か」
気合入ってるな。という謎の褒め言葉を漏らした男に、ジョンは目を丸くする。
そういえば、顔には鱗が生えてるし、瞳は金色だけど、この顔つきは……。
「も、もし、ナを伺っても」
「ん? ああー……」
男は顔をなでた。昔とは容貌が様変わりしているし、元の名前を言うのはなんとなく躊躇われる。
うーむ、と唸っていると、ひどく安直な偽名を思いつく。
「リュウだ」
《ぶっ》
リュウの耳には本が噴き出す音が聞こえたが、黙殺する。
正真正銘の地球人、しかも日本人なのだった。


へなへなと崩れ落ちたジョンは、リュウが去ったあともしばらく立ち直れないでいた。
ニホン! ゲートの向こうの黄金郷! いずれマウント・フジに登り、本物のニンジャと出会うのだ!
そんな夢を持っていたジョンが、初めて出会った日本人がよりによってあれだったのだ。傷心甚だしい。
「いや、一説によれば全裸のニンジャは最強らしいでゴザル……。リュウ殿も強かったでゴザル……。あれが本物のニンジャ……?」
思い返せば、ニンジャの技と考えれば全ての所業に説明がつく気がする。首を引っこ抜くニンジャの存在も聞いたことがある。さぶ・ぜろと言うらしい。
「ヌオオオ……」
自分もいずれあの境地に達するのか。達してしまうのか。ジョンは頭を抱えて苦悩した。


ところで、結局爆発からは素の足の速さで逃れたのだった。
「冷静になってみれば、なんであんな事したんだ俺……」
集団相手にノリでつっこんでいき、あげく炎の竜巻をぶつけられそうになって平気でいたり、はっと気づけば頭上に火の玉。正常な危機管理意識はどこへやらである。
そもそもこんな荒野にいて平気なのがおかしい。あの林に辿り着いて、木の皮をむしって食べた時に、しょうがないからしばらくここにいてもいいか、と思ってしまった一面すらある。
なんとかなるだろ、という奇妙な万能感、そして別に死なないからいいかという怠惰さが、心の根底にいつの間にやら根付いているのだ。
《竜には敵という敵が存在しないからな、何をしようが大抵どうにでもなる》
「生きる事が適当になりそうで嫌だよ俺……」
なんとなく布の余りを引っ張ってみる。股下が特に余っていた。実際、この程度には既に万事がユルユルで適当だった。
目的を達成したというのに、リュウは浮かない顔をした。
「なんか忘れてる気がする」
《大したことではないだろう》
適当な態度だ。それでも何とかなってしまう以上、大したことというのは存在しないのかもしれないが……。
しばらくして、リュウはぽむ、と手を打ち鳴らした。
「そうだよ、結局ここはどこなんだ!?」
《はあ? 知らんな》
「それに服は手に入れても、金のほうは素寒貧だぞ!?」
《知らん。必要ないだろう》
「というか、さっきの……名前聞いてねえ。あいつらこのまま放っておいたら死ぬよな?」
《小さきモノの頑丈さのことなんぞ、それこそ知らん》
次の目的がないのである。先ほどの2人を回収しないと、にっちもさっちもいかないようだった。
後ろに向き直り、耳を澄ませてみた。おっと、同じ所にまだいる。
そして今まで通ってきた道を、一歩戻る……前に、懐の本に訊く。
「ところで、お前は何でさっきからやる気がないんだ?」
《うん? だってそりゃあ、お前……》
本は長い溜めを作った……と思えば、ふぁう、と気の抜ける音が聞こえる。とびきり大きな欠伸をしていたようだった。
《文明というものを見たくて観察してるのに、お前ときたら荒野にばかりいて死ぬほど退屈だ》
本を開くと元凶は腕枕で寝転がっていた。頁を縦に破く。2秒で元通りになった。『さいきょー』
「死・ね! 退屈で死ね!」
《は? 竜は最強無敵の存在なので死なないが? ああ、竜というのは死ねなくてつらい》
「死ね!」
戻ってきたリュウを見てジョンが悲鳴を上げるまであと20分。全員揃って近くの町に辿り着くまでは、きっともっとかかる。
















この流れに酷い既視感を感じる(その名もケニー・ザ・シューティングスター)

  • すごいマイウェイな生物だな竜! -- (名無しさん) 2015-06-02 22:13:53
  • 創作し甲斐のある賑やか楽しい雰囲気がたまらない。それにしてもテンション高いわー -- (名無しさん) 2015-06-05 19:31:57
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最終更新:2015年05月31日 22:44