カー・カテナセーガは怒りに燃えていた。
それは、「試練」と称して民を不必要に煽り駆り立て惑わせるばかりである、主神ラーに対してであった。
「・・・解せぬ、許せぬ。 なぜラーはかくも我々を苦しめるのか!」
誰も居ない謁見の間、カテナセーガはひとり、己の無力を悔い、拳を玉座に打ち付けていた。 激しい干ばつと疫病で、民が大勢失われた。 何とか救い出した生存者の前で、疫病の元を断つべく死者を焼くより他無かった。
そうして疫病の元より断ち蔓延を防ぐより他無いことは民も理解していたが、向けどころのない激情は、カテナセーガに向けられた。
自分が民の悪意を、激情を、一身に受止め続ければ、それで民が前に進むことが出来るなら、それでいいと思っていた。 王として、ヒトの上に立つものとして、甘受すべき事象である。 だが、主ラーは私のみならず、力なき民にまで過酷な試練を与え続けるというのか。
苦悩の末、カテナセーガはひとつの決断を下した。
まず、疫病で亡くなった者たちを焼いた灰を、独力で可能な限り掻き集め、聖骸布で包んでやった。
次に、極秘裏にひとり、今で言う
クルスベルグにある、「セダル・ヌグの炉」へ赴いた。
最後に、遺灰を聖骸布ごと、事前に調達しておいた隕鉄《メテオライト》と鋳鉄、そして、己の怒りと民の怨嗟の全てを詰め込んだ左腕と肩口から溢れ出る鮮血を、炉にくべた。
そして、ソレは、形を成した。
聖骸布と隕鉄が持つ神性は憤怒と怨嗟の渦の中で神をも討つ対神性へと変遷し、生命流転の理への反逆への皮肉か、細かき刃が円の軌道を描き、地獄の底から沸き立つ怨嗟の叫びの如き唸りを上げる。
それがカテナセーガの怒りのままに奮われたとき、ラーの身はバラバラになったという。
この逸話を以って、カー・カテナセーガは後世に「神殺王」として語り継がれることになったという。
全ては神話の話。 真偽は刻の彼方。
「・・・誰に言い含められたかは知りませぬが、墓暴きなど関心しませぬ」
非難がましい声が右後方から響き、左耳の傍からは不安げな鳴き声が聞こえてくる。
「とは言うがなぁ・・・」
といいつつも、盗掘者の声は若干楽しげではある。 だがしかし、王墓で実際に棺のある場所は王にしか立ち入ることの出来ぬ神域である。 果たして、この盗掘者は何者であろうか。
「なるほど、あのヒトが言ってたのは、コレのことか」
「なんとも禍々しきかな! このようなものに関心を示す暇がおありなら、一刻も早く帰りましょうぞ!」
「ま、そんなことはいいんだけどね」
盗掘者はソレに手を伸ばし、手にすると、神秘性を秘めつつもヒトを惑わす輝きを放つ金剛石となり、指輪の形を成し左の指に納まる。
「コイツは持ち運びにも便利だな!」
「一刻も早く、そんな不気味なものは捨ててしまいましょうぞ!」
「はいはい、じゃ、そろそろ帰るか」
右側からは非難轟々、左側からは暗がりから出て安心する鳴き声を聞きながら、盗掘者は王墓を後にする。
盗掘者の心配事は、この指輪が余人に見えたら趣味が悪いだろうな、ということであった。
- 試練も達成できるかできないか受ける人か見る側かで感じ方が大きく変わるんですね。理解不足からくる行き過ぎた行動というのは恐ろしいですね -- (名無しさん) 2013-05-18 17:13:48
- 人の頂に立つ者と人々の怒りがどこまで神に通用するのか?という関心。ヌダ炉が絡んでいるので幾分かは神力が加味されてるとは言え太陽神をバラバラにする法具の威力は絶大だ。もしくはあえてラーが刃を受け入れ切り刻まれるのをよしとしたか -- (名無しさん) 2017-12-18 19:11:40
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最終更新:2013年08月08日 22:49