【ニシューネン市の昼屋台】

バブル経済崩壊!家庭を直撃する先行き不透明な不安から出費は抑えられ物が売れる仕組みや様子が変化し続けて十余年。
物販で成り立っていた会社は何かと方向性の転換などを求められる時勢になったが、それで失敗し消えていったのも少なくはない。
基本的に中古服や中古CDやトレカを扱いだすと末期症状カウントダウンと言われている。
そんな苛烈な生存競争の中、地球ではなく異世界に生き残りの道を模索する会社も出てきたのが西暦2000年あたり。

「何の因果か異世界で乗用獣売り…バイク販売店からどうしてこうなった」
「売れ行きが芳しくないので他の業種に…というのは分かるんですけどねぇ」
「店長は新しいモノ好きだし店は非チェーン店だしでフットワークが軽いのは分かる。分かるんだが!」
「退職or異世界出張を選べ!とか法もスレスレでしょうねぇ。知り合いの?息子の異世界お土産の?何かよく分からない卵が孵化して?よく分からない動物が産まれたのが運の尽きでしたねぇ」
「店長ってナマモノ育てるの上手いよな。夜店で買ったカラーヒヨコを鶏にまで育てて卵産ませてるとか滅多に見かけない人種だ」
「一人暮らしだからいいものの、もう三年目ですよねぇ異世界生活にも皆すっかり慣れたもんですねぇ」
「俺はまだノームホビットドワーフを見て何歳だっていうのが無理なんだが…荷獣用品店の店員が全員三十路越えと知った時は言葉を失ったぞ」
「そうそう、その店ウィステナでの買い物で忘れてるものとかないですか?再来週に出荷する鉄鱗鳥の鞍とか発注漏れとか」
「大丈夫大丈夫。しかし本当に大きく育ったよな鳥。というかあれは鳥でいいのか鳥で。バリバリ見た目がコモドドラゴンなんだがな…厩舎係のワンコウさんがこの前尻尾に食いつかれたとか言ってたぞ」
「お腹の羽毛がさくさくふわふわじゃないですか。鳥でいいんじゃないですかねぇ。 でも先日牧草地に不時着してきた大きな鳩は飛竜なんですよねぇ」
「あぁあれな、何か人語も喋ってたな…やっぱり異世界の動物はよく分からんわ」
行き交う人々の種族は様々で、すれ違う度に色んな匂いが鼻に入る。
ここは新天地のニシューネン市を東西に横切るメインストリート。
「そういやもう昼じゃないか?飯どうする」
「確か北東区の店舗渦通りに流れの屋台キャラバンが来ているですよねぇ。行ってみます?」
「昼食買ってきてくれって頼まれてるし丁度いいかもな。行こう行こう」
活気溢れるニシューネン市でも様々な店は一倍活気満る。それぞれの店と話しを付けた色々な屋台がバラエティ豊かなラインナップで通行人の目を引いている。
「焼き竜肉?本物か?!」
「屋台の看板代わりの竜の頭の剥製は本物みたいですけどねぇ。焼いてる肉が竜かどうかまではちょっと。そもそも竜なんて食べたことなんてないですよ」
「牛竜は乳出すだけだしな。肉は固すぎて酸味ドレンジに漬け込んだ後のほぐし焼きでも噛み切れなかったぞ」
オーガのおじさん、これって本当に竜の肉なんです?」
バットくらいの太さはある鉄串に刺された緑と茶色の肉塊がぐるぐる回る。
回る肉の周りをまるで盆踊りの様に小さな火精霊が、屋台主が足でペダルを踏んで巧みに鳴らす打楽器の音色に合わせて数人踊っている。
「昨晩俺っちが激闘の末に仕留めた丘竜の肉だぜ?もちろん本物も本物よォ!いやぁお客にも見せたかったねェあの戦い!」
「オイラが斧に宿って手伝ったんダゾー」
「オイラも手伝ったゾー」
「ぶんぼぶんぼ。ぶんぼぶんぼ」
「精霊が言ってるから本当っぽいな。よっしゃ買うか!おっさん、八人分大盛りでくれ!」
「あいよ!付け合わせはどうするね?」
屋台主の背後にはそれっぽい壺がいくつか並んでいる。焼いた肉に合う漬物の壺だと言う。
「さっぱりした野菜の漬物とかあればお願いします」
注文に反応したのか、壺の蓋がずるりと動くと中から真っ黒な細い腕がテニスボール大の丸野菜漬物を三つ差し出してスッと引っ込んだ。
「うーん、肉の香ばしいのと漬物の鼻を通り抜ける酸っぱい匂いがたまらないな!戻るまでに食っちまうかも」
「いやいや我慢して下さいよ。獣世話係の豚人さんじゃあるまいし」
「飯買いに行ったら大体食いながら戻ってくるのな!」
分厚い肉斬り包丁が竜の俵肉を削ぎ落とす。大緑葉に巻かれた八人分の肉と漬物を受け取り代金を払う。
「ありがとさん!あと五日はここで屋台やってるからよ、また来てくれよな!」
「まいどー」
「ありー」
「ぶんぼぶんぼ。ぶんぼぶんぼ」
昼時は人の通りも格段に増える通りを抱えた料理に注意して帰路につく。
視界を覆う大きな青果袋を抱えた鬼人とノームの女の子が給仕エプロンをはためかせて走ってくる。
すっとそれを避ける二人。
「あのノームの女の子、何歳だと思うよ?」
「十四か五くらいじゃないですかねぇ」
「っと思わせて三十路だったら俺はもう何も信じられなくなるわー」


ニシューネン市の昼のひと時。屋台で買い物を

  • うわらにうわしぃ。見た目で年齢が分からないのを気にするのは人間だけとか? -- (名無しさん) 2016-09-02 19:52:42
  • 精霊が自然に溶け込んでいる日常や賑やかなニシューネンがとっても楽しい面白い -- (名無しさん) 2016-09-02 23:11:11
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

k
+ タグ編集
  • タグ:
  • k
最終更新:2016年09月02日 02:54