【レギオン、その神の取り決め】

「これだけ備えればもう安心じゃろう…」
小さな村落から大きな村に膨れ上がった土地を囲う防備柵。箇所箇所に決められている門には防人と監視人が立っている。
切っ掛けは村の象徴であり豊穣の化身でもあるヒトツメサマを暴漢が襲ったことに始まる。
その時は柔らかなヒトツメサマの体に傷一つ付けれずに村人に取り押さえられたが、その次にヒトツメサマが畑にやってきた際にまた暴漢が襲ってきたのである。
基本、神レギオンの一端であるヒトツメサマは何処にいるのか不明であり村の畑を耕す時にだけ姿を現すのである。
荒地に緑を植え育てまた植える。それを繰り返すうちに同じく耕す人が集まり村になった。ヒトツメサマは村にとって掛け替えのない存在なのである。
畑を愛するヒトツメサマは争い力を行使することはなく、只暴力に対して無抵抗でありぼよんぼよんするのみであった。
数度目かの暴漢は遂に村人を人質に取りヒトツメサマに迫ったのだが、それを倒したのは村にふらり立ち寄っていた片腕鎧で火精霊を連れた人間の傭兵だった。
難を逃れたものの確実に襲ってくる頻度の増す暴漢に対して防衛策を取らざるを得なくなった村は思案する。何せ今まで何かと戦うと言えば時折村のはずれまでやってくる獰猛な獣くらい。
そこに件の傭兵が案に協力を申し出る。
まず村に立ち寄り野菜を購入する流れの移動酒場に行く先で村が防衛手段を欲していることを広めるように依頼する。
次に新天地を巡る商人に村へ物流を集めるように打診する。
村へ農具を売りに来た龍人を連れる人間の商人は龍変化しそれによる空中移動で足の速さを持つので、近場の町を巡回し話を広めたのである。
結果、村には傭兵と共に建築、物品などの担い手が集まってくるようになった。人と物の流れが出来上がったのである。
その間も小規模大規模様々な侵攻は途切れず傭兵達の活躍によって撃退された。
村は防衛の財源として村を囲む防備柵を通過する際に小銭を徴収することで補った。
取るに足らない額ではあるが、出入りする商人や村の外へ出て我先に侵攻勢力を撃退せんとする傭兵団の数は多く、村は防衛を行うに十分な金を得るに至ったのである。
ヒトツメサマを狙う者は口々に「神の契約」「神になる」「レギオンから書を奪う」など言うのだが、その真意はまだ村民には理解できなかったのである。


「ヤツめ!一体どういうつもりなのだ?!返答次第ではタダではすまんぞ!!」
虹色の床の無い空間で円に陳列された椅子に座るのはいくつもの人体が融合したかの様な大男。既に人とは呼べぬ様相ではない。
「レギオンとして生きていくことを諦めた者が神の力を返却できる契約書。何の問題がある。
それまでは力に困惑し変異暴走した者を消す、自壊して命尽きるまで待つ。レギオンであることを諦めた者から神力を回収するのは手間だったろう?」
口を持たぬ冷たい男の顔は淡々と事実を語る。腕を組むとマントがはためき、腹に開く歪な大口を見せる。
「我々に出来ないことを担っている。文句があるなら己でやればいい」
腕も足も別の生物の物であるキメラ。背の翼を畳み座る湾曲する角を生やす女性は低く語る。
「皆様お待たせしました。今回の議題は【神の取り決め】についてですね?上手く機能しているようで何より」
凛と礼服で現れた老紳士は目を細め笑み歩む。ゆっくりと椅子に座るとぐるり全員の顔色を伺う。
「して、何か問題でもおありでしょうか?」
「何か、ではないわ!神の取り決め、神の書は確かに我らは了承した。しかし、何故それが人に知られたのだ?!」
「まぁ書の取り扱い所を町中に作ったので色々な噂が立つのは仕方ないでしょうな。人は想像で思わぬことを思いつきますからな」
「そうか、噂か。しかし我が所領に押し入った愚か者共は【レギオンを倒し神に成り代わる】という目的を持っていたな」
「ほうほう。噂も千人万人を回れば真実として捉えられるのかも知れませんな」
「ほうほう、ではないわ!そんな噂を根拠に無闇やたらに攻め込まれては我が治める土地が荒れ果てるわ!」
「今は落ち着いたけど面倒。私の教団も組織的に攻めてくる輩のせいで半壊した」
「泥、よ。面倒ごとが増していると言っているのだ。神の取り決めによってな」
「それならば貴方方自らが力を振るえばよろしいことでは?人の群れを退けるなど造作もないでしょう」
「それが面倒だと言っている」
「倒してる私は。でも私が出る前に戦闘があって人が減る。困る」
「我は人前に出ることが出来ぬのだ!前に領地を襲った魔獣を屠ったら我が魔獣よりも恐れられたのだ!人が離れていくのだ!」
「それはそれは。何でしたら大黒白の毛皮でも御用意いたしましょうか?皮を被って変装すれば上手くいくかも知れませんよ」
「我が入り切るものなどないわ!」
神の力の返還をスムーズに行いレギオンとしての活動を促進する。しかし、一方で神の力を返還する器である【神の取り決め】を狙う者が出てきた、と。
紳士は言う、神の書はレギオンが吸収することは出来ず、心からレギオンを退きたいと願わなければ生まれないと。 しかし…
「まさか神の書を持った者がレギオンとなるとは予想外でした。しかし、レギオンがその書を用いて力を吸収することは出来ぬようにしていますので問題ないでしょう。
今回の議題で問題があるとすれば…それは人の群れごときに所領を滅ぼされるレギオンでしょう」
「ッッ!?」
「そう、きたか」
「…」
「既に新天地の発展、レギオンの力の源となるこの地は次の一歩へと踏み出しました。準備期間は十二分にあったと思います。
今までに国富に努め力を理解し増強していればレギオン自ら出ずとも所領など守れると思います。
ましてや【神の書】欲しさに無知なる者共が襲ってたとして、それらに倒されるレギオンなどこの先必要ないでしょう。
早々に消滅し神力を座に戻すべきです」
「むぅ…分かった、一理ある。しかし【神の取り決め】を手にした者が神力を受け継ぐというのはどうなのだ?我らレギオンの判断なく一翼が生まれるのだぞ?」
「レギオンを退き力を返還するまで心を決めた者が書を託した者であれば…少なからず何かしらの素質を持っているやも知れません」
「なるほど、な」
「回りくどい」
「まぁまぁ少し様子を見てみましょう。もし悪しき影響しかなければ見直しましょう。では、今日の集まりはこれにて…」
「待て、一つ聞きたい。泥よ、最近新天地の一角に力を持った集団が形成されつつある。そこから発せられる精神の波は酷く歪み荒れているのだが。
何か知っているか?」
「いえ、初耳ですな。何でしたら私の手の者に調べさせましょうか?」
「いや、知らなければそれでいい」
全員が椅子を立ち消えるとそれに合わせて虹色の空間も無に閉じた。


新天地はニシューネン市。
石造りの建物、ギギギと立て付けの悪い扉が開く。そこには鉢植えが一つ、古びたカウンターの上に置かれている。そしてそれが喋り出す。
「お帰りなさいませ。【神の取り決め】で御座いますね?それを生み出しここまでやってきた御心お察しします。
私の名はトーグエルミンスールーンと申します。長いと思われたならトゲミとお呼び下さい、最近貰い受けました名で御座います。
では、書をここに…手続きを始めさせてもらいます」


スレSSSの耳レギオンとタカギに想像をくすぐられて一本

  • 新たなるトゲオ亜種が誕生しおった…レギオンは神の中で一番人間臭いと思った。地球での人間の進化に異世界を加味して着実に前に進んでる -- (名無しさん) 2016-09-23 18:09:56
  • 神というよりも人の思考だよねレギオン -- (名無しさん) 2016-09-26 06:54:56
  • 戦いが日常に起こりうるであろう世界のあちこちの歴史の混ざり合った国の危うい活気が新天地にはある -- (名無しさん) 2016-10-06 22:44:08
  • 戦闘向きじゃないレギオンってどれくらいいるんだろ? -- (名無しさん) 2016-10-27 06:52:53
  • 異世界の中で一番活発に動いている神がレギオンなんだろうか。人との距離も近そう -- (名無しさん) 2016-12-19 09:02:17
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最終更新:2016年09月23日 02:53