この町のはずれ、商店街を抜け住宅地を通り過ぎ少し進んだ先に一軒の屋敷がある。
かなり昔からあるその屋敷はいかにも金持ちが住んでいたという感じの立派なものであるが、
もはやそこに住む人間はいないのか、特に手入れをされている様子はなく全体的に古ぼけている。
この屋敷の存在自体は俺も知ってはいたが、あくまで知っていたのはそういうものがあるということだけであって
昔どんな人が住んでいただとかいつごろからあっただとかそういうことまで知っているわけではない。
とはいえそれなりに大きいし立派な屋敷でもあるわけでその屋敷へ行く道くらいは知っている。
まぁ地元の人間にはそれなりに有名な場所であるわけだ。
温泉橋の言う魔女の住む館とはつまりそこのことであるらしい。
「そういえば小さいころに聞いたことがあったわね」
放課後にその館へと向かう道すがら、
一つにまとめた、ハルコほどではないが下せば背中に届くぐらいに長い髪を揺らしながら圧森がそんな事を言い出した。
そういえばコイツの家は俺やハルコの住んでいるあたりよりその屋敷に近い場所にあるんだったな。
「あの屋敷には魔女が住んでる。歳をとらず、ずっと若いままの姿で生き続ける魔女がいるんだって」
まぁ怪談みたいなものね。小学生くらいのころにはそういうのは流行ったりするでしょ?
と屋敷への道を先導しながら圧森は問いかける。
確かに子供というのは意外とそういった怪談だとか怖い話だとかを好むところがある。
俺とハルコの通っていた学校にも七不思議のようなものがあったような気もする。
本当に七つもあったかはさだかではないけど、学校の七不思議なんてそんなものだろう。
もしかしたら逆に十個くらいあったかもしれない。
「歳をとらないっていうとヒロちゃんの家族が思い浮かんじゃうね」
「確かに・・・・・・」
「・・・・・・ヒロ君の家族って歳取らないの?
エルフか何か?」
確かに俺の母さんも祖父さんも実年齢から考えれば驚くほどに若く見える。
幼いころの俺はそれを不思議だとは思っていなかったし他の子の親もこんなもんだと思っていたのだけど、
一度友達の家に遊びに行ったときにその子のおばあちゃんだと思っていた人が実はお母さんだったということがあって、
それからウチの家系はあまり老けないのだと知ったのだ。
あの時は友情崩壊の危機だったがなんとかバレずに済んで本当に良かった。
結局その友達とは高校に進学してしまってからは会っていないんだけどな。
「俺の家族が異種族ってわけではないけど、ご先祖様に異種族がいたそうだ。
だからなのかはわからないけど、ウチの家系には身体が強かったりあまり老けない人が多いらしい」
「鬼の血が入ってるんだよ!鬼だよ鬼!」
「鬼畜ってやつよ」
「鬼畜ではない」
さらっと圧森が嘘を教えようとするがすかさずストップをかける。
コイツは割と真顔で嘘を言うのだ。
本人はユーモアのつもりのようなのだが冗談めかした感じに言わないので周りはひいてしまうのだ。
美人だし悪いやつでもないのだが、周りは接しずらいがゆえに距離を取ってしまう。
つまり友達がいない。
ぼっちだ。
そのためなのかは知らないが圧森は温泉橋が来てから結構楽しそうな顔を見せるようになった。
小説を書いたりよく本を読んだりするのが好きなようだが騒がしいのも嫌いじゃないらしい。
「そういえば、らにちゃんは人間なの?」
「その聞き方は語弊があると思うぞハルコ」
「でも確かに気になるわね。別種族とか特殊な能力を持つ人間とか」
「ようこちゃんの言ってることはよくわかんないけどわたしは人間だよ?はだか見る?」
「そこまでしなくてもいいわ」
道を歩きながらも話している相手の方をいちいち振り向く温泉橋の姿は確かに他の種族にか見えない。
身長はハルコに負けず劣らず低いがそれだけだ。
まぁ俺は異種族なんて圧森の師匠さんくらいしかあった事はないのでもしかしたら見分けのつかない種族もいるのかもしれないが。