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【透き通る花】

「お荷物でーす」
呼び鈴と呼び声に応えて扉を開くと小さなダンボール箱を持った猫人の配送員。
「サインをお願いしまーす」
差出人は封が擦り切れていて名前の部分が不明になっているが、苗字は届け先の住所のものと同じである。
発送元は異世界、新天地のとある辺境の町であった。

 世界交流時代も数十年が過ぎた今、運送業界の進出は目を見張るものがある
 世界を越えての配送を実現するまでは様々な苦労があったというが、それを乗り越え確立したサービスは素晴らしいものである
 主だった都市から都市への発送は元より、戸籍住所の概念のある土地であれば細かいところまでの配送が可能になっている
 世界をまたぐことで日数はかかるものの、「荷物を送ることができる」という事実はお互いの世界にとってとても大きなものである

少し元気のないように見える年配の女性だが、箱を開けて中に入っていた手紙を読むとその表情は感嘆の嗚咽と共に涙で溢れた。
数年前に何の便りも寄越さずに「異世界で再起する」とだけ電話口で伝えた後に音信不通の行方不明となっていた息子からのものである。
「異世界の新天地で社長になった。長く便りを出せなかったけど何とかなってる。多分もう日本には戻らないと思う。また出せたら誕生日に何か贈る」
何重にも薄紙で覆われていたのは透明で小さな花のような石。
「移動酒場の道中で鉄の森にて面白いものを手に入れたので配送できそうなものを贈る。置いておくと周囲がひんやりするから夏場などで使って」
地球では異世界と違い精霊が存在するのは極めて難しく、精霊由来の道具などは効力を失うのだが
その透明な花はそれそのものが温度を吸収・消滅させるようなのである。
とは言っても零度以下になるようなものではないので配送物検査にも通ったのであろう。
陽射しも強くなる時期、台所の窓際にそれは置かれた。
母はそれを見る度に見知らぬ世界で生きる息子の姿に思いを馳せるのだった。


「シャチョー、ちょっと酒蔵室の温度が下がりすぎなんじゃないですかね?」
「良いじゃないか、冷酒とかメニューに加えるか!?」
「あの透明石の歯車は何か大きなものを動かす際の動力部分の冷却装置だって流し鍛冶屋のドワーフが言っていましたね」
「冷やすにはちょいとモノが大きすぎたかもな。でもまぁタダだし使わないテはねぇってな」
「がうがう がう」
「あぁウメ子さん、お客さんが来たって?よっしゃ皆、営業開始だ!」
(ずっと思ってるんですけど、ウメ子さんあれ絶対に熊人じゃなくて熊ですよね)
(シャチョーは何で言葉が分かるんだ?)
新天地の東、鋼の山と鉄の森を越えた先に広がる赤錆の荒野を荷獣ハイエスに引かれ移動酒場は進んでいく。
目的地はなくただ東を目指す道中で、彼はまた来年に母への便りを出せるかどうか。 それは神ですら知り得ないことである。


  • 運送会社って本当にたくましいと思う。異世界で骨をうずめる覚悟というよりは地球の生活に疲れたというような -- (名無しさん) 2017-05-15 00:49:56
  • 異世界のどこら辺までなら配送可能なのか気になる -- (名無しさん) 2017-05-15 19:02:24
  • ウメ子さんタダの熊説!そういう事もありそうな雰囲気良いなぁ -- (名無しさん) 2017-05-18 12:13:45
  • 鉄の森ってどんなとこだろね。異世界で会社立ち上げるとか凄い。荷獣ハイエスは白くて四角い四つ脚のケモノなんですね -- (名無しさん) 2017-05-21 16:27:36
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最終更新:2017年05月14日 22:45