【としあきと火狐の少女】

 2011年8月某日、俺は自ら命を絶つため町外れの神社にやってきた。
背負ったリュックの中には荒縄と遺書。
こんなはずじゃなかった。俺はもっと上手く生きられると思っていたのに。
無職童貞の二次裏セブン、それでも何とか親のすねにかじりついて生きてきた。
 ・・・・・・炎の精霊の手でマイサンに刻印を押されるまでは。

 そもそもオフ会に参加したのが間違いだったのだ。コミュ障の俺がまともに他人と話せるわけがないというのに。
ぼっちになって隅っこで独りふて腐れていた俺に優しく声をかけてくれた留学生の炎の精霊さんに・・・・・・その・・・・・・
おちんちんびろーん!をかましてしまうなんて!
「へ、変質者じゃないんです!しし信じてくださいぃぃ!俺こんなに優しくされたの初めてでっ
 あなたならっう、受け止めてくれるんじゃないかとっ!おおお俺とセッ・・・・・・」
大丈夫だと思ったんだが・・・・・・酔ってたし。彼女優しかったし。
大丈夫だと思ったんだよ・・・・・・あの時は。
当然のこと、返ってきた返事は
「黙れ変態!!」だった
「変態!!ド変態!!THE変態!!!」
そう叫びながら彼女は俺の太くも短いマイサンに謎の炎の紋章を叩き込み、俺の息子は呪われたのだった。

 それからの日々はまさに地獄だった。具体的には火炎地獄。
なんと!炎のおしっこが出るようになってしまったのだ!
想像してくれ、燃え上がる便器を。和式も、洋式も、全て炎上して砕けていった。なんという火力!
おかげで家も燃やしてしまいカーチャンにも愛想を尽かされた。
J( 'ー`)し「としちゃん、ゴメンね。おうちなくなっちゃったわね。
      火元はトイレだって。ゴメンね。きっとカーチャンがタコ足配線してたのがいけなかったのね。
      でももう閉じこもる部屋もなくなっちゃったわね。これからは自分の力で生きていきなさい。」
ごめんよカーチャン、その後も立ちションして山火事を起こしたり迷惑をかけてしまい誠に申し訳ありません・・・・・・。

 そんなこんなで自殺を決意して今に至るわけだ。
ふう、ふう、30代も半ばの魔法使いに千本鳥居の階段は非常にきつい。いや、魔法は使えないが。
しかし、夏の夕暮れとはいえ鬱蒼と木々の茂る人気のない神社というのはかなり不気味だ。
この千本鳥居の間にも何か潜んでいそうな気さえする。
いや、何か潜んでいてもおかしくはない。今は打ち捨てられているとはいえここは神社なのだ。

ふう、ふう、登りきった俺はリュックから縄を取り出し、木にくくりつける。
ふう、ふう、早く死んでしまおう、生きていると人に迷惑をかけてしまう。
ふう、ふう、ごめんよカーチャン、先に逝きます・・・・・・。つるした輪に首を通した。
と、そのとき何か、聞こえた。
何だろう、歌?
歌が、聞こえた。
かーごーめー かーごーめー    木々がざわざわと騒ぐ
かーごのなーかの とーりーはー  木の葉が舞い、境内に渦を巻く
いーつーいーつー でーやーるー  渦は収束し、そしてー
後ろの正面だーあれ

~そのとき、ゲートが開いた~

 境内の中心、何もなかった空間に虚空が開く。
はるか昔に忘れ去られていた異世界との扉が開いてしまったのだ。

 すとん、と少女が舞い降りた。
白い肌、淡色の髪、そして獣の耳。亜人である。
状況が飲み込めず目を白黒させ、きょろきょろしている。

 俺も何が起こったのか理解できず、しかし少女に見とれていた。そしてー
ずるっ!
足を滑らせた。死ぬ!
ロープが!縄が締まる!首が締まる!俺が死ぬ!
死ぬのは嫌あああああああああああああああああ!!
じたばたするもどうにもならない。嗚呼、俺はここで死ぬ、死んでしまうのだ。
いやまあ、死のうと思ってたんだけどね。
もう良いや、楽になってしまおう。諦めましょう。諦めましょう。

 ぼうっ
突然縄の一部がが発火し、焼け落ちた。
自由になった俺の体は落下し、尻餅をつく。
ゲホゲホ。縄は青白い炎をくすぶらせながら千切れていた。
彼女がやった・・・・・・のか?
やっとの思いで視線を上げると先ほどの亜人の少女が指先に小さな炎を燈して不思議そうに覗き込んでいた。
「あのっ、死にたいんですか?それとも生きたいんですか?どっちなんですか?」
俺はとっさに答えることが出来ず「ああ」とか「うう」とか呻いた。無様だ。惨めだ。
「あの、私、イネといいます。狐の亜人です。あなたは?」
「・・・・・・としあき。」

 これが彼女と俺との出会いだった。

  • 何は無くとも優しい母ちゃんと焼失後の生活を考えると涙が止まらない -- (名無しさん) 2012-03-25 20:42:40
  • イネ可愛い。金羅様の分神だったりと妄想中。 -- (名無しさん) 2012-03-26 21:40:52
  • 文体が・・・ -- (名無しさん) 2012-03-27 03:40:41
  • え?そこで終わるの?続きは?と俺達の交流はこれからだという終わりにちょっと悶々としてしまいました。デッドブロイラー小便は凶悪そうですね。 -- (名無しさん) 2012-05-05 19:08:57
  • 地球に異世界が広がっている時代というのが日常として伝わってきました。火事はご愁傷様ですが… -- (ROM) 2013-02-11 18:48:03
  • これ続き見たい。イネととしあきの異世界交流話を -- (名無しさん) 2013-03-09 19:18:49
  • 笑っていいのか泣いていいのかでも笑ってしまう。捨てるつもりだった命が異世界と交錯しやっぱり拾いあげるということは意外に多かったりしそうな交流時代 -- (名無しさん) 2016-08-17 15:42:47
  • まだイレヴンズゲートの世界観を模索していた頃の思い思ったままのこうありたいこうしたいという気持ちが伝わってくるSS -- (名無しさん) 2020-04-30 03:23:06
  • 家燃えてんねんで!も微笑ましいカーチャンのおかげで緩和されてる -- (名無しさん) 2020-05-01 01:14:08
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最終更新:2013年04月02日 12:01