異世界フロンティアと言えば大体の答えは「
新天地」という昨今。
未踏破領域と接し未だ未開拓地広がり未知の資源が埋もれる大地に夢を抱いて挑戦する人々は後を絶たない。
一応の行政府とされている西海岸近くのペンギンシティ周辺は治安もよくなっているが、そこから離れれば離れるほど治安は荒れていくという。
一攫千金は常に危険と隣り合わせであり、その地に生きる人々はあれやこれやと力と知恵を絞り明日を目指すのである。
新天地の東 稀少鉱石が露天掘りできる“岩の湖” その近くの村
「店に雇われた用心棒か?悪いことは言わねぇ、何も言わずにそこをどきなぁ」
「町に人夫出し屋が多いと何かと面倒だから一緒にやりましょうと丁寧に言っても聞きやしない。ぶっ壊されても自業自得だな」
通りを行き交う衆人環視、店に押し寄せるならず者の集団の前に一人立ちはだかるぼろぼろな着物に刀を一本携える茶毛の狗人。
「素直に商で勝負しろと伝えな」
「何も言わずに消えなと言ったぜぇ!」
すごむ圧迫感におくびれもせず狗人が放った言葉に一人が飛び出し斬りかかる。
「っせいッ!!」
降り下ろされるはずだった熊人の圓月刀は両断されてカランと落ちる。
刀を振り切った姿勢と交錯した熊人は愕然とし膝をつく。
「あっ、あれは!?」
「ミブロのワザ、“イァ・イー”!!」
目にもとまらぬ速度で刀を振り斬り一瞬の閃光により相手は倒れる。用心棒界隈で恐れられる技の一つである。
「おいっ、どうするんだよ!?」
「町が飛び道具持ち込み禁止だから囲んで遠巻きに穴だらけにもできねぇぞ!」
ならず者達が慌てふためくのを前にして再び刀を鞘に収める狗人。
(うぅぅう!早くどっかいけっての!こちとら店主がケチったせいで俺以外用心棒がいないんだからよ!)
かつて町で幅を利かせていた用心棒が、自分が苦手だからと町に飛び道具を持ち込ませない法を作ったことにより近接武器だけが扱われることになった町。
常に戦いは面と向かい火花を散らすことが一種の“熱さ”を生み出すことになり、それが多くの者を引き寄せることとなっている。
その様な場であるために剣技刀技に秀でる者は一目置かれることになるのだ。
「どうする?全員で襲えば何とかなるんじゃねぇか?」
「じゃあお前が先に行けよぉ!」
強面の大柄勢がもじもじ言い合っている様は何とも言えない風景である。
(早くどっか行けってのぉおお!)
「退け、私がやろう」
大男達を割って出てきたのは如何にもな風格を漂わせる翼のない鳥人。ざんばらに乱れ煤けた羽が潜り抜けてきた修羅場の数を想起させる。
「“瞬突”の旦那!おいお前ら離れるんだ!旦那がやるぞ!」
大勢が離れ空いた空間に対峙する二人。漂う重たい空気で静寂が訪れた。
凡そ6メトルほどの間合いまで鳥人が歩み寄ったところで足が止まる。
「さ、て」
背より取り出したるは2メトルに迫る程、狗人の刀の倍はある細長い突剣。
(もっと寄ってこいよ!いや、寄ってきて下さい!)
「どうした?顔色が悪いぞ?いつでも斬りかかってきていいのだぞ?」
先が割れた嘴が嫌らしく曲がり哂う。
(やばい、俺の技を見抜いている?まだ一回しか振ってないのに?いやいやまさか…しかし長引くと不味そうだってのははっきり分かる!)
お互いがお互いの構えを取ると一気に場が張り詰める。荒ぶ風もそれを理解してか場を去るように無風となった。
(踏み込みながらか…畜生いちかばちかだっ!)
「っせぇあっ!」
ズドッ
何という速度。長い刀身が微塵も揺れもせず狗人の腕を刺し貫いた。
鞘を持つ左腕を負傷し刀を振り抜けずに片膝を落とす。苦悶を滲ませ何とか後方に飛び退く。
「見立て通りだな。刀を抜くのと同じくして鞘を引くことであの速度の斬撃が可能となる。故に刀をどうこうせずとも鞘を引く手を止めるだけでお前の技は成立しない、違うか?」
(くぅぅぅう!大正解でございます、くそっ!)
「踏み込みと斬撃が同時にできるか?と期待したが、どうやらそこまで至っていないようだな。相手が間合いに入ってこなければ意味の無い技とは何とも粗末な…ミブロ、恐るるに足らず!」
(あぁぁ…修行から逃げて自己流小手先で編み出したイァ・イーもここまでかぁ)
「さてどうするか…」
「旦那、後は俺らが始末つけときますんでぇ!」
「ちょっと待ちんね!」
低くもありカン高くもある年寄りの怒声が響く。項垂れる狗人の背、店の影から、同じく着物姿の白毛並みの狗人老婆が現れる。
左腕は二の腕の途中から、右足は脹脛より下が木の枝で形成された細い義肢になっている。
「最初から見ちょったが拙いにも程があるぜよ!おんしの様な未熟もんがミブロを語るとわっちらの値が下がるんじゃき!」
どう見ても弱り老いた今にも倒れそうな老婆にこれでもかと罵倒され、痛みも忘れ唖然とする茶毛。
「ちょっとわしが本物のミブロっちゅうのを見せてやるけん、見ちょれ!」
「おいおい!あのババア本気かぁ?!」
「老い先短いんだから大人しく引っ込んでろぉい!」
嘲笑と罵詈雑言が飛び交う中で鳥人だけが真剣な表情で再び構えを取る。
「聞いたことがある。エリスタリアで蟲人の侵攻を退けた中にいて腕と足を失ったが樹肢を受けて直戦場を渡る“鋼蟲八百おろし”“枯木”と呼ばれる老ミブロがいると!」
「知っちょるなら話が早いわ。さぁやるぜよ!」
適当勢いの言葉とは裏腹にその所作は流水が如く美しさすら漂う。一切の無駄を削ぎ落した静謐。
周囲も強者同士の生む気配を察し自然と押し黙る。
「何という…何処に打ち込もうとも血が見えぬ。しかし先の見えぬ勝負に挑むことこそ本懐。 …いざ!」
腰を落とした鳥人がひと呼吸。一瞬、上体を反らした処から空気の壁を破る破裂音を鳴らし全身を剣と化す閃撃。
ぞんッ
─── 二歩進んだ踏み込み
─── 右手が降り抜いた黒刀
その場の誰も認識が出来なかった。
「み、見事…!」
突剣諸共に体を袈裟斬りにされた鳥人は崩れ倒れた。
堰を切るように割れ騒ぐ荒くれ者達が大慌てで鳥人を抱えて一斉に場を去っていく。
「おんしら!ミブロの力忘れんなや!ミブロはおっそろしいんじゃ!」
「す、凄いイァ・イーを見た」
「で、次はおんしじゃ」
刀を鞘に収めた老婆が悪鬼めいた笑顔で見下ろす。
その後、人夫屋に用心棒の指南役として居着いた老婆はパワハラめいたシゴキ、もとい特訓により未熟なミブロを鍛えたのであった。
「いやいや、鞘も抜いて速さを生むっちゅうのは思いもよらなんだ。その小手先も極めりゃきっと力になるぜよ」
「そっ、そうですか!?」
「極めれば、の話じゃき。わしも自然体、“間”を一切無くすことを突き詰めたのが今の技じゃけんの。
おかげで自然体であるために失ったものは失ったものとして義肢も必要最低限になっちょるがの」
多くの刀技、銃技を伝え鍛えるミブロであるが、その技は個々の色に染まり磨かれ戦場で輝くという
力を技で補う者 常に戦気に身を置き研ぎ澄ます者 体と共に武器を鍛え一体となる者 純粋な技の境地へ至る者
迷っても後戻りしても只只管に己を研鑽することでミブロは強者と成り、その名は戦場で凶風轟かせる
その後、“奇術師”と呼ばれ千差万別する刀撃を振るうにまでなったミブロではあるが、
酒が入ると決まって愚痴を溢すのが「終ぞ別れるまで一度も勝つこと叶わなかった」という枯れ老婆の話であったという。
ミブロSSを読んで思わず想像し一本
- イァイーコワイ!遠距離武器はなしだけど精霊使ったりとかはどうなんだろう? -- (名無しさん) 2017-11-09 08:21:19
- 地球でも異世界感ある和の刀法は異世界でも特異なものになったんだろう。精霊との関りが薄くて個人技突き詰めるって感じする -- (名無しさん) 2017-11-11 08:21:01
最終更新:2017年11月09日 00:45