【坑のコボルト】

岩間の細い隙間より差す薄い陽光が紅光へと変わる。夕刻。
「今回の出来栄えはどうですか?貴方」
「中々興味深い良い出来だよ。古い木炭を苗床になど疑問しかなかったが、あの子を褒めてあげないと」
「あまり火を焚かない私達には思いつきもしませんでしたね」
しっとり湿った茸の岩屋に並べ立てられ積まれる様々な苗床。そこから無数に生える色取り取り形様々な茸茸茸。
「そろそろ夜だ。闇達も元気になる頃、採集を済ませてしまおう」
籠を置きしゃがむ男の裾から揺らめきながら暗闇よりも黒いもやがのそのそ這い出してくる。

ここはクルスベルグのどこかの廃坑に作られたコボルトの坑村。
彼らが陽を避けるように地下や洞で暮らすのは種と共に存在する闇精霊のためである。
何時からなのか何かの約束なのかは不明ではあるが、コボルトは闇精霊と親和性が非常に高く共生しているのである。
闇精霊は極度に陽に弱いためにコボルトも暗闇の中で暮らす。火の扱いも少なく局所的である。
そんなコボルトの主な生業は暗闇が活きる“茸栽培”である。
クルスベルグにおいてドワーフなど他種族と摩擦が生まれない様に利用価値のなくなった廃坑、鉱山を住みかとしている。
闇精霊の加護を受けその力を幅広く行使できるコボルトは茸栽培に必要な環境調整が可能であり、それより生まれる良質の茸は種を存続させるに足る糧を生み出している。
今も昔もこれより先も暗闇の中で生き続ける日陰の種族と思われていたコボルトであるが、変化はどこからどういう形で生まれるのかは分からない。

「おとうさん、ともだちに茸をもっていってもいい?」
狗と狼の中間のような、痩せた獣人が耳を揺らして父に問う。
「どれどれ…」
爪先で茸の傘の一部を摘み取り食す、味わう。
「これならば誰に出しても恥ずかしくない茸だ。何かのお礼かい?」
自作の茸を盛った籠を嬉しそうに抱きかかえる娘に父が問う。娘の友達が作り贈ってもらった服のお返しだと言う。
夜でない時間に外へ出るということがまずコボルトには稀有なことであり、更に外で友達が出来たという事実に驚いた両親であったが、
特に娘に憑いた闇精霊も衰弱した様子もなく外から帰ってくる娘は日々を重ねるごとに明るくなっていくのを見て不安以上に喜びを感じていた。
この前は皆でバザーに参加したと、鉱石燈や光苔の栽培槽を持って帰ってきたこともあった。
いそいそと茸籠を包む娘の背中から、コボルトの新たな道の兆しを垣間見た両親であった。
「しかし私達コボルトと外で仲良くしてくれる人がいるとは…良い縁に巡り合えたものだ」
「そうね。あの子は何か大きなことの切っ掛けになってくれそう」


クルスベルグのコボルトを想像

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最終更新:2019年01月21日 00:22