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【食べ過ぎ注意!】

大延国の大ゲート所在地である門市城。
ゲート祭ではこれでもかと言うくらい、市や民間主催で催し物や屋台が広げられる。
祭りの間は地球各地のみならず、近年では大ゲートの通過を利用して異世界他国からも多くの来訪者がやって来る。
祭りの空気と魅力的な出し物は時として人の理性を弱まらせ、ちょっとした暴走を引き起こすことがある。

「うう~苦しい~」
【治療】と書かれた陣幕に【搬】の躍字が丸まり呻く観光客を運んで来た。
ゲート祭に合わせて大量に作成された緊急搬送用の【躍札】は、破ると躍字が飛び出して患者を決められた場所まで搬送するのである。
特に食事料理を出す店や屋台に多く配られた躍札は連日その効果で活躍している。
「うーん、これは…食べ過ぎですね。胃の消化を促進させる丸薬を渡しますので飲んで下さい。飲んだらあちらの床で暫く横になって休んで下さい」
異世界でも食の大国と言われる大延国の祭り、一日に運ばれてくる患者の実に八割が食べ過ぎから来る腹痛である。
一人の患者の処置が終わると矢継ぎ早に次の患者を躍字が運んで来る。
「は、腹がぱんぱんで…ぐるじぃぃいい~」
「うーん、これは…胃の中で倍玉芋が膨らんじゃってますね。下ごしらえが不十分なまま食べると胃の中で膨らんじゃうんですよね」
「なっ、なんだってぇえ~」
顔を真っ青にしてゴロゴロと転がり往復する熊人。
「これは消化を促進させると胃液が吸われて逆効果なんですよね。ちょっと特殊な処置をしますので我慢して動かないでもらえますか? あ、後どこの店で食事したか教えて下さい、注意を出しますので」
「うぅぅう、何とかなるんでしょうかぁ~」
医師衣の白と対照的な長い黒髪に黒毛の狐人。首に結んでいる黒、闇布製のネクタイの様なものを右手に巻いて、そっと熊人の腹を押さえる。
「闇力で胃の活動を緩め、膨らんでいる芋を収縮させて…ッホイ!逆流っ!」
瞬間力を込めて腹を圧すと、熊人の嗚咽と共に口から半凍結し小さくなった倍玉芋が吐き出された。
「胃腸が本調子になるまで半日はかかりますから、その間は食事を控えて下さいね」
「すっきりしたけどそれは残念。でもお医者さんの言うことは聞かないとな。ありがとうございました」
一礼し幕を後にする熊人。
『少し精霊使いが荒いんじゃないか?今日はこれで五度目だぞ。幕内とは言えまだ陽が昇ってるんだ、ちょっとは私の身も案じてはくれないか』
結び直した闇布から、狐人にしか聞こえない声が響く。
「何言ってるの。僕が男に戻るまでは医療行為に協力するって約束でしょ。誰のせいで女になったと思ってるのさ?行使されるのが嫌なら元に戻す方法を早く考えてよ」
『あれはお前に見つけられて寝起き急に使った力なので私もよく覚えていないからな…もう少し一緒にいて体と力の具合を確認しなければどうとも言えん』
「その台詞何回目だと思ってるの。【百歴封書の闇精霊】とかもう名前負けじゃないの?」
『ウヌヌヌ、言いよるわ小娘め、いや小童め』
医療具を整えていると一陣の風が舞い込んで来た。
「すみませーん、お腹が痛いっていう人達を連れて来たのです。診て欲しいのです」
『ふにゃー』
「コテンコウ、運んでくれてありがとうなのです。ここに皆を降ろして下さい」
『にゃー』
畳二枚ほどの平べったい雲犬は、ぱっと小さくなって風を起こす。乗せていた患者数人がゆっくり床に降ろされた。
「お医者さん、治療をお願いします。コテンコウ、次は南の方を見に行くのです」
ぺこりと御辞儀した狐人の少女は尻尾をはためかせると外に踊り出る。
肩に乗せた小さな雲犬の長耳がふわり舞うのと同時に少女の体もふわりと浮き上がる。
屋根瓦の上を駆けていく姿が揺らめく幕戸から見えた。
「うわ、皆さん全員食べ過ぎですよ。何かもうお祭りに来る人来る人食べ過ぎで倒れてるんじゃないの?」
祭りの喧噪とは色は違うが、患者が運び込まれる陣幕も祭りの間中、その喧噪が絶えることはなかった。


ゲート祭、大延国の門市城の様子を想像して一本

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最終更新:2019年09月03日 04:38