私、
丸山 長田と申します。
西
イストモスの都、王領より西の西、妻の故郷であるテイクス領に移住して一年が過ぎました。
領と言っても田舎も田舎ですが土地だけは広くあるためか開墾と造成が盛んです。
領民増進のための政策で、領民として登録した後に開墾した土地は面積こそ限定されるが自分の所有とすることができるというもの。
郊外の広野はまだまだ手付かずであるために多種多様な移住者が家を建て土地を耕している。
領の整備と民の増加に伴い、それまで大雑把であった税や管理などの法整備を行い発布し今に至るが、まだまだ発展の道は拡がり延びている。
「御嬢様!御領主様がお戻りになりましたっ!」
休日の朝、朝食の場で大声と共に扉が開かれる。
領一番の疾脚の
ケンタウロスで伝令員を務める白毛のアモは事切れるように地にへばる。余程全力疾走してきたのだろうか。
「父が?!」
妻、
丸山ウィナスが目を丸くして驚き、噛んでいたサラダをごっくんと飲み込んだ。
彼女が驚くのも無理はない。何せ結婚しイストモスに移住した時点で旅に出発しており、そこから一年音信不通であったからだ。
ただ、家族領民全てが理解している領主の重度な放浪癖は一年二年は軽く帰ってこないのが普通なので、その驚きはやっとなのか早いのかどちらであろうかと考える。
「ウィナス、これはすぐにでも館に向かうべきではないかな?結婚の報告は届くかどうかも分からない風の噂を送っただけでしたしね」
「うん!私もそう思ってたところ!」
アモに水を一杯渡して家を出る。
この領には面白い風習がある。
それはかつて辺境の開拓地であり、危険の多かったせいであろうか家々が何かしらの動物なりを一家の供として飼うというもの。
丈夫長寿な農耕獣、毎日卵を産み続ける冠鳥、釜の火を保ち続ける炎霊獣、水瓶を守護る水霊魚など、特別な存在であることが多い。
我が家の供はと言うと、妻の実家より授かった喋る走鳥(本人は亜竜と言い張っているが)、喋る鉢椰子の樹生物である。
「領主の館に行くのだわ?」
「朝早いが頼むよ、ラナヴァン」
「先生早く行こう!」
「ウィナス、お義父さんの前で先生呼びは何とか我慢して下さいよ?」
「えっへへー、ゴメンなさい」
領の外周に位置する我が家から中央に建つ行政役場兼領主の館までは暫くかかる。
…何せ初顔合わせなだけに緊張して仕方がない。今の内から挨拶を考えておかねば…
人も色々、人生も色々。
教師と生徒、人間とケンタウロスという垣根を越えた結婚を経たことで次第に薄れていった“特別な感情”が沸き上がってくるのが分かる。
いや、それは世界の違いからなどではなく、人という種が幾度となく行ってきたでろう“結婚の挨拶”というものなのだろう。
最終更新:2019年09月15日 14:58