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【異世界登山の初歩】

地球の山々は一通り登った登山家が異世界の山々に挑戦する。 登山と言うジャンルに限らず異世界への挑戦というのは渡界が整備されて以降、その頻度は増加傾向にある。
大延国は登り応えのある山、山脈が多く聳え立ちながらも準備に必要な物資道具も揃え易く、場所によっては案内役も用立て易い。 異世界登山への登竜門としてはうってつけの舞台である。
登山服に必要最低限の登山具、それと現地で準備を整えるのに必要な物資を持っての大延国入り。
まだまだ地球異世界の為替機構が未整備なためか、異世界各国のゲート付近にて地球産の物品と現地通貨や物々交換可能な物とを信頼性の高い交換ができる場は人間に重宝され、そういった情報は定番として広まっている。
大延国では食糧問屋がその多くを担っており、地球産の調味料などは運び易い上に大延国の料理界では需要もありかつての中世大航海時代の香辛料よろしくそれなりの価値を持って交換可能である。
予め需要が増してレートの高くなっている調味料や調理器具を用意してゲートを通る。 週ペースでそういった需要範囲は変動するので異世界へ渡る際は事前の下調べと準備が重要であろう。

標高は何処まで挑むか何処までも突き詰めることができる高さがありつつもゲート所在の門市場からのアクセスも豊富であり、山の産物の採取や取引のために麓の町もそれなりの規模になっている。
かつて存在した巨人の遺体が埋まり根幹を成すという目的の山を前にして身震いする。
とりあえず中腹辺りまでを登山目標として準備を始める。
目的は様々だが個人での登山も盛んになってきているからか総合案内所も盛況であり、早速それなりの経験を自負する案内役の豹人を紹介してもらい雇うことになった。
一通りの準備を済ませて現地の空気に慣れるために到着したその日は宿を取って案内役と打ち合わせを行う。
翌日、向こう一週間は天気も荒れないという予報を受けて登山を開始する。
採掘、観光、精霊探索、登山と目的に合わせて登るルートは変わるためか入山する人の多さに反して同じ道を行く人とすれ違うことはまばらになる。
三合目くらいまでは登山道も作られているが、そこから先は直角にもなる崖や急角度の斜面などを登ることになる。
透き通った山の空気にザイルを打つ音が響く。
吹き抜けていく風の中に精霊の話声を聞きながら上を上を目指して登る。
岩肌で白磁の色が浮かび上がっている個所は巨人の骨成分が滲み出しているために器具が通らないと説明を受けている。注意しつつ次の手、次の手と打ち進む。
途中、二畳ほどの空崖を見つけたのでテントを張り落下防止措置を寝袋にも施して一時の仮眠を取る。
人間は余程自分達の道具に自信があるんだな。と案内役は笑ってすぐに眠りについた。プロは休める時にしっかり休むのだ。

じっくり三日をかけてやっと直に中腹という所まで到達する。
多くの道具を用意したとしても所詮運搬できる量は限られており、七、八合目さらには登頂を目指すとなると現地にて必要な物資の調達が必要になってくる…というのがこの山を登った者達のレビューである。
崖、谷そしてまた崖。それを登った先に広がる緩やかな斜面に茂る森を進む途中、案内役がある場所を指し示す。
見れば小屋があり煙突からは微量であるが煙が立っている。
なぁに入っても食われることはないさ。そういう案内役と共に小屋の戸を開くと、町に漂っていたものとは一風変わった鼻をくすぐる匂いが広がってくる。
案内役が品書きはあるかい?と言うと奥の戸が開いて中背で痩せた熊人が出て来た。
客かい。今出せるモンと言えば…これくらいだな。と熊人は太い竹筒の中から数本の竹片を抜いて差し出してくる。
促されるまま卓に座った自分と案内役は今出せると言われた料理を四つ程選んだ。
…で、何が出せるんだい?と前掛けに着替えつつ主人が尋ねてきたが、何を選ぶか悩んでいると案内役がにやりと笑いウエストポーチから火精霊が好む着火媒体と水精霊が力を蓄えるのに適した吸水乾植物を取り出し提示した。
それを見て一つ頷いた主人は調理場の竈で寝ている火精霊蜥蜴を起こし、蓋の隙間からこちらをじいっと見ていた水精霊蛇の入った瓶から鍋いっぱいの水を汲み調理を始めた。
何か出せるものがあるならチップにしても良いんだぞ。そういう案内役に言われたので、ストックしてあるミネラルたっぷりの塩湖と味の素を混ぜた小袋を差し出した。
まな板の音がリズムを刻むのに合わせて流れて来る甘い味噌の様な香りに筋肉の強張りが解かれていくのを実感する。

素朴ながらもしっかりと味付けされた山の幸料理と汁をいただき暖を得ながら案内役が語りだす。
この山の中腹に建つ食堂はちょっとした名所であり、そこを切り盛りする主人は幾度か代替わりしているという。
永く小屋に住みつ憑き定着した火と水精霊獣と相性が合った者が当の主人から代替わりを打診されるという。
主人が声を掛ける機会は寿命や現役引退か望郷の念か様々であり、声を掛けられる者も鉱山夫や登山者、果ては逃亡者や流浪人など多岐に及ぶ。
当代の熊人もその例に漏れず、大延国と今でも衝突を重ねる南蛮から攻め入ってはぐれた闘士であったという。

山の風景、訪れる人々、踏みしめて来た地の感触、様々な思い出を目的地から眺める夕陽と共に心に染み入らせ新たな達成感に身を震わせた。
下山しきるまでが登山だろう。と案内役の正論を受けて気を引き締めて帰路の一歩を踏み出すのだった。

異世界の登山を想像して一本。現実を忘れて只管山を登りたい今日この頃

  • 異世界の「神々の山嶺」! -- (名無しさん) 2021-02-17 21:25:00
  • そこに山があるから登るみたいな趣味や生き甲斐登山って異世界の人々でもあるんだろうかあるんだろうなぁ -- (名無しさん) 2021-02-19 02:48:03
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最終更新:2021年02月14日 21:00