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【蟻さんといっしょ】

ゲートが開通する少し前のお話です。



日の光がまぶしい。朝か。
ふああ、とあくびを一つ、目を覚ます。(はて? まだ夢の中なのだろうか?)
俺が今いるのは何故だか石畳の上。
周りに見えるのは奇妙な建物――蜂の巣のようで、もっと洗練された――が立ち並ぶ風景。
もちろんこんなところで寝ていたはずもなく、つまりこれは夢で、おそらく朝であることも夢だ。
(だったら、もうちょい寝ててもいいんじゃないかな。) 内心、寝たら遅刻だとおもいつつも、どうでもいいやという心地で。
さあ寝るか、と頭を枕へと投げ出して――ガツンッ! 頭に衝撃、目が覚める!

ぬおおお、と頭を抱えて転がる。(石畳の上の小石が肌を突く、痛い!)
意識が完全に覚醒する。石畳を叩く。(堅いなあ!)
この鮮明な感覚は夢であるはずがない。(だとしたら、ここはいったいどこなんだ!?)

そこに、疑問に埋め尽くされた俺を、何かが鼻から刺激した。
かすかではあるが、確かにある。嗅覚には、ちょっとした自信があった。
(む? この匂いはなんだろう?)
振り返ると、
(化けモノ! アリの!? ――なんて大きいんだ!)

「ひぃ…っ」

おばけアリ――単純にアリを大きくしたのではなく、ヒトと蟲とを掛け合わせたような――が俺の鼻先で首を傾げ触覚を揺らしている。
(食われる……!?)
俺は這うように後ずさり、何とか立ち上がり、足をもつらせながらも、走り逃げた。
しかし、逃げた先にも別のおばけアリ。(嘘だろ!?)
急激な方向転換。
ああ、だけど俺は急には曲がれない――憎むべきは慣性だろうか、摩擦力だろうか――。
思いっきり転び、強かに頭を打ち付け――


【清掃役25-03】市民10009
:変なのみつけた。《臭香送信》《映像送信》《音声送信》

【警備役02-04】市民10394
:へんなの了解。急行する。……へんなの発見。
:記憶探索開始。
:…………
:……
:判断不可。上位者に判断求む。

【警備役まとめ役02】市民10093
:わかんね。

【警備役まとめ役まとめ役】市民9993
:形態からしてヒトと判断。種族の特定は不可。
:"不明人物3004043"とする。香印せよ。《臭香送信》

【警備役02-04】市民10039
:香印了解。

【警備役まとめ役02】市民10093
:精霊かもよ?

【清掃役25-03】市民10009
:ちがう。《雰囲気送信》

【警備役まとめ役まとめ役】市民9993
:上位者に"不明人物3004043"対する方針を求める。

【警備役まとめ役まとめ役】市民9993
:……………。

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:命令を下します。

【都市3004まとめ役】市民11000
:え?

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:命令を下します。

【都市3004まとめ役】市民11000
:あ、うん。えーと。女王通達2203"疲れたから休もう"に準拠して、食糧状況を鑑みると……。
:状況39にあたるから、えーと。

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:方針399ですね。

【都市3004まとめ役】市民11000
:じゃあ方針399を発します。友好的なかんじでお願い。

【警備役まとめ役まとめ役】市民9993
:了解。

【警備役02-04】市民10039
:"不明人物3004043"と接触。音声「ヒィ…ッ」を確認。《音声送信》

【分析役まとめ役02】市民8843
:シマシマヒスクイ鳥の鳴き声に似ているな。

【警備役まとめ役02】市民10093
:ほんとだ。

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:単なる悲鳴です。

【調理役03-03】市民10092
:でも結構似てるぜ。

【警備役02-04】市民10039
:"不明人物3004043"愉快バランスを保ち疾走。《映像送信》

【調理役03-03】市民10092
:シマシマヒスクイ鳥じゃねーか!

【都市3004役まとめ役】市民11000
:対象がシマシマヒスクイ鳥のものまねを始めた場合は……。えーと。

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:単なる逃走です。

【警備役33-44】市民9932
:なんかこっち来た。転倒した。気絶した。《映像送信》

【警備役まとめ役02】市民10093
:完璧だな。

【警備役まとめ役まとめ役】市民9993
:施設203に搬送せよ。

【狩猟役40-33】市民9999
:レベル高いなあ。ありもしない特徴的な羽が見えるようだったよ。

【警備役02-04】市民10039
:了解。"不明人物3004043"を搬送する。


爽やかな香りがする。朝か。
ふああ、とあくびを一つ、目をこする。
(ああ、久しぶりに悪夢をみた)
背中の感触は柔らかい、石畳ではない。
一つ安心を得て、目を開けると。(アリ!?)
おばけアリがこちらをのぞき込んでいた。
俺は悲鳴を上げてて飛び起き、
目を真ん丸に見開き口をパクパクさせて――まるでエサを待つ魚みたいだな――、驚愕に固まる。
そのとき、突然の涼しさが俺を襲った。いまの勢いで掛け布団――ふわふわして、やたら軽い――がずり落ちたのだ。
この布団をかけたのは多分きっと――

「これは、お前が……?」

言葉に返答はなく、ただ首を傾げられる。
次に、おばけアリは手を合わせ――何かを思い出したような仕草――、顔をすっと近づけ、口づけした。
(……甘!?)
蜜が流し込まれる。喉を鳴らした。
(ど、どう反応すれば!?)
口は離された。頬が赤くなる。
俺は口をぬぐい、相手を見る。表情はよくわからない。
いったい今のは何だったんだろうか?
何を言えばいいのだろうか?

「……あ、ありがたい」
(って、なにいってんだかなー)

思わず口を出た台詞に、おばけアリはやはり首をかしげ、
次に俺の頭を撫でて、部屋を出て行った。
(なんで撫でたんだ?……とりあえず、いい匂いがするな)


【世話役99-01】市民2754
:"不明人物3004043"が起床した。

【警備役まとめ役01】市民10094
:思ったより復帰が早いな。

【都市3004まとめ役】市民11000
:どんなかんじ?

【世話役99-01】市民6754
:このようなかんじ。《映像送信》。

【世話役99-01】市民6754
:あっ、喋った。《音声送信「コレハ…オマエガ」》。

【分析役まとめ役02】市民8843
:「コレハオマエガ」というフレーズを三大陸の主要言語で聞いたことはないなぁ。

【世話役99-01】市民6754
:方針399に従い、対応を開始だ。しかし、友好的に接するとは?

【都市3004役まとめ役】市民11000
:えーと、蜜を与えてみるとか。ほら、"蜜を交わそう俺たちゃ仲間さ"って女王様がいつも言ってるじゃない。

【世話役99-01】市民6754
:了承。

【調理役13-21】市民7854
:飲んだか?

【世話役99-01】市民6754
:飲んだ。《映像送信》。《臭香送信》。喋った。《音声送信「アリガタイ」》。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:よし、じゃあこの後は、……えーと、どうしよう。

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:客人待遇を明確にしましょう。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:じゃあ"客人362"と再定義します。香印しといてね。《臭香送信》。

【世話役99-01】市民6754
:了承。……完了。


いつものように扉が開く音で目を覚ます。
目を開け、周りを確認すると、やはりおばけアリがいて、いつものように頭を撫でられる――いつもの香りがする――。
おばけアリにとって匂いは大事なもののようだ。
いつも付けられるこの香りはどういう意味があるんだろうか。恐らく、身嗜みに関わることだと予想している。
(それにしても"いつものように"か……。馴染んじゃないが、慣れちゃったよなあ……)

「おはよう」

おばけアリは俺の言葉に首を傾げ、香り――爽やかな、いつも朝に放たれる――を放った。
朝の挨拶を交わし――多分そうだと信じたい――、俺はテーブルに向かう。
やたら鮮やかな朝食がある。

「いただきます」

匙を使って一口、また一口。量はかなり多い。
すこしキツいが折角出されてるのを残すことは出来なかった。
(ああ、甘ったるい。まあ、文句言える立場じゃあないんだけどな……)
匙を使って一口、また一口。ようやく皿が空になる。

「ごちそうさま」

おばけアリは首を傾げ、皿を片付けようとし、俺の口を持ち上げ蜜を口移した――完全に不意打ち――。

「……どうも」(いつものことだ。……だけど慣れないなあ)

おばけアリは首を傾げ、皿を片付け部屋を出た。


【世話役99-01】市民6754
:"客人362"が私が入室すると同時に起床した。いつもながら不思議とタイミングがいい。

【清掃役42-02】市民7789
:おまえが起こしてるだけじゃねーの?

【世話役99-01】市民6754
:なるほど。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:うすれた香印を付け直しといてね。

【世話役99-01】市民6754
:了承。……喋った。《音声送信「オハヨウ」》

【分析役まとめ役02】市民8843
:「オハヨウ」……。ふむ、ここ数日の統計から考えるに、朝かどうかを確認を求めてる可能性大だな。

【世話役99-01】市民6754
:了承。朝を伝える。

【世話役99-01】市民6754
:《音声送信「イタダキマス」》。これは……食事開始の合図?

【分析役まとめ役02】市民8843
:ああ、間違いないな。

【調理役13-21】市民7854
:食事の反応はどうだった?

【世話役99-01】市民6754
:"客人362"はよく食べてる。《映像送信》

【調理役13-21】市民7854
:ほう、残すと思ったんだが。よく食べるなあ。

【調理役13-11】市民9393
:大食漢な種族みたいだな。もうちょい増やすか。

【世話役99-01】市民6754
:《音声送信「ゴチチソウサマ」》。

【分析役まとめ役02】市民8843
:ここ数日の統計を鑑みると、食事終了の合図だな。

【世話役99-01】市民6754
:了承。片付けを始める。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:あ、昨日から蜜を交わすの忘れてるね。

【世話役99-01】市民6754
:そういえば。

【世話役99-01】市民6754
:完了。…………"客人362"があの言葉を発した。《音声送信「ドーモ」》。

【分析役まとめ役02】市民8843
:「ドーモ」、か……。これは、わからないなあ…。ランダムで発声されてるのかもしれない。

【分析役まとめ役02】市民8843
:もしかしたら、この種族特有の鳴き声かもしれないな。

【世話役99-01】市民6754
:食器を片付け完了。

【世話役まとめ役01】市民8932
:部屋02の掃除は手伝えるかい?

【世話役99-01】市民6754
:無理。そろそろ寿命。いまから苗床になりに行く。

【世話役まとめ役01】市民8932
:おや、思ったより早いねえ。

【世話役まとめ役01】市民8932
:誘導を求める。

【麹世話役04-12】
:うぃっす。《位置送信》。

【分析役まとめ役02】市民8843
:そういえばもう寿命か。

【調理役13-11】市民9393
:なんだ。短い付き合いだったな。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:いままでご苦労様。いい苗床になってね。

【世話役99-01】市民6754
:じゃあ、行ってくる。

【世話役まとめ役01】市民8932
:おっと。その前に引き継ぎもしなきゃいかんよ。

【世話役99-01】市民6754
:あ、そうだった。後任は誰?

【世話役まとめ役01】市民8932
:ああ、後任は市民11140だよ。ほら。

市民11140
:は、はい!引き継がれにきました!

【世話役99-01】市民6754
:後は、任せた。《送信》

【世話役99-01】市民11140
:任されました!

市民6754
:うん、頑張って。


(今日は冷えるな…)
あまりの寒さに目が覚めた。空気が、冷たい。
そんなふうに凍えていると、ドアが開きいつものおばけアリが現れた。
朝食だけでなく薪と毛布をも手に持っている――手が多いのは便利だ――。

「おはよう」

言葉に応え、おばけアリは香り――朝の挨拶――を発する。
首を傾げるところは、しばらく見ていない。もう慣れたからだろうか。
おばけアリは朝食と薪を置き、違う香りを発する。すると突然暖炉に火がはいった。
次にまた香り――さっきと似てるようで少し違う――を発すると、火が部屋中を飛び回った。
魔法である。このおばけアリは魔法が使えるのだ。

(いつみてもすごいな…!)

憧れる。使ってみたい。そういう気持ちがあったが、諦めてもいた。
魔法を使うには、香りを発する必要があり――いつもそうしてたから間違いない――、人間にはとうてい不可能だからだ。

そんなことを考えていると、おばけアリがこちらを抱きしめ、香り――いつも朝に付けられる――を擦りつける。

(スキンシップが濃いなあ…)

いつからか、おばけアリは俺にやたら構うようになった。というか、明らかに甘くなった。
最初は色々関わろうとしても何だかそっけなかったんだが、俺の努力が伝わったんだろうか。

手を引かれ、誘われるがまま暖炉へと。
仲良く一緒に毛布にくるまる。
暖炉の火を眺めていると、唐突に口を奪われ蜜を注がれる。――これもかつては二日にいっぺんだったが、今では日に何度も行うようになった。

(……甘いな。)


【世話役99-01】市民11140
:きゃー!寒い寒い大変だー!あの子が凍え死んでたらどうしようー!?

【清掃役04-02】市民11001
:んな、大げさな。死ぬわけないだろうに。

【世話役99-01】市民11140
:わかってますよう!でも、心配なんです!あ、置き場24から薪と毛布持ってっていいですか!?

【倉庫番役24-01】市民9922
:いいよー

【世話役99-01】市民11140
:ありがとうございます!食事は出来てますか!?

【調理役13-11】市民9393
:おうよ、今運ばせてるから受け取れ。

【配膳役02-24】市民10009
:ここですー。《位置送信。》

【世話役99-01】市民11140
:ありがとうございます!

【配膳役02-24】市民10009
:こぼさないように気をつけてー。

【世話役99-01】市民11140
:到着!きゃー!私が起こす前に起きてるー!?なんで!?

【世話役99-01】市民11140
:震えてる!暖めなきゃ!ということで抱きしめます!!

【清掃役42-02】市民7789
:そんなことより、さっさと暖炉に灯したらどーよ?

【世話役99-01】市民11140
:ああっ!そうでした!

【世話役99-01】市民11140
:……ふう。これで一安心です。

【清掃役04-02】市民11001
:落ち着いたか。なんでそんなに甘いんだよお前……。

【世話役99-01】市民11140
:だって初めての役ですし。初めてお世話するヒトですし。気合いもはいりますよぅ。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:仕事熱心なことはいいことだよね。

【世話役99-01】市民11140
:それに可愛いんですよこの子!ほんと可愛い!ほら、ぷにぷにしてる!《触感送信》。《映像送信》。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:…………。

【世話役03-02】市民8831
:いつ、繭になるんでしょうねえ。

【分析役まとめ役02】市民8843
:しないと思うんだがなあ。

【世話役03-02】市民8831
:あら、蛹だけなんですか?

【分析役まとめ役02】市民8843
:こいつは蟲人ではないからな。

【世話役99-01】市民11140
:このまんまだといいですねー!あっ、蜜が飲みたいって言ってます!

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:言葉分かるようになったのっ!?

【監視役21-03】市民8922
:無言でしたが……。

【世話役99-01】市民11140
:いいんです!私には聞こえたんですから!

【清掃役04-02】市民11001
:いいのかこれ?

【都市3004役まとめ役】市民11000
:えーと、……どうだろう?

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:甘いのは我ら蟲人の好むところです。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:そっか、…そうだね。女王様も"甘いものだけが世界を救いうる"っていつも言ってるもんね。

【世話役99-01】市民11140
:許しが出ましたか!こうなったらもう私は止まりませんよ!

【清掃役04-02】市民11001
:本当にいいのかこれ?

【都市3004役まとめ役】市民11000
:えーと、えーと、……どうしよう?

【都市3004まとめ役補佐役】市民9980
:甘いのは我ら蟲人の好むところです。

【都市3004役まとめ役】市民11000
:じゃあ、よし。おっけー。いえーい。

【監視役21-03】市民8922
:投げやりですね……。

【世話役99-01】市民11140
:いえーい!!


  • 死んで交代してるのに気づけなくて仲良くなったと勘違いしてるようなのが、悲しいね -- (名無しさん) 2013-02-17 11:28:15
  • 好奇心は人間以上でそれが同時に同じ場所を考察するとなると吸収も学習もすごいことになっているのではと思いました。記録という結果を残すことの充実感が生命活動の停止すら悲しいことではないと思わせる情報のスピード感は一風変わった感覚です。ゲートが開く頃には客人も地球に戻れたんでしょうかそれともそのまま蟲人と -- (名無しさん) 2013-09-16 18:05:10
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最終更新:2013年03月27日 14:40