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【幸運な挑戦者とマヌケな王者】

 私はこの場所が好きだ。
 宴の前の静寂に包まれたこの空気がじつに心地よい。
 鉄と革と血と油の混濁し一体となったなんとも言えない存在感がじつに心地よい。
 まだここには勝者も敗者もなく、生きる者も死す者もなく。此処へと集う者達は皆一応にこの後に待つ出来事と行く末をとうの昔に枯れた血肉を滾らせ、失った鼓動を高鳴らせて見守ろうというただそれだけのそれ以上でもそれ以下でもない存在でしかない。
 その熱気と情念の押し寄せる前の、この冷たく静謐な空気のこの場所が私はこの上なく好きだ。

 キィと僅かに金属の軋む音を立てて扉が開かれる。

「それではここでアリーナ開演の準備が整うまでしばらくお待ちください。武具の最終調整や変更などはこの場所にあるものの範囲であれば自由でございます」
「ありがとう」
「いえいえ、これも仕事でございます……」

 審議候キエム・デュエト配下である黒い布で全身を覆った黒子のような風体の者に案内されて彼女はその部屋へと足を踏み入れる。
 堅牢な石造りの部屋の両脇には様々な防具や武器が並べられ入ってきた入り口の正面には両開きの重厚な扉が見える。

「必要なことがございましたら何なりとベルを鳴らしておよび付けください」

 そう言って黒子は彼女をこの場所まで案内したのと同じように足音もなく部屋から立ち去り

ガチャリ

 音もなく扉が閉まったかと思った次の瞬間重い音を立てて部屋の扉の鍵が閉まる。
 控え室の扉は二つ、今入ってきた扉と死闘の舞台へと通じる通路への扉、そして今入ってきた扉は施錠され残された道はひとつだけ……

「……ハァ」

そこで彼女は深く息を吐く。ゆっくりと目を閉じ室内に束の間の静寂が満ちる。

「覚悟はしていた……けど、まさか初めての戦いの相手があの御方なんてね……」

 この戦いに参戦すると決めた時から覚悟はしていた。大きな見返りには必ずさらに大きな代償が付き物だ、そのことを彼女は誰よりも知っていたしだからこそこの戦いに参戦した。
 それがたとえ望まぬ結果に終わったとしても後悔はしないその気持ちは今でも変わらない、しかし心残りが無いかと言えばそうではなかった。

 スラヴィアの支配者である貴族たちが夜な夜な熱狂する饗宴にはいくつかのレギュレーションが存在し、彼女が選んだ『アリーナ』とは一対一もしくは極めて少数での戦いを円形舞台の上で行う形式の饗宴であり、その戦いに参加する者達の多くは腕に自身のある強者ばかりだということで知られている。
 アリーナでの戦いに勝つことができれば、一足飛びに有力貴族に肩を並べることも夢ではない、まさに一攫千金の舞台、しかし負ければ見るも無惨な死が挑戦者を待ち構えているという相応の末路も用意されている。
 そして、今日その初舞台を踏む彼女の対戦相手となったのは、どう楽観的に見ても今の彼女の力量では勝つことはおろか生きて敗北することすら絶望的と一瞬で理解できるようなそんな強者の中の強者に位置する存在。

「こうすると決めたことに悔いはない……ただ……」

 彼女の脳裏に『力を得よ。そうすれば君が望むものかわかるだろう』と、わけも分からぬまま生者としての命に幕を閉じ屍者としての思いもしなかった第二幕が開いた時、今もこの手に握る二振りの得物と共に自分へともたらされた言葉、その意味を知りたいがためにここまで来たが、とうとうそれが何かを確かめることができないのかという寂しさはどうしても拭い去ることはできなかった。

「いや、戦いの前から戦意を失ってどうする!結果どうなるとしても最後まで私らしく……そう決めたじゃないか……」

 自分の中で気を抜けば恐ろしい勢いで広がってしまいそうなマイナスな気持ちを紛らわせようとゲルダは控え室の壁に立てかけられた武具を眺めて気を紛らわせようとする。

「いろいろあるな……武器の変更はここにあるものなら何でも自由って言ってたけど……私はこれが一番だし……」

 見る者が見ればそれらは名品とまではいかないもののなかなか使い込まれた業物揃いだと分かる品々であり、さらにその全てが見事に手入れされ置かれている。
 しかし武器も防具も使い慣れた今のもので十分と感じている彼女にとってはそれらはあくまでも気を紛らわせるためのものでしかない。
 そう、そのはずだった……

「……これも自由に使ってもいいものなのかな?」

 ふと彼女の目に止まったのは武器や防具が置かれた一角にまるで佇むように置かれた一式の鎧だった。

「他のとは随分と作りというか雰囲気が違う気もするけど……ここに置かれてるってことはこれもアリーナの備品ってことだよね」

 黒く艶やかな材質で作られた獣の頭部を簡略化したよう意匠の兜に同じ材質の細身の胴鎧や具足をしげしげと興味深く観察する彼女。

「ちょっと着てみようかな……」

 さっきまでは「最後になるならこのまま……」と考えていた気持ちが嘘のように彼女の興味は今は完全にその鎧へと向けられていた。
 そうと決めてからの彼女の行動は素早かった。最低限の急所を保護するだけの機動性重視の軽装鎧を外し、鎧を身に着けやすいように薄着姿となった彼女はそのままいそいそと鎧を手に取り身に着け始める。

「なんだろう・・・あつらえたみたいにピッタリだ・・・」

 普段は機動力を最大限に生かすため軽装を好む彼女が全身鎧に興味を魅かれたというのも不思議なことであったが、試しに身に着けてみると最初に見た時は彼女の体格より一回りほど大きく感じたそれらは、まるで最初から彼女のためにあるかのように体を包み込み、鎧の重さは少なからず感じはするものの動きの俊敏さと鋭さはむしろ身に着ける前より良くなっているとさえ思えた。

「不思議だ……まるでずっと昔から私を待っていてくれていたような……それにとても落ち着く……」

 鎧を身に纏ってから決死の戦いを前にどれだけ冷静にあろうとしてもそうすることが難しかった心の中のざわめきが波が静かに引くように穏やかになっていくのを彼女は感じていた。

ガチャリ

 不意に入ってきたのとは反対側、アリーナ中央へと通じる通路の両開きの扉の鍵が開く音が響く、ギギィと重々しい音を立ててこの部屋へと彼女を案内した者と同じ姿をした二人の黒子によって通路への道が開け放たれる。

「「舞台が整いました……ちらへ……」」

 扉を開いた黒子二人が通路へと誘うように手を動かしまったく同じ内容の言葉を唱和するように告げる。

「え!?あの……」

 思ってもいなかったタイミングでの舞台への入場時刻の到来に、慌てて鎧を脱ぎたいという言葉を続けようとするが……

「「どうぞこちらへ・・・」」

 二人の黒子の言葉が重なる。その言葉に二の句を告げさせない圧力のようなものを感じ彼女は観念してそのままの格好で通路へと歩き始める。

 長い長い・・・実際はそれほどの距離でもないのだろうが彼女の中ではかなりの距離のように思える控室からアリーナ中央の舞台へと通じる通路を二人の黒子に先導されて歩き出す。

ワアアアアアアアアアァァァァ……

 控え室から舞台へと続く通路を歩く彼女の歩みが増すごとに最初はそれほどでもないと感じられた歓声がだんだんと大きくなっていく。

「「我らはここまで。ここから先は御一人で行かれよ」」

二人の黒子に促され彼女は彼らが手で指し示す短い階段を上り、戦いの舞台のある広場へと歩みを進めた。

ワアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!!

 アリーナの中心部は無数の光の精霊が宙を舞いながら光を放ち、この場所は本当に夜なのかと疑いたくなるほど煌々と照らされていた。

「紳士淑女の皆様!長らくお待たせいたしました!今宵はこのアリーナにおいて無敗を誇る絶対強者と!これは悲劇かはたまた奇跡のはじまりかッ!新進気鋭の挑戦者の対戦でございます!皆様心行くまでお楽しみください」

 空中を風の精霊と共に舞いその力によって拡声された声で会場の隅々にまで届く声でまるで歌劇の役者のように大げさとも思えるくらいの身振り手振りを交えてこれからの対戦内容を説明する一人の青年。

「今宵も私、キエム・デュエトが司会兼審議官長としてこの場を取り仕切らせていただきます」

 そう言葉を結ぶと空中に浮かんだ青年は恭しくゆっくり回転しながら会場全ての客席に向けてお辞儀をする。
 それがまるで合図かのように方々から「キエム様~♪」と黄色い声援が飛び会場の至るところから大小色とりどりの花束が風精に携えられて彼の元へと集まってくる。
 たちまち彼の周りには抱えきれないほどの花束が集まり、その返礼として彼は再び客席に向けて優雅に礼し、それに対して再び客席の方々から黄色い声援が聞こえてくる。

「それでは!まずは挑戦者からご紹介いたしましょう!あぁ!その瞳は深く静かに強者を見据える赤き瞳!その四肢は深く静かに凶刃を閃かせる引き絞られた弓の如く! 孤高の傭兵ゲルダ・ヴァニシュラッ!」

 エキムが彼女の名前、ゲルダ・ヴァニシュラと叫んだ瞬間、ゲルダの周囲が強い光によって照らし出され、観客席の視線が彼女へと集中する。

「あれが・・・・」
「かわいそうに・・・・最初の舞台でとは・・・」
「本当に運がないですわねぇ・・・」
「これではまったく賭けになりませんな」

 などとゲルダの立つ場所から程近い客席に座る観客の声が彼女の耳に入ってくるが、こういう反応は最初から予想していた。

「それでは対するアリーナの絶対強者!黒……ん?……皆様、少々お待ちください……」

 突然キエムが何かに耳を傾けるような仕草をしたかと思えば観客に断りを入れてしばらくの間頷く動作を交えながら何かに耳を傾けていた。

「大変失礼いたしましました。そして続けてこんなことを言うのは大変心苦しいのですが試合開始が少々遅れることになりそうです」

 しばらくの後、再び演説を再開したエキムの言葉にざわめく客席。

「試合開始時間になっても今宵の戦いの一方の対戦車が控え室はおろかアリーナにさえ姿を現していないということにございます……これは一体いかがなことでございましょうか……」

 空中高く舞い風の精霊を介しまるで朗々と詠うかのように審議候キエム・デュエトは会場に詰め掛ける観衆に状況を説明する。

「まぁ……の方が棄権?そんなことってありますでしょうか……?」
「信じられん……しかし前例がないというわけでも……
「前はたしか……」

 予想外の事態にざわめく会場。

「何かのトラブルということも考えられますのであと半刻ほど猶予を設けることといたします。会場の皆々様方はそれまで心静かにお待ちくださいませ」

 そうエキムは言ったが思いもしない事態に心静かに事態を見守ることができる者などそう居るはずもなく、客席は騒然とした状態が続いた。

そして、結果から言ってゲルダの対戦相手は最後までその場に姿を現すことはなかった。



「……ゴホン、えー……対戦相手『黒鎧卿』がこの場に姿を現さなかったことにより挑戦者ゲルダ・ヴァリシュラの不戦勝といたします!」

 高らかに宣言される勝利者宣言、しかしそれに対して会場からは次々とブーイングやら「なんだこの試合は!」という怒号が飛び交ったのは言うまでもない。
 後にスラヴィアにおいて多くの者達によって語られることとなる「幸運な挑戦者とマヌケな王者」の試合はこうしてなんとも拍子抜けする幕切れを迎えることとなり、不戦勝とは言え勝利は勝利、ゲルダは敗北した黒鎧卿の力の約一割を譲渡されることとなり、彼女の名は瞬く間にスラヴィア全土に知れ渡ることとなった。

しかし、この話にはさらに続きがある。



「ハァ!?久しぶりの試合に興奮しちゃって、気を落ち着けるために早めに会場入りしたけど控え室間違えた挙句、居眠りして気がついたら対戦相手に着られちゃっててバツが悪くてそのまま狸寝入りして不戦敗した!?」

 なんとも言えないカオスな感情の入り混じったレシエの声が響いたのはその二日後のことだった。
「……ウム」
「ウムじゃないわよ!何この上ないくらい情けないことをサラッと流そうとしてんのよ!バカにしてやろうと来てみたけどあんまりにもアホすぎて逆にかわいそうになってきたわよ!」
「ソウカ」

 こじんまりとした長テーブルを挟んで椅子に座る黒鎧卿に向けてなぜかボルテージの上がった声でレシエは矢継ぎ早に言葉を重ねていくが黒鎧卿は平板な声で短く答えるのみ。

「……で、もっとわけがわからないのは……なんでその不戦敗した対戦相手がここにいるの?」

 そう言ってレシエは丁度レシエと黒鎧卿の間に挟まれるような位置取りで座るゲルダを指さす。

「ハハハ……本当になぜでしょう……」

 遥か目上の大物二人に挟まれるという状況に軽く顔が引きつったゲルダが緊張した声で答える。

 今三人が居るのはアリーナから少々離れた場所に建つ極めて簡素な作りの黒鎧卿が暮らす住居だ、古くはあってもしっかりした部材で作られており、落ち着く空気感を醸し出してはいるが、最古の貴族の一体に数えられる存在が暮らす場所としてはこの上なく拍子抜けする規模と言える。
 元よりこの黒鎧卿という存在は放浪卿エルバロンほどではないにしても領地というものに対しての執着が薄く「体が痛まぬ程度に雨風を凌げ、強者と戦うことができる場所ならどこでも良い」と領地らしい領地どころか屋敷すら必要とせず挙句「いつでもアリーナに参戦できるように」とスラヴィアの支配者である屍姫サミュラに直訴してまでこの場所に住み着いたという経緯で現在この場所に暮らしている。
 しかし、領地とは貴族のステータスの象徴というだけではなくスラヴィアの屍者にとってどうしても無くてはならぬ生気という糧を得る場所でもある。領地もないのに日々の糧はどうやって手に入れているのかと言えば日々スラヴィアのどこかで行われている饗宴で戦力的に劣る側の助っ人として参陣し、その報酬として日々を食いつないでいるという真面目に領地運営をしている貴族からすればなんと向こう見ずで享楽的かと感じるような生き方である。

「気ニ入ッタノデ我ヲ纏ウ者トシテ共ニ行動スルコトニシタ」

 その瞬間ガタンと盛大な音を立ててレシエがその場に突っ伏す。

「ますます訳がわかんないわよ!?何その新しい価値観に目覚めちゃった的な!?ちょっとそこのあなたもそれでいいの?勝手に決められちゃってるけど本当にそれでいいの!?」
「えっと……その……」

 突然自分に話を振られたゲルダが眼を白黒させてしどろもどろに言葉を紡ごうとするが

「いいこと?こんな今日や明日の生活もどうなるかわからないような戦うことだけが生き甲斐で、あとの暮らしはどーでもいいと思ってるような奴と一緒に行動するってのはとんでもなく大変よ?この家だって日中はいろんなところからあの忌々しい陽の光が漏れてきたりしてきてるのよ?こんなのと一緒にいたら長生きできるものもできないのは間違いないわ!」

 ゲルダの必死の努力などお構いなしという勢いでレシエは言葉を連ねていく。

「……オ前ハ私ノ母カ何カカ?」
「うっさい!私はただあんたの器になってるその鎧が目当てなだけよ!いつか必ずあんたを滅ぼして鎧手に入れるんだからそれまでにつまんないことで死んでその鎧に何かあったら困るのよ!」
「ソウカ。ギャアギャアト良ク喚クコトダ」
「あんたこそ黙りなさい!なんだったら今ここでその体私のコレクションにしてもいいのよ?」
「軍団ノ居ナイオ前ガ我ニ勝テルト?随分ト思イ上ガリガ過ギルナ」
「ア?あんたなんてわざわざ軍団を率いなくたって勝てるわよ?あんたこそ思い上がるんじゃないわよ?」

 急激に剣呑な空気が濃くなっていく中二人の勢いに沈黙していたゲルダが声を上げる。
「私は……」

 今にもそれぞれ得物を抜き放とうかという勢いだったレシエと黒鎧卿の視線がゲルダに集中する。

「私は……それでいいです」

 その短い言葉の中にゲルダのまんざらでもないという気持ちを感じ取ったレシエは急激に肩の力が抜け柄へと伸ばしていた手を下ろす。黒鎧卿も同じように得物へと伸ばしていた手を下げ再び椅子へと腰を下ろす。 

「あぁ……なんだろ……にしてやろうとウキウキしてここに来ようと思った昨日の私を張り倒したい気持ちになってきた……なんだか急に疲れたしどーでもよくなったから……私帰る」
「ソウカ、気ヲ付ケテ帰レ」
「うっさいわよ!不戦敗したバカに心配される覚えはない!帰るわよセバス!」
<はい。それでは失礼いたします黒鎧卿様、ゲルダ様>

 ドカドカと立ち去る主人とは対照的に静かに恭しく礼をして赤銅色のリビングメイルは主人の後を追って部屋を出て行った。

「あの……」

 騒々しくレシエとセバスが去り二人だけとなった室内、しばらく沈黙が支配した後に言葉を発したのはゲルダだった。

「ナンダ?」
「本当に……ぜ私だったのですか?」

 ゲルダは改めて疑問を口にする。

「ナントナクダ……人モ悪クハ無イガ、二人トイウノモ悪ク無イ、ソウ思ッタトイウダケダ」

 その言葉にゲルダは何とも言えない気持ちを胸に覚え2日前の事を改めて思い返す。






 試合の後ゲルダは状況が掴めぬまま呆然としているところを空中から降りてきたキエムに華吹雪の祝福を受けた。

「貴方は本当に幸運な勝利者だ。そして……君は本当にマヌケな敗者だね」

 と朗らかな笑顔でそう言われたが、その意味が半分も理解できないまま控室に戻り小一時間ほど状況の整理とキエムの言葉の真意について熟考したものの、やはり意味がわからず考えることを諦め帰り支度に取り掛かり、そこでようやくあまりの着心地の良さに自分が鎧を身に纏っていたということを思い出した彼女は鎧を脱ごうとしたその時それは起きた。
 次々と身につけていた鎧が彼女の身体から離れ、少し離れた場所で再び組み上がり直立した一つの姿を作り上げる。

「眠リ込ンデシマウトハ我一生ノ不覚」

 自立した一つの姿となった鎧は平板な声でそう言うとそのままドカリと床に胡坐をかいて座り込み、そしてそれからしばらく微動だにせず、それこそ最初にゲルダが見た時と同じようにまるでただの鎧のように何か言葉を放つでもなく動かない。そのことにどう対処していいのかわからずゲルダもその場に硬直する。

「・・・・オ前」

 どれだけの時間が経ったか、ほんの僅かな間だったかもしれないがゲルダには気が遠くなるような時間が経過したように感じられた後に突然鎧が彼女に言葉を投げかける。

「は、はい!?」
「誰カノ身ニ纏ワルトイウノモ中々ニ心地ノ良イ事ダナ」
「ハ、ハァ・・・」

 限りなく自己完結した問いにゲルダはどう答えていいか咄嗟には対処できず曖昧な生返事をすることしかできない。

「決メタ。オ前ハ今日ヨリ我黒鎧卿ヲ纏ウ者トナレ」
「えええええええええええ!?」

 怒涛の展開に完全にパニック状態になるゲルダ。

「く、黒鎧卿・・・あな、貴方様が最古の貴族の一人の!?」
「イカニモ・・・嫌カ?」
「いえ、そんなんじゃありません!」
「ソウカ、デハ決マリダナ」

 こうしてゲルダはまったく冷静に状況を理解し整理する暇もなく最古の貴族の一人である黒鎧卿の装着者となることとなったのである。
しかし、たしかに全く唐突な出来事の連続ではあったものの黒鎧卿を纏う者となるということに関しては全く負の感情は湧かず、逆に嬉しさを感じたことを彼女は後に思い返すことになる。

 こうしてなんとも数奇な巡り合わせから纏う者・纏われる者として行動を共にすることとなった駆けだし貴族と闘争しか興味のなかった最古の貴族は出会いその後に多くの物語を紡ぐことになるが

 しかし、それはまた別のお話……


  • 饗宴のルールが参加者にも観客にも楽しめる部分があって面白いと思います。戦いの方向性が真逆の二人が程度の差と感じ方の違いはあれど一目惚れしたような雰囲気でいいですね。それにしてもレシエ卿は便利キャラ -- (名無しさん) 2013-10-20 18:01:04
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最終更新:2013年10月27日 21:06