異文化交流をその主たる目的とした我が校にあっては、おおよその行事が留学生ウケする。
一般的な日本人なら鼻で笑うような瑣末なものであっても、彼らは熱心に取り組む事が多い。
だが、そんな彼らでも不人気な行事というのは有るものだ。
「節分」という。
<11門世界>の1国、
ミズハミシマからの留学生を多く受け入れている十津那学園だが、
それゆえに留学生の種族構成はミズハミシマのそれに準ずるところとなる。
最も多い種族は鱗族であり、それに続いて龍族、蜥蜴族など様々であるが、
2番目に多く受け入れている種族こそが、この節分という行事を困難にしている大元なのである。
まわりくどい表現だが、要は鬼族だ。
「空想上の存在である鬼と、ミズハミシマの種族である鬼族とは何の関係も無い」
などと識者がいくら言っても、そうそう肯定できるものではない。
少なくとも、十津那学園では自粛する風潮が根付きつつあったのだが・・・
「じゃあ今日は今から豆まきしますからねー」
どこからその声が出ているのかというほどのハイトーンで、タコちゃん先生がそう言った。
これにはさすがに驚かされた。ウチのクラスにも何人か鬼族は居る。
思わず隣の席の鬼塚や、斜め前の鬼怒川(通称おキヌちゃん)の顔を見てしまった。
彼らも呆気に取られたようで、リアクションに困っているといった風だ。
「アホか」
川津がボソリと呟くのが聞こえたが、種族的にデリケートな話題というよりも、
単純にこの年齢で豆まきをするという状況をアホだと言っているんだろう。
「あの・・・ヒウマくん」
後ろから奥山さんにつっつかれたので、椅子を少し引いて振り向く。
「まめまきってなんですか?」
どう説明したものか。
まさか馬鹿正直に、『鬼に豆をぶつけて退散させ、福を呼び込む行事』などとは言えない。
「それはねー
この豆を全員でバラまいて『鬼は内!福は内!』って福も鬼も全部呼び込むのよー
そしてまいた豆は食べるのよー」
タコちゃん先生によるハイトーンボイスが、言いあぐねた僕のかわりに解説した。
って・・・ええ?
「鬼も内なのか。聞いていた話と違うな」
鬼塚が納得した表情となっているが、僕は納得できないぞ。何だそれ。
「んー?何人か『それ違うんじゃね?』って表情ねー
でもこれ本当にアリなのよ。
国語教師なんてやってると、無駄に知識が増えて嬉しいわよねー
さて諸君、これから豆を配るワケだけれどもー
本気で福を呼び込みたかったら、全力で声をあげて、全力で投げ合えたまえ!青春!」
投げ合うくだりはウソじゃないですか・・・先生。
その後数分間、教室は酷い有様となった。
ただ、鬼族のみんなが楽しそうだったのが印象的だ。
「自分の年齢分だけ豆を食べるんだよー」
タコちゃん先生のハイトーンボイスでホームルームは〆られた。
ハァ。まるで幼稚園か何かのようだ。
下校時刻。
こんなアホウな事をしていたのは当然ウチのクラスだけで、大豆を握り締めて帰るのも僕らだけだ。
川津が蛇神さんに豆を投げつけてマジキレさせているのを見て気が滅入った。
バカップル丸出しじゃないか。ああはなるまい。
豆はとりあえず自分の分、17粒を確保している。
奥山さんの方を見ると、ニコニコ笑顔で豆を握り締めていた。
豆の数は19粒あった。
え?
「奥山さん・・・17粒だよ、僕ら」
僕がそう言うと、奥山さんは少し混乱した風に豆を数え直し始めた。
「おかあさんのおなかのなかにいたとき、うまれてからまくやでくらしたとき、
1歳のたんじょうび・・・2歳のたんじょうび・・・
3歳でおとひめさまのしんでんにおまいり・・・」
凄く真剣な表情だ。そして既に2粒多い。
これ
オークの数え方なのだろうか?
「17歳のたんじょうび・・・ヒウマくんにプレゼントもらいました。うれしいです。
あれ?やっぱり19つぶですよ?ヒウマくん」
プレゼント~のくだりで周りから冷かしの視線が飛んできたが、まあ仕方ない。
マフラーは気に入ってもらえているようだから。
「ま、細かいことはあまり気にしないでいいか。
ところでさ、ミズハミシマにも大豆みたいな食べ物ってあるの?」
ポリポリと炒った大豆を食べながら、僕は奥山さんに尋ねた。
それにしても全然美味しくないなこれ。
「昆豆とかいっぱいありますよ。
ミズハミシマにいったらごちそうします」
ニコニコと笑顔で炒った大豆を頬張りながら、奥山さんは教えてくれた。
いや、途中で笑顔が曇った。
「あんまりおいしくないです・・・これ」
寄り道して、ピーナッツでも買おうかね。
- このなんともない日常加減がほっこりします。冷めた感じも男子らしくていいですね。豆まきの豆は味付けがないので確かに美味しくはないですよね -- (名無しさん) 2013-12-07 17:57:30
最終更新:2014年08月31日 01:39