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【ヤマカさんとバレンタイン】

さて。
この世には死ねばいいのにと腹の底から思う日が何日かあるが、
確実にそのトップ3に入る日が2月にはある。
言うまでもなくバレンタインデーである。死ね。
クリスマスイブとクリスマスの2トップには確かに劣るが、
世の中の浮かれっぷりは負けず劣らず、まあ酷いものだ。
モテ男は数を競いリア充は質をひけらかしスイーツ女子どもは自分で食う始末だ。
あげく義理チョコだの友チョコだのとまあ商売に踊らされてまったく度し難い。

ええと。
異文化交流をその主たる目的とした我が校にあっては、おおよその行事が留学生ウケする。
一般的な日本人ならもうそこまで熱を上げてねぇものであっても、彼らは熱心に取り組む事が多い。
<11門世界>の1国、ミズハミシマからの留学生を多く受け入れている十津那学園だが、
その種族構成にかかわらずバレンタインデーはエラい人気のある行事である。
ウチのクラスでもタコちゃん先生が、朝のホームルームの時間から、いかにバレンタインが
素晴らしい行事なのかを10分以上も熱弁する始末だ。
魚人がチョコ食ってんじゃねぇよまったく・・・

まあ。
基本的には母ちゃんから1個の王道を走っていた僕ではあるのだが、
近年、特に中学から高校にかけて部活動をやっていたおかげもあり、
女子剣道部員から義理チョコをありがたくいただける環境にはある。
王仁主将などチョコを貰えた嬉しさに剣先の震えが止まらず、僕に2本負けしたほどだ。
そんなこんなで僕の手元には今、合計8個の義理チョコがある。
浮田とか馬鹿じゃねぇの?ってくらいデカいのをくれた。
さすがにこんなデカい義理チョコをもらった事など無かったので、犬塚に自慢したら、
奥山さんから本命チョコを貰ったとか言い出したので、ちょっとだけイライラした。
ただ、本命チョコなのにポッキーだったとか言い出したので心が安らいだものだ。
その割に妙にホワホワしてたな。犬塚のやつ。

んで。
例年であれば、あと一つは義理チョコがいただけるのだが、今年はその最後の一つが無い。
母ちゃんと部員以外からもらえる分など決まりきっている。ヤマカの分だ。
去年もカエルチョコなどという、どんなセンスだとツッコミを入れたくなる物を
無理やり僕の口にツッコンできたものだが、今年はもう貰えそうにない。
ケンカ中なのだ。

実際。
ケンカの発端をどうにも思い出せないでいるが、1月中は別に普段通りだったので
2月の上旬に何かヤマカが機嫌を損ねる出来事があったんだろう。
節分の炒り大豆がクソマズかったからヤマカにぶつけてやった事もあったけど、
それでここまでこじれるとも思えない。いや、それが原因なのか?
確かあの日の帰り道からどんどん不機嫌になっていった記憶もある。
頭が働かない時は、脳に糖分を与えれば良いと聞く。
僕はすぐさま義理チョコのパッケージを開封していただく事にした。

美味。
実に美味である。特にこの亀田さんからいただいた柿ピーチョコなど、製作者の狂気が感じられる一品だ。
そしてこれをあえてチョイスする亀田さんのセンスにも脱帽する。普段はただのノンビリさんなのに。
亀田さんは言うまでもなくミズハミシマの亜人で、蜥蜴人と呼ばれる種族だ。
なんとなく亀っぽい雰囲気があったからか、タコちゃん先生に亀田さんの名を与えられた娘だ。
イサキシマノヒメっつったかな?ホントは。

ピンポーン
糖分を取ると違うという事なのだろうか。頭が冴えてきたような気がする。
そして徐々に思い出してきたのは、やはりヤマカとケンカしたのは2月3日からだったという事だ。
何でだったかなぁ・・・帰り道で怒り出したんだよなぁ・・・
ってヤベェ!思い出した!間に合うか?間に合う!
あ。


さて。
この世には死ねばいいのにと腹の底から思う日が何日かあるけれど、
確実にそのトップ3に入る日が2月にあったのです。
それが2月3日でした。
今思い出してもイライラするのですが、あの日のテンちゃんの一言は許せません。
別にクソマズい豆をぶつけてくるくらいなら、まあいつものテンちゃんのガキっぽさで目をつぶりますが、
帰り道の途中で言ったあの一言が、アタシの逆鱗に触れたのです。
あ、蛇人にも逆鱗ってあるんですよ。ちょうどアゴの下あたりです。
子供の頃はあまり気にしなかったんですけど、多分これ性感帯です。
男性でもアッフンって声が漏れちゃうと思います。龍の王様の逆鱗になんて触れたら、
王様も恥ずかしくて超怒っちゃうと思いますね。マジで。

ええと。
話が横道にそれてしまったのですが、節分も終わり、次に来る人生最大級に幸せな日に向けてボルテージを
上げるアタシに向かって、テンちゃんはこう言ったのです。
「この世には死ねばいいのにと腹の底から思う日が何日かあるが、2月14日は確実にそのトップ3に入る」
確かにクリスマスイブとクリスマスの2トップには確かに劣りますが、
世の中の浮かれっぷりは負けず劣らず、まあ酷いものです。
モテ男は数を競いリア充は質をひけらかしスイーツ女子どもは自分で食う始末です。
でも、アタシが怒ってるのはバレンタインの浮かれっぷりについてじゃありません。
テンちゃんが2月14日が何の日か、すっかり忘れてる点に怒っているんです。テンちゃんだけに点にね。
フフフ・・・これテンちゃんに匿名でメール送ろ。

まあ。
基本的にはお義母様から1個とアタシからの1個は確定で、あとは剣道部員から義理チョコを山ほどもらえる
テンちゃんにとって、バレンタインなんてどーでもいい行事なのかもしれません。
それはそうと、奥山さんの本命チョコには驚かされました。ポッキーとか超エロすぎです。
「あとでいっしょに食べるんですよ」とか、いつものホワホワ口調で言われた日にはもう!
絶対あのふたりポッキーゲームしてるよ!端っこと端っこからポキポキ食べていって近づく顔と顔!唇と唇!
あーもう!アタシもポッキーにすれば良かった!

んで。
例年であればとっくのとうに手渡しているはずのチョコが、まだアタシの手元にある。
今日までにテンちゃんが気づいて謝ってきたら許してあげようと思ってたのに、まだ気づいてない。
去年は普通に覚えてたのに何で今年は忘れてるのか、さっぱり意味がわからない。
もうこのネズミショコラ、アタシが全部食べちゃおうかね。美味しそうだし。

実際。
ここまでしなくてもいいかなーとか、そろそろケンカ状態も飽きたなーとか思わないでもないのですが、
あの日の帰り道は、バレンタインとかどうでもいい話にばかり焦点をあてて、2月14日が何の日かを
すっかりド忘れしてるテンちゃんへの苛立ちを止める事ができなかったのです。
心がイライラとする時は、糖分を取ればリラックスすると聞きます。
アタシはすぐさま自分用のネズミショコラのパッケージを開封していただく事にしました。

美味。
実に美味です。特にこのデザインなど、製作者の狂気が感じられる一品です。
そしてこれをあえてチョイスするヤマカさんのセンスにも脱帽です。さすがアタシです。
もうテンちゃんの分も食べちゃおうかな。でも今日が終わるまであと3時間あるし、もうちょっとだけ待つか。

ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。玄関モニタを確認すると、息を切らしたテンちゃんが映ってた。
ドアを開けて、ワザと機嫌が悪そうに「何の用よ?」なんて言ってみる。
雰囲気でわかる。テンちゃん思い出してくれたんだ。
「ヤマカ、ごめん。14日って、今日って、お前の誕生日だ」
そう。誕生日。人生最大級に幸せな日。
「まったく。ヤマカちゃんの誕生日を『死ねばいいのにと腹の底から思う日』だなんて。
 次にこんな事言ったら、もう二度と許さないんだからね」
まあ、許しちゃうんだとは思うんだけど。
「あとさ、これ。その。プレゼント。
 こういうの好きかどうかわかんねぇから、いらないなら捨ててくれ」
そう言いつつテンちゃんが小さな包みを手渡してくれた。
「開けて、いいよね?」
返事を聞くまでもなく開けてみると、そこにはネズミのデザインのピアスが入っていた。
可愛い・・・
「テンちゃん・・・ありがとう。すっごく嬉しい」
いやいや待って待って。テンちゃんがアタシの誕生日を忘れてた事に変わりはない。
これはちょっと罰をあたえなければならないのではないだろーか。
「嬉しいついでに、愛してるくらい言ってよ。テンちゃん」
フフフ。まあいつものテンちゃんイジメ。これで仲直りだね。
そう思いつつテンちゃんの顔を見ると、妙に真剣な顔をしていた。

「あ・・・」


  • 夕子先生 -- (名無しさん) 2013-12-08 17:20:23
  • の地球ミーハーっぷりがどんどん際立ってくる冒頭。好きと愛には種族など些細なことと甘ーい話でした。こうして嫉妬の闇に堕ちかけた若者が一人立ち直ったのでしょうか -- (名無しさん) 2013-12-08 17:23:00
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最終更新:2014年08月31日 01:40