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【奥山さんと僕 喜の章】

最近あまりよくないな、と思う事が一つある。
それはフウちゃん・・・もとい奥山さんを自分と一緒なのだと無意識に考えている事だ。
彼女はあくまでも<11門>の向こう側からの留学生で、種族だって異なる娘だという事を
どうにも忘れがちになってしまっている。
そんな事を、ハムスターのアシタに餌をやりながら考えていた。

あらためて、僕らと彼女とで何がどう異なるのかを個人的にまとめたい。
まず第一に種族が違う。僕らはいわゆる<ヒューマン>だが、彼女はオークだ。
より正確に言うと、ミズハミシマ陸地に住む豚人系オーク種だ。
元々の先祖は大延国にいたようだが、移民してきたようだ。
偶然なのか国交ゆえかミズハミシマで文化が合流したのかは不明だが、
家族形態、居住形態としてはイストモスのそれに近い。
彼女はヤーマン氏族の233番目の娘で、ゆえにフーウーウーの名前を
家長である曽祖父に与えられたのだという。
大延国からの移民ゆえに、ミズハミシマの人よりも、躍字を用いた真名を尊ぶ風潮が強い。
彼女の真名は、父親と母親が一緒に考えたものなのだとか。
ちなみに僕は教えてもらったけれど、発音できずにいる。
『フゥカ』・・・が一番近いように思う。

一言でオークと言っても、様々な種がいるようで(ヒトに人種があるようなものだろう)
彼女の種族、豚人系オーク種のヤーマン氏族の外見をまとめる。
「勇馬くんどうしたんですか?
 わたしのかおに、なにかついてますか?」
怪訝そうに僕を見つめる表情はとても可愛らしい。
が、僕も最初は今ひとつオーク同士の外見の区別がつかなかった。
これも身近な例を思えば当たり前のことで、僕らもよほど詳しくないと、
人間同士でもガイジンの区別がつかないのと一緒だという事だろう。
ちなみに僕は、初老の黒人男性が全員モーガン・フリーマンに見える。
オークと人間の違いは何箇所かあるが、最も違いが目立つのは鼻だ。
人間よりも鼻梁がスゥと伸びて、最後にいわゆるブタさんの鼻がつく。
おそらく地球側で『豚人系』と命名したのは、この鼻ゆえだろう。
耳も人間と比較すると大きめだろうか。
最近はあまり気にならなくなってきた。慣れのせいだろうか。
あまり目立たない部分として、下の犬歯がやや大きめであるという点だ。
男性の場合はこれがもっと大きく、唇の外側に突出する人もいるようだ。
僕のほうを不思議そうに見ながら落花生をポリポリと食べる
彼女の口の中に、2本の鋭い犬歯があるという事だ。
この事実に気づいたのは・・・最初のキスの時だったかな。うん。
そしてもう一つ、体格の違いがある。
種族の中で比較的小柄だという彼女ですら、身長で言えば180センチを超える。
体重は、まあ具体的な数字はともかく、計算するとどう考えても
並みのアスリートでは話にならないほどの筋肉量を持っている。
見た目がほわほわぽちゃぽちゃなだけに、そのギャップは凄まじい。
食べても食べても、そこそこポッチャリを維持している理由がよくわかる。
それと、下世話な話になるがオッパイも大きい。お尻も大きいが。
これはヤーマン氏族だけではなく、オーク全般がそうなようだ。
偶然触れた時の感触は何というかこう。
「ちょっとまっててください。
 勇馬くんようのふわふわクッションをもってきます」
そう。そんな感じだった。

「もってきましたよ」
彼女はふわふわクッションを自分の隣に置くと、表面をぽふぽふと叩いた。
ストンと座ると、彼女はとても幸せそうに笑った。
「ピーナツおいしいですよ」
カサカサと乾いた音をたてて、彼女はいくつか落花生を殻ごと僕にくれた。
ああ、緊張する。試合の数百倍は緊張する。もう何を話していいのやら。
よく川津は蛇神さんと日がな一日同じ部屋で過ごせるものだ。感心する。
さて、僕らは一体何をしているのかと言うと、別に何もしていないのだ。
僕は試験前という事もあり、剣道部の休みの日で、彼女も所属する手芸部が休みで、
僕はハムスターのアシタの様子を見に来て、彼女はこれから編むセーターのサイズを測って、
それで何となく同じ部屋ですごしているのだ。
ちなみに彼女の手芸の腕はなかなかのものだ。僕は既にマフラーと手袋をゲットしている。
それで次はセーターなのだとか。チャレンジ精神の旺盛さは見習いたい。
ふわふわクッションも言うまでもなく彼女の手製だ。
というか初詣の時のもこもこフルセットも全部手製だ。
ファッション的には、可愛らしいデザインのものが多いように思う。
僕もよくわかってはいないけれど・・・レースとかついてると嬉しそうだ。

「ばんごはんはどうしますか?いっしょに食べる?」
もちろんと応えると、やはり上機嫌な様子で奥の台所へと、てとてと歩いて行ってしまった。
料理の腕も、まあそこそこと言える。努力家なのだ。
毎日お昼のお弁当を作ってもらっているけれど、マズかった事など一度も無かった。
(ちなみに親には言っていない。学食代をフウちゃんに横流しするためだ)
何度かミズハミシマ風の料理を作ってもらった事もあるが、それほど奇異なものではなかった。
食に関しては、感覚がとても近かったのかもしれない。
ただ、量はこんなもんじゃないと説明は受けた。お祭りの日は水竜1頭焼くのなんてザラなのだとか。
水竜と言われてもピンとこない部分もあったけれど、デートで行った水族館で、
ジンベイザメを見て水竜にそっくりだと感想をもらしていたところを思えば、
ヤーマン氏族の食事風景も透けて見えてくるものがある。
お祭りは特に婚礼の儀式の時が盛大で、一族郎党全員が集まって3日3晩飲み食い明かすのだとか。
その合間に、新郎と新婦の兄弟や親族による模擬戦が行われたり(故事にちなむのだとか)、
お色直しが最低10回は行われるのだそうだ。

「んふふ ふーふー んふふふー ふふふ んーふ んふふふふー」
上機嫌な鼻歌が聞こえてくるが、何の歌だかサッパリわからない。
これだけは種族ではなく彼女の特性ではないかと思うが、音程がイマイチだ。
カラオケに一緒に行った時に発覚した事実である。だから何という事でもないが。
ウイスキーがー・・・あ、これCMソングか。何故。
あまり大っぴらには言えないが、アルコールには強いようだ。
これは種族的な影響が強いのではないだろうか。
「おとうさんはおさけを3はいも飲めるんですよ」
とは彼女の弁である。ちなみに3杯の杯は地球で言うポリタンクのサイズだ。
一晩で60リットルくらいは飲むようだ。
「できましたよ。シチューとガーリックトーストです」
普通に美味しそうでありがたい。

すっかりご馳走になり、皿を洗い終えて先程のポジションに戻る。
何とはなく来年度の事を話した。高校生活最後の1年。部活のこと。友達のこと。
春休みどうしようか。進路のこと。将来のこと。クラス替えはあるだろうか。
僕たちはいつまでこの距離でいられるんだろう。その一言は、言えず飲み込む。

「あ!そうだ」
彼女がポンと手を叩き、バッグの中をガサゴソとあさり出す。
「勇馬くん、ポッキーたべませんか?」
頬を赤らめながら、そう言った。これは種族はあまり関係ない。
僕たちだけのルールだ。


  • 食欲を中心に回る奥山さんと故郷や描写が興味深いですね。ふと思うのがオークは食事を減らすことができるのかどうかということです -- (名無しさん) 2014-01-01 18:17:18
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最終更新:2014年08月31日 01:41