暗い深い森に
エルフが一人静かに歩いている。
森に溶け込むかのような緑髪を後ろにまとめ、
豊満な肉体を白いローブで無理なくゆったりと包んでいる。
少しひらけたところでエルフは歩みを止める。
頭上に夜空が見え、辺りを青く照らしているのは星々と細月ひとつ。
しゅるりとローブを脱ぎ落とし、髪留めを外して緑髪をふわりと広げる。
左手に持つ木の実を二つに割ると、中はとろみのある赤色。
唇、頬、乳、腹、腰と紅をさしていく。
もう一つの木の実を砕けば、汁と匂いがあふれでる。
くぬりと汁を擦り込めば、そこは熱と臭とを醸し出す。
野味のはなはだしく臭いただよい誘うは森の奥に潜む光る両眸唸り声。
エルフは優しげに「おいで」とささやく。
ヒトの言葉を解すことはないが、きっかけとしてか獣がのそりのそりと這い出る。
その獣を野犬と呼ぼう。
全長は2m半ほどで、豪壮な毛皮をいくつもの傷跡で飾っている。
瞳はぎらぎらと焦げ付いて、唾液はだらだらとだらしなく、唸り声には甘ったるい苦みがこびりついている。
ゆたりとした歩みは、強者の余裕ではなく、張り裂ける寸前の緊張感。
エルフが「いいよ」と腕をわっと広げて、まもなくそれは爆ぜた。
野犬が自制を投げ捨てさせられ、結果エルフは、したたかに頭を地面に打ち付けて、
「くふ」と悲鳴を一つ残して意識を飛ばす。
前脚が二の腕の肉を押しひずませ骨をきしませる。
野犬は真っ赤な舌で顔といわず乳房といわずがむしゃらに舐め回し、
意味もなく噛みあと付けて、
転がしては踏み踏み、ぶるぶる巨体を震わせては体毛を逆立てる。
野犬は自分が何をするべきなのかわからない。何をしているのかもわからない。
強すぎる欲求と衝動が本能すらも吹き飛ばして、迷子。
蹂躙しては狂おしそうに泣き声をあげる。
そのとき空に細い月が見えて嘲るように見えて、また吠える。
涙目をこすり、エルフが目を覚ます。
鈍痛鋭痛せいぞろい。視界は熱で、剛毛がくすぐる。
エルフは腕ほどもあるそれをやわらかく抱き包み、切っ先にキスをした。
野犬がしびれるように震え、彫像と化す。
潤滑油にはことかかない。血も汗も液も潤沢にある。
エルフがふわふわと愛すたびに、野犬がとろけていく。
肉体的には野犬が覆っているが、精神的にはエルフが母のように包んでいる。
エルフが野犬を導くと、恐る恐るも突き進んでいく。
何かが決壊してからは、ひたすらに震えて、震えて、
吠えようとするも、ついに声は出ない。
音も液も何もかもが一点だけに集中して、
野犬は他にどうしようもない。
声なき悲鳴が牙の隙間から漏れ出る。
膨らみ閉ざし、流れ流れて、エルフの腹がぷっくりと膨れる。また、膨れる。
どこかでフクロウが鳴いて、エルフは野犬の拘束からするりと抜け出す。
息絶え絶えの野犬の頭を一撫でし、ローブをゆるゆると身にまとう。
身だしなみを整えると、いとおしそうに腹を撫でながら去っていく。
振り返ることはない。
風が木々を揺らし、意外な肌寒さに驚かされて野犬は遠く吠いた。
- エルフの仕事熱心さよりもとにかく優秀な遺伝子を集めるという姿勢を思い知りました -- (名無しさん) 2014-01-04 19:44:08
最終更新:2012年04月06日 23:13