【混沌の中の世界】

「この世界は秩序と混沌によって成り立つ世界である」
そう世界論を世に向けて語ったのは古代オルニトの哲学者カルクックである。
彼の論によればこの世界は混沌と秩序の二つの要素によって成り立っているが秩序と混沌の力の均衡は同じではなく常に混沌の力のほうが強いのだという
秩序とは方向性の定まった静の力であり混沌とは荒ぶる無秩序な動の力である
秩序は常に定まった世界を成そうとするが、混沌はそれを良しとせず秩序を常に阻害してくる
一年の太陽と月が同じ満ち欠けをするのは秩序の力であり
生まれくる命が一つとして同じでないのは混沌の力である
生命の力とはすなわち混沌であるが、生命の発芽には秩序がなければならない
秩序がなければ混沌は力の塊でしかなく、秩序によって混沌は方向性を得て形を成すと彼は考えた。

彼の考えでは世界の始まりは広大な果てなき混沌の海であり、そこにはあらゆる概念が存在したがそれぞれの方向性や性質を決定する道標が存在せず長く混沌の時代が続いた
やがて混沌の中から秩序という異物が生まれ、その異物がきっかけとなって世界がはじめて明確な形を得て生まれたという
空が生まれ大地が生まれ海が生まれ生き物が生まれた
そして最後に蟠った莫大な混沌から神々生まれたと彼は語り、その事が時の宗教指導者の怒りに触れ、彼は投獄され処刑されてしまうことになる。

現在に至るまでオルニトでは神は世界の始まり以前より存在する偉大であり絶対な存在として認知されている。
それを少しでも否定することは古代オルニトでは死をもって贖うべき絶対に許されないことであり、現在のオルニトでも敬虔な信徒や原理主義者からは白い目で見られ、時に物理的な制裁を加えられることもある。

しかし、そうした表向きとは異なりオルニトの大図書館にはカルクックの処刑直前まで彼から神官たちが聞きとり記録した世界論が厳重に保管されていることは公にはほとんど知られていない事実である。

表面上狂信的とも言える嵐神ハピカトルへの信奉によって成り立っていると思えるオルニトが、古代より世界中のあらゆる叡智を集め集積する大図書館を建設し、神殿に一生を捧げ神の偉大さを民衆に説く神官が、その別の顔として世界と自分達が祀る神を研究しているという二面性
これこそがカルクックが語った巨大な混沌とその中から生まれた異物としての秩序の世界論、その図式そのものだと語ったのは近代オルニトの偉大なる智と称えられるバルダである。
彼の出生などについては謎が多く、一説には神官たちがオルニト中から探し王都の大神殿奥深くで教育している嵐神ハピカトルの加護を強く受けた巫子だったのではと言われるがそれもまた定かなことではない
またその没年も定かではないが彼がその後のオルニト哲学・神学に与えた影響は大きい
彼はその生涯で大図書館に収められた全ての本を読破したと言われ、ただそれだけではなく、その全てを一字一句間違うことなく記憶しており、それゆえに「ヒトの形をした叡智」と称された。
しかし、バルダが後の世に強く語り継がれることになったのは「精霊混沌起源論」の影響だろう
その論の中で彼はこの世界にあまねく存在する精霊を「混沌を起源とする明滅的秩序」と位置づけた
精霊とは混沌の中で明滅する秩序的存在であり、だからこそ彼らは自由に世界に姿を現し、時にその姿を消すことができる存在なのだと説明して見せた。
彼は同時に「精霊混沌起源論」の中で未だ世界の大部分は我々が認識知覚できない混沌世界で満たされていると語り、我々の認識する世界は水瓶の中の小さな気泡程度でしかないとも語っている。

オルニトが古代より熱狂的に神を信奉する傍らで叡智を求めて来たのは、未知なる存在を混沌と称し恐れ、少しでもその膨大な存在の発する圧迫感に押し潰されまいとした結果、混沌に抗する秩序のかがり火として叡智を位置づけたからかもしれない


とある哲学者の手記より一部抜粋


  • 理解したいだために自分の中の定義を当てはめるのは理解できる行動。でもオルニトはそれをよしとしない国であるのとハピカトルはやはり理解を越える神というのが伝わってきました -- (名無しさん) 2014-03-30 17:38:51
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最終更新:2012年04月05日 01:55