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【浮遊島群のあまぐも】

 一番高い島で行われる軍の鳥人飛行ショーやハルピュイアの舞もそれなりに興味がある。
 大神殿や大図書館の一般開放も魅力的だろう。
 だが、もっと現地の空気を味わえるようなのが好きだ。
 例えば、下層の浮遊島群や地上の山脈に広がる屋台と、現地の住民たちによる祭り。

 浮遊島から下を見下ろすと、数十m下に浮遊島が一つ。その下の森は何mあるのか分からない。
山道に屋台の並んだ山脈を横目に、立っていた浮遊島から大きくダイブする。
 無重力の感覚と強烈な風の感触が、恐怖と興奮をもたらす。
 背中から伸びる二枚のマフラーが風を受けて大きく広がり、首元から離れて一枚のパラシュートになる。
 下から吹き付ける風に合わせてパラシュートと体を繋ぐロープを調節しながら、数十m下の浮遊島に着地する。
 減速したものの、それなりの衝撃を体に感じる。真ん中で分けるロープが縮み、再び体の後ろでなびく二枚のマフラーになった。我ながら会心の一作だ。無論、地球では安全基準を余裕で違反しているのだが。

 大ゲート解放祭期間で、特別に巨鳥の籠や飛行船が割引・増便しているそうだ。また、国主催のイベントがある上層浮遊島は島ごとに移動を手伝うスタッフがおり、不正と転落防止の監視のスタッフがあちこち飛び回っている。とはいえそのほとんどが独立している浮遊島、特に国の監視が薄い中層以下を回るのは簡単な事ではない。

 メットとゴーグルを外して冷たい風を浴びる。
「ふう」
「地球人でこんなところに来るとは兄ちゃんイカしてるねー!うちの雲飴はどうだい?」
 降りるなり、島にぽつんと建った屋台から茶色い羽のニワトリ人が声をかけてくる。
「雲飴?」
 見ると、火のかかった深い鍋の中で、白い植物の茎を振っている。
「見ての通り、露竹の茎を火であぶって「雲」を作るのさ。そいつを茎にまとわせりゃ、雲飴の完成だ。ほれ」
 そういうと、たった今白くふわふわした「雲」をまとった棒を出した。
「なるほど、雲飴ね…おっちゃん、これ地球の菓子を参考にしたでしょ」
「へへ、そこはキギョーヒミツよ。ほれほれ、早く喰いな」
 食べると、暖められたばかりの砂糖が口でさっと溶けた。わたあめより軽い食感と味だ。
「おおー、確かに雲みたいだ」
 思わず声に出る。
「だろお?いけるもんだろ」
「でもちょっと味が物足りないな…」
「そりゃ、シゼンホンライの味ってんだ」
「ははは」
 その時、足元から随まで吸い尽くされた露竹の茎がにゅっと突き出された。
 いつの間にか、黒い蟻人が浮遊島の縁から身を乗り上げて、一番上の足を伸ばしていた。
「あいあんがとさん」と店主が受け取ると、細く尖った指で「もう一本」と示した。
「まだ食べる気かい?随分と気に入ったもんだな」
 店主はそう笑って茎を炙った。銅貨二枚と引き換えに新しい雲飴を受け取ると、蟻人はまた浮遊島のふちの下へ消えた。
 覗き込むと、壁面にへばりついて雲飴を吸い取るように食べる蟻人の姿があった。
「この雲飴をえらく気に入ったみたいでな、さっきからそこで10本も食べているんだ」
「さすが大ゲート祭、いろんな人が来るねえ」

 多くの鳥人が空を行き来している。ゲート神殿の島は取締りが多かったが、人の多い最上層の島では割高な個人輸送を持ちかける飛行鳥人があちこちにいた。金を払ったのか、鳥人に掴まれて空を移動する人影が見えた。この島に一人の鳥人が着陸したが、彼は少し驚いた様子でこちらを見ていた。

「アンタが言うかい。そんな風に自力で浮遊島を移動する地球人なんか、久々に見たよ」
「ってことは俺以外にもいるって事でしょ」
「もう随分と前の話だよ」
 茎に残った甘みまで吸い尽くした。少々薄味だったが、十分味わう事が出来た。
「ごちそうさん。銅貨ニ枚だよな?」
 茎と銅貨を、カギ爪の手が付いた翼に手渡す。
「ああ、あんがとさん。これからどうすんだい?」
「んん~、もうちょっと下を回ってみようかな」
「そうかい、少し下だが焼きパーコーンの店はなかなかうまいぞ」
 パーコーン、いや、パルコーンとも聞こえた。
「パ…何だって?」
「パーコーンさ。行けば分かる」
 結局はっきりとは聞き取れなかったが、とにかく行ってみると礼を言って別れる。浮遊島の縁から下を見ると蟻人はまだ茎を吸っていた。メットとゴーグルを付ける。
「失礼!」
 蟻人を飛び越えて、数m下の小ぶりな岩目指して降下する。飛び降りる瞬間こちらを見たような気がするが、下に集中しなくてはいけない。少し減速しながら小ぶりな岩に着地する。その周囲と下には、同じくらいの岩がそこそこの密度で並んでいる。

 無人の小さな島が続いている中を降りていく。一つ、また一つ。
 身を隠す場所がないので、ここで強風が吹いたりすると困るの…だが…
「まずいな」
 遠くに雷と竜巻を抱えた積乱雲が見える。しかも、尋常ではない速度で迫っている。
 周囲を見ても、助けてくれそうな祭りのスタッフはいない。この地区は在来の鳥人以外ほとんど来ないからか。この辺りには屋台が見えないが、嵐を敏感に察知して慌てて店じまいをしているようだ。さっきの島まで戻るには少々時間がかかりすぎる。
「一か八か…」
 小さい岩の群れとは反対方向、200m以上下に住居のある島が見える。長距離のダイブには向かないのだが、今はそうも言ってられない。正面の竜巻はますます大きくなる。
「やってみるか」
 離れた島へ大きくジャンプする。360度に広がる大自然のパノラマとかつてない高さの降下に興奮を覚えるが、今は目の前の嵐から逃げ切らなければいけない。強烈な落下の風を受けてパラシュートが開くが、すでに竜巻が巨大な柱となって目と鼻の先まで迫っている。
 パラシュートの抵抗を減らし、勢い良く降りていく。周囲の大パノラマを竜巻が覆い始めた。急げ。風の唸る音が聞こえる。
 あと少しだ。もう10m。
 完全に風に巻き込まれた。姿勢をしっかり保て。
 真っ直ぐ着地をする…
 だが着地は出来なかった。天地が逆転し、横へ激しく揺さぶられて意識が…

 風の唸る音がする。

 ほんの一瞬だろうか。目を覚ますと、森へ真っ逆さまに落下していた。
 一刻の猶予もない。大きく体を丸めてから足を下に向けて体を伸ばす。絡んだパラシュートが不完全に開いてきりもみ回転する。
 もう森は目の前だ。手足で体をガードして、高速で森へ突っ込んだ。
 無数の枝に打ちつけられ、太く張り出した枝に足から直撃して姿勢を崩す。転げるように薄い板に直撃して盛大にぶち壊した。そして地面に叩きつけられ、ひしゃげたような姿勢になった。
 木材がぱらぱらと降りかかる。動けないがどうやら生きているらしい。気も失っていない。運のいいヤツだ。
 耳鳴りが小さくなると、声が聞こえてきた。
「ええぇぇええ…」
 仰向けになって頭の方を見る。細い鳥足にハーフパンツ。小さな肩から伸びる灰色の羽。タンクトップと、胸元をファーのように覆う羽毛。そこには鳥人の少女が立っていた。くちばしの名残だろうか、黒い隈を除けば人間と変わらない顔だから呆然としているのは分かる。
 その時、一枚の布が視界を遮った。手に取るとそれは一枚のタンクトップだった。少女が着ているものと同じオレンジ。落ちてきた方を見上げると、木の上に建てられた粗末な小屋が床から屋根まで大きくぶち抜かれている。体から伸びたパラシュートが引っかかって、木片がぱらぱらと降りかかる。
「あの…もしかして…」
 頭がくらくらしてきた。世界が回るようだ。見るも無残な小屋を指差して、少女に尋ねる。
「…君の家?」
 少女は小屋を見たまま、うなずいた。ショートボブの髪がわずかに揺れる。
「あちゃあ」
 再び意識が遠のいていく。混濁した白が、視界に広がる。


  • 現実にはないものなのに読んでいると自然に風景が頭の中に浮かんでくる描写が秀逸だ -- (名無しさん) 2012-06-19 23:04:58
  • しっかりアドバイザーなりプロデューサーがついてバック固めたらオルニトはアトラクションとかで地球からの観光客を呼び込めそうなんだけどどうなんだろう。 案外異世界の人々は落っこちたり飛んだりというのにはなれていそうだったりして。 装飾品も色々な素材を使った物とかありそうなので大ゲ祭で一気に認知度アップを…! -- (名無しさん) 2013-05-31 23:31:04
  • レジャー方面で伸びていけそうな気がするんだがオルニト -- (名無しさん) 2014-06-03 22:40:56
  • 祭りで浮かれる飛び降りの監視とはご苦労様です。交流の賜物か混ざり合った屋台や出し物が面白いですね。空を飛びたくなる話の終わりに出会いが清涼でした -- (名無しさん) 2014-08-24 18:04:21
  • 読んでて体がふわっとするような大空感に安全装置抜きの冒険心が気持ちいい。激しい衝突事故にならなくて何より -- (名無しさん) 2017-08-07 16:54:07
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最終更新:2018年11月13日 23:46