奴隷商の商品の中では、私は高級品だった。
流れるような鱗模様と、水々しいこの体は、砂漠の国である
ラ・ムールにおいてとても珍しいものらしく
客引きのための売り物として私は大切に取り扱われた。
私を取り扱っていた奴隷商は繁盛していた。
毎日の食事は保証されていたし、集客率を上げるためとはいえカワイイ服も着せて貰えた。
何より灼熱の土地の中にありながら、冷水で満たされていた水槽は私の大のお気に入りだった。
大河の近くに位置するとはいえ、これだけの水量を毎日のように運ぶのは奴隷とはいえきっと大変だったと思う。
私には身寄りがなかったが、奴隷商の人たちは優しく、まるで家族のようだった。
見世物部屋のなかの閉じた世界でも
私は不自由とは無縁だった。
しかし悲しいかな。
盛者必衰の理とでも言うか。
その奴隷商は、詐欺で多くの財産をなくした。
私は最後の商品として、とある異人さんに仕えることになった。
異人さんはわたしを言い値の10倍の値段で引き取ってくれたらしい。
私を娘のように可愛がっていた奴隷商さんは、私の行く末が安泰のようで良かった。と言っていた。
「一緒に旅をするだけでいい」
はじめに異人さんはそう言った。どうやら私に給仕は期待していないらしい。
私を買い取るほどの人だから、てっきり異界に来て財を成した成金さんなのかと思っていたが、
格好は見窄らしく、私は幸先の悪さを感じた。
「お前は、昔飼っていた金魚に似ている」
私は燃え盛り流動する炎の赤を宿す自分の鱗模様が好きだったが、この異人さんには金色に見えるらしい。
種族が違うと色彩感覚も異なるというのは聞いたことがあった。
しかし私としてはお金を連想させてしまう、下品な金色に見られていることは不快だった。
「金色?違う違う、金魚は赤色で小さいものだ。
どうだ、お前の特徴そのものだろう?
それに金魚の揺れるヒレが、しなやかなお前の長髪に似ている」
頭をがしがしと撫でながら、大男一歩手前の異人さんは笑顔でそう言った。
異人さんに小さいと評されるのはなんだが理不尽な気がしたが、不快では無かった。
「美しい赤だ。流れる水の中に映えるお前の炎は儚げで美しい」
別に照れたりはしていない。
私は元からこの色だから。
これは赤面したとか、そういう状態では決して無いのだ。
異人さんは体温がとても高く、事あるごとに私の頭を撫でてくる。
種族差もあるが、鱗人は一般に熱いのを好まない。
私も初めは異人さんのなで癖に辟易していた。
それでも彼に撫でられると、気持ちがいい。
私たち鱗人は進化の過程で体外受精を行っていたためか、実際の性行為よりも肌と肌の触れ合いの方が快楽を得やすいらしい。
今はまだ撫でられているだけだが、
彼のあたたかな指が私の鱗に触れ、這い回ることを想像するとなんだか体が熱くなってしまう。
全く、私は熱いのは苦手だというのに。
異人さんはあまり私を丁重には扱わなかった。
しかし乱暴に扱われているわけではないことはわかる。
「何言ってるんだ。人付き合いなんてこれくらいで普通だ」
ふざけた態度でそう言った異人さんの目に複雑な悲しみが浮かんで消えた。
万年金欠だから仕方ないとはいえ、日に一食しか食べれない日もあって、
野宿だって日常茶飯事、おまけに水浴びが出来ない日だってがある。
そんな状態が普通だなんて。
けれど商品だったころに戻りたいなんて考えは浮かばなかった。
今の私はきっと充分幸福なのだ。
拙い文章に最後まで付き合ってくださってありがとうございます&お疲れ様です!!
意味ない設定として・・・
鱗人の女の子は、美人になるように手を加えられて生まれてきた小柄な体型の母親と、
メキシコサラマンダーのような幼形成熟の生態をもつ水中生物を祖先とする父親の子供。
つまり合法ロリ。
見た目14、15ぐらい。
コテコテの幼児体型でもないけど成熟した女性の体でもない。
両親を知らない本人は成長のしない理由がわからないためコンプレックス。
- 割りと劣悪残酷ではないラ・ムールの奴隷状況にほっとした(例外もあるんだろうけど)。 全財産はたいたが異人さんにとって確実に人生最高の買い物になっただろう -- (名無しさん) 2012-03-25 21:39:19
- あらためて読むと金魚ちゃんの内面・外見描写は秀逸だなと。無愛想エロ可愛い。 -- (名無しさん) 2012-03-26 22:33:33
- あざとい -- (名無しさん) 2012-03-27 03:47:51
- まるでアニメの一話導入のような雰囲気だけどそれ以上にこの先の旅はきっと甘甘なお付き合いになるのではないかという期待が膨らみました。 -- (名無しさん) 2012-05-05 19:36:32
- 地球みたいに進んだ文明の無さそうな異世界ではどんな生活がその人にとっての幸福なのかは無数に物差しがありそうですね。金魚さんも異人さんに出会い共になったことが幸せなのかどうか分かるのはまだ先のようですね -- (ROM) 2013-02-12 19:46:44
- 異種族的な感性ながら金魚ちゃんが異人さんに魅かれていく描写がいい。異人さんの悲しそうな表情の意味は何だったんだろうか -- (名無しさん) 2013-03-09 19:42:05
- 価値と愛情の線引きが実は本人の中でも曖昧なのかなぁと登場人物たちの端々に感じた。縁のめぐりはまさに運命か -- (としあき) 2014-01-10 20:41:13
- ファンタジーの中でも夢の中の夢ですな。ひょんなことからの異種族少女との二人旅。少ない会話も道中での触れ合い次第で変化もあることでしょう -- (名無しさん) 2016-08-17 16:15:40
- 人間含め異種族同士が一緒になると容姿のみならず住環境やら習慣など壁ができるのは自然でしょうが…互いが歩み寄ろうとすれば越えるのはそう難しくはなさそうです -- (名無しさん) 2020-05-01 03:06:18
最終更新:2013年08月06日 23:21