【忍者の価値は小間使い】

 生前占い!!

 それはっ!!
 長い年月を死してなお過ごすスラヴィアンが、忘れかけた生前を占いで調べると言う全く新しい占いである!!

「てか、忘れんのかよ」
 清浄は、カーターの連れてきた占い師を前にして、思わず突っ込んだ。
「ひょっひょっひょっぉ。しかしのぉ、いくら常人離れした能力があろうと、時間で記憶が曖昧になるのは致し方ないことじゃ。生前の友人や家族も皆死んでるでの。記憶の補完が難しいのじゃ」
 薄暗いローチャイルド邸の一室。その中央でフードで顔を隠した女ゴブリンのゾンビが、ドニー・ドニー式カードをシャッフルしている。
 ゴブリンの名は無い。占い師に名前は不要だと彼女は言う。
 ならば何と呼べばいいのかと尋ねれば、彼女は「生前占い師と呼べ」という。つまり、彼女の他に生前占い師は居らず、その呼称が彼女を指し示す。
「ねえ、じゃあ私の事を占ってみて。私は記憶あるし、当たってたら本物って事ね」
 ティータがツインテールを揺らし、テーブルに身を乗り出した。
「ひょっひょっひょっ、そう慌てなさんな。この占いは時間がかかるのじゃ」
 生前占い師は、テーブルに並べられた料理をつまみながら、並べたタロットを選別する。

「ひょひょ! これは面妖な味。いや、見た目とは反して食べやすいのー」
「これが我々の新商品です。テスターとして貴方を選んだのは、大変、この味がお好きだと聞きましたので」
 清浄はテーブルに並ぶ、満漢全席のような食事を更に薦めた。
 料理は千差万別、多国籍、異世界地球入り乱れている。どれも見た目が美味しそうで、かつボリュームに溢れている。
「ひょっひょっひょっ。これは堪らん。ワシの若い頃、こんなに食べられたらこんな姿にはならんかったろうなぁ」
 生前占い師は、ひょいひょいと料理をつまみ、次々と平らげていく。

「ひょ、お嬢ちゃんの結果が出たぞい。ふむ、『獅子と一角が守りし盾の御元に生まれ、健やかなることを蒼天の如し、可憐なること花の如し。天を翔ける一族は地に広がり、汝の一生は天の入口にて終わる』とでたぞい」

「ふむ。家紋も一致するし、天翔ける一族ってのはティータのオヤジの航空会社のことだろうし、地に広がるというのは一族が地球の各地に分家がいたり、息のかかった主要銀行やらのことだろうな」
 清浄は敢えて、「入口にて終わる一生」の件を考証しない。

「可憐なること花の如しかぁ……。もうちょっと素敵な一文が欲しいところね」
「……お前は何に期待してんだ?」
「ふん。この私が可憐な花と称されるだけの価値があるなら、宝石であればどれだけのものかしらね」
 ティータはペッタンコな胸を張り、ツインテールの一本をさっと横に払った。
「アゲートかな?」
 清浄が思いついた宝石を一つ例に上げた。すると、ティータの視線が急に冷たくなった。


「宝石言葉が対人トラブルじゃない」
「詳しいな。気にしてたのか」

 ……ガッ!!

 二人の手が交叉し、互いの頬をツネ上げる。
「ろっちかてーとあんたがとらぶるおこしへんでしょ」
「ほれはおまえのとらぶるをおさへてんだよ」

「ひょっひょっひょっ。仲良しじゃのー。どれ、ボウヤも占ってしんぜよう」
「ボウヤかよ、俺。てか俺、生きてるぞ」
「大丈夫じゃ。前世占いというのも一興じゃろうて……ひょ、もう結果が出たぞよ」
「早っ! あとタロットきってねーし」

「ひょひょ? 汝の前世は『徳川の治世に生まれし伊賀同心。毎日、大奥詰めでおなごたちのお使いでお粉やら薬やら買いに行かされ、冬は的代わりに雪の中を走らされ、大奥のおなごに雪玉を当てられる役を仰せつかる。曰く猿の如き動きが好評。臨終の際には「世が世なら俺だって」』と出たぞ」
「俺の前世切ねーな! あとゴブリンの癖に江戸時代描写が具体的すぎんだろ!」
 生前占い師に容赦ないツッコミを入れる。
 ティータは清浄の後ろで、腹を抱えて笑っていた。


「い、一大事です!」
 真っ白な紙状人間、カーターがドアを開けて飛び込んできた。
「どうした? カーター」
 清浄はティータのツインテールをぐるぐる巻きにしつつ、噛み付かれながら問い返した。
「当領地でこんなものが販売されています!」
 カーターの差し出したお菓子は、ティータ領謹製高級菓子に似ていたが、甘いものに詳しい清浄は香りと形状で一目で模造品と見抜いた。
「ふふふ、きたか。ついに、偽物やパクりが出たか」
 一大事であるはずなのに、清浄は笑っていた。
 カーターの差し出したお菓子を一つ、口に放り込む。
「む、これは良く研いでない砂糖だな。甘さが硬い。乳製品はいいものを使ってるから貿易が盛んか牧畜のある領地のものか。ふ、馬鹿め……」
「セイジョー。なんで偽物が出回るのがそんなに嬉しそうなのよー」
 ティータはツインテールを直しながら、肩を震わす清浄に訪ねた。

「そのための、コレだよ!」
 清浄はテーブルに並ぶ料理を指差した。

 生前占い師がせっせと食い散らかしているので、料理はあまり残っていない。
「この『料理仕立てのデザート』が?」
 ティータは怪訝な顔で首を傾げた。

 そう、この料理は全て甘い。スイーツなのだ。
 豚の頭も海老のソテーもコーンスープも寿司もしゃぶしゃぶもボルシチも動脈と静脈の炒め物も全て甘い。
「ブランド品が毎年新モデルを出すのは、消費者への流行意識を刺激するためのものだが、実はコピー品対策でもあるんだ。つまり、新作を出せばコピー業者は旧作の在庫を抱えることになる。もちろん、今はいたちごっこどころか、新作の型紙やらが流出するんだが……」
「それで、この甘い料理は?」
「前も説明しただろう。スラヴィアンは死んでいる。つまり太らない。しかし生前の習慣で飲食はする。太らないということは何を食べてもいいって事だ」
 清浄は両手を広げ、得意満面の様子で語る。

「嗜好品だけを食べても問題無い。それがスラヴィアンだ! 嫌いなほうれん草も甘く作れば、ほうれん草を食べているフリをして、甘いお菓子を食べられる。苦手な料理を全て甘く。オールスイーツ。宣伝文句はこうだ!」

『サ○ュラもこれならオーケーさ』

「それって、なんか不敬罪にならない?」
「じゃあ、『マ○もこれならオーケーさ』ってのは?」
「それパクってない?」

 なんじゃろう、この夫婦漫才……。と、食事(甘い)を平らげた生前占い師が首を傾げる。

「ああ、じゃあ雪合戦の雪も綿飴にすれば、ゼプトさんの前世も本望だったでしょうね」
「……もしかしてお前が生前占い師に吹き込んだのか? さっきの?」
 生前占い師を紹介してきたのはカーターだ。しかも、清浄の身元にも詳しく、更には妙に日本通である。

「てへぺろ!」
「それもう古ぃから」

 突如、清浄の両手から火が放たれた!
 慌てて回避したカーターは、料理の上を転がって甘い人型の紙へと変貌する。

「やっぱ、忍者よね」
 清浄のどうみても火遁の術。を、見てティータは一頻り頷いた。



 後日――

「さぁて。ほうれん草も食べちゃおうかなぁ!」
 チラチラ。
「あら? ほうれん草もお召し上がりになれるようになったのですね?」
 ニコニコ。
「もちろんさぁ。このボクにかかれば好き嫌いなんてちょちょいのちょいさ」
 もぐもぐ……。
「……? ぐ、ぐわぼわー! ゲホゲホっ! なにこれ! 甘くない!」
 キラーン。
「ほう……。甘いとお思いでしたか? ほうれん草が甘いと?」
 ドキ!
「え? ほ、ほら? 美味しいほうれん草は甘いってい、いうじゃなーい」
 どきどき。
「まったく。パソコン部品とか書かれた荷物が届いたから、まさかエッチな物を買ったのでは中身を改めたらこんなものを」
 ごそごそ。
「くっ! いつもの偽装でいいと思ったのが失敗だったか?」
 !?
「いつもの?」
 ドキッ!
「い、いやなんでもないよ。ふひゅー、ふひゅー」
 ……ふう。
「私もそんなに酷いわけではありません。このほうれん草型お菓子を食べさせない訳ではありません」
 ニコニコ。
「本当に!?」
 わーい。
「ええ、もちろん。ちゃあんとほうれん草を食べた分だけ差し上げますわ」
「うわーん! 同じじゃないかー!」



 おまけ――

カーター「ところで、このしゃぶしゃぶの肉ってどうやって作るんですか?」
ゼプト「ん? ああこれはな。この緑の液体をこうして……」
カーター「いきなり不穏ですね」
ゼプト「さらにこの白い粉を溶かして、ここに楊枝を横に入れて引き上げると」
カーター「おおっ! 楊枝に引き上げられて生肉がみるみる現れてくる! これはあれか? 空気と反応すると固まるのか! ていうかこの赤身の色はどこから出た! まさにこれがジャパニーズマジック『ねるねる○~るね』か!」
ゼプト「お前、絶対日本人だろ……」



 おまけ2――

?「な、なんですってー! 今までのティータスイーツが全品値下げ!? しかも新商品投入ですって!」

??「恐ろしいことに、今までの商品はもう古いなどと宣伝しながら、新商品を売り込んでます。いえ、既に随分前から主要貴族には内々に振舞っていたようで、一部では認知度が高いらしく人気商品間違いないと……」

?「こっちは設備投資と流通確保で奔走したばかり……。くやしいけど対抗する手段がないわ。……おのれ、ゼプト! あいつさえここに来なければ……」



  • シンプルな掛け合いで進んでいくので分かりやすい。前の話やスラヴィアについて読んでみたくなった -- (とっしー) 2012-08-03 12:34:15
  • 確かにこれは夫婦。 会話劇でも長くならずにまとまっていてサクっと読めるのが良い -- (名無しさん) 2012-08-03 22:57:43
  • 夫婦漫才や商売繁盛記も面白いけど、また戦術を駆使したバトルものや本格的な領地経営ものを見たい -- (名無しさん) 2012-08-04 20:29:56
  • 会話が楽しくて読んでて草生える。パロネタも面白す -- (名無しさん) 2013-01-16 22:25:02
  • 占いの両極端回答で思わず吹いてしまう。 恐らくもし万が一次の次の次の世代に清浄の系譜が続いても馬車馬なる宿命は付いて回るものなのだなと。 次回で活きる伏線もがっちり掴んでいてテンポよくするっと読みきれて面白かったです。 ドアを急いで開けれるカーターさん、意外と紙なのに丈夫ですね? -- (名無しさん) 2013-09-18 02:48:06
  • 整然描写格差に思わず笑い。どのキャラもとても活き活きしているのはこのシリーズの魅力ですね。パティシエか経営コンサルタントか大活躍の清浄がとても楽しそう -- (名無しさん) 2014-11-13 23:32:17
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最終更新:2012年08月01日 23:13