私立十津那(とつくに)学園という学校がある。
瀬戸内海沿岸にある、淡路島
ゲートの間近に設立された学校だ。
11門世界からの留学生を受け入れて世界同士の有効を深めるという方針は定着し、
今や世界有数の異世界コミュニティとなった感のあるところではあるが、
やはり異種間での恋に悩む若者というのは絶えないものなのである。
さて。いつ頃の話かはスッカリと忘れてしまったけれど、夏頃ではあったと思う。
例のUFO騒動で学園内が騒々しかったのだけは覚えている。
マダラの紐事件や赤リボン同盟事件を解決して名を上げた名探偵新聞部の作った
学内広報を読んでいると、一角に陸上部の紹介記事が掲載されていた。
陸上競技と言えば、いまや明確なゾーニングをしなければヒューマンでは亜人に
一切太刀打ち出来ないほど差のついてしまった競技の一つだ。
特に短距離走などは、
ケンタウロスや猟豹人に勝ち目など無いのが現実なのである。
それでも立ち向かうのが人の業の深さなのだろう。
広報にて紹介されている陸上部のエース、ケンタウロス女子の大楠スウィ・イストモスの
記事を睨みつけて闘志を燃やしているのが、俺ことヒューマンの高峰なのである。
一応、陸上部の副主将などというものもやっている。要は雑務だ。
ちなみに専門は投擲競技全般である。
「んー・・・スウィは写真写りがイマイチですなぁ
というか何で自分の紹介記事でマユにシワを寄せるかね」
俺の隣に座って同じく広報を読みふけるのは、狗人のホーエリアだ。
ケンタウロスというのは狗人の従者が一生涯連れ添うのだそうで、
彼女は大楠と一緒に
イストモスから留学してきたのだ。
ちなみに陸上部のマネージャーをやっており、今は大会参加申込書を一緒に準備していた所だ。
強いて言うなら、柴犬っぽい外見をしている。
「で、何だってスウィと陸上競技で勝負しようなんて話になっちゃったのさ
人間でケンタウロスになんて勝てっこないじゃない」
「脚が四本だからってハナから勝負を諦めるってのか。
そんな泣き言、絶対に漏らすワケにはいかないね」
「でも、相手が悪かったら諦めるのも手なんじゃないの?」
「いいや。諦めを知らず、男なら正々堂々と勝負すべき」
わかりやすく言えば、相手が人馬であっても競走で臆すことなく、
鬼であっても投擲を諦めず、鳥人であっても跳躍し、駱駝人であっても長距離を競う。
それが人としてのプライドではないかと思うのだ。
「で、勝ったら学食でランチをおごってもらえて、負けたら学食でスウィーツ食べ放題だっけ?」
「そう。そこまでやっての真剣勝負だ」
「随分とヤラシイ条件ですなぁ。よくこんなのでスウィは鞍に乗せたものだね」
『鞍に乗せる』は、ケンタウロス独自の言い回しで、納得するという意味だ。
「や・・・やらしくは無いだろ!極めて正当な条件だと思うぞ」
「これスウィが勝ったら私も奢ってもらえるの?」
「何でホーエリアにまで奢らなきゃならないんだよ。二人っきりにさせてくれよ」
「本音出てるし・・・スウィのどこをそんなに気に入ったってのさ。
私が言うのも何だけど、あの娘、性格キツいよ?」
「そりゃあ、風紀委員長なんてやっちゃうくらいだからなぁ
でもほら、根が真面目なんだよきっと。間違いないね」
「それ、惚れる要素になんの?」
「なる!」
「って、タカミネが言ってたんだけどさ」
その日の夜、サクサクと分厚くなったヒヅメを切りながら、私はスウィに話しかけた。
「言うほど真面目じゃないわよね。わたし。
風紀委員長だって、やりたがる人が居ないから引き受けただけなのよね。
あ、今日の蹄鉄は可愛いデザインのがいいのよ」
「ニケーの蹄鉄じゃなくて?」
「嫌よそんなイカニモなスポーツメーカーのなんて」
「ワガママ言うヤツにはミズハの蹄鉄をつけるぞー」
「やー!もっと野暮ったいー!ニケーのでお願いします」
「最初っからそう言えばいいのにさ・・・
ところでさ、何でスウィはタカミネとの勝負を受けたの?
ヒトとケンタウロスなんて、勝負の結果が見えてるじゃない」
「なんか断れなかったのよね。普段から結構お世話になってるしね。
風紀委員長なんてやってると、生徒からは段々と嫌われてくるし、
ケンカの仲裁に武装風紀委員なんてのを率いなきゃならないし、心が殺伐としてくるのよね。
そんな時に、彼のウザったい熱血具合は嫌いじゃないのね」
「で、あっさり勝ってスウィーツも頂こうって腹なの?
案外と黒いね、この娘はさ。あ、ブラッシングはじめるよ」
「黒くないと風紀委員長なんて務まらないのよ。
それに、何回かは負けちゃうかもしれないわよ、わたし」
「それってどういう意味?」
「そのまんまよ。ヘプタスロンで勝負するの」
「なにそれ」
「100mハードル、走り高跳び、砲丸投げ、200m走、走り幅跳び、槍投げ、800m走の
7種競技の合計点数で争う競技のことよ。1日1種の競技で勝負して、勝ったらご飯おごり。
来週は土日もトレーニングの週だから、毎日勝負って事ね。
あと、勝ち越したら何か一つお願いを絶対に聞くことって条件もあったのね」
「あんた本当にいい性格してるわ。タカミネに何をさせようってのさ」
「何がいいかしらね。ホーエのカレシでも見つけてもらおうかしら?」
「いらないお世話!はい、ブラッシング終わり。それじゃ、私はもう寝るからね」
「ん、おやすみ」
翌日、夕日が眩しい放課後のグラウンドの一角に、妙に人だかりが出来ていた。
すなわち、俺と大楠との一戦を見学に来た陸上部を筆頭とする野次馬の群れだ。
「どっちがかつんですか?」
オークにしては小柄な女子生徒が、彼氏とおぼしき男子生徒に尋ねているのが見える。
言うまでもなく俺だ。何せ秘策がある。
ケンタウロスの走る速さは確かに驚異的だが、それでも弱点はある。
それは、大柄ゆえのフットワークの悪さと、足首の弱さ、上半身の脆弱さだ。
200m走、800m走はともかく、他の5つはその盲点を突いた競技ばかり。
まずは初日のハードルで勝利をあげて、学食で二人っきりの時間を過ごすのだ。
「それでは位置についてー よーい ドーン」
言葉かよ!しかしツッコンでいる場合ではない。
大楠はもの凄いスタートダッシュを見せた。だが、すぐ目の前にハードルが迫っている。
そこで減速して、俺が追いつくという寸法だ。寸法だ。寸法・・・だ。寸・・・法・・・
俺の目の前には、ハードルを軽やかなステップで飛び越える大楠の姿があった。
冷静に考えたら馬術にだって障害競走あるよね。勝ち目無いや。
「負けるかぁぁあ!」
最後の気力を振り絞って全力ダッシュをするも、まったく及ばず。
「お疲れさま。はいタオル」
完全に息を切らせた俺に、ホーエリアがタオルを手渡してきた。
「全然勝てなかったじゃない。昨日の勢いはどこに消えたのさ」
「だい・・・じょうぶ・・・ぜは・・・明日は・・・ふう・・・勝つ」
目の前がチカチカとする。
「ふふ・・・本当に大丈夫かしら?
約束は約束だから、今日はこの後でスウィーツ奢ってもらうからね」
そう言うと、大楠は軽やかな足取りで部室に引き上げていった。
次は、負けん!
- ホーエリアはどうするんだ?どうなるんだ?そっちの方が気になってしまったぞ -- (とっしー) 2012-08-08 00:12:41
- 勝てそうで勝てない多分無理そう。でも挑み続ける熱さ。 狗人の潜在意識でタカ君を主人と認識したんだろうか -- (名無しさん) 2012-08-12 19:59:18
- ニケー…何とも懐かしい響きだー。 陸上選手ということはスウィの胸は控えめ? -- (名無しさん) 2012-08-21 02:18:52
- とても自然に異種族と地球が混ざり合った生活とそれにかかわるものを並べているのはすごいと思いました。人間がどう立ち向かうのか?というのも根性一辺倒でないのもいいですね。ちょっとくすぐったいスウイとホーエリアの会話もいいものでした -- (名無しさん) 2014-11-16 18:58:09
最終更新:2014年08月31日 01:47