暗闇の中、焚き火の火をボンヤリと眺める。
自分には知覚できないが、パチパチと爆ぜる炎の中では、火精霊が踊っているのだという。
枯れ枝をかき集めて作った小さな焚き火だ。
踊っているとしても、せいぜいひと組の火精霊が手を取り合ってダンスしている程度だろう。
莫迦は莫迦なりに、世界の事を考えた事もある。
なぜ二つの世界は繋がったのか。
なぜ二つの世界は、こんなにも装いが異なるのか。
当然、答えは見つからない。
この世界に来て、少しでも解答に近づけるかと思ったものだが、現実は厳しい。
自分の眼では、精霊すら見ることが出来ない。
いや、ただ一人だけは見ることが出来た。
不思議なものだ。
手元の枯れ枝を拾い上げ、パキリと二つに折って火の中に放り込む。
パチパチと火の粉が舞い上がり、まるで新たな食事を楽しむかのようだ。
それでも火精霊の姿は見えない。
「眠れませんか?」
不意に背後から女性の声がした。
「火精霊のカップルが心配してますよ。
自分たちは最高の舞踏を見せているのに、不満そうに見えるって。
何か落ち度でもあったのでしょうか・・・ですって」
彼女は僕の肩に厚手のマントをかけながらそう言った。
不満な事など何もない。ただ、自分にはそれが見えないし、聞こえないだけだ。
「綺麗な火の粉を見続けていたんだ。
とてもステキだって、伝えてくれないかな」
僕がそう言うと、小さな炎は一層輝き、キラキラと火の粉を舞い上げた。
「もう伝わってます」
オークの少女は傍らに腰をかけながら、ニコリと笑って僕に言った。
そのまま僕の肩に頭を預けながら彼女は言う。
「お父様も酷いです。
せっかく婚礼まで上げたのに、掌を返して『試練を与える』だなんて。
飛燕竜の子安貝なんて、そう簡単に手に入るものじゃない事くらい、私にだってわかります。
そんなに我が娘の幸せを邪魔したいのかしらね。ね、どう思いますか?」
イタズラっぽく笑いながら、オークの娘は言った。
父親の気持ちもわかった上で、そう言っているのだ。
それにしても、彼女はこんなにも饒舌だっただろうか。
一番親しくしていたと思う者も、世界が変われば様相を変えるのだろうか。
「義父上は僕に『世界を見てこい』とおっしゃられたんだと思う。
それに、たかが宝物を探す程度の試練もこなせないようじゃ、後継にも相応しくないだろう。
再び手元の枝を折り、焚き火にくべる。
やはり、火精霊の姿は見えない。
焚き火をボンヤリと眺めていると、手前で暗い影が揺れているのが見える。
僕に唯一見える精霊。闇精霊だ。
暗い影はクルリと振り返ると、あまりにか細い声で話しかけてきた。
「(・・・ありがとうって言ってますよ)」
何故、闇精霊だけなのだろうか。
仮に、自己の魂の種別で見られる精霊が決まるのだとしたら、自分の魂は闇に染まっているのだろうか。
だとしたら、自分は一体何者なのだろうか。
「闇精霊だけは見えるのは・・・」
オークの娘がポソリとつぶやく。
「闇に対して優しいからなんですよ」
もぞもぞと僕の正面に体を寄せながら、そう言った。
オークにしては小柄だが、人間と比較するとやや大柄で肉感的な体だ。
焚き火をしているとは言え、夜の闇に冷えた体に心地よい熱を与えてくれる。
「オークとて元を辿れば総身に闇を飼う生き物です。
そんな私に一番優しく接してくれたのは、あなたですから」
彼女の柔らかな髪の中に、自分の顔をうずめる。
こちらの世界に来てからずっと燻っていた、心のざわつきが薄れていく気がした。
パチパチと焚き火は燃える。
小さな人影がひと組、僕たちにお辞儀をするのが見えた。
- 当然、答えは見つからない。 という一言に全てが集約されているように思えた一本。 実に人間らしい人間像だった -- (名無しさん) 2012-09-13 23:32:41
- 娘にふさわしいかどうか試練。これは流行る -- (としあき) 2012-09-14 09:46:35
- 見える者と見えない者の違いから異世界結婚など短い中にまとめられている。大人びた空気も良し -- (名無しさん) 2012-09-15 01:12:08
- 雰囲気ってか台詞の一つ一つが沁みるぞ -- (tosy) 2012-09-21 22:23:34
- 心は人の数だけあってそれは精霊も同じなのかなと思いました。最初から繋がっている手はなくて互いが歩み寄ることで結ばれていくのかなと思いました -- (名無しさん) 2015-01-18 17:26:38
最終更新:2012年09月13日 01:00