【歴史家達は語る 〔オルニトの衰退〕】

 後世の歴史家達は語る
 ─ 国の繁栄を知りたければオルニトを見よ
   国の衰退を避けたければオルニトを見よ ─
 今までの歴史、異世界の国々の中でもオルニトにはそれらが詰まっている、と

地球で言う西暦にて百、二百年を過ぎた辺りより苛烈を極めたマセ・バズーク侵攻は、
想定を遥かに越えた蟲人の反抗により全面撤退で終わった。
その結果、オルニトは大空を埋める軍隊の凡そ半数以上を失ったが
何よりもその後に始まる“島牽き”の巨人達が一人、また一人と何処へとも去っていった事が
オルニト衰退の大きな要因となった。




 ─ その歴史の内
空に浮遊する大小様々な島を、それらに繋ぎたる“大鎖”を巨人が牽く事で
拠点ごと侵攻するという他には類を見ない驚天動地の事象。
歌鳥が華々しく絶唱すれば、その加護を受けたる空の軍勢が精霊と共に舞い降りて国を浚う。
しかし、何者にも防ぐことの出来ぬものと思われていた侵攻は
同じく空を統べる翅、強大な力を前にしても恐怖を微塵とも生まぬ虚心、無限とも思える軍勢
マセ・バズークには通じなかったのだ。
“神の意思”として神殿より発せられる勅により、兵はその身を捨てて戦ったが
最後まで甲殻の壁を破り国へ抜ける事は叶わず、
倒れこそはしなかったものの、巨人達も手痛い傷を負った。
国境を越えてオルニトへ戻るまで続いた追撃の蟲嵐に最も恐れ戦いたのは、
堅く護られた神殿の奥にいた神官達である。
すぐさま再度の侵攻が協議されるも、反対の意見は消える事がなく
実、再度のマセ・バズークへの本格的な侵攻は起こらなかった。
 “神の意思を違えてしまった”
己達の支配欲のために神を利用し、挙句それが失敗に終わったという事実。
しかし、そのオルニト支配体制を揺るがす事実よりも大きな衝撃が神官達の目の前で起こる。
“大鎖”を大地に捨て、巨人達が何処かへ消え去ってしまったのだ。
当時に編纂された数少ない文献からは、
 オルニトの身勝手により巨人が受けた傷を悲しみ、彼らに謝罪した神官の意を汲んで再び戦に利用されぬ様、国を離れた
 神託を受けし翼乙女達が巨人を歌で導き、世界各地へ散らばって行った
 暗黒の東方より迫る脅威を討つべく山脈を越えて征った
幾つかの説が発見されているが、巨人と意思の疎通が出来たと確固たる証明の在る者が存在しない以上、
どれもが国にとって都合の良い解釈のできるものであり、信憑性が高いとは言えない。
しかし、巨人達がオルニトから去ったのは事実であり、
それにより拠点ごと侵攻するというオルニト必勝の戦略が実行不可になり
“侵攻支配大国オルニト”が瓦解したという事が支配層の心を打ち崩した。

 ─ 支配の揺らぎ
マセ・バズーク侵攻失敗から巨人の消失と続いた大事変は、民の持つ“神への信仰”を直撃する。
当時の治安報告書の中にも
 神はいないと叫ぶ者が多発せり
 これからは神託に左右される事なく富国に努めるべき
 浮遊群島だけではなく地上の開拓を進め、民による国作りを進めなくては
という声や意見が多数記されており、神官達による神の威光による支配大系が大いに揺らぎ始めたのを見て取れる。
実際、この時期は転換期になり得た可能性は高く、空から地上へ移り住んだ民も数多く出ている。
“なり得た”と前述したのは、ならなかったという歴史事実によるもので
なぜなり得なかったのかという理由は明確である。
 “依然、神託は続き、神の歌は止まず”
神による現象が巨人の消失と合わせて止まっていれば、恐らくオルニトは民によって作られ、民が支配する国になっていただろう。
神が在るのであれば我らもまた在り。
神官達の拠り所ははっきりと残っていたのである。
しかし、それがあっても確実にそれまでのオルニトと比べ国力は衰退していく事になる。

 ─ オルニトたれ
これまでと同じ様に国を支配するには? 神はまだオルニトに力を落としている。
民の心を掴み続けるには? 神託とその実行による築き上げたオルニトの維持。
神の意思による侵攻と勝利を続ければ良い。
神殿で安寧と繁栄を貪っていた神官達の考えは余りにも安直だった。
そしてここから先、今までより苛烈な戦と状況が民を待っているのである。
拠点である浮遊島の移動が出来ず、飛行遠征により拡大した前線の先に侵攻しなければならなくなった。
大きな損失の出た軍隊の建て直しと強化。
浮遊劇場からの支援を受けずとも戦い抜く事の出来る兵。
侵攻に随伴が可能な援護部隊。
それらは全て“神託”による神の意として推し進められた。
神と国の尖兵として戦ってきた兵達にはまだ神の威は強く、誰もが国を護ろうと必死になった。
神の歌降りる国オルニト、それを維持しようと躍起になった結果、
民が支えし国オルニトへと変貌させていく事になる。

 ─ 新たなる民の信仰
兵は戦った。 戦い続けた。
外へ、外から襲(く)る軍勢と、内で蜂起する者達と。
この頃には既にオルニトの誇る空挺戦力の戦い方は以前のそれとは大きく変わっていた。
上空からの初撃強襲は変わらずだが、空の拠点、補給地を失った事で
地上、中空を主軸にした飛翔戦術と中~近距離戦闘に特化していた。
古くから繋がりのある風精霊にはそれまでの大気事象操作による攻撃ではなく、
飛行継続への補佐や中距離からの投擲武装への加護付与を任せる様になった。
弱った大国を狙う他国他勢力からの防衛も含め、
戦いの場は地上へ、民の目により近い場所へと移っていくのである。
それは今まで戦果しか報(し)らされて来なかった民に戦の実感と恐怖、
そして何よりも国を民を護り戦う兵の姿を知らしめた。
理解出来ぬ不可思議な力の加護などでは無く、同じ鳥人が戦い血を流し戦う。
民はオルニトの軍へ多大な信頼と羨望を寄せ、力ある者やこれから力を得ていくであろう者達の入隊を促した。
 戦いは止める事はできない
 しかし戦いは神から軍へと民の心を移して行く
支配層である神官の間で吹き上がる葛藤と打開出来ぬ現状は、
これより更に歪んだ形でオルニトを衰退させて行く事になる。
他愛の無い民書に擬装されたある神官の独白なる書にはこう記されている
 もしあの時、我ら神官が神を遠き場所の偶像として置き、
 民一体となり心と体の結びつきによる国作りへと変わっていたならば
 血を、数多くの他国の血、国のために身を費やす者達の血を流す事は
 消えずとも、少なくすることは出来ただろう
 私は私の声の小ささと心の弱さを後悔して已まない
と。

 後世の歴史家達がこの頃のオルニトを表すによく用いる一つの物語がある。
 神と国のために戦い続ける一人の猛者。
 その純真な想いは彼をどこまでも純化し、英雄にまで到らしめる。
 しかしオルニトの変移の中で彼は地上を知り民を知り、そして一つの命を拾う。
 そこから変わり行く彼の心はより一層、民を惹き付ける事になる。
 戦い 英雄 支配 神官 民 心
 かつて口にすることも禁じられた、それは事実であったとも言われる物語。
  “神よ、願い届くのならば”


オルニトをその歴史から見てみる
内容はあくまで仮説なので、スレなどで煮詰めていきたい所存 

  • 国から去っていく巨人を追いかけた者とかいそうな気がするけどその者たちも帰ってこなかったのかも -- (tosy) 2012-10-15 13:38:15
  • 巨人がその気になれば強引に進んでいけそうだけどマセバズークを蹂躙しなかったのは性格は穏やかだったから? -- (としあき) 2012-10-21 16:06:39
  • 東の大陸にオルニトがあったらとんでもない戦乱が巻き起こっていたに違いない。マセバズーク恐るべし -- (としあき) 2012-10-30 22:58:01
  • オルニトはなんともややこしい国のようで復権も難しそうだ。それよりも過去に大国オルニトを退けさせたマセ・バズークの凄さが伺える -- (名無しさん) 2013-02-16 18:23:17
  • 神が不可思議極まりないオルニトが安定して大きくなっていくことは最初から叶わぬことだったのかも知れないですね。行動だけ見れば戦を悲しんだ巨人は去っていったということに帰結しそうですが真相は別にあるのかもと思わせるのがオルニトです。しかし敗退からの衰退は起こってよかったのかも知れません。オルニトが交流へと進むために -- (名無しさん) 2015-03-08 18:01:09
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最終更新:2013年03月26日 00:13
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