個別出走では種族格差が顕著なのでは? その一言が発端になった。
リレー形式では大差が無いどころか差が開くのでは?
では1チーム複数人とし全体が同時に出走してみてはどうか?
後に続く“斗競走”の起こりである。
グラウンドを1チーム三人、2チームが同時に出走する。
この頃はまだ“走る”のみであったが、それでも瞬く間に注目、目玉競技となる。
数回の実施の中で接戦接近の際に意図的な攻撃、妨害行為が発生する。
予想以上に競技中に溜まる走者のストレスが大きく、運営側が一つの判断を下す。
“運営側が危険と判断する攻撃”以外の妨害行為が許可される。
競技中に妨害行為が過熱し競走がおざなりになる事態に陥る。
新ルール、“三秒進まなかったら失格”と“逆走禁止”が適用される。
これにより立ち止まっての応戦が無くなる事に。
アニオタ放送委員が競技BGMにアニソンを流し続け、
観客の中でニヤニヤする層が増える。
出走チームの増加か1チーム内人数の増加が検討されたが、
競技後の退場者の増加も懸念され見送られる事になる。
代わりに発案されたのが、“チームがお互い逆向きに走る”という
チーム間での走力差からくる逃げ切りを防ぐ接触確定なデンジャラスルールである。
デンジャラ採用後、怪我人病院搬送即退場者が急増。
程無く逆走接触ルールは廃止され、強烈な熱気はすぐに終わる事になる。
が、人は一度味わった熱を忘れる事が出来なかった。
“斗競走で燃える会”はその後もルール改定会議を重ね、
妙案に次ぐ妙案を混ぜ合わせ、遂に一つの完成形を成す事になる。
“ムゲンダイ∞グラウンド”で“4チーム同時出走”に“それぞれ4つのスタート地点と4つのゴール”
何とも恐ろ面白凶悪な競技形態に終着した。
そして今年、新たなる挑戦が始まる。
“1チームに1つだけ武装の使用を認める”
「午後の種目も終盤に差し掛かるこのタイミングでやりますか?」
「これから先の大詰めを考えての選手起用も含めての作戦も重要になりますね。
何せ競技終了後は三人立っていれば御の字という競技ですから ──
「「斗競走!!」」
海之前校放送部の狗人ワンナ・シャリーと解説として並び座る山之上校ゴラク部の双鏡 陽光(ふたみ ようこ)が、
声を揃えてコールした。
強烈に苛烈に容赦無く力がぶつかり合う戦の始まりである。
グラウンドに鋲で打ち込まれた白線が描く無限大ラインのその中央交錯点は、競技中最大の衝突地点になる。
「コースを大きく逸脱すると失格ですね? 逆走と三秒進まなかっても失格ですね~?」
「意外とどんな攻撃でも許されます。 各々相手チームの動向を読み合いながらの攻防になるでしょう」
∞の円頂対角の四点のスタート地点兼ゴールへと各チームが向かう。
大運動際は選手が参加できる回数が決まっている。
凡そ走力勝負の競技にその能力の高い選手を配するのがベストではあるが、
それはどのチームも同じ様に考えるだろう。
あえて勝負を捨てて他の種目で得点を狙いに行くのも常套手段ではある。
が、この“斗競走”はそうではなかった。
「一位は15点! 二位は9点! 三位は5点! 以下8位まで一点となりますね~?」
「他種目が一位で2点や3点なのを考えると…これはどのチームも勝たねばならないと意気込むでしょう」
ここまで下位の憂き目を見てきたチームですら急浮上を可能にする脅威の得点!
1チーム三名という事は、一二三位を占めれば何と29点というほぼ優勝間違い無し望みの特典ゲット間違い無しという
否が応にも気合が入る事になり、各チーム最高戦力を投入してくるのは明らかである。
しかし、妨害攻撃有りという状況下では単純に走力だけの面子では勝利は難しい。
「それではそろそろ選手の紹介と行きますか~?」
アナウンスと同時にグラウンドを揺さぶる様な大歓声が爆発する。
「Aチ~ム! 海之前校二年風組、今回種目の大本命!
学級委員長と機動風紀委員捕縛隊“破(は)ル断(だん)”隊長、
ケンタウロスの碧波羅 吹駆(みはら すいか)~!
そしてその両脇には同じく捕縛隊隊員のケンタウロスのハリアット・エイジーンと
陸上部の暴れ鳥、走鳥族の蒲灯 楓花(がとう ふうか)~」
「“走る”という点だけ見れば恐らく学園最高峰の面子を揃えて来ましたね。
他チームは接近する機会をどう攻めるかが肝になってくるのは間違いありません」
男女問わず沸きあがる声援を背に、既に超前傾姿勢で合図を待つ屈強な美脚の雉人、
声援にも微動だにせず真っ直ぐ前だけを見る角刈り黒毛の駿馬。
そして弧を描く薙刀一閃、薄翠に煌く白い躯と女性を捨てかねない可哀想な胸と後方に流れる短髪は水色のサラブレット。
「やはり武器は碧波羅選手に薙刀できましたね。
彼女であれば走りながらでも攻防一体の薙刀術を見せてくれるでしょう」
「続いてBチ~ムの登場ですね~?
山之上校二年獅子組、尻に敷かれ隊~」
「何だその紹介! 有り得ないだろ!」
「双鏡ちゃんにならずっと座られてもイイ!」
「不屈の闘志は人間の壁を越える事が出来ますか? 陸上部のファイアーマン、高峰選手、
ちょっとずんぐりですけど背中の座り心地は良いと思います、ケンタウロスの牧場 健太(まきば けんた)。
そしてここ一番の種目で投げやり人選でないと予感させる三人目、
Aチームの碧波羅選手の従者である狗人、ブラックブルドッグ、ジェイ・ヴォダン」
グラウンドを挟んでAチームと向かい合うには、傍目から見ると少し物足りない三人。
しかし、その目に燃える炎は誰にでも見て取れた。
「ところで何か持っている雰囲気がありませんね~?
余計な物は持たずに走る事に集中するつもりなんでしょうか~?」
入念な柔軟をしながら何やら一つ二つ言葉を交わす高峰とジェイ。
三人で拳を打ち合うと、強い足取りでスタートラインに並ぶ。
「ではグラウンドの反対側へ移りましてCチ~ム~。
…嫌な予感しかしないんですけど~?」
バゴァっ! ドブォっ!
突如、肉と皮膚のドラが鳴り響く。
入場
ゲートで巨漢二つが見事なクロスカウンターで顔を歪ませ合っていた。
「さくっと紹介を済ませましょう。
海之前校三年轟組、大猿族の ──
「主上はワシの肩に乗るんじゃあーっ!」
「丁火(ていか)さん、ちょっと落ち着いてー…。 早く入場しないと…」
少し屈むだけで丸太の様な豪腕が地に着く巨大な猿人が背中で体操着をドームの様に膨らませている。
── 同じく三年の…」
「ふん、貴様の岩の様な背では大殿(おとの)を落としてしまうだろうが。
貴様は大殿に無理矢理背中にしがみつけとでも言うのか? 恐れ多いいわ!」
「とりあえず今回は四脚の館羽(たちば)さんの背中に乗るのがベストなんじゃないかと思うので、
喧嘩しないで下さい、早く入場を済ませましょう?」
岩と鉄の如き厳めしい筋肉と鋼の様な剛毛を湛え、鎚とも思える蹄で地を鳴らす、稀有な四脚山羊族。
「え~二人は大延国の南端で激しくぶつかり合う防人と蛮族で~?
双方の交流理解のために留学してきたんですけど~?どう見ても戦争ですね~」
「二人とも!しっかり協力しないと勝てませんよ!」
巨体の間でその丈の半分も無い人間の少女が諸手を挙げて吠える。
それに呼応したのか、以前睨み合いは続いているも大人しく前進を再開した。
「どういう訳かあの二人を手懐け手綱を引いている特異点、異種介護科の笠尾 絃読(かさお つむよ)さん。
走力では無く破壊力で挑んできましたCチーム。
でも武具は武器ではなく笠尾さんを護るための盾の様です」
ヒュォォオオ~~ 乾いた風
「最後のDチームは一般参加枠からですね~?
…これ、名前で良いんですか?」
ブワワワワァ~~ 撒き上がる砂埃
「最後に現れるのは! 黒い閃風、仮面ファイター万斗(まんと)さん!」
ドカンっっ!! 轟く鋼の嵐風ッ!
Dチームスタート地点に何処の空から舞い降りた黒い影。 いや、黒いマントに包まれた影。
「半年学食食べ放題券…学生じゃないけど欲しいんやっ!」
何とも情けない主張とは真逆に、歪な漆黒のマントをぐるり宙で渦巻かせ、直拳で空を突いた。
深い青黒い鋼と鈍い銀色の混じった鉄の軽鎧は左右非対称で締まった身体に張り付いている。
顔はヘッドガードで全ては伺えないが、胸があると言う事で女性である事は間違いない。
「双鏡さん?何だかさっきまでとキャラ変わってませんか~?」
「土曜の夜十一時から十五分という微妙な枠から始まった深夜特撮!“仮面ファイター万斗”!
今ではその代役無しの体当たり演技と異世界を交えてのド派手な特撮!アングラなファンは増加の一途!
そこから…まさかまさかの主役の登場ですっ! きゃー!」
登場からずっと何度もポーズを決めているが、ずっと一人。
「登場なのはいいんですけど~、先程から一人なんですけど~?」
「彼女は一人で三人なんですっ!
心に魔界の戦士の魂を秘め、その力を持って伝説の魔装具を纏い操るんです!
なので一人で三人分、レシオは3なのですっ!」
「説明ありがとさんっ! 確かにうちは三人分で一選手… ゴールしても得点は一人分…
しかしッ!一位を獲れば問題なっしやで!」
「何とも何ともな4チームが出揃いましたが~… ホントにこれ、スタートしちゃって良いんです?」
パァンっ!
「えええ~~っ??」
無表情で火薬鉄砲を撃つ蟲人。 だってプログラムの時間なんですもの。
「高峰ッ!」
Bチーム、スタートから大股一歩踏み出した後にジェイが体操服を脱ぎ外す。
裏に鎖の編み込まれた鎖体操着、防具であった。 しかしソレを脱ぐとは一体?
「おうよ!」
既にジェイの前に出ていた高峰に鎖体操着が勢いをつけたままトスされる。
勢いを止めずにそのまま受け取って一回転、二回転!
「どっせぇいっっ!」
三回転で思いっきり放り投げた。防具を!
重量のある体操着は放り投げた勢いによりフリスビーの様にグラウンドを飛ぶ。
Aチームからスタートしたばかりの ──
碧波羅に向けて!
じゃがこんっ! どすんっ!
「はぴっ!」
丁度放物線の下端に差し掛かった体操着は最後のひと伸びの加速で碧波羅の脚に絡まり、
また他の脚を共に絡め獲る。
その姿からは想像もできない情けな可愛い悲鳴を上げて地面に顔面から墜ちた捕縛隊隊長。
ワン ツー スリー 「シャァーーっ」
非情なスリーカウントの後、すぐに運営席から滑る様に這い駆け出したのは百足人。
あれよという間に碧波羅を背に乗せて退場する。 「シャシャーーっ」
「あれは
イストモスでケンタウロス族と長い間戦い続けてきた獣人に伝わる戦術、“伐馬戦闘術(ガンダルアーツ)”!
低空より投擲器物によりケンタウロス族の脚力を奪うのです!」
「双鏡さん~?それ今考えてませんか~?」
予想外のトップチームから一番の走力が脱落。 大番狂わせに会場は一気に沸き上がる。
「ジェイの言うとおり、凄い効果だな!」
「毎日御転婆を重ねては御両親に心配をかけるお嬢様に、少しでも戦場の厳しさというものを知ってもらおうと思ってな。
ひどいとは思ったが、イストの戦場の技を使わせてもらった。
素晴らしい投擲だったぞ高峰」
走りながらも、お目付け役の様な落ち着いた物言いだが、何故か背中も肩もガクガクブルブルと震えている。
「そんなに心配しなくてもいいんじゃないか?
西方の騎士は戦場の借りは戦場でしか返さないらしいし、後で怒られるとか器量の狭い事はしないって!」
牧場は呆気らかんと慰めるが、黒犬の顔は蒼になっていた。
今更ながら沸き起こる後悔の念。
少し走っていると前を走るAチームの残り二人の背中が見えた。が。
「早いな?もう追いつけるとは思ってはいなかったが」
「何だか走り難そうにして…いる?」
「うわわっ? 急にグラウンドが凸凹になったぞ?!」
思わず牧場が四本の脚をもつれさせてこけそうになる。
その原因である凸と凹の理由は明らか。
Aチームの進行方向前よりスタートしたCチームの超重量級の足踏みが地面を掘り返しているのだ。
「おのれぇえっ! やっぱり代われ!主上はワシが担ぐんじゃー!」
「えぇいっ! 今になって騒ぐな馬鹿猿めが! 大殿に当たったらどうするのだ!?」
「心配するな!お前の顔面しか狙っとらんわ馬鹿山羊がぁっ!」
クロスカウンター クロスカウンター おまけでも一つクロスカウンター
「…脇を離れてかわすか?」
「コースいっぱい使ってフルコンタクトしている台風だぞ?」
「俺の体躯じゃ無理だぁー」
どうにもこうにも走りあぐねるCの後ろのAと、その後方のB。
しかし、そうしている間にも背後より迫る ──
ギャリギャリギャリギャリリリリリッッッ
鋼と土の擦れ削れる濁音と共に黒い嵐が迫ってくる。
漆黒のマントの裏側より這い出した無数の鋼片が形成するは翼か牙か、
駆ける一歩に合わせて渦巻く黒。
「なんとも凄いことになってきましたね~? 大丈夫なんでしょうか~」
「…一位になったら良い事してあげるのに、健太君…」
ぴくん 馬の耳が立ち上がる
「うぉおおおおおおーーーっっ! 双鏡ちゃんのお尻ぃーーーっっ!!」
飛び出したのは青春、青い春。
何者も恐れない、前だけを見るその姿は誰の胸をも熱くする。
大馬鹿者に希望の道が開かれん事を ──
多分無理だろう。
秋も深まる今日この頃で運動会
海之前や山之上、学年などの設定はあくまで(仮)です
種族なんて関係ない。 ただ勝ちたいんや!
- 登場キャラのお国柄がよく出ている。一回きりで終わるのはもったいない -- (としあき) 2012-11-11 18:12:18
- これ結局生き残るのは1チームだけとかになって順位もへったくれもなさそう -- (名無しさん) 2013-10-09 02:40:46
- 肉体派種族の晴れ舞台という感じですね。こういうのはケガするくらいのゆるさが丁度よさそうですがこれはかなりハードそうですね -- (名無しさん) 2015-04-19 17:27:59
最終更新:2013年03月26日 00:07