「好きだッ!!」
青年の声が高く響いたのは人気がない公園の一角、
ホモサピエンスの青年と
エルフの少女以外には、涼風と葉の音だけ。
青年の瞳はどこまでも熱く、
しかし対照的にエルフの少女は眠そうなとろんとした瞳で。
「んー…、と。つまりエッチしたいってことですよね、みっちゃん?」
エルフの少女は首を傾げにこやかに、そんなことを言った。
言うばかりか、上着を脱いだ。
上空を、ひよひよとどこか間抜けな鳴き声で小鳥が飛んだ。
その空気を打ち破るように、頬をかすかに赤らめて青年はまた叫んだ。
異界の少女にどうかこの想い届けと願いながら。
「違う、違うんだ!リイさん聞いてくれ!俺は、君と恋人になりたいんだよ!」
エルフの少女はため息をついて、
どう答えたものかと首を傾げ、
ついに人差し指をピンと伸ばし、語りはじめた。
「んー……、あのね、みっちゃん。気持ちは嬉しいんです。でもね、わたしの子宮は神様のモノなんです。
だから、あなただけに使ってもらうだなんて不純なことできません。……できないんです」
手のひらを軽く自分のお腹に当てて、
すこし思い詰めたような表情で。
「わたし、みっちゃんのこと嫌いじゃないですよ。
でも、もしみっちゃんの恋人になったとしても、他の人から胤もらい続けますよ?浮気、いやですよね?」
エルフの少女は青年をじっと見つめた。
「……リイさんが浮ついてないことは、真剣なことは知っているッ!」
ズレたようなズレてないような言葉にエルフの少女は何を思ったのだろうか。
何かを誤魔化すように瞳を眠そうにとろけさせ、ふにゃんと笑った。
「……うふふっ、ありがと。でも、それって余計につらくないですか?」
「……性交と愛は、そんなに関係ないッ!きっとそうだ!」
「ふーん。そっかあ……」
困ったなー、と腕組み悩むエルフの少女。大きな胸が腕に押されてやらしく歪む。
雲が少し流れて、エルフの少女は躊躇いながらも口を開く。
「ねえ、みっちゃん。もし恋人になったとしても、みっちゃんから何回も子胤を貰おうとはしないですよ?
エッチは神様への捧げ物、わたしの私利私欲で偏らせるわけにはいかないんです……。
友達のままでもエッチはできますし、ほら、今のままじゃダメですか?」
イタズラな笑みを浮かべて、わざとらしく淫靡なポーズを見せるエルフの少女。
しかし、青年は違う違うと首を振る。
「そういうんじゃないんだよ、リイさん。
たくさんエッチがしたいとか、そういうじゃないんだ。
ただ君と一緒にいるのがこれ以上なく嬉しくて、だから俺が望むのは、
君と二人一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒に歩いて、さみしい時には……」
エルフの少女は青年の肩を掴み揺らす。
わずかに泣きそうな表情で揺らして言った。
「そんなの、……そんなの、今と変わらないじゃないですか……!」
そして青年の体に手を滑らせた。艶めかしく。
青年が「うぅ」と快感にうなった。
「だったら、友達でいいじゃないですか」
愛撫を続けながら語る。いつのまにかに胸元が大きく開いている。
青年の顔がひどく赤い。
「今までみたいに、一緒に遊んで」
時折、キスを降らせて。
「たまには、エッチしましょう?」
こんなふうに、と。
たおやかな手が、ズボンから引きずり出す。
「変わる必要なんてないですよね?」
やさしげな感触に、てらてらと光り、屹立している。
「ほら、みっちゃんの体もそれがいいって言ってますよ?」
震えていた。
「……違うッ!」
振り払うように青年が一喝する。
青年のものがスッと萎んでいた。
「ふわっ!?……ぁ、あああ」
大声にエルフの少女は驚き、つぎに手の中の感触にうろたえる。
とりこぼした大切なものを集めるかのように必死な愛撫は、しかし変化を与えなかった。
「ち、小さくなっちゃった……。みっちゃん、わたしで……興奮できなくなっちゃったんだ……」
泣きそうな、いや、すでに涙はこぼれてしまっていた。
悔しいのだろうか、悲しいのだろうか。
「それも違うッ!」
青年はまた叫び、エルフの少女をかき抱いた。
「………ぁ」
エルフの少女は聞いた。青年のバクバクと揺れる鼓動を。
「聞こえるか、リイさん」
「聞こえるよ、みっちゃん」
エルフの少女は長い耳を、青年の胸にこすりつける。
青年はさらに強く抱きしめた。
「好きだ」
ささやく言葉に、ささやいて返す。
「……でもね、みっちゃん。恋人はむずかしいよ。きっと、みっちゃんはわたしのこと嫌いになる」
「ならない」
「友達のままじゃダメ?」
「特別にしたいんだ」
「……みっちゃんに嫌われたくない。でも、神様は裏切れないよ」
「好きだ。ずっと好きでいる。そして、君に何も裏切らせはしない」
「……でもね、みっちゃん。ずっと同じにはなれないよ。きっといつか壊れちゃう」
「違っててもいい。無理しなくてもいい。『まぁ、好きだからいいか』と苦笑して、日常にながそう。
ずっと一緒に居れなくても、きっと同じ場所に帰ろう。いつか二人の家を建てて」
「……バカです。みっちゃんはバカです。こんなの重すぎます。ふつう引いちゃいます。まるで、プロポーズです」
青年の胸の中で、エルフの少女は泣くように笑みを浮かべた。
青年は目を閉じ、腕の中の熱を大切にしながら尋ねる。
「ダメか?」
「ダメです」
「理由は?」
「子供は神様のモノになります。二人で育てることは出来ないんです。さびしいでしょ?」
「大丈夫。君がいれば淋しくはない。他に理由は?」
「……寿命。生きる時間が違います。結局、最後には離ればなれです……」
「誰だって、人間同士だって寿命は違う。死に別れない人なんていない」
「わたしが、一方的に、ずっと、悲しくなります……」
青年は何か言おうとして、何も言えなかった。
代わりに絞り出すような声で、静かにあやまった。
「…………ごめん」
「ひどい人です」
「……ごめん」
「……でも、いいですよ」
「…………」
「わたしだって、いっぱい迷惑かけちゃいますからっ」
エルフの少女は青年の胸からパッと離れ、ほがらかに笑った。
どちらともなく手を差し出す。
「じゃあ、恋人からはじめましょうか」
「ああ、はじめよう」
二人手をつなぎ歩き始めた。
エルフの少女は頬をほのかに赤らめている。
「なんだか……照れますね」
「裸を見ても平気なのにな」
「もうっ!それとこれとは別ですよ!」
「はは、すまんすまん」
「…………ねえ、みっちゃん。もうダメだと思ったら早めに言ってくださいね?」
「言わないさ」
「……じゃあ、わたしから言っちゃうかもしれませんね」
「言わせないよ」
夕暮れの道には木の葉が舞い落ち、手をつないだ一つの影がどこまでも長く伸びていた。
- エルフ達を世界樹の戒めから解き放ち隊! -- (としあき) 2012-11-11 18:07:31
- 心の繋がりが生まれる前に体を繋いじゃうけど誰とでもという訳ではない…えぇい、ややこしい種族だ -- (名無しさん) 2012-11-11 20:00:08
- 恋人になったけれども今後とも精子採集は続けるわけで。……みっちゃんマジ心広いなー。 -- (名無しさん) 2012-11-11 20:50:38
- こういうアプローチの仕方は思いつかなかった。大変良い純愛を見せてもらいますた -- (名無しさん) 2012-12-29 02:18:26
- この意識のすれ違いって種族違えば当然っちゃ当然なんだろうけど…もどかしいっ! -- (名無しさん) 2013-04-12 22:48:53
- イレヴンズゲートのエルフがちょっと変わっているというのをまざまざと思い知らされるッ!でもそれでも希望はあるはずだ -- (名無しさん) 2014-05-03 21:22:47
- 他との考え方のズレはエルフの魅力になっていると思うので逆にそれが改善されてしまうと物足りなくなるのではと思うのは私だけでしょうか -- (名無しさん) 2015-04-19 17:35:13
- まったく価値観が合わない0じゃなくて数%でも心が通じ合うのなら道は開かれるね! -- (名無しさん) 2017-02-14 18:05:05
最終更新:2013年03月30日 13:14