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【芦原瑠奈と蛇-弐-】

諸注意

 本稿においては、躍字に関して多分に独自設定を含みます。
 便利道具と化しているなという自覚はございますが、ご容赦ください。

あらすじ

 彼女の名前は、芦原瑠奈《あしはら るな》。
 十津那学園高等部2年、17歳の女子。
 登校時に謎の転倒を起こした彼女は、同じく転倒したユッコ・ベルテと共に保健室へと運ばれる。
 そこで新聞部の鳩村耳音に聞き込みをされている途中、舞い込んだ躍字を取り込む事になった。
 本の助言に従い躍字を取り込もうとした時、脳裏に浮かんだ蛇に躍字を食われてしまう光景を見る。
 そして彼女は意識を失った。


【芦原瑠奈と蛇-弐-】

「バカ瑠奈ー。バカ瑠奈ー。起きろバカ瑠奈ー」
「あしはらー。あしはらー。起きろあしはらー」
「おい。マネするな鳩村」
「怒ることないだろユッコ」
「……なにやってんのアンタら」

 保健室のベッドの上で目覚めた瑠奈。傍らにはユッコと鳩村が座ってた。
 ベッドから体を起こし二人の手元へ目をやれば、プラスチックで出来た容器と素朴な木の割り箸。
 今まさに弁当を食べている最中だった。

「起きたかバカ瑠奈。もう昼だぞ。寝すぎだろお前」

 窓の外へ目をやれば日が高く昇っている。
 校門は朝とは逆方向へ向かう学生たちでごった返していた。どこかへ食べにでも行くのだろう。
 朝一の転倒事故から約三時間あまり。瑠奈は昏々とベッドの上で眠り続けていたことになる。
 昼。その言葉を聞かされた瑠奈の腹が鳴った。

「はらへった」
「開口一番で言う事がそれかよ芦原……。もっと他に何か聞いたりすることあるだろ?」
「ユッコのそれ、購買の何弁?」
「うま味たっぷり異邦は秋の味覚、栗ごはん弁当」
「鳩村のは?」
「秘伝のたれとふんわり卵の合わせ技、牛肉そぼろ弁当。他に質問は?」
「何かオススメの弁当売ってた?」
「ボリュームたっぷりビッグサイズ、和風ハンバーグ弁当が300円ジャストだった」
「よし! 鳩村それ買ってきて!」
「あ、私はあったかいお茶が欲しいぞ鳩村。という訳で頼んだ」
「……行ってきまーす」

 食べかけの弁当にフタをし、トボトボと保健室を後にする鳩村。
 さてとばかりに瑠奈は本を取り出そうと辺りを見回し、自分のバッグへ手を伸ばす。
 その時、幾重にも包帯で巻かれた自分の右手に気が付いた。

「ああ。本ならこっちで預かっておいたぞ。何とも良く喋るカンペだ。
 あと右手のことなんだが、ちょっと包帯を取るのは待ったほうがいい」
「なんで?」
「"熱い"らしいからだ。本にも聞いたが、どうも私には良く分からなかった。
 自分で聞いてみたほうが良いと思うぞ」

 ほいと渡された本を左手で受け取り、ぎこちない手つきで表紙をめくる。
 開紙一筆、すらすらと躍字が連なっていく。

『おそよう瑠奈。良く眠れたか?』
「堂々とサボタージュでいい気分よ。不恰好な右手が気になる以外はね」
『すまん。よもや気絶するとは思わなくてな。取り込んだはいいが、定着するまでに少し時間が必要なのだ。
 意識が無い状態で不用意に触れることの無いよう、先の男女に処置を頼んだのだ』
「取っていい?」
『構わんが、物に触れるのはやめておくことだ。恐らくまだ瑠奈とひとつにはなっていないだろうからな。
 下手に躍字に触れると面倒なことになる。どれほど面倒かは午前で経験済みだろう?』

 手厚く無造作に巻かれた包帯を取り、瑠奈は自分の右手を見る。
 蛇に噛まれた跡も無ければ、皮膚が溶けたような形跡も無い、至って普通の自分の腕。
 そう思って手のひらを返した時、手の内側でうねる文字を見た瑠奈はがっくりと肩を落とした。

「うーわー……」
「うむ。気持ちは分かるぞー。私も鳩村も"うわー"って言ったし」
『迂闊に物に触れないよう注意しろ瑠奈。朝の一件よろしく、躍字の効力はいまだ健在だからな』
「なにそれ聞いてないし」
『分かりやすく説明すると、パズルのようなものなのだ。
 躍字というピースが、取り込んだ瑠奈に合わせて形を変え、正しく収まるまで暴れ続ける』
「暴れるってどういうことよ」
『今の瑠奈の場合、右手で触れた対象を無差別に加熱することになるな』
「瑠奈の右手が真っ赤に燃えるぅ!」
「ユッコを倒せと、轟き叫ぶぅ!」
「やめろよバカ瑠奈」
「アンタが言い出したんでしょーがバカユッコ」
「ハンバーグ弁当一丁お待ちー……」

 程よいタイミングで鳩村が弁当を携え購買より帰還する。その姿は心なしかボロボロに見える。
 十津那学園の生徒数を考えれば、和風ハンバーグ弁当300円に出来る人だかりは想像に難くない。
 這う這うの体で弁当を瑠奈に、飲み物をユッコに渡すも、返ってきたのは心無い一言だった。

「弁当が」
「お茶が」
「「冷たい!」」

 ぐったりした顔に呆れ顔を乗せ、鳩村はうなだれて呟く。

「しょーがねーだろ。あんなスーパーマーケット級の購買の中で電子レンジ使ってる暇なんか無いって。
 混む時間を避けて弁当を買ったのに、結局このざまですよ。
 あとあったかいお茶はとっくに売り切れてました。ちゃんと弁当買う時に一緒に買っとけよユッコ」
「買ったさ。しかし思いのほか消費してしまったから買い足しが必要になっただけだ。……お、良いことを思いついた」

 そう言うとユッコは瑠奈に目配せをし、鳩村が買ってきた冷たいお茶を瑠奈に手渡した。

「へいへい。そーいうことですか、そーですか」

 瑠奈はグチグチ言いながらも、お茶を右手で受け取った。
 そのまま五秒ほどもすると、お茶の冷たさが徐々にじんわりとした温かさに変わっていくのが感じられる。
 さらに十秒もすれば、入れたてのお茶に等しいくらいの熱さになった。
 ボトルを振ってぬるいであろう部分と混ぜ、比較的程よい熱さにする。

「ふむ。ごくろう。便利な右手だな瑠奈……って飲むなー!」
「加熱料金は現物払いとなりまーす」
「俺の弁当温めてもらおうかと思ったけど頼まなくて良かったー」
「加熱料金は現物払いとなります」
「勝手に温めるなよ!」

 こうして昼食の時間が過ぎ、鳩村とユッコは揃って午後の授業を受けに保健室を後にする。
 再び右手に包帯を巻いた瑠奈はひとり、本を開いてため息をついていた。

『どうした?』
「どーにも。色々と困ってるだけよ」
『例えば?』

 本の問いかけに一呼吸置き、瑠奈は矢継ぎ早に答えを繰り出した。

「午前のアンタの一言から、悪仙に組している人間が居るらしいということ。
 躍字を取り込むに際してアタシがこういう風になると、アンタが一言も言わなかったこと。
 状況的に仕方なかったとは言え、ユッコと鳩村を巻き込んだこと。
 何よりアンタの秘密主義との付き合い方よね」
『総じて考えあっての事だ。許せ』

 いつ頃から悪仙に組する人間がいると感づいたのか。なぜ躍字を取り込んだ際の副作用を伝えなかったのか。
 様々な要因はあるにせよ、体よく人を使っているこの本の心が読めない。
 そもそも、この本を全面的に信用して良いかのという今更な考えが瑠奈にはあった。

「ねぇ」
『あまり多くを語ることは出来んが、私の目的は一貫して悪仙を封じることだ。そこに変わりは無い。
 ただ最初にも言ったように、封を終えるまでの間に色々と知っておきたいのさ』
「色々って?」
『悪仙の事。何故奴らが解き放たれるような事態が起きたのか?
 私のこと。何故私はこの世界に居るのか? 私は自分の意思で動くことが出来ないからな。
 瑠奈の事。せっかくの出会いなのだ。色々と観察ぐらいはさせてもらおうかとな』
「はっ。いい趣味してるわアンタ」
『瑠奈も少しは趣味を持ったほうが良いぞ。今の食道楽はあまり関心できたものでは無いしな』
「躍字を食わせるように仕向けておいてよく言うわー」
『それも考えあっての事だ。今後の生活で役に立つだろう? まぁ恐らく煉獄蝶だから良いとは言えんのだが……』

 聞きなれない単語を記す本。はてと思い瑠奈は質問を挿した。

「煉獄蝶ってなに?」
『ん? あぁ、さっきの躍字は恐らくそれだろうと言うだけだ。とっくに絶滅した延の生き物さ。
 火の精霊に好かれる故、勢いあまって自分の身を焼く難儀な生物だ。
 その性質のため煉獄蝶を見かけた場所では火災が頻発し、災厄の兆しなどとも言われたのものさ』
「ふーん。過ぎたる力は身を滅ぼすってところかしら」
『忌み嫌われ物であると同時に、延で"蝶を送る"と文に添えれば大体は煉獄蝶の事を指すくらいに有名ではある。
 意味としては二通り。"今の自分を省みて、この蝶のようにならぬよう気をつけろ"が一つ』
「もうひとつは?」
『"この蝶のように燃えて死ね"という煽り文句だ。読み方や使う相手を間違えると酷いことになる』

 雑学を交えつつ、保健室の談話は続く。
 その様子を空の上から、一羽のカラスが見つめていた。
 カァとひと鳴きしたあと、嘴をかちかちとかみ合わせ流暢な日本語を喋る。

『プレゼントは受け取って頂けたようでなにより。悪い仙人に捕まるのは癪だが逃げるのもまた、ねぇ?
 せめて少しくらいの挑発はしてあげないと彼らも暇だろうし』

 すぃと空を飛び、学園B棟の屋上へと舞い降りるカラス。自らの羽を一枚、その場に置いて飛び去る。
 しばらくの後、屋上に現れたのはすっぽりと黒いフードを被った怪しい見た目の女子生徒だった。
 黒く長い髪で顔が隠れているが、髪をかきあげた際に四角い眼鏡と空ろな瞳が垣間見える。
 屋上に置かれたカラスの羽を手に、にへらと気味の悪い笑みを浮かべる女子。
 懐から取り出した怪しげな見た目の本にそれを挟んで、彼女は屋上を後にした。
 再び舞い降りたカラスはカァとひと鳴きした後、流暢に言葉を喋る。

『こちらもプレゼントは引き続き受け取って頂けているようでなにより。物好きってのはどんな世界にもいるんだねぇ。
 ……まぁ彼女は自主的にやってるから、何が起きてもボクは悪くないよね。
 人が転んで死んでも仕向けたボクの責任じゃないさ。半信半疑でも実行した彼女の責任だよねー』

 カラスの嘴から、見た目にそぐわない笑い声が寒空に響いた。




あとがきと謝罪など

 うん。シェアってむつかしいね。
 以下ほんのりシェアードさせて頂いた方々。

 ユッコさん
  拝借させて頂きました。自分勝手な瑠奈相手に「コイツ」とか「お前」とか言ってくれる貴重な人材。
  友達が少ない設定のハズだが、オタク発覚事件以後やや増えたという解釈でどうか。
  瑠奈とは互いにバカバカ言い合う間柄。仲が悪いわけでは無く、互いに弄りやすいだけなのです。
  話しの途中舌打ちをしたのは、ヤバい事に巻き込まれてるなと王冠党時代の直感が告げたため。
  ユッコさんは出来る人です。……あれ、年いくつだこのノーm(人形により撲殺されました

 鳩村くん
  常軌を逸する思考をした瑠奈の友人をやれる器量を持つ男、鳩村耳音。
  新聞部より拝借。残念ながら私が推理物を苦手とするため本家と異なり推理はしません。
  作中、恐らく一番まともな神経の持ち主なため、色々とご迷惑をお掛けしました。
  さすが新聞部、【探偵とて寄り道はする】に続いて購買の弁当リサーチまで完璧だ。
  鳩村くんも出来る人です。

 この場を借りて、両名の作者様にお礼とお詫び申し上げます。



  • 弁当温めてもらわなくて良かったの直後に勝手に温められてて吹いた。最後に謎のカラスや少女が登場して続きが気になる引きなので次回楽しみにしています -- (名無しさん) 2012-12-04 20:50:02
  • おおユッコさん登場。会話のテンポいいね -- (名無しさん) 2012-12-05 19:51:08
  • キャラ登場の度合いが程好いさじかげん -- (としあき) 2012-12-19 22:15:17
  • 何よりすごいのは自然体の日常にしっかりと不思議味がのっているというところでしょうか。会話の流れや行動から何まで違和感がなくするする読み進む中でちゃんとイレヴンズゲートならではのイベントが進んでいるのに驚きます。蝶の意味も成る程でしっかり後を引く終わり方もいいですね。シェアということですがしっかり物語の中でいちキャラとして確立しているのもよかったです -- (名無しさん) 2015-05-31 19:40:11
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最終更新:2012年12月19日 12:50