- 哲学者は世の中を様々に解釈してきたに過ぎない。要は、それを変革することである。
(カール・マルクス、『フォイエルバッハに関するテーゼ11番』
- 人間は、世界を認識するだけにとどまらず、自らの欲求に従いそれに働きかけ改造する。
(V・I・ウリヤーノフ『哲学ノート』)
労働組合づくり入門
いま、未組織の労働者のところでは、労働組合をつくりたいという意欲が高まっている。人なみの生活もおくれないような低賃金、とめどもない長時間の残業、いわれのない差別、まったくの無権利状態…。こういう状態をすこしでも改善するためには、組合をつくって団結してたたかう以外にない。
しかし、おおくの場合、どのように労働組合をつくっていったらよいかわからないし、かりにつくったとしても、すぐにつぶれてしまうケースがすくなくない。
そのため本誌では、ある労働組合がつくった『組合づくりのABC』という小冊子の内容を何回かにわけて転載することにした。実際に数おおくの組合づくりの経験をもとにかかれているので、実践的な指針として参考にすることができる。
ただし、この小冊子は、しっかりとした上部団体のオルグが組合づくりを指導、援助することを前提にして書かれている。そのような条件がないところでは、この内容を参考にしつつ、その条件にあった活動をあみだしていかなくてはならない。
また、書かれている内容について異論をもたれる読者があるかもしれないが、一つの実践的な経験としてうけとめていただき、それぞれの職場や産業、業種などの実際状況と活動にてらしあわせて、検討していただければさいわいである。
なお、この連載では元の小冊子の内容に若干の添削をおこなっており、文責はすべて本誌編集部にある。
また、労働通信社が発行した『労働組合のつくりかた』(九三年九月発行)や、フィリピンの労働組合センター・KMU(五月一日運動)の中級テキスト『GTU(真の労働組合運動)』日本語版(九六年一月発行)などもあわせて参考にしていただきたい。
はじめに
「労働組合はほしいけど、うちの社長はワンマンだし、首がこわいから……」「会社もちいさいし、みんなバラバラで、先頭にたつものがいないからむずかしいなあ……」
賃金や労働条件にたくさんの不平・不満をかかえているのに、いざ労働組合づくりになると、こんなふうにあきらめてしまっているなかまがおおくいます。
その大半の原因は、組合づくりといってもなにからはじめればいいかわからない、という点にあるようです。
そこでこの手引は、こころひそかに労働組合づくりをねがっているなかまや、近隣の同業他社のなかまに組合づくりをはたらきかけようと意欲をもやしている職場活動家のみなさんに、労働組合づくりの大筋をつかんでもらえるよう作成しました。 この手引が一人でもおおくのみなさんの活動の指針になるよう、ねがってやみません。
第一章 出発がまず大事
賃金や労働条件、休日休暇、また一時金(ボーナス)や退職金、その他各種の労働条件が、組合のあるところにくらべてよくないだけでなく、労働基準法の最低基準すらまもられていない。そればかりか、労働者としての人格や基本的人権を無視した一方的労務管理が平気ではばをきかせているーー。労働組合のない中小のおおくの職場で、労働者はまったくのつかいすてのぼろ雑巾のようなあつかいを受けています。
また、労働者を支配しおさえこむために、だいたい親戚の人間をおおぜいつかったり、職制のしくみをえさにしてゴマスリをスパイにつかったり、労働組合をつくらせないための防波堤として会社のお声がかりの親睦会をつくったり、いろいろ知恵をしぼって工夫しています。
こうしたなかで未組織のなかまたちは、組合がないためにばらばらな状態におかれながらも、なんとかみんなが一本にまとまれないものか、いつかはかならず組合をつくってみせる、チャンスがくれば、と待望しています。それだけに、組合づくりをはじめるときはまず出発点がだいじなのです。
ぱっと咲いて散る!インスタントの組合づくりは失敗の率が高い
未組織のなかまのあいだでは、「みんなのきもちがもりあがらない」「一人一人ばらばらだからやってもむだだ」というばくぜんとした、しかしねづよい偏見があります。
それだけに、ある瞬間に大問題が勃発していっきょにチャンス到来し、とたんにみんなで相談がはじまり、みんなで団結していっきょに組合をつくってしまおう、というのが実際にいちばんおおいケースです。
しかし、みなさん!
こういう場合は、あまりにもインスタント=即席であり、失敗の例がおおいのです。なぜでしょうか?
考えれば、だれにでもわかるとおり、準備不足のため無防備すぎて、会社側にけちらされてしまうわけです。
組合運動は趣味のあつまりではありません。組合をつくられて血相がかわり、必死になった資本家と対等にはりあうのですから、生半可な知識やはったりでやれるものでないし、まして多数の職場のなかまの生活に影響するのですから、中途はんぱではすみません。ずるがしこくて、カネとひまをふんだんにもっている資本家にひねられる危険があるわけです。
バラバラなときこそチャンス
組合づくりの「開始」は、常識とぎゃくに、みんながバラバラでまとまりのわるいときこそ、絶好のチャンスです。
なぜなら、組合づくりの準備活動は、一定の期間をかけて極秘のうちにやるのであって、おおぜいのなかまたちが知っていたのでは、会社の耳にはいり、準備活動のあいだに会社の先制攻撃をうける可能性が大きくなってしまうからです。
そしてまた、組合づくりのチャンスというものは、会社の方でつくってくれる(賃さげや解雇などで)こともあるわけですが、基本としては、準備活動のなかで自分たちの手でつくりあげるものです。
はじめる基本は、一、二名から出発すること。準備活動の開始は少人数ほどよい
組合づくりの相談で上部団体の人をよぶ以上は、多数のなかまをあつめなければわるいだろうとか、せっかくの話を聞くのだからおおぜいのなかまに聞かせようとか、数人から一〇人ぐらいあつめないと準備活動にならないのではないか、など、よくぶつかる意見です。
二人、三人でやけ酒をあおりながら、「うちの会社のやつらはばらばらでだめだ」とか「骨のある奴がいない」とか、かってな熱をあげている情景もよくあることですが、これはナンセンスな話です。ほんとうは、骨のある一人とか、二人のときに、上部団体の専門家と相談し、作戦をたてどのようにすすめるかを診断することこそ最良の道なのです。
人数の拡大のやり方
一人か二人のうちに組合のオルグ(上部団体の組織者)と相談するのが第一段階。確実な手のまわし方で四~五人にして第二段階。そのうえで十分な相談により一〇人前後にして第三段階、あとは旗あげと同時に、のこり全員に拡大する……というように、メリハリをはっきりとさせたすすめ方がたいせつで、ずるずると拡大させては危険がともないます。
「組合経験者」の知識を過信するのは危険!
よくぶつかる問題の一つに、「組合経験者」の問題があります。組合経験があるというので、なかまたちからあてにされてこまっている経験者によくぶつかります。
経験者には申しわけない表現になりますが、組合づくりの仕事は労働組合活動全般のなかでも一つの特別な分野であって、ふつうの、すでにできあがっている組合活動の経験ではほとんどといってよいほどつぶしがききません。
組合づくりにはそれほど特別の知識が必要なのです。経験者で通用するというのは、「組合づくりの中心に」になってやったことのある人の場合です。
第二章 準備会活動のすすめかた
いそがば、まわれ!
「組合結成(旗あげ)」は、未組織のなかまの夢の実現ですから、組合づくりにとりかかるやいなや、はやくやりたい、いそぎたい、と思うのは自然の人情です。
しかし、長年、組合づくりを経験した側からいわせてもらえば、組合の旗あげというものはだいたい「いつでもできる」ものなのです。一見ばらばらな状態であっても、いっせいにみんなによびかければ、じつはみんなが内心では期待しているわけですから、大部分は即座に加入申込書に署名してくれるものです。これは長年の経験から断言できることです。
問題は、旗あげのあとにあるのです。準備が不十分だと会社があの手この手で弾圧や買収にのりだしてきた場合に、インスタントの弱点をさらけだしてしまうのです。
たいせつなことは、旗あげのあと会社のどんな攻撃があってもびくともしない体制をつくりあげることであり、そのような十分すぎるほどの準備による完璧にちかい体制をつくってしまえば、会社につけいるすきをあたえず、攻撃を未然に防止し、組合つぶしの野望を未然にくじくことになるわけです。
事実、経験から明言できるのは準備を十分やった場合は旗あげ直後の攻撃をうけていません。
徹底した極秘の非公然活動
準備期間中は普通程度の秘密活動でなく、徹底的で、思いきった極秘を、準備会メンバーがおたがいにまもりぬくことを厳重に実行しぬくのです。
酒をのむと口がかるくなるなかまは、ざんねんながらメンバーにいれないとか、ある時期までは家族にもけっしてしゃべらない……というくらい徹底した極秘をまもりあうのです。
これは、会社側に「ぜったい」に秘密がもれない、もらさないという一点をまもりきるためにおこなうのです。そのためには、ふつうの秘密ではぜんぜんたりません。ふつう程度の秘密というやつは、「秘密だから」というので、いっそうひそひそ話でいつのまにかひろがってしまうものです。
徹底した極秘体制があれば、万が一にもれたとしても、もれたルートがわかるし、対策がたてられるわけです。
組合づくりは、旗あげの最後の瞬間まで、極秘をまもりきることがなによりもたいせつです。
準備活動で「落第」するようでは旗あげは無理! 苦痛でしんどい肩がこる準備活動こそ旗揚げの資格
何カ月もの期間、徹底した極秘活動をつづけるというのは、なみたいていのことではありません。
最低でも週一回、きめられた日と時間と場所に、人目をしのんで、きちんとあつまり秘密の会議を、きちん、きちんとつづけるというのは、そうとうにきびしい活動です。
しんけんさと実行力と忍耐力を必要とするこの準備活動をみごとにのりきれるようならば、たいがいの資本家の悪質な策略や攻撃を未然にふせぐこともでき、効果的に確実に対抗できるといえます。
ぎゃくに、準備活動のなかでたえられなくなったり、旗あげにばかりあせったりするようでは、旗あげ後の資本家側とのきりむすびで落第することがあきらかであり、旗あげをいそいであせれば、あせるほど、上部団体の指導としては旗あげにふみきれない、という皮肉な結果となってしまいます。
準備会活動の重点的な内容--最低これだけはマスターすること
①労働組合の基本的な知識を吸収する
イ、労働基準法、労働組合法
ロ、上部団体にはいる場合は、上部団体の規約や運動方針
ハ、組合づくりの経験。とくに組合つぶしの攻撃の手口とこれにたいするたたかい方
これらを上部団体のオルグを講師にしたり、自分たちで独自に順序だてて勉強します。
②その会社・経営のいっさいの知識、就業規則など
その会社のなかではたらいていても、あんがい、自分のもち場以外の知識はうといものです。とりわけ上部団体のオルグにはまったく未知の世界ですから、準備会のメンバーが先生になってオルグにおしえこみ、同時に準備会メンバーも案外、社内の問題を知らないことがおおいわけですから、秘密のうちに調査活動を活発にやって、みんなで会社の内情や職場の問題や、労働者の要求を準備会で総合的にしらべぬくのです。
また会社の就業規則を研究することと、実際上の基準法違反事項の調査もかかすことができません。
③準備会の組織活動
準備会は会社ではたらいている全労働者を対象に調査をすすめ、会社の部・課・係ごとに検討し、勤続年数がふるく下級職制でもあり、みんなの信望があって、そして会社に対抗してくれる正義感のつよい人物をさがすとか、準備会メンバーがかたよった職場におおい場合は、準備会が会社の全域にひろげられるようどう接触したらよいか、などを検討します。
そういう場合のためにも、とくに準備期間中でたいせつなことは、準備会そのものは「徹底した極秘」活動ですが、しかし同時に、可能性を最大限にいかした「公然活動」を考える必要があるのです。極秘と公然は矛盾するようですが、この両面のつかいわけは組合のオルグとも十分相談して実行することによって、極秘一本槍のやり方ではとてもつかめない人材や、組合づくりへの飛躍的な職場の条件をつくりあげることができるようになるのです。
たとえば、会社がやっている野球とか旅行とか、お花とかのサークルに積極的に参加して多数のなかまとつきあえるようにするとか、会社のなにかの親睦会があるときは、条件さえあればその役員となり、親睦会としての活動を積極的にやって親睦会をみんなにちかづけるとともに、公然とみんなと接近して、準備会メンバーにふさわしい人材をみつけだすようにするのです。
一見すると、たいへん遠まわりするようにみえますが、「いそがばまわれ」で、職場のなかの、まだ組合づくりの意識ではおくれている多数のなかまたちを自然に成長させ、すすんだ意識の準備会メンバーにちかづける早道となるのです。ですから、親睦会がない場合に、組合づくりのためにわざわざ親睦会を結成するケースもあるわけです。
いずれにせよ、すすんだ意識の一部の人人だけの組合づくりなら、あしたからでも旗あげできますが、職場の大多数、約八割以上を組織する目標をたてるなら、それだけの準備が必要だし、悪らつな資本家ときちんと対抗していくのには、この程度の高等戦術を卒業することも必要なのです。
④準備会のなかま同士の強固な信頼関係をつくる
準備会のメンバーは、旗あげと同時に、ほとんどは組合の執行部となるはずです。ですから準備会は、たんに組合づくりの準備会というだけでなく、組合執行部の準備会でもあります。
それだけに準備期間中に、真の信頼関係(真の団結)をつくりあげないと、旗あげ後の、資本家家とのきびしい対抗関係のなかで多数の組合員を確固として指導しぬくことはできません。
真の信頼関係とは、準備会のなかま同士でなんカ月かともに苦労しあうだけではまだたりません。準備会の期間中に、おたがいの腹のなかをぶちあけあってつくりあげるものです。
準備期間というものは、この信頼関係をつくるためにあるといっても過言ではありません。
⑤上部団体オルグ・地域のなかまとの交流・信頼関係
将来にわたって指導の責任をおう上部団体の立場からいえば、上部団体のオルグは準備会の出発の時点から参加して、さいしょから相談し作戦をたてることがのぞましいです。
また、第二に組合オルグはその上部団体の代表であり、上部団体の顔です。このオルグと準備会メンバーとはかたちだけのつきあいであってはなりません。オルグをつうじて上部団体の性格や運動の仕方や指導方針を理解してもらうのですから、双方とも真剣勝負でなければなりません。
おれたちは組合のことは知らないが、オルグは専門家なのだからということで、オルグのいいなりになってはいけません。オルグは組合では専門ですが、職場の人のことや実状についてはずぶのしろうとであることをわすれてはいけません。
へんだなとか、妙だなと感じたことは、かならず質問してたしかめることがたいせつです。そして質問して納得できる回答がえられるかどうかがまただいじです。納得がいかないときは、おそらくオルグの方になんらかのあやまりか勘ちがいがあるのです。
勘ちがいのまま作戦をたてたのでは、たいへん危険です。
第三に、準備会活動のうちから、地域の労働組合のなかまと積極的に交流し、信頼関係をつくりあげること。実際の組合づくりの経験にまなぶことが重要です。
⑥要求づくり
さて、準備会活動が最終段階にはいったら、要求づくりのばんです。経営者側からうけた長年の抑圧や酷使、つもりつもった不平・不満があるだけに、あれもこれもととにかく山のように要求がでてきます。
しかし、公然化した当初は「すべての要求実現を」とはやる気持ちはできるだけおさえ、みんなが一致して頑強にたたかえる要求にしぼることです。同時に、公然化にともなう組合の基本的権利(組合事務所、電話、掲示板、時間内の組合活動の自由など)を重視します。
つまり、公然化のあと、比較的はやいうちに確実に成果をあげ、なかまの志気と団結をいっそう高める観点から、要求を整理するわけです。
第三章 いよいよ旗あげへ
準備会活動の「完了」の指標
①準備会のメンバーが組合づくりに確信をもち、志気が高まっていること
②全労働者を結集できる要求が確立していること
③準備会が会社の状態、労働者全体の状態をしっかりとつかみ、会社の拠点職場に準備会の力が浸透していること
④全労働者の七~八割以上の組織化を展望できること
⑤オルグ・地域のなかまとの信頼関係が確立しえること。
一般的にいって、以上の五点で合格すれば、あとは旗あげの期日を決定することになります。「準備完了」の判断は、ふつうは経験のある上部団体が決断することになります。
準備会メンバーの最終的な人数
準備会の人数は当然、ケースバイケースですが、旗あげ直前の最終段階であっても、あくまでもかたいなかまにかぎっておいて、「自然的」に膨張させることはいましめます。なぜなら、なんカ月も秘密活動をつづけてきたのに、旗あげの直前まできて会社の察知され先制攻撃をうけ、せっかくの努力をだいなしにされるおそれがあるからです。
準備会の人数は、場合によりけりですが、全労働者一〇〇人程度なら一五~二五人ぐらい、五〇人程度なら一〇~二〇人程度で十分です。
最終段階の準備会で、最終的に旗あげ直前にはたらきかける相手をきめ、だれが話をするかの分断をきめる以外は、さいごのさいごまで極秘をおしとおすことです。
旗あげの一般的なやり方
1、朝の準備
前日のさいごの準備会で十分相談して、準備会メンバー各自の当日の分担を明確にし、加入申込書と規約と、準備会で独自に用意した「よびかけ文」を各自の枚数に分けて、当日の朝、それをもって、いつものようになに気なく出勤します。
2、加入のいっせいよびかけ
昼食時間、はやめに昼食をとり、きめたとおり一二時一〇分からいっせいに行動開始。会社のえらい人がいようがいまいが、みんなに公然と組合加入をよびかけます。こういうときは、こそこそやっていてはだめで、みんなの加入の決意もにぶるとことになります。ふだん、みんなから信頼されている人がよびかけていれば、ほとんど全員が加入してくれるものです。それで、どんどん加入申込書に記入してもらうのです。
3、外から上部団体役員が
一二時二〇分ごろ、これも前日の決定時刻に、そとから上部団体の幹部が会社の門に到着します。準備会の責任者(分会長)がまちかまえていて、会社の責任者がいる場所へ直行します。会社の責任者に自己紹介のあと、あらかじめ用意された「組合(分会)公然化の通告書」を手わたし、組合方針もふくめ上部団体幹部から説明します。
4、執行部は交渉参加
職場のなかまたちに加入申込書へ記入してもらい、自分の分担をおわった執行部のメンバーは記入ずみの加入申込書をもって、会社と組合代表が交渉している場所にかけつけてきて参加してもらいます。
執行部はあらかじめ準備会で決定し、当日の「公然化通告書」に分会役員名を明記するので、紹介かたがた交渉に参加するのです。もっとも加入申込書の作業がうまくはかどらないなかまがいたら、交渉参加をあとまわしにしてもなん人かで手つだう必要があります。
5、交渉の主眼は団体交渉の確約
このさいしょの交渉は、会社とはじめての顔あわせなので、要求項目は第二回交渉にまわし、第二回団体交渉の日時・場所の確約をとりつけることと不当労働行為の説明におくのがふつうです。
もちろん、切迫した事情があるときはべつです。
6、第一回交渉内容
主眼は次回交渉の確約ですが、初対面のこの交渉で、組合の基本方針、すなわち会社が組合づくりにたいして弾圧やきりくずしでのぞんできた場合はやむなくとことんまで自衛上「喧嘩」となるが、会社が紳士的に交渉に応じるかぎり、組合もあくまで紳士的に道理をつくす組合活動をおこなうことを約束し、ようは会社の出方いかんであることを理解させます。
また、当座の労資関係のすべてについて、支部担当者が分会長と連絡をとること、ただし組合側は上部団体をふくめて一人だけではけっして話しあわないことになっていること、を理解させます。
もう一つ、労働組合法第七条の「不当労働行為」を説明し、どんな小さな不法行為であっても、対抗上、自衛上、組合は「実力」による反撃にでることを理解させます。
だいじな点は、つぎの団体交渉まで組合にかんするいっさいの行動は分会役員にたいする質問や連絡以外はけっして個個の組合員などに接触してはならないことを理解させることです。
7、第一回交渉の所要時間
この交渉のおよその時間は、このときの会社の態度しだいできまりますが、だいたいは「不意打ち」なので、会社はびっくりしたまま受け身になり、聞き役にまわるのがふつうですから、最低三〇分からながくても一時間程度でおわります。
それで交渉のさいごに、当日の終業時刻から全員による分会大会の開催を通告し、大会の会場として会社の食堂なり会議室をつかうことを通告します。それは許可をもとめるのではなく、「通告」するのです。
組合は基本として、会社と対等の資格をもつ団体として、会社の許可や承認で動くのではなく、必要最小限の判断として、やるべき行動は会社が反対しても断固やることです。
8、第一回大会(公然化大会)
終業時間から全員にあつまってもらい、公然化直後の第一回大会を開催し、準備会であらかじめ詳細に用意された段どりで、司会者が一言あいさつして、大会の議長と書記(議事録作成)を選出し、議長の議事進行により、準備会代表(分会長)があいさつと経過報告をおこない、ついで上部団体役員が労働組合の話と当面の心得をわかりやすく話し、議題にはいって、まず準備会代表から要求項目と当面の要求事項の提案、組合費額の提案、そして分会役員の選出となります。
議長は、議題ごとに質問や意見をとり、一つ、一つの挙手の採決で決定してもらいます。
なお、役員選出ですが、準備会で十分相談して執行部と会計監査を推せんするようにして、さいしょの大会ですから全員にはかったうえで、全員の拍手で決定するやり方をほとんどの場合採用しています。
この公然化大会でいちばん重要なのは、全組合員の当面のこころがまえの問題です。この点は上部団体幹部もふくめて、不当労働行為とのたたかいの問題として、みんなに武装してもらうことです。
公然化の仕方には、状態に応じて公然化前日に結成大会をひらくなど、おおくの方法があります。それらはオルグや上級機関の判断にもとづくのが最善でしょう。
第4章 公然化直後のポイント
職場の多数のなかまたちは、この執行部についていってはたしてよいのかどうかをみまもっており、執行部に自信があるのかどうかを執行部の態度・口のきき方・顔色をみて判断しようとしています。執行部についていくか、会社の方についていくか、を判断されるわけです。
いままでの経験からいえることは、公然化直後の執行部が十分な準備活動で自信をもって指導すれば、かならずみんながついてきてくれるということです。逆に執行部のもたつきと動揺は全体の動揺となってあらわれるわけです。
みんなが執行部と会社とのあいだで様子をみることを卑怯とみる味方もありますが、労働組合としては、」多数の労働者のこのような判断の仕方、わるい表現でいうと、打算的な立場というものは、とうぜんのことであるとみなければなりません。労働組合はあくまでも大衆運動だからです。
けっきょくは、組合運動は要求で団結することが基礎ですが、その団結を保証するのは確信ある執行部の指導です。
会社の弾圧や組合つぶしは一挙に組合を有利にする
組合をつくられて頭にきた会社があわてて法律違反の不当労働行為をやってきたら、まっていましたとばかり、これを逆手にとって組合の有利な状態へ転化させることがたいせつです。
自信のある会社は組合から逆手にとられるようなへまなまねはしないものです。自信のない会社がやみくもに弾圧や買収に走るわけですから、組合側はテープレコーダーなどの効果的な武器などもつかって逆用すればよいのです。
執行部が会社の弾圧の見せかけの凶暴性におそれをなしたり、動揺したりすれば、会社のねらいどおり、組織全体が一挙に混乱します。
大切なことは、会社側がへたなちょっかいを出したらすぐ上部団体に連絡できて逆用できる体制ができるかどうかということです。
首切りなんてちっとも怖くない
だいたい労働組合に関連して、「解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない」と労組法に明記してあるのですから、会社がどんな口実をつけて弾圧してもすべて法律違反ですから、たたかえばかならずかつわけです。従って、組合づくりで会社が解雇など報復的なことをやったら逆にしめたということになります。
いちばん気をつけなければならないのは、一人だけよばれて、なんだかんだといわれて、「退職届け」を書かされ、押印させられることです。いったん退職届がでてしまうとむずかしくなります。会社があくまでかいこするというのなら、その理由を質し、「役員と相談して返答します」とあくまでも即答をさけるのがだいじです。
第5章 オルグの心得
いま、日本の労働組合運動は危機的な状況にあるといわれています。賃金、労働条件の引き上げについては、資本と対等にわたりあう力をうしなっているばかりか、バブル崩壊を口実にした大量の首切り「合理化」攻撃の前で、労働者の雇用をまもるという最低限の役割すら、多くの労働組合は放棄しているからです。
大企業の本工労働組合は、資本の首切り「合理化」、権利侵害攻撃を労働組合みずから代行する別働隊の役割さえはたしてい留、と批判する声さえあります。
「労働者一人一人はよわいからこそ、団結してたたかう」という労働組合の原点をわすれて、よわい立場の労働者や組合に組織されていない下請け・パート・臨時労働者に、そして地域社会に犠牲を押しつけ、その踏み台にたって企業と一体に生き延びようとするかれらが、いまは「主流」を名のろうとも、初戦は大多数の労働者・国民から孤立して没落するのは歴史の必然といえます。
労組の力量強化が求められている
しかし、そうはいっても、たたかう労働組合運動の力をどうやってつよめていくかという、みずからの努力ぬきに歴史の発展はありえません。まして、自衛隊の海外派兵を突破口に、憲法改悪をねらい、政府・独占資本が日本の労働者・国民の生活と権利・民主主義そのものをうばおうとしているいまこそ、たたかう労働組合の真価がとわれているのです。
日本の労働運動をたてなおし、新生させようとおおくの労働組合がいま奮斗しています。
そのなかでわたしたちにとくにもとめられているのは、組織を飛躍的に拡大し、社会的影響力をいっそうつよめていくことです。わたしたちは、従来の労働組合の弱点を克服した産業別労働組合運動を進める名kで、業種別交渉権渡島いつ労働条件の確率、家族ぐるみの運動、権利侵害には一歩もひかない運動をはじめ、各界から注目される活動をすすめてきました。この運動をさらに発展させるためには、「数は力」といわれるとおり、組織拡大に積極的に取り組む必要があるのです。
あたらしく加入したなかまも、そしてすでに加入し公然化しているなかまも、「要求実現の早道は組織拡大から」を合い言葉に、一人一人がオルガナイザー(組織者)となって、未組織のなかまにはたらきかけましょう。
要求実現の早道は組織拡大にある
なかまをふやす活動は、とくにむずかしいものではありません。だいじなのは、「なかまをふやすことが、みずからの労働条件向上の最大の力」という原点に、たえずたちつづける姿勢をわすれないことです。
よくみられるのは、自分の企業のなかだけでものごとをみようとする考え方です。これでは、社長が「もうかっていないから賃あげはこれだけ」といわれて、ぐうの音もでません。また、「地域の同業他社はもっと低い」といわれたときも、言葉につまってしまうでしょう。
地域全体の同業他社も、足なみそろえて賃金・労働条件引き上げをはからなくてはならないような運動をすすめるには、まわり道に見えても組織を拡大し、職場の要求を産業別統一斗争にむすびつけることが決め手となるのです。
未組織のなかまの状態をたえず調査すること
未組織のなかまとつながりをもつためには、ビラまき、立て看板、家庭訪問、工場・職場訪問などさまざまな手段がありますが、出発点となるのは、その地域・業種の情勢をたえず分析することです。
なかまがどのような職場環境・労働条件で働かされているのか。どんな要求・悩みをもっているのか。それをそれぞれの未組織の職場に即してつかむのです。このために地域の企業・産業の動向をしらべることもわすれてはなりません。
組合づくりを訴えるにしても、未組織のなかまの腹の底の気持ちや要求にぴったりこない、まとはずれな働きかけでは、労おおくして成果はすくないとなりがちです。
「口は小さく、耳は大きくが信頼関係をうむ
さて、未組織のなかまとつながりができました。個個で、大事なのは、あなたや組合の活動をほこらしげにしゃべることや、「組合とはこういうものだ」とお説教をすることではありません。
「この人間は、おれの悩みや要求をほんとうにわかってくれるだろうか」--。未組織のなかまは、あなたをまず、こんな目でみています。それもとうぜん、いままではなに一つ人間関係がないのですから。だから、あなたの仕事は、まず徹底的に、そしてそのなかまの立場に立って、悩みや要求に耳をかたむけることからはじまるのです。
おなじ労働者なんだという信頼関係をつくることが第一歩。そこから、要求が整理され、たたかいに立ち上がるなかまのエネルギーをひきだすつぎの仕事がはじまるのです。
安易な請負は禁物
組合づくりのすべての段階を通じて、「請負主義」は禁物です。
準備会活動のときも、公然化後も、とにかくあなたはたよられることがおおいでしょう。そしてそれは、「きもちのいい」ことです。
しかし、調子にのって「すべておれにまかせとけ」といった請負主義は、けっきょくのところ、そのなかまたちの「一人だち」をさまたげる結果しかうみません。
つねにわすれてはならないのは、「組合づくりの主人公は、未組織の仲間自身だ」ということです。なかまがみずからの力で立ち上がること。はじめて社長ら会社と対決すること、職場のなかまの団結にあれこれ苦労してみること、一つ一つの成果が自分たち自身の活動で勝ち取ったものだと確信すること--これらの道筋を指導・援助するのがオルグや地域のなかまの役割なのです。
「労働組合に加入するのは、労働者の人間としての自立宣言」と労働運動の大先輩たちはおしえています。そしてオルグはつぎには、団結することで自分たちの偉大な力を発見し、確信したなかまに、「こんどはみなさんがあたらしいなかまをふやす番だよ」と助言することです。
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最終更新:2025年01月04日 22:15