0344:恋する少女は盲目で友達の声も耳に入らないの



「あっ……」
 その痛みは、注射の比ではなかった。
 見慣れた友人の歯が、牙が、首筋に食い込む。血が滲み、激痛を訴える。
(綾さん……牙……吸血鬼……!)
 言葉には出せないスローペースな思考が、やっと現在おかれている状況を把握した。
 綾は吸血鬼で、つかさは女性だ。吸血鬼は女性の血を好むという。だが、吸血鬼が女性の場合は?
 そんなどうでもいいことを思いながら、つかさは死の危機に瀕していた。
 血を吸われていることに、気づいたのだ。

「ちゅー、ちゅー」

 まるでストローでジュースを飲むかのように、綾は恍惚な表情を浮かべながら喉を唸らせている。
 血というものは、そんなにも美味しいものなのだろうか。人間であるつかさとしては、まるで想像できない。

「ちゅー、ちゅー」

 見れば見るほど、綾の表情は幸せそうだった。
 やっぱり、これが吸血鬼の本性なのだろうか。これが吸血鬼にとっての、当たり前なのだろうか。

「ちゅー、ちゅー、ゴクッ」

 綾の喉が、可愛らしく鳴った。本当にジュースを飲む子供のようだ。
(綾、さん)
 意識が遠くなる。
 ああ、そうだ。
 綾が飲んでいるのは、自分の血だったんだ。

 再認識したつかさは、それでも自分が殺されようとしていることには気づかなかった。否、受け入れられなかったのだ。
 綾は友達で、綾は人間で、綾は生きなくてはならないから。だから。
(こんなこと……しちゃ、駄目だよ、綾さん……)
 意識はとうに薄れ、眩暈が襲ってきた。貧血なんて言葉じゃあ済まされないだろう。
 もう言葉を発することもできない。友達に、まだ言いたいことがあるのに。

(なに、言ってんのよ……)
 つかさは心に一喝し、最後の力を振り絞る。本当に、最後の力だ。
 スカートのポケットにしまってあった、護身用のワルサーP38。それを取り出し、しっかりと手に握る。
 綾の背中に手を回し、互いに抱き合うような形になる。

(根性見せろ……西野つかさリサリサさんが……見てるぞ)

 これで、最後にしよう。これで、頑張るのは最後にしよう。
 リサリサさんが守ってくれた命、友達のために使うなら悪くないよね。
 真中くん、綾さんは、私があっちに連れて行くから。

「一緒に…………真中くんのところに行こう……綾……」

 引き金を、引いた。
 綾の背中を貫通して、自分ごと。
 飛び出した銃弾は二人の女性の腹部を貫き、闇に消える。

「――AYA!?」

 銃声に驚いたウォーズマンが、綾に声を掛ける。
 だが、返事はない。何もしないとは言ったが、これは一大事だ。
 思わず駆け寄ったウォーズマンは、三歩ほどで足を止めた。

 倒れた少女は、一人だけだったから。

「あ、れ……」

 倒れゆくその身体を見て、綾は疑問符を浮かべる。
 先ほどの銃声とつかさの手に握られた銃を見て、状況を受け入れる。
 それは、あまりにも悲しい結末。

「はは……バカだな、西野さん……私はもう……人じゃないから。こんなことじゃ……死なないのに」
 つかさの放った銃弾は、綾の右脇腹を貫通していた。
 それでも、致命傷にはならない。吸血鬼にとってはこんなもの、かすり傷だった。
 でも、つかさは違う。腹部から大量の血を流し、ピクリとも動かなくなってしまった。
「あ……血……まだ残ってる……」
 つかさにまだ"飲み残し"が残っていることに気づくと、綾は再びつかさの首筋に牙を立てた。

「ちゅー、ちゅー」
 さっきと同じように、ストローを吸うような覚束ない動作で、血を一滴たりとも残さず吸い尽くす。
 先ほど受けた傷も、見る見るうちに塞がっていく。
 次第にズズズッという枯れた音が聞こえてきたが、綾はそれでも喉を動かし続けた。
 まるで、いなくなってしまった友達を追い求めるように。


「にし、の、さん」
 憧れだった。真中くんとあんな風に明るく接せられて、私にはできないことができて。私より数倍も魅力的で……勇気があって。
 だから、真中くんはあなたの傍にいたんだよね。私なんかよりも、西野さんといることを選んだんだよね。
「つ、か、さ」
 それが悔しくて、私も真中くんと一緒にいたくて、それで……それで……

「うっ、うう……」
 どうしてだろう。
 失ったと思った涙がまた出てきた。
 もちろん心の中の話だけど。人間をやめてしまったはずなのに、私は、

 西野さんの死を、悲しんでる。

 こんなことじゃあ、DIOに笑われてしまう。
 ごめんね、西野さん。本当にごめん。あとでDIOが、必ず生き返らせてくれるから。
 とりあえず、叫ぼう。

「――UUUURRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 少しだけ、気が紛れたような気がした。




 どうも毎度おなじみ、宇宙一ついてない男、追手内洋一です。って、今日も初っ端からついてねー!
 あの怖い顔のオジさんに会って気を失ってから何時間経ったのか分かんないけど、俺はいつのまにか火傷を負っていました。
 しかも、今はなんか怖そうな金髪の男の人に襟を掴まれて宙ぶらりんにされています。目覚めて早々これかよ、ついてねー。
 状況がうまく飲み込めないけど、あの怖そうなオジさんと俺を掴んでる金髪の人は敵対しているようです。
 俺関係ないじゃん。なんでこんな目に遭ってんの? はぁ~ホントついてねー。


「――どうだねケンシロウ? このDIOの軍門に下らないか?」
「断る。貴様のような悪党と揃える拳は持ち合わせておらん」
 洋一の心情などお構いなしで話を進めるケンシロウとDIO。
 ウォーズマンの燃焼砲による民家襲撃から既に数十分。
 つかさを救出に向かいたかったケンシロウだったが、不運にももう一人の関係者、たまねぎ頭の少年が人質に取られてしまった。
 どうすることもできなくなったケンシロウは、DIOのつまらぬ勧誘などを断りながら、ただ無駄に時間を浪費していた。
 打つ手なし。二人の人質の前に、ケンシロウはじっくりと機を窺う。

(つかさは攫われた。殺そうと思えばあの場で殺せたはずなのにだ。ならば、すぐに死ぬような心配はない。
 今最も危険なのは……あの少年か)
 その少年、追手内洋一といえば、DIO相手に死んだフリなどをしている。
 既に気絶から覚醒していることは明白だったが、そこにツッコむ者は誰もいなかった。
 だが、一つ気がかりなことがある。先ほど聞こえた銃声。もしあれが、つかさの持っていたワルサーP38のものだとしたら。
 そう危惧していた矢先。

「――UUUURRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 女性の声質による、けたたましい雄叫びが聞こえてきた。
「なんだ!?」
 その尋常ならぬ雄叫びに畏怖を覚えるケンシロウに、DIOが怪しい笑みを見せる。
「どうやら、"AYA"の食事が終わったようだ……もう時間を稼ぐ必要はなくなったな」
「食事、それに綾だと!? まさか……"吸血鬼になった東城綾"のことか!?」
「おや、ケンシロウも彼女と面識があったのか? いや、西野つかさから彼女のことを聞いたのか……
 どちらにしても、AYAは西野つかさの"殺害"に成功したようだ。残念だったな、ケンシロウ」
 淡々と述べるDIOに、ケンシロウは我が耳を疑った。
 綾がつかさを殺した?
「馬鹿な。彼女はつかさを優勝させようとしていたと聞いているぞ」
「事態や人の心情など、時間と共に移り変わっていくものなのだよ」

 クククッ、と人を小馬鹿にするような態度を取るDIOに、ケンシロウの怒りは沸点を越えた。
「……さて、無駄話をしている時間はなくなったな。
 本来なら私も君と決着を付けたいところだが……朝日も近いのでね。今日のところはこれで失礼しよう」
「逃げられると思っているのか?」
「思っているさ。私は君から容易く"逃げられる"。これは揺ぎ無い事実だ……
 それとこの人間だが、君に返却しよう。血を吸うにしても不味そうだしな」
(ひ、ひでー! でもちょっとラッキー!)

「貴様は逃がさん……俺がこの場で屠る……!!」
 熱く闘気を滾らせるケンシロウを嘲笑うかのように、DIOは『スタンド』を出現させた。
 もはや人質などたいして意味を成さない。今のケンシロウを止めることなど誰にできようか。
 もしも止められる人間がいるとするならば、それは"時間すらも支配できる存在"に違いない。

「残念だよ、ケンシロウ。決着はまた、夜に、な」
 その言葉を最後に、ケンシロウが駆け出した。
 その瞬間。



「 世 界 (ザ・ワールド)」



 ――時が、止まった。




 月が姿を隠し、朝日が素顔を見せる時刻。
 西野つかさの埋葬を終えたケンシロウは、木で使った粗末な墓前の前で、言葉を綴った。
「すまない、つかさ。俺は、君を守ることができなかった……」
 つかさを殺したのは、東城綾というつかさの友達。
 吸血鬼に変貌し、人の心を失い、それでもつかさが説得しようとした友達。
 そんな友達に、つかさは殺された。
東城綾は、俺が止める。君の代わりに、この俺が。そのためには」
 彼女を先導し、誑かした存在。それを滅する必要がある。
「DIO……リサリサが敵対していた、"吸血鬼"。俺が、この北斗神拳の名に懸けて」
 全ての元凶は、あの男にある。あの場では逃げられてしまったが、今度会った時には、必ず。

「倒そう」

 墓前に誓いを立て、ケンシロウは立ち上がった。
「ケンシロウさん……」
 そんなケンシロウの後ろから、たまねぎ頭の少年が顔を出した。
「洋一か……分かってくれ。俺は君を守ることができない。俺には、何よりも先に倒さねばならぬ敵ができた」
「うん……」
 洋一が眠っている間に起こった出来事は、ケンシロウの口からあらかた聞いた。
 酷い話だ。正義感に欠ける洋一でさえ、そう思った。
 できることなら、自分がラッキーマンの状態であるなら、なんとか協力したい。
 でも仕方がない。なんにもできないついてない少年のままでは、ケンシロウのお荷物になるだけだ。百パーセント死ぬ。
(死にたくはないよな~……らっきょがあればな~……)
 頭を悩ませる洋一の肩を、ケンシロウが優しく叩いた。
「心配するな。君を一人で置いていったりはしない。
 DIOは吸血鬼……夜までは行動を起こさぬはず。それまでに、誰か信頼できる仲間を探そう」
「へ? あ、うん」
 気のない返事を聞いて、ケンシロウは苦笑しながらも歩み始めた。
 まずは、洋一を預けられるような信頼に値する人物を探そう。そして、

(DIO……貴様はこの俺が倒す)
 ケンシロウの内に燃える"怒り"は、未だ収まらずにいた――





 ――ねぇ、リサリサさん。私、ちゃんとやれたかな?
 ――マァムさんも、見ててくれた? 私、友達を救えたんだよ。

 ――ケンシロウさんは、私を守れなかったって嘆いてないかな?
 ――あのたまねぎの男の子は無事かな? 無事でいて欲しいな……

 ――北大路さん、真中くん、私も今そっちにいくね。大丈夫。綾さんも一緒だから。
 ――あれ? 綾さん? どこ……?

 ――先に行ったのかな? 焦らなくても、真中くんはどこかへ行ったりしないのに。
 ――まぁ、いいや。もう頭を悩ませる必要もないんだよね。

 ――あっちの世界なら、みんなが笑って暮らせるよ。
 ――私も、真中くんも、東城さんも。

 ――大丈夫、みんな一緒だよ…………


 この日、一人の少女が旅立った。
 最後まで友達を思って、奮闘した強い少女が。
 現世に残された吸血姫は、今日のことを決して忘れないだろう。

 西野つかさという、大切な友達がいたことを――



【愛知県/深夜】
【アビゲイル@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
 [状態]:精神力・体力・疲労大、左肩貫通、全身・特に右半身に排撃貝の反動大、無数の裂傷 (傷はサクラによって治療済み)、睡眠中
 [装備]:雷神剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神-、ディオスクロイ@BLACK CAT、排撃貝@ONE PIECE、ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
 [道具]:荷物一式×4(食料・水、十七日分)、首輪、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@DRAGON BALL、超神水@DRAGON BALL
     無限刃@るろうに剣心、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)、『漂流』@HUNTER×HUNTER
 [思考]:1.朝まで休息。
     2.起床後、近くのオリハルコン反応(フェニックスの聖衣)を調べに向かう。
     3.サクラを護る。
     4.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
     5.レーダーを使ってアイテム回収。
     6.首輪の解析を進める。
     7.協力者を増やす。
     8.ゲームを脱出。

【春野サクラ@NARUTO】
 [状態]:睡眠中
 [装備]:マルス@BLACK CAT(アビゲイルから譲渡)
 [道具]:荷物一式(一食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
 [思考]:1.朝まで休息。
     2.四国で両津達と合流。
     3.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
     4.ナルトと合流する
     5.ヤムチャは放っておこう。


【愛知県/黎明】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO
 [道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
 [思考]:1.ひとまずマミーのいる小屋に帰還。
     2.綾、ウォーズマン、マミーを利用する。

【ウォーズマン@キン肉マン】
 [状態]:精神不安定、体力微消耗
 [装備]:燃焼砲@ONE PIECE
 [道具]:荷物一式(マァムのもの)
 [思考]:1.DIOに対する恐怖/氷の精神
     2.DIOに従う。

【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化、右腕なし、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、ちょっとブルー
 [装備]:特になし
 [道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
 [思考]:1.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
     2.DIOに協力する。
     3.真中くんと二人で………


【愛知県・西野つかさの墓前/早朝】
【ケンシロウ@北斗の拳】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
 [道具]:荷物一式×4(4食分を消費)、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢、手裏剣×1@NARUTO
 [思考]:1、洋一を預けられる人物を探す。 
     2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
     3、つかさの代わりに、綾を止める。
     4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
     5、ダイという少年の情報を得る。

【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
 [状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、疲労
 [道具]:荷物一式×2(食料少し消費)、護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATHNOTE、双眼鏡
 [思考]:1、できればケンシロウに協力したい。
     2、でもやっぱり死にたくない。


【西野つかさ@いちご100% 死亡確認】
【残り47人】

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332:悲しい戦士のギャンブル アビゲイル 378:Eosの涙
332:悲しい戦士のギャンブル 春野サクラ 378:Eosの涙
334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 DIO 357:ニアミスの朝
334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 ウォーズマン 357:ニアミスの朝
334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年 東城綾 357:ニアミスの朝
321:少女の選択 西野つかさ 死亡
321:少女の選択 ケンシロウ 378:Eosの涙
321:少女の選択 追手内洋一 378:Eosの涙

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最終更新:2024年07月13日 08:06