0254:崖っぷちの正義と悪〈後半〉  ◆kOZX7S8gY.





ヒーロー+正義超人+海賊 VS 大魔王+氷炎将軍

皆、独特の肩書きを持つ戦士。
その戦士たちの決闘――否、命を懸けた――死闘。

「よ(4)、な(7)、」

世直しマンの体が、光に包まれる。
悪を打ち砕く、閃光が衝撃波が――

「お(押)ぉぉぉぉぉし!!」

放たれた。
標的は、大魔王を名乗る緑肌の男――ピッコロ

「――ちぃぃ!」
格闘戦オンリーかと思われた、世直しマンからのエネルギー放出攻撃。
ピッコロの咄嗟の反応は、これをギリギリで避けることしかできなかった。

世直しマンの放ったエネルギー波は、ピッコロを捉えることができずに奥の山林をなぎ払う。
ギリギリで直撃を避けたピッコロだったが、地面を転がり、体勢を崩してしまう。
一対一なら立て直す暇もあろうが、この戦いは違う。

「――うらぁ!」
この戦いは、ピッコロにとって一対二。
体勢を瞬時に立て直せず、片膝をついた状態で襲ってきたのは、バッファローマンの腕。
1000万の超人パワーを誇る、豪腕によるラリアットが迫る――!

「ぐはぁっっ!!?」
直撃。パワーにものを言わせたその衝撃は、ピッコロの身体を易々と弾き飛ばした。
再び地を転がるピッコロ。その大魔王に、容赦ないさらなる追撃が――

「――よ!」
転がった体勢から起き上がろうとするピッコロに向けて放たれる、世直しマンの拳。
しかし、ピッコロはこれをいとも容易く掴み取る。

「――な!」
一撃目は、フェイント。
本命は、未だ座り込んだままのピッコロの眼前に迫っていた――世直しマンの脚部。

「な、がぁぁぁっ!!?」
気づいたときには、もう手遅れ。
世直しマンの蹴りはピッコロの顎を直撃し、上空に跳ね上げる。
そして、休む間も与えず次なる連撃。
同時に飛び上がった世直しマンによる、空中――

「――おしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
――回し蹴り!

その全体で一秒にも満たない連撃が、ピッコロを地に叩きつける。

「――――が、はぁっ……!!」
フレイザードが見たら、抑えきれずに爆笑しそうな光景。
仮にも大魔王を名乗ったピッコロは、世直しマンの攻撃によって血反吐を吐いたのだった。
(ば……かな! この、このピッコロ大魔王が……こんなやつらに!?)
世直しマンの、予想をはるかに超える実力。
バッファローマンの、自分を越えるパワー。
全ての力が、ピッコロの予想を上回った。

二人から必死に距離を取り、なんとか体勢を整えるピッコロ
その心中は、激しく乱れていた。
認めたくない事実を、認めたくなければいけない、今の状況を嘆いた。
(こやつらは……強い! 先程の麦わらの小僧などより! ……とても二人一遍に相手をすることは…)
思いかけて、閉じた。
それだけは、認めてはいけない。仮に一対二といえど、大魔王が敗北を認めることなど、あってはならないのだ!
(そうだ……私の真の力は、こんなものではない! 大魔王の真の力の前では、こやつらとて小虫同然!!)

「クク、ククク……ハァァーーーーハッッハァァァァァ!!!」
ピッコロは笑う。全てを揺るがす、大魔王の大笑い。

そんなピッコロを、二人のヒーローは珍妙に思っていた。
「なんだぁ!? 突然笑い出すたぁ、どこまでおかしなヤローなんだ?」
「気をつけろ、バッファローマン。奴の目……まだ狂気は消えてはいない!」
無論、バッファローマンとて油断などしていない。
肌で感じたピッコロの強さは、彼が戦ってきた数々の超人にも劣らない。
だが……彼と、世直しマンと一緒ならば、負ける気がしない。
バッファローマンは、世直しマンを信頼できるタッグパートナーに迎え、確かな希望を感じていた。
彼や、キン肉マンら他の正義超人と一緒ならば……必ず勝てる! こんな、非道なゲームを主催したやつらにも――

「ククク……」
ピッコロの笑いは、依然として止まらない。
懐から、なにやら怪しい小瓶を取り出し、その蓋を開ける動作の最中も。
世直しマンバッファローマンには、それが『絶望』への引き金だということもわからず――




「ヒャハハハハハァァァッ! マヒャドォ!!」
フレイザードの放つ氷結呪文。それは、気高く生い茂る山林の内部を、容赦なく凍結させる。
その中に紛れる、標的を狙って。

「あぶねぇだろうが、こんにゃろー!」
「なに!?」
フレイザードの標的――ゴム人間のルフィは、マヒャドを放った方向とは、真逆の位置から姿を見せた。
すなわち、フレイザードの後方。振り向いたそのときには、ルフィの攻撃が――

「ゴムゴムの……銃〈ピストル〉!!」
「グアァァッ!?」

振り向き見せたその顔面に、ルフィの拳が激突。
防御も叶わず、フレイザードはその身体をぶっ飛ばされた。

ルフィ対フレイザード
彼らが戦う場は、深く生い茂った、ジャングルのような山林。
ピッコロに言われたとおり、ルフィのみの相手をするため、ここに連れ込むことに成功したフレイザードだったが……
正直、ここを戦場に選んだのは失敗だった。
その理由は、この周りの木々。
高く聳える木々は、敵の姿を隠し、攻撃の邪魔をする。それは本来、双方に言えることのはずなのだが、
フレイザードの相手……ルフィは、このフィールドを有効活用していた。
腕や足を、時には首までを器用に伸ばし、木の間を駆け抜けている。
そう、まるで本物の『猿』のように。

「ゴムゴムのぉぉぉ……」

ルフィは、右腕をぐるぐると木に巻きつけ固定。そして、地から身体を離す。
ゴム独特の反動が生まれ、螺旋階段を上るように上空に巻き上がったルフィは、再びフレイザードめがけて、攻撃を仕掛ける。

「……鞭ィィィィィ!!!」

空から、鞭のように撓るその蹴りを、

「――ゲッ、」
浴びせ――

「アアアアアアアッッッ――――!!?」
ぶっ飛ばした。

ルフィの、伸びる身体と、戻る力。
この山林内では、それが十分に発揮できる。
もっともルフィ自身、この戦法は考えてではなく、本能でやっているのだが。
――まさに、『モンキー』・D・ルフィ。

対してフレイザードのほうは、焦りを見せ始めていた。
度重なる攻撃に、体はボロボロ。疲労も回復しきっていない。
適当にあしらうつもりだった相手に、予想外の苦戦。
フレイザードの脳裏に、『敗北』の二文字が浮かびかけ――
「オレ様が負ける……ハッ、冗談じゃねぇ」
――即座にかき消した。
フレイザードが欲するのは、常に『勝利』の二文字のみ。
バーン様から、『勝利』の栄光を掴み取るため……負けは許されない。
「いつまでも……好き勝手にやらせてると思うなよぉ……!!」
またもや姿を消した敵に、フレイザードは言葉を送る。
死を与える、呪文を。

「メラゾーマァァァァ!!!」

――魔法の力で形成された、紅蓮の劫火。
ターゲットは、姿の見えぬルフィ……ではなく、前方の木。
メラゾーマの一撃に、抵抗することなどできるはずもなく、木は燃える。
一瞬で赤く染まり、その赤は、両隣の木へ。その木の赤も、さらに隣の木へ。次へ次へと、伝染していく。
炎は……フレイザードの前方一帯に燃え広がった。

山火事。それこそが、フレイザードの狙い。
ここは草木の密集地。この火が山全体に燃え広がれば、ここにいる者は皆、ただではすまない。
今戦っているルフィも、崖際で戦っているピッコロも。
もちろんこの炎では、氷の半身を持つフレイザードも、戦える状況ではない。
いや、なにも無理に戦う必要などないのだ。放っておけば、あの麦わらの少年もいずれ焼け死ぬ。
他の者が火事に気を取られている、その間に自分は……

「ヒャハハハ、ヒャーーーハハハハハハハハハハァァァァ!!!」

そう、彼が考えた最善の勝利策は……「逃げるが勝ち」だったのだ。
もともと、この場には敵しかいない。一遍に死んでくれるなら、好都合。
フレイザードの、あまりにも外道な笑いが轟く。

「ヒャハ……?」
その中で、フレイザードは見た。
炎に燃える木々の渦中、涼しげな顔で立つ、麦わらの少年の姿を。
ルフィの周りには、確かに炎が燃え盛っている。身を置いていれば、火傷は必至。
なのに、ルフィは涼しい顔で、その、真っ直ぐな瞳をフレイザードに向け。

(な……なんだこいつ。なんなんだ、その顔は、その、目はよぉ!?)
フレイザードが動揺したのは、一瞬。
そのときは、行動なし。

「ゴムゴム……」

(……?)
次の一瞬、フレイザードは気づいた。ルフィの腕が、両方とも後方に伸びきっていることに。
そのときも、行動なし。

「ゴムゴムの……」

(……!)
そのまた次の一瞬、フレイザードは感じた。確かな、嫌な予感を。
同時に、見た。ルフィの涼しい顔の中に、確かに燃え上がる、炎の宿った瞳を。
そのとき、初めて体がピクリと動いた。

    そ し て 、 次 の 一 瞬 。

(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)



 「―――――バズゥーーーーーカァァァァァァ!!!!」


放たれたのは、ルフィ必殺の、『ゴムゴムゴムゴムのバズーカ』。
大きく伸ばした反動を利用し、両腕を相手に叩きつける。
その反動が生む『戻る』力は、時間にして、まさに一瞬。
気づいた時には、すでにフレイザードの身体に――

数々の一瞬を重ね、放たれた一撃――フレイザードは、ルフィの攻撃に対応できなかった。
この炎の中、構うことなく攻撃してきたという意外さもあるが、なによりルフィが見せた不思議な威圧感。
それによって生まれた数々の無駄な一瞬が、フレイザードの逃げる隙を殺した。
まるで、自分の時が止められたように感じたのだ。

フレイザードを捉えたルフィの腕が、伸びる。
どことも知らない山の中を、どことも知らない果てめがけて。
フレイザードの後方に位置していた、まだ燃えていない木々はその障害となるが、

――ルフィの腕が伸びる、フレイザードが木にぶつかる、破壊。
――ルフィの腕が伸びる、フレイザードが木にぶつかる、破壊。
――ルフィの腕が伸びる、フレイザードが木にぶつかる、破壊。

この、繰り返し。
その衝撃は全てフレイザードの身体に移り、確実なダメージへと昇華されていく。


やがて、木を破壊する感触がなくなり、伸びた腕が戻ってきた。
戻ってきた手のひらに、フレイザードという存在はない。
確認すると、ルフィの前方には、無残に折られ、散らばる木々の残骸が広がっていた。
そのずっと先、どこまで見据えても、炎と氷の化け物の姿はなかった――




山形県のとある山から、濛々と煙が立ち昇る。
その内部では、炎で赤く染まる山林、悲鳴を上げる小動物の姿。
しかし、この山の一箇所だけ……南側の崖際だけは、唯一静寂に包まれていた。
ほんの、一秒ほどだったが。

「――グワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!?」

静寂を破ったのは、普段決して叫びなど上げない、男の悲鳴。

「!? ――バッファロォーーーマァァーーーーン!!?」

悲鳴を上げたのは、角を生やした大男――バッファローマン
その名を叫んだのは、鎧の男――世直しマン

「ククク……」

笑ったのは、大魔王――否、『真』大魔王ピッコロ

その光景は、唐突、衝撃、無残。

何気なく取り出した小瓶。それに入っていた木の実。それを飲み込むピッコロ
跳ね上がった邪気。加速する大魔王。繰り出された手刀。貫かれる鋼の肉体。

ピッコロの腕は、分厚いバッファローマンの身体をいとも容易く貫いていたのだ。
傍らの世直しマンがその事実に気づき、次の動作に移ろうとしたその瞬間も、真大魔王の脅威は止まらない。
「ふん」
至近距離からの――爆力魔波による追い討ち。
ドンッ、という爆発音と共に、バッファローマンの身体は、大きく後方に吹き飛ばされた。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
突如迫る、世直しマン
目の前でバッファローマンがやられたことに逆上するかのような叫びを上げ、ピッコロに攻撃を仕掛ける。
「はっ!!」
拳、次いで蹴り、拳、次いで蹴り、蹴り、次いで拳、拳、拳、蹴り、蹴り、拳……
本気の力を注いだ、怒涛のラッシュをかける。
しかし、そのラッシュでは……ピッコロを圧倒することはできない。
「ふん! は! ハァ!!」
世直しマンの超スピードによる攻撃は、全てピッコロに捌かれる。
二人のスピードはまったく同じ。どちらかが攻めれば、どちらかが守る。攻撃と防御のせめぎ合い。
そのせめぎ合いは、片方のスピードがわずかに上回ったとき……崩れる。
手数が一つ増した、その腕で繰り出すは――攻撃。

「かあぁっ!!!」
速度で勝り、確実な一撃を相手に与えたのはピッコロ
せめぎ合っていた両者の身体が離れ、世直しマンが弾かれる。
しかし、その入ったかどうか微妙な一撃のみでは、世直しマンは下せない。
「よ(4)!」
距離の出た二人の間、世直しマンは即座に必殺技の発動を――
「遅いわノロマがぁぁ!!!」
世直しマンが右手に四本の指を立てる仕草の途中、ピッコロはそれより速く、先制する。
速攻の……爆力魔波!
手に凝縮されたエネルギーは世直しマンの『よなおし波』よりも一足早く、破壊を生む。

爆破、爆撃、爆煙。
ピッコロの手から放たれた破壊のエネルギーは、世直しマンの周囲一帯を吹き飛ばした。
閃光の後に生まれた爆煙は、世直しマンの身体を覆い隠す。
彼がどうなったか、視覚で確認することはできないが、結果は誰にでも予想できる。
破壊のエネルギーの直撃を受け、その身体は見るも無残に粉々になった。

――だろう。 常 人 な ら ば。

「くおおおおおおおお!!」
爆煙の中から飛び出したのは、土埃を被った程度の鎧の姿。
世を正すヒーローは……世直しマンは、これしきの爆発では死なない。
「なにぃ――!!?」
完全に勝利を確信していたピッコロ
煙から飛び出し、突進してきた世直しマンに、反応できない。

「――ハァ!!」
世直しマン、気合の一撃。
防御を許さぬ電光石火のパンチは、ピッコロの腹へと深く、深くめり込み――
「アァ!!」
――殴り飛ばす!!!
「ぐほうっ!?」
が、それはピッコロの執念か、二、三歩後ずさりした程度で踏みとどまる。
すぐにでもカウンターを送り込みたいが、衝撃の反動で、身体が言うことをきかない。
『真』大魔王となった身体で、初めて受けた大ダメージ。

「――――避けろォォォォォォ、世直しマぁぁぁぁぁぁぁぁン!!!」
「――!!?」
轟く回避の合図。
その頼れる声質を瞬時に耳にし、言われたとおりその場から離れる世直しマン
一方ピッコロは、回避反応ができなかった。
その声が、先ほど殺したはずのバッファローマンのものだったから。

「な……」
ピッコロが見たのは、巨木。
近くの山林に生えるものの中でも、一際大きな巨木。
その巨木が、牛角の大男に持ち上げられ、放り投げられ、今、ピッコロの眼前に――!
「……にぃぃぃ!!?」
なんという無茶苦茶な攻撃。
バッファローマンのパワーだからこそ成せる、巨木の投擲。
この体積が圧し掛かったら、ただでは済まない。その体積ゆえ、避けることもできない。
――世直しマンとの戦いで、ピッコロはいつの間にか崖の淵まで追いやられていたから。
逃げ場を失った以上、防ぐ方法は――破壊のみ!

「おのれ死にぞこないがぁっっ!!」
怒りの爆力魔波。
大空を飛んできた巨木は爆破され、粉塵となり、ピッコロの頭上に降り注ぐ。
と、ピッコロが上の方に気を取られている隙に、それは、飛び出した。
「ぬ?」
ピッコロの身体に、ぶつかった。
「な?」
ピッコロの身体を、押し出した。
「ん!」
ピッコロの身体を、落とした。
「だ」
足場のない、崖下へと。
「!!?」
自分の身体、もろとも。
「――」
――――イヴが。

ピッコロとイヴの身体が、転落していく。高い山から、地表へと。
いったい何メートルあるのかは、予想がつかない。
明白なのは、落ちればただでは済まないということ。
常人なら即死――大魔王クラスの者でも、生きていられるかどうか。

「――――バカめ!」
その言葉は、一緒に転落したイヴに向かって吐き捨てる。
自分の身を犠牲にした苦肉の策だったのだろうが、生憎ピッコロには飛行手段がある。
こんな空中に落とされても、すぐに身体を制御することが可能なのだ。
「――!?」
と、ピッコロはまた見た。
自分の眼前に迫る、先ほどの巨木よりは小さいが、衝撃的な印象を与える物体を。
それは、ハンマー。
工具として使用するものではなく、武器として使用できるような……壊す、潰すという言葉のために作られたような、巨大ハンマー。
そのハンマーは、一緒に落下中のイヴの頭部に繋がっている。
ピッコロは知らない。これがイヴの持つ、能力であるということも。
これが、彼女渾身の、変身〈トランス〉であるということも。

――ドゴンッ!!!

それは、ピッコロが空中制御するより早く。
イヴの髪を変化させたハンマーは、ピッコロの身体を、
「がっ……あ……」
文字通り、叩き、落とした。
山のふもと、地上まで――

ピッコロのいち早い落下を確認し、イヴは次の行動に移る。
このままでは自分も落ちてしまう。だが、彼女もピッコロと同じように飛行手段を持つ。
それは変身〈トランス〉能力を使った、翼の構築。
ハンマーがピッコロに当たったすぐさま、髪の変身〈トランス〉を解き、天使のような純白の翼を――

(――――できない!!?)

それは疲労のせいか。イヴは先ほどの変身〈トランス〉で力を使い果たし、翼を作り上げることができなかった。
翼がなければ、飛べない。飛べなければ、あとはただ落ちるのみ。
落ちたら――――死ぬ。

(―――――――――スヴェン!)

瞬間、頭に浮かんだのは大切な仲間。
イヴはまだ、再会していない。
一緒に戦い、一緒に暮らした大切な仲間――トレイン――スヴェン――リンス――誰とも。

(助けて――――!!)

上にはヒーローがいる。助けを呼べば、助けてくれるだろうか?
しかし、イヴのか細い声では、崖の上まで届くはずもなく――

「――イヴぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

聞こえたのは、仲間の声。
スヴェンでも、トレインでも、リンスでもなく。
この世界で出会った、仲間の声。
月でも、ゆきめでも、エテ吉でもなく。

(――ルフィさん!)

なによりも仲間を大事にする、海賊、モンキー・D・ルフィの声。

天から伸ばされたそのゴムの腕は、イヴに向けてぐんぐんと。

イヴはその救いの腕を――仲間の腕を――――


――――しっかりと、手に掴んだ。



山全体に、炎が広がる。
崖付近の周りの山林も、紅蓮の赤で染まりきる。
燃え猛る山林の隅、崖の際で、ルキアとボンチューは寄り添い呼びかける。
胸に、大きな傷をつけた、バッファローマンに。
バッファローマン!」
「……ばかやろう。なに涙なんて流してやがる。この山が燃えてんのがわかんねぇのか?
「馬鹿はあんただろうが! いいからあんま喋んな! 無理したら死ぬぞ!!」
「へっ……どうせ俺はもう長くもたねぇよ。それより、早く山を下りな……」
バッファローマンの命は風前の灯。
貫かれた胸は重要な器官を激しく損傷し、爆力魔波によるダメージは、腰の辺りを黒焦げにしていた。

「……バッファローマン
倒れるバッファローマンの傍に現れたのは、戦いを終わらせた世直しマン
その口調は平静を装っていたが、心中では感情が激動していたのは、本人しか知らない。
「よう世直しマン、あいつは倒せたか……?」
「わからん。崖から転落したようだが、あやつなら生きていてもおかしくはない」
「そうか……まあ、次があるさ。今回は、運が悪かったと思え……ぐっ!」
痛みに苦しみだすバッファローマン。もはや、喋るのも限界のようだ。
が、それでも彼の口は止まらない。

「……ボンチュー、俺の分も、ルキアのこと守ってやれよ」
「……わかってる」
ボンチューは、悔しさを噛み締める。

「ルキア、一応言っておくが、これはおまえのせいじゃねぇぞ。俺よりあいつが強かった、それだけだ」
「……うむ」
ルキアは、悔しさを噛み締める。

世直しマン……おまえとは一度、タッグを組んでリングに上がりたかったんだがな」
「上がってやるさ。おまえが生きていれば、必ずな」
世直しマンは、悔しさを噛み締める。

「へっ……無茶を言いやがる……そろそろ炎がやべぇ、さっさと行きな」
バッファローマンの言葉は、俺を置いていけ、ということ。
そんな苦渋の選択、ここにいる三人がすんなり受け入れられるはずがなかった。


「あきらめんな」
そう言い放ったのは、さっきまでフレイザードと戦っていた麦わらの少年。
世直しマン以外が苦しげな顔を浮かべる中、『船長』という立場にあるルフィも冷静を保っていた。

「おい、おまえ。なんか食いもんあるか?」
ルフィが問いかけたのは、ボンチュー
「……」
ボンチューはなにも言わず、自分の食料の中から適当に、一本のバナナを取り出す。
(……猿)
そのバナナが、黒焦げになってしまったエテ吉を連想させる。
ルフィはもらったバナナを皮ごと口に放り込み、飲み込む。
そして、おもむろにバッファローマンに近寄ると、

「……お、おい!?」
その巨体を、軽々と背負い、持ち上げた。
ルフィの見かけからは想像できないパワーに驚く一同だが、さらに驚いたのは、
「角のおっさんは、あのピッコロとかいうヤツをぶっ飛ばしてくれた。そんなおっさんを、置いてくわけねぇだろ」
誰もが諦めかけていたことを――
「おっさんは俺の仲間だ。絶対に助ける」
軽々と、やる、と言ってのけたのだ。

「鎧のおっさんはイヴを頼む。おまえは……猿を」
それぞれ世直しマンにイヴ、ボンチューエテ吉の亡骸を託し、一行は下山を始める。


バッファローマンの意識は、ルフィの背中で揺れていた。

(キン肉マン……ラーメンマン……ウォーズマン……)

思うは、仲間の超人と、

世直しマン……ルキア……ボンチュー……それに、ルフィとイヴ、か……)

新たな、『正義』の志を持つ仲間。

(これだけ、『正義』の志を持つ奴らがいるんだ……たとえピッコロが生きていようが、たとえ主催者達が強大だろうが)


期待は、大きく膨れ上がり、弾ける。

(やってくれるさ……こいつらなら)


頼もしい仲間の背の中で、バッファローマンの意識は、途絶えた。

主催者打倒への、確かな感触を掴み取り――




「――ぐぅ……おのれ、おのれ! 世直しマンバッファローマン、それにあの忌々しい小娘め!」
崖から落下し、ふもとの森に落ちたピッコロのダメージは、重症だった。
それでもなんとか生を拾い、かろうじて意識を保っている。これも大魔王の生命力が成せる業か。
「やつら……今度あったら生かしてはおかん! この大魔王が……こんどこそ殺してやる!」
その殺気は崖の上に向けて。と、そこで山が燃えていることに気づいた。
「む……フレイザードのヤツの仕業か? なんと無茶なことを……まあいい、早いところあの馬鹿と合流を……」
言いかけたところで、考える。

(――いや……このままヤツと合流するのはまずいか……もしヤツが健在ならば、必ず私を襲ってくる)
ピッコロは思い出す。フレイザードと同盟を結んだ直後の出来事を……
(――ヤツは間違いなくこの私の寝首を掻こうとしている。今の私の状態を見られたらまずいか)
世直しマンバッファローマンとの戦いで、ピッコロは重傷を負ってしまった。
今の状態では、フレイザード相手でも勝つことはできないだろう。
(――それに、ヤツが敗北しているということも考えられる)
ルフィはなかなかの実力だった。万が一、というのも十分考えられる。
(――ぐふっ、まあいい。とりあえずは休息を取らねば、まともに戦えん。
もうじき放送も流れる。フレイザードを探すのはそれからでも遅くなかろう)

行動方針を決め、ピッコロは歩き出す。
どこか休めるところを求めて。その心に憎き仇敵を殺す様を思い浮かべながら。
今回の戦いで『前世の実』の確かな威力もわかった。
世直しマンは自分を凌ぐほどの強敵だったが、『前世の実』を使えば決して勝てない相手ではない。
バッファローマン、イヴという邪魔者がいなければ、世直しマンも殺せていたかもしれない。
……実際のところ、世直しマンピッコロの力は五分と言ってしまって問題ないが、ピッコロは確実に自分が上であると信じていた。
『前世の実』が与えてくれた確かな力に、ピッコロの自信は膨れ上がっていたのだ。

次こそは、我に勝利を。次こそは、奴らに死を。
ピッコロは、ふらつく重い足取りで、傷つきながらも笑いながら、夕闇に消えていった――


ルフィに吹き飛ばされたフレイザードは、まだ生きていた。
が、その身体はところどころ砕け、ひび割れ、意識はなくなっていた。
それでもフレイザードは生きている。
山火事で、ルフィたちやピッコロが死ぬ様を思い浮かべながら。

「ヒャハ…………は、は」

意識を失っているはずのその身で、不気味に笑う。
炎と氷の化け物が、次に目を覚ますのはいつか――



【山形県南部・山中(山火事)/夕方】

【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]空腹、わき腹・他数箇所に軽いダメージ、両腕を始め全身数箇所に火傷
[装備]バッファローマンの遺体
[道具]荷物一式(食料ゼロ)
[思考]1、バッファローマンを助ける。
   2、下山する。
   3、自分と悟空と猿とイヴの仲間・食料を探す。
   4、悟空を一発ぶん殴る。

【イヴ@BLACK CAT】
[状態]胸に刺し傷の重傷(応急処置済み。血は止まっている)、重度の疲労、貧血、世直しマンに背負われている
[装備]いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]無し
[思考]1、下山する。
   2、トレイン・スヴェン・月との合流。
   3、ゲームの破壊。

【世直しマン@とっても!ラッキーマン】
[状態]中程度のダメージ、重度の疲労
[装備]世直しマンの鎧@とっても!ラッキーマン、荷物一式、読心マシーン@とっても!ラッキーマン
[思考]:1、下山する。
    2、ピッコロ、フレイザードを倒す(ルキア、ボンチューの安全を優先)。
    3、関東方面へ移動。
    4、ラッキーマン、黒崎一護、武藤遊戯を探す。
    5、ゲームから脱出し主催者を倒す。

【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし!】
[状態]ダメージ中、重度の疲労
[装備]なし
[道具]荷物一式(食料バナナ一本消費)、蟹座の黄金聖衣(元の形態)@聖闘士星矢、エテ吉の焼死体
[思考]:1、下山する。
    2、結局なにもできなかった自分に無力感。
    3、ルキアを守る。
    4、もっと強くなる。
    5、これ以上、誰にも負けない。
    6、ゲームから脱出。

【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:若干の疲労、右腕に軽度の火傷
[装備]:コルトパイソン357マグナム 残弾21発@CITY HUNTER
[道具]:荷物一式×2、遊戯王カード(青眼の白龍・次の0時まで使用不可)@遊戯王
[思考]:1、下山する。
    2、黒崎一護、武藤遊戯(カードの使用方法を知る者)を探す。
    3、とりあえず関東方面へ移動。
    4、ゲームから脱出。


【山形県南部・山のふもと(東側)/夕方】

【フレイザード@ダイの大冒険】
 [状態]気絶、腹部を中心に身体全体にダメージ大、重度の疲労、成長期、傷は核鉄で常時ヒーリング
 [装備]霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装錬金、パンツァーファウスト(100mm弾×4)@DRAGON BALL
 [道具]支給品一式、遊戯王カード1枚(詳細は不明)@遊戯王 
 [思考]1、気絶中。
    2、体力を回復させる。
    3、隙あらばピッコロを倒す
    4、優勝してバーン様から勝利の栄光を


【山形県南部・山のふもと(南側)/夕方】

【ピッコロ@DRAGON BALL】
 [状態]:重度の疲労、身体全体にダメージ大
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式、前世の実@幽遊白書
 [思考]:1、休息の後、放送でフレイザードの生死を確認。
       生きているようなら、傷が癒えてから捜索。
     2、世直しマン、バッファローマン、イヴを殺す。
     3、フレイザードを利用してゲームに乗る。とりあえず南下。
     4、残り人数が10人以下になったら同盟解除。悟空を優先して殺す。
     5、最終的に主催者を殺す(フレイザードには秘密)。


※夕方ごろ(17:30~18:00の放送直前)山形県南部の山で、大規模な山火事が起こりました。
※ピッコロ、フレイザードは、ルキアとボンチューの存在に気づいていません。
※全員、まだバッファローマンの死には気づいていません。


【バッファローマン@キン肉マン 死亡確認】
【残り80人】


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252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 ルフィ 314:"仲間"ということ
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 イヴ 314:"仲間"ということ
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 ピッコロ 297:ピッコロ大魔王の世界~相×剋~
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 フレイザード 294:フレイザードの世界~いつか勝利の旗の下で~
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 ボンチュー 314:"仲間"ということ
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 ルキア 314:"仲間"ということ
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 世直しマン 314:"仲間"ということ
252:崖っぷちの正義と悪〈中編〉 バッファローマン 死亡

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最終更新:2024年06月04日 09:26