☆ ★ ☆
わずかな輝きすらも見せない暗闇の中を僕は一人漂っていた。
これは僕の恐怖心と絶望が生み出した幻影。
本当の自分が荒木の前にいるということは理解している。
だけど、あまりにも強大すぎる邪悪に耐えかえ僕の意識があそこにいることを拒んだんだ……。
負けた
一滴の血も流さずに、一箇所の負傷もなしに
ただヤツの目を見ただけで僕の心は敗北を認めてしまっていたんだ。
情けないとは思う。
だけど体は僕の支配下から完全に逃れていた。
とても喉が渇く。
水が……水が今すぐ飲みたい。
『ゲロを吐くぐらいこわがらなくてもいいじゃあないか…
安心しろ…安心しろよ花京院』
あの時のDIOの言葉が空間を満たし、何度も何度も反響していく。
「やめろ! 僕は二度と屈したりはしないんだ!」
必死に“外側”からの声を拒む僕を“内側”からの声が犯そうとやってくる。
『本当かい?
花京院典明。
君は荒木に屈したからこんな姿になっちまったんだろ?』
「黙れ!」
『黙る? 君は僕なんだぜ?
本心から黙らせたかったら今頃僕は貝よりもに無口になってるはずさ』
「ハイエロファントグリーン!!」
この狂った空間を破壊する為に自分のスタンド名を叫んだ。
……しかし、幼き頃から傍にいた緑色の友人は僕の下へ現れない。
「なぜ……なぜ出ないんだハイエロファント!」
僕は両膝を闇へと落とし、呆然と呟いた。
『残念だったな。
スタンドは精神の力。今のお前にスタンドを仕えるだけの力は残っていない。
今、ハイエロファントを使役してるのは―――』
やめろ! やめてくれ! 結論だけは言わないでくれ!!
『僕だ』
やめろやめろやめろヤめろやメロやメろヤメろヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
「どうしたんだい花京院君? かなり顔色が悪いみたいだよ?」
なんだ? この声は
頼むから僕のことはほっといてくれ。
「ふふ、今の君の姿を
空条承太郎君が見たらどう言うだろうね?」
「空条!? 空条だとっ!?」
あぁ……うるさい! うるさい!! うるさいッ!!!
少しくらいは静かにしてくれないのだろうか?
それに承太郎達は別に関係ないだろ!
「おや? 知らなかったのかい?
空条徐倫の父親の名前だよ」
そうか。やはり徐倫とやらは承太郎の娘だったのか。
でも……もうそんな事はどうでもいい。
いや、僕にとっては全ての事がどうでもいいのだろう。
だけど……僕はまだ死にたくいない。
僕はどうしたらいいんだ? 誰でもいいから教えてくれ!!
「君が思っていることを言い当てよう花京院君。
『自分はどうすればいいのか?』君の顔がそう言ってるよ」
その通りだよ。僕は何をすればいいんだい?
君が教えてくれるのか?
「簡単さ、参加者達を皆殺しにすればいいんだよ」
「…………殺……す………?」
「うん。ほら、ここに丁度いい生贄がいるだろ?
君のスタンド、ハイエロファントグリーンで彼女を殺すのさ」
「え? うっ、嘘だろ!? ちょっと待てよ!!
聞いてねぇぞそんな話!! おい! おい! おい!」
「
グェス君、殺されたくなければ逆に殺せばいいんだよ。簡単だろ?」
景色が元に戻った。
さっきまでは出てこなかったハイエロファントも今回はちゃんと発現してくれた。
そうか、僕は目の前にいる彼女を殺せばいいのか。
ちくり
何だろう? 心が刺されたように痛い。
まぁいいか……まずは目の前にいる女を殺し、他の参加者も皆殺しにして元の世界に帰るだけだ。
ハイエロファントの両手を合わせて発射体制に入った。
エネルギーが掌へと集中していく。
エメラルドスプラッシュを当てたら生身の女など簡単に死ぬ―――
「~~~~~~~~~わかんねぇ」
ズキン
今度ははっきりと胸が痛んだ。
頭に男の低い声が響き渡る。
「~~~~~助けた?」
間違いない。これは僕の声だ。
そして、さっきと全く変わらない返事が返ってくる。
「~~~~~俺にもよくわかんねぇ」
あれ? たしかこんなやり取りをどっかでした気がする?
確かあの時の会話は―――――――
「なぜ…自分の命の危険を冒してまで僕を助けた?」
「さぁ、そこんとこだが俺にもよくわかんねぇ」
おモイダシたゾ。ジョウ太ろウトのデ会いのトキダ。
カレは。カレヲ殺そウトしたボクを助けてクレタンだ。
自身ガ肉ノ芽ニ犯サレルりすくヲ乗リ越エテ。
ソウダ……そうだよな承太郎。
ここで僕が殺し合いに乗ったら君を裏切ることになってしまう。
いや、彼だけではない。
アブドゥル、ジョースターさん、ポルナレフ
できたんだ! こんな僕にもできたんだ!!
おかしな事じゃないか!
直接言ったりはしないが確かに心は繋がっていたぞ!
初めてできたんだ! 心の底から友と呼べる存在が!
ハイエロファントの掌が日に透けた葉の緑色に輝きだす。
「エメラルドスプラッシュ!!」
僕の相棒の自慢の技。
自分の影が言っていた通り、スタンド能力は精神力に依るところが大きい。
ならば今回のエメラルドスプラッシュは威力、量ともに最高のものが出せるだろう。
狙いは当然荒木飛呂彦!
★ ☆ ★
「……なぜ僕を殺さなかった?」
「僕の機嫌が良かったからさ。ゲームが面白くて面白くて仕方ないんだよ」
沈黙の後に交わされた会話。
部屋は花京院が叫んだときと埃一つ分の変化も見せずに存在していた。
エメラルドスプラッシュを、それも生涯最高だと使い手が自負するものを喰らったら鋼鉄製の部屋であっても原型を留めるかは怪しい。
ならば何故木製の家具には傷一つ付かなかったのだろうか?
答えは単純。
初めからエメラルドスプラッシュは発射されなかったのだ。
(なぜだ?)
花京院は思考を始める。
エメラルドスプラッシュ発射前の荒木の行動。
つまり、彼のスタンド能力のことについてだ。
(エメラルドスプラッシュは発動したはずだ。
いつも通りエネルギーが集まるのも確かに感じた……)
やつの能力は何だ?
勝てない相手に向かって無駄死にするよりは、惨めに生き延びるとしても荒木の能力を突き止めて後に託すべきだろう。
花京院はそう判断して、攻撃の手を止めて思考に入った。
チラリ
ふと、隣に蹲るグェスのことを見た。
雨の日に外へ放置された捨て犬のように震えている。
口元は忙しく動き、何かを言っているのは分かったが内容までは聞き取ることが出来なかった。
彼の心が激しく締め付けられる。
罪悪感が重くのしかかり、思考を妨げようとするが花京院はあえてそれを振り切った。
(ヤツの能力はスタンドや物質を消し去る能力だろうか?
いや、時代別に参加者が集められているならば消し去るだけでは説明がつかない。
ならば物質を別の時間、別の場所へと飛ばす力か?
それともヤツには協力者がいて複数の能力を駆使してこの殺し合いを開催している?
大体、僕の仮説があってるかすら分からないんだ……)
分からないことが多すぎて考察することすらままならない。
だが、花京院はそこで諦めるわけにはいかなかった。
(簡単な答えだ。情報が欲しければ目の前にいるアイツに聞けばいい。
荒木飛呂彦! たとえ欠片であっても貴様の能力の秘密をあばいてみせよう!
僕の……僕の命に代えてもだ!)
一人決意を固めた花京院。
大きな深呼吸を一回。酸素とともに覚悟を補充する。
これから持ちかける提案は文字通り“いのちがけ”のもの。
花京院は発した。自身の全てを懸けた一言を。
「荒木飛呂彦。僕と賭けをしてくれないか?」
「僕は構わないよ。でも賭けにはチップが必要だよね?
お互いに何を賭けるのかハッキリ言ってくれないかな?
後、ゲームの種類も教えてね」
荒木は楽しくて仕方が無いのだろう。
さっきよりも遥かに口角が高く吊り上がっていた。
「手早く済ませたいから種目はじゃんけんにしよう。
純粋な運試しだ。スタンドで先読みやイカサマしたりすることが無いただの運試し。
お前に賭けてもらいたいのは一つの質問に答える権利。
僕が何を賭けるかは……お前に任せよう」
言った直後、荒木の目が明らかに細まった。
再び押し寄せる寒気に支配されそうになるが、今度は意思の力で荒木の視線を押し返す。
「よし、僕が勝ったら君には時報になってもらうとするよ。
記念すべき第一放送ののろしさ。どうだい?」
「言ったじゃないか、どんな条件だって飲むって」
「グッド! 面白い賭けになりそうだね。あっ、ただ一つだけ条件は付けさせてもらうよ。
君が勝ったとしても答えられない質問だってある。
僕のスタンド能力。この場所へと来る為の方法。首輪の解除法の三つだ
嫌だといったら僕は降りなくちゃいけなくなるんだけどいいかい?」
あくまでもこの賭けに乗ったのは荒木の気まぐれだという事を花京院は分かっている。
だから、こちらは限界まで譲歩しなければならない。
直接聞けないのは歯がゆいが全く情報無しよりは遥かにマシだ。
「では始めるとしよう」
花京院が右手を腰の辺りまで下ろす。
対する荒木は右手を正面に突き出して、そのまま空中に保つ。
「じゃん」
自分は何を出すか花京院は少し迷った。
承太郎の拳、剣を握るポルナレフのグー。
茨を出すジョセフ、アブドゥルがCFHを発射するときのパー。
もしくは間を取ったチョキ。
自分の命を賭けた究極の三択。
「けん」
答えは決まった。
拳を少し上げて再び腰辺りまで下ろす。
次の言葉を言えば自分の運命は決まる。
荒木は相変わらず右手を前に突き出したままグーの形を取り続けていた。
花京院は裏や裏の裏をかいたりすることは諦めている。
先程決めた自分の選択を信じるだけだ。
「ほい!」
花京院は勢いよく右手を前に突き出していく。
命を乗せた拳を。
五指が全て曲げられた状態から人差し指と中指が伸ばされてゆく。
彼の出した答えはチョキ。
仲間のどちらかを選ぶ事など彼には出来なかったのだ。
花京院は荒木の選択を見届けた後に、視線を荒木の顔へと動かす。
さっきと全く変わらない笑みを浮かべていた。
荒木の口がゆっくりと動きだす――――
「ちぇっ、僕の負けか」
荒木の右手は全ての指が開かれた状態。いわゆるパーであった。
拗ねた子供のような声を出す荒木。
彼の様子からは先刻見せた邪悪さは微塵も感じ取れない。
「確かに僕の勝ちのようだな」
感情を出さないのか出せないのかは分からないが、非常に淡々と花京院は言った。
「賭けは公正な物だったしね。仕方ない、君の質問に答えよう」
流石に不機嫌さを引きずるつもりは無いらしい。
あっさりと元の微笑へと戻った荒木が問いかける。
「じゃあ遠慮なく聞かせてもらおう。貴様に協力者はいるのか?」
「ん~確かにこのゲームには沢山の協力者はいるね。
ただ、皆脅して使ってる連中だから同盟関係にあるわけじゃないけど。
ちなみに支給品が入ってる紙を生み出すスタンド使い以外は皆支給品として使わせてもらってるよ」
「下種め」
ありったけの憎しみを込めて花京院は毒づいた。
本当ならば今すぐにでも荒木と戦いたい。
しかし、さっきも感じたとおり今の自分では100%勝ち目はないだろう。
だから彼は耐えるのだ。
後へ続く仲間たちへ情報を渡す為に――――
本当に僕がするべきだったのはこの質問だったのか?
ふと、彼の心に湧き上がってきた疑問。
今までの影とは違う。彼の心には既に影の存在は無い。
僕は焦りすぎてて真にすべき質問を出来なかったのではないか?
苛む声に焦燥感を募らせていく花京院。
だが、一度聞いたことを撤回することなどは出来ない。
自責の念に駆られながらも花京院は荒木へ伝えようとする。
『ならば実質の運営はお前一人でやってるのだな?』
花京院の唇が言葉を紡ぐために動こうとしたが、それは叶わない。
此処へ連れて来られた時と同様の意識が侵食されていく感覚。
「グッバイ花京院君。また会えることを願っているよ」
荒木の言葉を最後に、花京院の世界は――――――――消えた。
【F-5特別懲罰房の外壁/1日目/早朝】
【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:かなり混乱
【装備】:なし
【道具】:支給品一式
【思考・状況】
1.??????
2.とにかく生き残りたい
3.ゲームに勝つ自信はない
4.徐倫には会いたくない
5. ヴァニラやばい。ヴァニラやばい。
【備考】
グェスは、エルメェスや他の刑務所関係者は顔見知り程度だと思っています。
空条承太郎が空条徐倫の父親であると知りました
※グェスの支給品は2つでした。
※タクシーはエメラルドスプラッシュで大破しました、動くかどうかは後の書き手様にお任せします
※ランプの所在は不明です。もしかしたら荒木が回収したかもしれません
【花京院典明】
【時間軸】:ゲブ神に目を切られる直前(目、顔に傷なし。恐怖を乗り越えていない)
【状態】:とても喉が渇いている。周囲を警戒。恐怖を乗り越えた?
【装備】:なし
【道具】:ジョナサンのハンカチ(ジョナサンの名前入り)、ジョジョロワトランプ、支給品一式。
【思考・状況】
1.自分の得た情報を信頼できる人物に話す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥルが望ましい)
2.仲間と合流しなければ…
3.安心して飲める水が欲しい。
4.荒木の能力を推測する
※水のスタンド(=ゲブ神)の本体が
ンドゥールだとは知りません(顔も知りません)
※ハンカチに書いてあるジョナサンの名前に気づきました。
※水や食料、肌に直接触れるものを警戒しています。
※4部のキャラ全員(トニオさん含む)を承太郎の知り合いではないかと推測しました。
※1で挙げている人物は花京院が100%信頼できて尚かつ聡明だと判断した人物です。
決してポルナレフや
イギーが信頼出来ないという訳ではありません。
※荒木から直接情報を得ました
「脅されて多数の人間が協力を強いられているが根幹までに関わっているのは一人(宮本輝之助)だけ」
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最終更新:2009年04月08日 01:17