親しいと言ったら親しいのだろう。なにせもう何千年、何万年供に生き、同じ目標を掲げ、同族なんぞはもう彼らを含めもう四人しか残ってないのだから。
仲間とも家族とも師弟とも違う。身分というものがある以上、彼ら二人の関係は極めて形容にしにくいものになっていた。
あえて言うならば、主従関係とでも言えば相応しいのだろうか。その関係を映し出すように二人の間には微妙な距離と空気が流れていた。
一種の緊張感、安堵感が入り混じったなんとも奇妙な。
それ故に、
ワムウは先を行く
カーズに決して自分から声をかけるようなことはしなかった。
戦士たるもの主に仕えなければただの野蛮人、そういった価値観がどこかにあるのだろう、だから彼はここまで戦いに生きカーズと供に生きているのだ。
カーズの行く先を聞く必要はないし、それに仮に聞いたとしても己はそれに従うのみ。
生き返った
エシディシとシーザー、J・ガイルの語った未知の能力スタンド、そして荒木飛呂彦。
色々と気になることはある。聞きたいこともあるし、言いたいことも少しながらある。
しかしながらなによりもここに来て彼の中で闘争を求める気持ちが大きくなっているのは否定できない事実であった。それらを全て上回るほどのその欲望に。
それ故にかれは黙って歩を進めた。一秒でも早く、どうか主の目的地に戦士が、闘争があることを願いながら。
どれぐらい沈黙が流れたか定かではない。しかしながらその沈黙を破った声は気まぐれで発せられたものであろう。
言うなれば王が道化師に暇つぶしを、賢者に問答をするような、目的を目的としないただの時間つぶし。
「ワムウよ、このカーズがなにを考え、何処に向かっているかわかるか?」
「………」
よってワムウはそれに相応しい答えをしなければならない。カーズが満足するような答えを出そうと彼は考える。
ワムウは戦士である。だがそれは決して彼がこのような問答を苦手としてるということにはならない。
むしろ戦いの中で瞬時に相手のしぐさや動き、言葉から考えを読んできた彼にとって得意な分類であろう。
少しの沈黙の後、ワムウが口を開いた。
「風に運ばれて東より火薬と血のにおいがします。時間はまだそこまで経っていなく、その濃さからして相当の量が流れたと思われます。
そして同様にカーズ様の体からも相当の血のにおいが…。このことからカーズ様はここからさほど遠くない東で戦闘を行われた」
「続けよ」
「我々が最も苦手とし、避けなければならない太陽の光。夜が明けようとする今、この未知の舞台で大切なものは日光を避けることが可能な拠点の確保。
よって先程戦闘が起きて参加者が集める可能が高い東に向かうのは愚かな行為。
残るは北・西・南。建物が多い街、ある程度の大きさは保障されている遺跡、木陰が多くまた人間が作った小屋も多いと思われる果樹園。
それぞれある程度は日光を避ける保障はあるでしょう」
「………」
「しかしながらそれに伴い危険が大きすぎると思われます」
「ほう、『我々』に危険がある……と」
うなずき肯定を示すワムウ。カーズの声には当初のふざけた様な調子はなく、ただ興味深げにワムウの次の言葉を待った。
「地図に載っていることは人間どもの興味を惹くでしょう。無力のもならばいい、波紋戦士ならば望むところです。
だがスタンド能力…この状態で太陽が出てる中未知の敵と向かい合うのは危険でしょう。
もちろん我々が負けるようなことは万に一つもありません。だが戦いが原因で拠点とした建物が崩壊するようなことがあってはなりません。
したがってカーズ様の考えはここらにある人間の家に立てこもり、昼は耐えてやり過ごす」
最後の言葉が闇にとけ去るとカーズは笑みを浮かべ少しの間パチパチと手を叩き賞賛を示した。そしてカーズは心底愉快そうに、だが優雅に口を開いた。
「さすがワムウだ……。風でこのカーズの戦闘を知ったあたりは伊達に『風』の二つ名を名乗ってはいないな。なにより拠点の確保の重要性に基づくその理論、見事だったな。
しかしながらまだ詰めが甘い…。そう、決定的にな。お前自身が言ったスタンド能力についての不安、それをさらに計算に入れなければならないだろう…。
施設に立てこもらないのはお前の言うとおりだ。人間どもとの不要な接触を避けるため。だが、ここらの民家に立てこもり息を潜めているからといって我々の存在を見つけることが可能なスタンド能力がないとはなぜ言い切れる?
ここらのサイズの建物ならばスタンドを使わずとも、既に人間どもが開発した火薬の類を使えば簡単に崩壊するだろう。もし我々が隠れてる場所が見つかったら…その上その人間が建物を崩壊させることが可能であったならば…」
「………」
「そう、我々が必要とするのはこの舞台に呼び出される前に使っていたあの館のようなもの。求めるのは、ワムウよ…逃げることも可能な広さ、尚且つ戦闘を行える広さ、またそれ故に一部が壊れようとも構わない圧倒的な大きさ」
言っていることはわかる。そんな場所があれば本当にあればなんと理想的だろう。しかしながら少なくとも周りにはそんな建物はないように思えた。
それどころか地図確認してもこの周辺おろか、そこまで言い切ることのできるものはこの舞台上には無いのではないか、そうワムウには思えた。
だが彼は知っている。カーズはほらを吹くようなことはしないと。だからこそ混乱した、そして考えた。
カーズは黙りこくったワムウを見て、含み笑いを洩しながら口を開いた。
「ワムウよ、空ばかり見つめては見えるものも見えてこないぞ…?もっともこれから行くところは『風』のお前には辛いところとなるだろうがな…」
「…まさか?!」
「その通りだ。我々は地下に潜る!」
マンホールを軽々と持ち上げたカーズの目には深く目の前に広がる暗闇が広がっていた。
◆
いくら闇に生きる彼らと言えども星の光ひとつない漆黒の闇では光を必要とするのだろう。
右手に下げられている灯りより生まれた光がその鍛え抜かれた肉体を影として壁に映し出す。まるでどこかの美術作品のような完成された肉体、男の長年の鍛錬が作り上げた努力の結集であった。
突然の光に驚いたのか、ネズミやこうもり、蜘蛛が慌てて逃げていく様にワムウは張り詰めていた顔を緩め、ふと笑みをこぼした。
ヒタヒタと自分の足音を聞きながらワムウは主が語った言葉を反芻していた。
スタンド使いとその能力の多様性、それ自身の本来の
ルール、そしてそのルールを捻じ曲げた荒木飛呂彦とやつの能力「時間操作」、それによって生まれた「死んだもの」との再開。
そしてなにより…
『ワムウよ、なにより超えるべきものはこの首輪だ。この首輪を外さねばいつまで経っても我々は奴にとって鎖に繋げられた家畜当然。
未知の力スタンド、人間の進化、それによる新たな技術そしてなにより奴の絶対的自信。これを打ち負かすには並大抵のことじゃ太刀打ちできまい。
足りないということはないだろう、お前にはたくさんの首輪を集めてもらおう…。我々は必ずやこれを外さなければならないッ!!情けなどはかける必要は無いぞ、首をへし折ってでも、ちぎり飛ばしてでも首輪を回収してこい。
…そして手に入れたならば……月が再び真上に登るときまた会おう。場所は、そうだな…フフフ…ジョ-スター邸はどうかな?もしかしたらあの
ジョセフ・ジョースターに会えるかもしれないぞ?
あの波紋戦士に再び見舞う時にはぜひともやつらに綺麗な首を見せ付けてやりたいものだな。その時あやつがどんな絶望の表情をするか、クックック…。
では、ワムウよ。お前の働きに期待しているぞ…』
グッと拳を握る。戦う理由もできた今、彼の中でその願望はさながら巻き起こる台風のように渦巻いていた。
この舞台に呼ばれる直前に死合うたシーザー、孤島でのリサリサとの死闘、そして飄々としながらも底知れぬ可能性を持つ波紋戦士ジョセフ。
思い出すだけで心が震える。興奮が、敬意が、殺意がそれら三つが入り混じった感情が己の中で湧きあがってくるのを抑えることが出来ない。
何千、何万と相手にしてきた波紋戦士のなかでも飛びっきりのものだ。
(………)
言葉はいらない。ただ拳と拳で、体と体で、己を解放したい。戦士として、また『風のワムウ』として。
朝はもう間もないのだろう。持ち上げたマンホールから見上げた空に太陽が昇ってくるのも、もはや時間の問題だろう。
しかしながら止まらない。いや、止まるわけがない。
誰もいなかったらすぐにでも地下に潜ろう、首輪が見つかったらそれだけでも拾ってそれで満足しよう。
そう思いながらもどこか心の奥底で戦いを望んでいる自分を、ワムウは否定できなかった。
なにより火照ったその体が言うことを聞きそうに無かった。
【I-7 南部/1日目 黎明】
【ワムウ】
[時間軸]:ジョセフとの戦車戦のちょっと前
[流法]:風
[状態]:健康、戦いたい
[装備]:
ストレイツォのマフラー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~3個(リサリサの分)
[思考・状況]基本行動方針:人類殲滅、特に波紋戦士とその一族
1.参加者との接触、戦いたい。
2.太陽が昇る前に地下に潜る。
3.逆らうもの、波紋戦士は問答無用で殺す。
4.再び会ったならJ・ガイルを殺す。
5.カーズの命に従う。
6.5よりできるだけ首輪を集め月が真上に上がった時(真夜中・
第四回放送時)にジョースター邸に赴く 。
[備考]
※ ボートが川沿いに放置されています、燃料はもう殆どありません。
※ I-5にエル・コンドル・パサが放置されています。
※カーズと情報交換しました。
※カーズとワムウがマンホールに入った地点はH-7です。
◆
手を挙げれば優々届くほどの高さだった狭い通路が開けた。カーズは目の前に広がる空間に顔を向け、その氷のように冷たい目をさらに細くした。
今までの通路と違い倍以上の高さになったアーチ状の天井を眺めようと灯りを高く持ち上げた。少しの間天井を睨み付け、反射してキラリと輝く銀のレールに気づいた彼は表情を先程よりさらに険しくした。
なにか思うところがあるのだろう、脇にゆっくりとしゃがみこむとレールをじっと見つめ、考えにふけった。
(…これは覚えている。そう、ごく最近眠りから覚めたときに同じようにこれがあった。人間は確かこれになにやら滑車をつけ荷物を運んだり、移動の足ともしていたな……。
………フン、いかにも貧弱な人間どもが考えそうなものだ。しかし……………)
そっと指先でレールに触れる。先端より感じるヒンヤリとしたその感触だけを意識しながら彼は再び思考の海に沈む。
(妙だ。やけに光りすぎている。汚れどころか、傷ひとつもない……)
同時に顔を上げ、天井を睨み付ける。首を左右に振り、視界に飛び込んできた幾つかの管を確認するとおもむろにカーズは地図を取り出した。
(染みや煤の汚れがない天井、繋げる必要のない管、そしてこの地図に乗っていない真新しいレール…。
間違いなく荒木が作った、付け加えたもの。本来あるべきでないものを無理矢理作ったが故にこの真新しさ、これがなによりの証拠…。多すぎる通路は我々一族やエサに対する奴なりの配慮か…?
主催者の立場で言えば太陽の光で動けなく、昼の間は一ヶ所に留まり続けられては興醒め、そう言いたいのか………?
気に入らんな、このカーズが奴の言いなりになってるだと?奴の配慮をそのまま利用しなければならんと………?
フン…この借りは必ず返すぞ、荒木飛呂彦よ………。
……しかしながら不自然な点は残る。場所から判断してここは…H-5辺りか?
おそらくサンタ・ルチア駅とやらとこの線路は繋がっているのだろうが……なぜこれを地図に載せない?
まさか時間が足りなかったとでも…?いや、こんな舞台を用意した男がそんな不手際をするとは思えない。…逆に地下に参加者を呼び寄せたくない……のは違うな。ならば元々こんな地下通路を作らなければいいだけ、矛盾してしまう…。
…もしや何か『作らざる終えない』状況だったのではないかッ?当初の予定ではなかったがなにかがきっかけで作らざる終えなくなってしまった………)
考えごとに集中していた彼の指は無意識の内にリズムを刻んでいた。心臓の鼓動音と同様に、一定で寸分の狂いもなく単調に、トン、トン、トン、と。
そのリズムに合わせるように解けない問題をとりあえずは追いやり、彼の考察も次なるものへと移った。
(この首輪………。我々に殺し合いを強要させるために家畜同然に鎖に繋がれたようなもの………。だが本当にそうなのか?もしこの俺が感じた『違和感』、それが本物ならば或いは奴が我々に対して施した抑止力は相当なものだったのだろう)
直ぐ様彼はその『違和感』が本物なのかどうか確かめることにした。その方法は……
(……抵抗がないわけでない。無論、恐怖してるわけではないが治るとわかっていても自分の頭を解剖するなんてことはこれっきりにしたいものだ…………)
彼の流方である光の真骨頂、高速で動く刃は身を潜めているがそれでもその切れ味は抜群だ。彼自身、それを身をもって体験しているところなのだが。
ゆっくりと息を吐きながらゆっくりと刃を頭部に押し込んで行く。痛みに声をあげるようなことはしないものの、顔は歪み、その額には水晶のような汗が一気に吹き出していた。
どのぐらいそうした身を犠牲にした調査は行われたのだろう。カーズが刃を再び体内に入れ、一息ついた時には朱色の水溜まりが足元に広がっていた。
(一度下水管に体を押し込んだ際に感じた違和感の正体は『これ』か…。頭部に埋め込まれた第二の爆弾…ご丁寧に首輪とは配線が繋がってるときたもんだ。まぁ、我々の再生力を考えれば首輪だけで安心するというのは愚かだろうがな…。
一応心臓についても調べておきたいが今の体力を考えたらまたで良いか…)
彼が感じた違和感、それは今彼自身が行った実験ではっきりとした。そう、それは頭部に埋め込まれた第二の爆弾。首だけでも生きることのできる彼らに対して荒木が施した保障。
(しかしなから頭部にあるのは爆弾のみ。配線が首輪と繋がってるということは、つまり『首輪が活動停止となれば頭部のものも爆発することはなくなる』、そういうことになる……のか…?
実に奇妙だ。これぼどの技術力があるならばそもそも首輪などつけないで良い。この頭部の爆弾ひとつで事は済むはず。
明確である分、参加者にしっかりとした恐怖を植え付けることができるとでも思ったのか?外される可能性もデメリットがあるとしても?
府に落ちんな……。先ほどの地図といい、奴は何を考えている?まさか、奴は首輪を外して欲しいとでも思っているのか…ッ?!)
考えれば考えるほど答えは見えない。まるで今この地下通路を灯りなしに進んでるようなものだ。
暗中模索、五里霧中。カーズは先ほどの実験から絶えず起きる頭痛と吐き気以上に荒木、その人の読めない思考に苛立ちを隠せなかった。
(とにかくサンプルが必要だ。人間もだが、なにより首の配線の構造を把握したい。エサ一匹確保できればそれに越したことはないのだが…。
しかしながら太陽もすぐに昇ってくる時間だ。手こずるようだと面倒なことになりかねんが…。夜になるまで待つか、このレールを辿って駅まで行くか…。それとも…)
チラッと視線を向けた先には二つのデイバッグ。
(今の時間がある内に中身を確認しておくべきか…。もしかしたら荒木に関するヒントがあるかもしれない…。さて、どうすべきか…?)
悩むべきことが多すぎる柱の男の頭は深々とため息を吐いた。それは誰に聞かれるともなく漆黒の闇へと溶けていった。
【H-5 南部 地下鉄の線路上/1日目 早朝】
【カーズ】
[時間軸]:リサリサとJOJOにワムウと自分との一騎打ちを望まれた直後
[能力]:柱の男、『輝彩滑刀の流法』
[状態]:全身に裂傷、中ダメージ、中疲労、頭部にダメージ(小)、頭痛と吐き気(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、輸血パック(残量0ml)、首輪、不明支給品0~2(J・ガイルの物) 不明支給品0~2(未確認)、
[思考・状況]基本行動方針:荒木を殺して力を奪う、スーパーエイジャを手に入れる
1.支給品を確認するか、レールを辿っていくか決断する。
2.首輪解析のためにたくさんのサンプルを集める。特に首の配線があるであろう、吸血鬼が一匹欲しい。
3.地下通路や首輪について考察し、荒木の目的を突き止める。
4.エイジャの赤石を手に入れる。
5.月が真上に上がった時(真夜中・第四回放送時)にジョースター邸に赴く
6.荒木について情報を集める。
7.エシディシ、
サンタナと合流する。
[備考]
※血を吸った際の回復力に制限がかけられています。
※カーズと情報交換しました。
※カーズとワムウがマンホールに入った地点はH-7です。
※心臓にもなにか埋め込まれてるのではないかと考えています。
※地下鉄はある程度周りの下水道や空気供給官なとと繋がっているようです。(
イギーVSペットショップのような感じ)
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最終更新:2009年08月14日 17:10