浅黒い肌に目元には白い刺青。羽織ったコートと色だけは合ったサボテンのようなズボン。
なかなか表現しがたい容姿の男。彼の名前はマイク・O
だが名前や見た目などどーでもいい。彼は今驚愕し、そして焦っていた。
それは何も突然殺し合いに参加させられた事やアラキヒロヒコの事とかではない。
死んだはずのサンドマンブラックモア、リンゴォの名前が名簿にあるとかそんなチャチな事ではない。
何より重要で、何よりヤバイ事なのは…

「何故貴女の名前があるです!スカーレット・ヴァレンタイン大統領夫人ッ!」

(落ち着け、イカレた世界だがまずは落ち着けって世界だ…
 そう、確か大統領の警備をしていた『バブル犬』が破裂して、急いで駆けつけていた途中でここに連れて来られて…
 気が付いたらこのあのアラキとか言う男…あ、いやここら辺は省略しようって世界だ。
 重要な事はそうではない…死んだはずの奴らが生きていよーが死んでいよーが、そんなのはどうでもいい世界ってやつだ…)

そう、重要な事はそんなことではない。大統領護衛警備のマイク・Oにとって最も重要な事は…

「大統領夫人。貴女は必ずこのマイク・Oが御守りします…」

大統領夫人は立場上狙われやすい。そんな人が殺し合いオッケーな世界にポンと放り出されれば…
放っておけばすぐにでも、消される。

(させはしない…そんなことなど、この私がさせはしない!)

決意を固めつつデイバックの中身をさらに探る。
水に食料。地図や時計に懐中電灯筆記用具、方位磁石。そして握り締めた名簿と『折り畳まれた紙』
少し気に『折り畳まれた紙』が気にはなったが、とりあえず今は行動を先にすべきと判断し支給品一式をデイパックに戻す。
準備を整えマイク・Oは動き出す。まずしなければならないことは…

(ここから脱出しなければな)

マイク・Oは個室トイレの中にいた。何故かご丁寧に鍵まで掛かって。



          *   *   *


(なんだかえらくイカれたな所だな…)

ビルの屋上に男はいた。目元まで覆われた帽子にゴーグル。そして異様な手足。
男、ラング・ラングラーは考える。何故この場に連れて来られたのか。

(えーっと、アラキ…ヒロヒコだっけか?あいつは確か殺し合いがどーたらって言ってたな…
 まさか俺だけスタンド使いって事はねーだろうし…どうしたもんかな)

名簿を改めて確認して、悩む。
エンリコ・プッチ、自分に素晴らしいスタンドをくれた恩人。
空条徐倫、自分が倒すべき相手。
だがこの状況はプッチが仕組んだ物とは考えづらい。プッチが仕組むならわざわざ表に出てくる意味がわからない。非合理だ。

(ほんとーに殺し合いって言うなら…プッチ神父は敵に回したくねーよなぁ。
 なんだかんだであのDISCの能力は凶悪すぎる。負ける気はしねーけどよー…万が一ってのがあるぜ)

放り出された場所から特に動く事もなく、ラングラーは今後を決められず悩んでいたのだが…
地上を誰かが歩く姿を見つけ、心を切り替える。

(知らねー奴だな。幸いアイツは歩道。好都合だ…まぁ、歩道を歩いていた事を不運に思ってくれや)

歩道を歩く男を少しカワイソーに思いつつ、ラングラーは唾を垂らし、落とした。

          *   *   *


謎の小部屋(トイレ)からの脱出に不覚にも5分ほど手間をかけ、マイク・Oは外へと抜け出していた。

「さて…大統領夫人をどう探すって世界だが…」

歩道を歩きながら今後を考えていたマイク・Oの目にありえない建物が飛び込んだ。

「…コロッセオ…ローマ…それにしては、チグハグだな」

異様な光景に呆然とするマイク・Oの肩にピチョン、と何かがついたのだが気づく事はなかった。
気を取り直し再び歩みを進めているのをビルの上から誰かが眺めていた…

          *   *   *

違和感に気づいたのは歩き始めてからどれほどしてからだろうか。
デイパックが『浮かんだ』のだ。
この現象にマイク・Oも驚く。だが中に何か変な物が入ってはいないはず。
とすれば、これは――

(どうやら、気づかぬ間に攻撃を受けていたようだな…)

辺りを見回すとビルの屋上から屋上へ、まるで劇画のキャラクターのように身軽に移動する男が見えた。

(恐らくはあいつがこの攻撃の正体か?しかし物をプカプカさせるだけというは、なんとも不気味だな…)

ともあれ敵なら容赦はしない。自分には大統領夫人を護るという使命があるのだから。その使命を邪魔するのなら…
周りを見渡し、都合が良さそうなシャッターを見つける。どうやらブリキ製のようで、とても都合が『良い』

「ぷぅ~~~~っ!」

とりあえず3枚。マイク・Oは息を吹き込んだ。

          *   *   *

なるべく離れすぎないように、注意して『追跡』してたつもりなのだが…

「ばれちまってるみてぇだな…」

ビルの屋上からラングラーは愚痴る。ちょっと顔を出してみると地上の『獲物』はこちらを睨み続けている。
追跡をしたのは単純に自分自身の射程距離から逃さないためだ。距離が離れすぎるとせっかくの自分のつばの効果がなくなる。
しかし…言い方を変えればあの黒人は既に『始末』できているようなものなので…
ラングラーはこれ以上は近づかず、かといって離れもせず、屋上でノンビリしていた。

「まっ、そうやって睨みつけてなよ…そうやってる間にもどんどん無重力は進行するんだか…ら?」

ふと空を見上げると異様な鳥が3羽『浮かんで』いた。羽ばたきもせず、その姿はまるでバルーンアートのような…
もしかしたらあの黒人の攻撃なのかもしれない、だが。

「物プカプカさせるだけなんてくだらねー能力だな」

そうラングラーが笑った時だ。まるでその笑い声に反応したかのごとく鳥が1羽破裂し、シャッターがギロチンのごとくラングラーへと落ちてきたのだ!



「なっ!?」

咄嗟に転がりギロチンを避ける。屋上へと突き刺さったシャッターを見て相手を見くびっていた事に気づく。

「チッ、『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』!!」

スタンドを発現し両手首から金属片を発射し、残りの2羽の鳥を破裂させる。破裂し、バラバラになったシャッターの破片が辺りに散らばった。
改めて黒人を見ると次々と先ほどと同じ鳥を生成し、こちらへと向かわせてきていた!

「もうちょっとのはずなんだ…何もすんじゃねー!『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』!!」

生成されたばかりの鳥達へと金属片を発射し、破裂させる。鳥だけではない、黒人も狙いのうちだ。
何発か脚に命中したようで、黒人は脚を引き摺りながらラングラーがいるビルと丁度向かいあったビルの中へと逃げ込んだ。

「なるほど…そうやってビルの中に入って俺の『射撃』から逃れる、だが俺を逃がす事も決してしない」

相手の行動から思考パターンを探る。そして、ラングラーはニヤリと笑う。

「けれどオレとしてはその行動は物凄く好都合だぜっ!そろそろ息苦しくなってくるころだ!」

双眼鏡等がないので細かい状況までは把握できないが、それでもわかる。
向かいのビルの中で様々な物がぷかぷかと浮かぶ様子が。

          *   *   *


(『バブル鳥』のシャッターのギロチン。あれでケリがつくと思っていたが…)

1羽めのギロチンを回避され、追撃の2羽3羽のギロチンを行なおうとした所で破裂させられたのを感じた。

(何か…拳銃のようなものを持っているようだな)

手に届く範囲のシャッター全てを『バブル鳥』に変え、再び屋上の男へと仕向ける。
『バブル鳥』を一気に生成したせいだろうか、心なしか呼吸がしづらい。
追撃の『バブル鳥』は屋上の男へと近づくことさえ許されず、空中で破裂した。
それだけではない、流れ弾がいくつかマイク・Oの脚に着弾した!

「っ!思っていたよりも正確な銃撃…まずいか」

とりあえずビルの中に身を隠し銃撃から逃れる必要がある。マイク・Oは素早くビルの中へと逃げ込んだ。
ビルの中で呼吸を整えようとするが、整えようとすればするほど苦しくなる。

(水でも飲んで落ち着こう…)


バックの中に水があったことを思い出し、バックのジッパーを開けた所中身がすべてぷかぷかと浮かんだ。

「ど、どうなってるんだ!?」

名簿や水の入ったペットボトルに食料、折り曲げられた紙。全てがぷかぷかと浮かんでいた。
マイク・O自身も気が付けばぷかぷかと浮かんでおり、どこが床でどこが天井かわけがわからなくなっていた。
ぷかぷかと浮かぶ姿は自分のスタンド『チューベラー・ベルズ』を彷彿とさせる…

「血が…止まらないっ!」

銃撃された左足から血が噴出すように流れていく。確かに深い傷ではあるが、これは異常だ。
この状況を作り込むことがあのビルの屋上にいた男の狙いだったのだ!相手をせずにすぐさま逃げるべきだったのだ!
あと1分もしないうちに完全な真空状態となり、マイク・Oは沸騰するだろう。
マイク・Oは自分の意識が朦朧としていくのを感じた…

(大統領夫人…申し訳…ありません…)

          *   *   *


「ははっ!慌ててやがる!」

チラチラとしか見えないが、それでも黒人がぷかぷかと浮かぶ自分に慌てふためく様子が見て取れる。
そして出血もダラダラと流れるものから噴出すようになり黒人の始末もそろそろ完了しそうな事が見て取れた。

「ま、あんな鳥ぷかぷか浮かばせるようなスタンドじゃぁオレには勝てねーよ。
 勝ちたいんなら空気とか操れる奴でもいねーと無理なんじゃねーか?お前にはもう無理な話だがなぁーっ!」

ラングラーは向かいのビルの中で死んでいくマイク・Oをあざ笑う。
そう、無敵なのだ!『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』は相手を無重力へと誘うスタンド。
時間をかければ真空状態にもできるし、そもそも屋外で無重力状態の相手を空へと打ち上げればそれで御終いなのだ。
自分の『つば』をかけなければいけないという条件の難しさはあるが。それでも尚、このスタンドの魅力は衰える事はない!
仮に倒す手段があるとすれば…空気を操るスタンド。『ストレイ・キャット』や『ウェザー・リポート』等ならまともに張り合えるか。
あるいは真空でも平気な者。しかしそんな奴はもはや人間ではない。
最強となると言いすぎとなるだろうが、それでも間違いなく強力な部類のスタンドだろう。
そしてそんなスタンド使いを倒すとなればそれこそ不意打ちや暗殺しか手段がないが…

「はっ!オレの顔を見た奴全員『つば』吹っかけてやんぜー!それこそ徐倫だろーとプッチだろうとなー!」

この殺し合い初めての獲物を仕留めたラングラーはハイとなり、ついには大きな笑い声まで出してしまう。
こんな状況でそんな目立つ行動をとる事がどれだけ危険か、ラングラー自身わかってはいたが、自信が彼を強くした!




――唐突だが…誰だったろうか、『相手が勝ち誇ったとき、既にそいつは敗北している』という言葉の発言主は――


「ウゥ~~ッ」
「な、何だ!?」

屋上に突如鳴り響く唸り声。それも一つではない。
二つ、三つ…全部で六つはあるだろうか。

「ど、どこにいやがる!姿を現しやがれ!ぶっ殺すぞ!」

スタンドを発現させ屋上をキョロキョロと見回す。だが、いない。
正確には『いる』のだが、ラングラーには見えていなかった。ほんの少し、視線を上に向ければもしかしたら見つけられたのかもしれないが…

パン!
パン!

パン!
パン!

銃声等よりも軽い、まるで風船が破裂したような音が四つほど鳴った。
ネジや金属片、どれも小さく、だが鋭利なそれらは全て正確にラングラーの首に着弾し…

わけがわからないまま…ラングラーは首を押さえながら、死んだ――

          *   *   *


(…どうやら上手くいった世界って感じだな…)

自らのスタンドが破裂させられたのを肌に感じ、
そして床に叩きつけられた事でマイク・Oは自分の作戦が上手くいった事を確信した。

マイク・Oが取った作戦とはっ!

ビルの屋上の敵に打ち込まれた弾丸。これがただの金属片、それも充分凶器となりえるネジ等が含まれていたのは幸いだった。
そして着弾した弾数の多さ。これも幸いした。全部で『7つ』、マイク・Oの左足に埋まりこんでいた。
それら全てを『チューブラー・ベルズ』で膨らまし、『6つ』だけ『バブル犬』にする。
そして1つだけのただの風船は軸とし、6つの『バブル犬』を軸の風船に括りつけた。
そして向かいのビルの屋上へと狙いを定め軸の風船に穴を開ける!
そう、まさにジェット風船のように軸の風船は向かいのビルの屋上を目指し、6つの『バブル犬』を屋上の男の近くへと輸送したのだ!

そして輸送が終われば今度は攻撃なのだが、無重力化の為『バブル犬』たちもぷかぷかと浮かんでおり
素早く動かすことはできず、せいぜい泳がせるしかできない。
そこで死力を振り絞り『バブル犬』を3匹2チームへと分ける。2匹は弾丸、そして1匹は『射手』。この2チーム。
この金属片には屋上の男の臭いがついており、その臭いを記憶している『バブル犬』は例え無重力化であろうと屋上の男を逃しはしない。
後は射手の『バブル犬』が弾丸要員の『バブル犬』を破裂させ、屋上の男へと奇襲の一撃!というわけだ。


しかし賭けではあった。
『バブル犬』がそもそもこの無重力化でまともに動かせるか?
屋上の男に逃げられないほどの勢いを果たして弾丸要員の『バブル犬』は出せるのか?
そもそもこの攻撃で仕留められるか?金属片の予備は無く、まさに一発勝負の賭けだった。
だが、様々幸運も味方し、マイク・Oはその賭けに勝ったのだッ!!

マイク・Oとラングラーの勝負を分けたのは何だったのだろうか、それはマイク・O自身にも分からなかった。
やはり幸運か、はたまた志の違いなのだろうか…

(大統領夫人…必ず、御守りいたします…ですから、少しだけ…)

マイク・Oはそのままビルの内部で眠りについた――


【F-4 南部ビル内部/1日目 深夜】
【マイク・O】
[時間軸]: 13巻、大統領の寝室に向かう途中
[状態]:睡眠中。左足に銃撃による傷が複数。全身に疲労。
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:大統領夫人(スカーレット・ヴァレンタイン)を護る。
1.大統領夫人を命を賭けてでも護る。
2.自分の身は護るが自分から襲ったりはしない(下手な逆恨みで大統領夫人を危険に晒さない為)
3.襲ってきた相手には容赦なく反撃する。
4.大統領夫人を襲ったりしないのなら別に誰かに協力するのもやむを得ない。
5.できるだけ大統領夫人と共に脱出したいが無理そうなら大統領夫人を優勝させる為最後の二人になったら自決する覚悟。
6.どういうわけか死人ばかりだが気にしない。大統領夫人を襲うつもりなら元同僚でも容赦しない。

※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。
※F-4のどこかのビル屋上にラング・ラングラーの死体が放置されています。

【ラング・ラングラー死亡】
【残り85人】

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ラング・ラングラー
マイク・O 73:夢のCHANCE 3

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最終更新:2008年10月06日 19:28