「よし…ここ以外に入口はないようね。」
ミュッチャー・ミューラーは扉を閉め、地下室へと続く長い階段を降りた。
扉にはすでに「ジェイル・ハウス・ロック」を仕掛けてある。
何者かがここに入ろうとすればスタンドを通して感知できるし、確実に能力に囚われる。
しかし、私のスタンドは敵を攻撃することはできない。もしも侵入者がこの「ゲーム」にのっていたら…
思わず身震いする。
…とにかく、私一人では無理だ。誰か信頼できる『仲間』が欲しい。
そう、『仲間』が…
「あ~ら、お帰りなさい。ねぇ、見て見て!私のデイパック、きれいな宝石が入ってたわッ!キャー!」
「……」
ミューミューは、無意識のうちにグッと拳を握っていた。
☆ ★ ☆
この女とは、建物の前でさっき偶然出会ったばかり。
ひどく怯えたその様子から、私に危害を加えることはないと判断したのだが…
宝石のついたペンダントを見て眼の色を輝かせている。現金な女だ…
「…え~と、スカーレットさんっていったかしら?とりあえず情報を交換しましょう。
私はミュッチャー・ミューラー。グリーン・ドルフィン・ストリート刑務所の看守よ。」
「あら、ごめんなさい。あなた、可愛いらしい名前ね…私は
スカーレット・ヴァレンタイン。
ご存知かしら?夫はファニー・ヴァレンタインと言えば分かるかしらね。大統領の」
ちょっと待て!
思わず聞き返した。
「誰ですって?」
「ファニー・ヴァレンタイン。第23代大統領の」
こいつ…何を言ってるんだ。
職業柄、イカれた奴なら大勢見てきたつもりだ。しかし、大統領夫人ねぇ…
それも第23代って、100年は前の人間じゃないか。もう少し現実味のある妄想をしてほしいものだ。
こういう奴は相手にしないのが正解なのだが、そうもいかない。ここは信じたフリをしておくか。
「え、えぇ、もちろんよ。スカーレットさん。それより、他の物は入ってなかったの?」
こうなったら自分の身は自分で守るしかない。何か武器があればいいのだが…
自分のデイパックを手に取る。かなりの重量がある。
期待して開けてみると、中からは武器…ではなく、分厚い本が出てきた。
「…なぁに、それ?」
「辞書……かしらね」
それから2人でデイパックの中身を調べたが、やはり武器になりそうな物はなかった。
共通して入っていたのはパン、水、電灯、コンパス、紙切れ…
だんだん苛立ちを感じてきた。こんな物で、どうやって殺し合いをしろっていうんだ!
そのうち忌々しい記憶が蘇ってくる。あたしは
空条徐倫を追って、壁の隙間の部屋に入った。
そこで思わぬ反撃を受け、いったん体勢を立て直そうと部屋から出て…
覚えているのはそこまでだった。あとは気がついたら、この「ゲーム」に参加するはめになっていた。
「ねぇ、聞いてる?ミューミュー」
スカーレットから声をかけられ、あたしははっと我に帰った。
「あ、ごめんなさい。何かしら?」
「だからね、私ここに行きたいんだけど」
そういって、地図の右上を指さす。そのには『政府公邸』の文字があった。
「ここに行けば、だれか護衛の人がいるかもしれないでしょう?
きっと
ブラックモアや
マイク・Oが私のこと探しているだろうし…」
…またその話か。
そうね、行けるといいわね、と適当にあしらいつつ残った支給品の紙を広げる。
そこには「
参加者名簿」の文字と、数十人分の人名が書かれていた。
下の方には自分の名前、さらにその下には「スカーレット・ヴァレンタイン」の名前が…
え?
「ねぇ、あなたさっき『自分のこと探している人がいる』っていったわよね?名前、なんていったかしら?」
スカーレットはキョトンとしている。
「ブラックモアと、マイク・Oって…」
…たしかに載っている。「マイク・O」に「ブラックモア」。
それまでただの妄想だと思っていたのだが、実在するとは。
何者だ?こいつ…
☆ ★ ☆
私の名前の近くにも、何人か知った名前があった。
空条徐倫、エルメェス、
グェス。いずれも女囚だからよく知っている。
それにエンポリオ…あの部屋にいたガキか。それから…
彼らは数日前、特別懲罰房で謎の死を遂げたはず。なぜ、ここに名前が?
そのとき、ある考えが頭をよぎった。
もしかしたら、あのとき既に「殺し合い」は始まっていたのでは?
あわてて地図を開く。…あった。
真ん中あたり、「繁華街」の下。
「特別懲罰房」の文字。
やっぱりだ。となれば、あそこで起こっていたのは殺し合いのゲーム。
おそらく、開催に先立ち予行のようなことを行っていたのではないか?
そしてその目論見が成功したので、大規模な開催に踏み切った…
ギリギリと奥歯をかみしめる。自分は気がつかぬうちに、ずっと前から巻き込まれていたのだ。
クソッ!こんなことなら、スタンド能力なんてもらうんじゃなかった。
「スタンド能力者ガ脱獄しようトしたラ、防いで欲シイんダヨ」
それだけのことだったから引き受けたのに、まさかこんなことになるとは…
まてよ?ならば、私にスタンドを与えたのも、ゲームに参加させるため?
そ…そうか!
まだ理解できないことばかりだが、これだけは間違いない。
あのアラキとかいう男、あいつこそが「ホワイトスネイク」の正体か!
☆ ★ ☆
これからどうする?
アラキは「これからゲームを開始する」といった。しかし、実際にはすでにゲームは始まっていたのだ。
となれば、奴が必ずしも本当のことを言っているとは限らない。優勝したら助けてくれるなんて、大嘘かもしれない。
このゲームには参加しない方が得策だろう。身の安全が最優先だ。
最も、戦いたくても戦力が無いので戦えないのだが…
「ねぇ、ミューミュー…私たちどうなるのかしら……?」
ふと見ると、スカーレットが肩を震わせている。泣いている…?
「私、ただルーシーと遊んでいただけだったのよ。それで、眠くなってしまって…
それで、目が覚めたら…なんなの?これ…分からないわ…恐い、とても恐いの…」
「……」
この様子、彼女は本当に身を守る術を持っていないのだろう。そんな人間まで殺し合いに参加させるなんて…
私の心の中には、確かに一つの感情が芽生えていた。
アラキへの怒り。
アラキを倒し、私は生き残ってみせるッ!
そのためにも、仲間は多い方がいい。たとえイカれていても、協力しなくては。
「泣かないで、スカーレットさん。とにかく今は…」
「あーん!スカーレット『さん』だなんて!
私のことはスカーレットって呼び捨てにして、なじるように!」
「……」
(駄目だこいつ…早く何とかしないと…)
【ナチス研究所地下(F-2)/1日目/深夜】
【女看守と大統領夫人】
【ミュッチャー・ミューラー】
[スタンド]:『ジェイル・ハウス・ロック』
[時間軸]:幽霊の部屋から出た直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、フーゴの辞書(重量4kg)、不明支給品0~2(本人は確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
1:ゲームには極力乗らない。身の安全を最優先。
2:他のスタンド使いを仲間にして、アラキを倒したい。
3:こいつ(スカーレット)はイカれてるけど、仲間がいないよりましか…
[備考]
※ジェイル・ハウス・ロックを研究所入口の扉に仕掛けています。
※荒木のスタンドを「ホワイトスネイク」だと思っています。
【スカーレット・ヴァレンタイン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:ルーシーに眠らされた後
[状態]:健康、動揺している
[装備]:スーパーエイジャ(首飾りとして)
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(本人は確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
1:何が何だかわからない…
2:政府公邸に行けば、誰か助けてくれるかも?
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ミュッチャー・ミューラー |
50:かぐや姫 |
スカーレット・ヴァレンタイン |
50:かぐや姫 |
最終更新:2008年07月17日 21:35