学生服の男が二人、向かい合う。
一人は学帽を被り屈強な肉体は歴戦の兵を思わせる――
一人は時代錯誤な髪型をしてはいるが、その眼には強い光が宿っている――

「『スタープラチナ』!!」

「『クレイジー・ダイヤモンド』!!」

学帽の男の名は空条承太郎。DIOを倒し、数多くの悪を裁いてきた者である。
リーゼントの男の名は東方仗助。彼にとって承太郎は恩師に当たる。
そんな二人が何故、お互いのスタンドを出し合い今にも殴り合いを始めそうなのだろうか…

          *   *   *
夜闇を満月が照らし、河辺に佇む一人の男…東方仗助の影を作り出す。
河の流れを見つめながら、仗助は荒木の事を考える。

荒木、相当な人数を意図も簡単に集める事ができる男。
荒木、一人の女性をまるで電気のスイッチを押すみてーに簡単に消したゲス野郎。
その女性にはどうやら子供がいたらしく、あの薄暗い部屋の中で子供の叫びだけが強く印象に残っている。
プッツンしそうになって思わず髪型が少し乱れるが、手グシで整え気持ちも落ち着かせる――

「落ち着くわけねぇーだろチクショォォーーッ!!荒木の野郎…俺が絶対ブッ飛ばしてやる!」

イライラいた様子でデイパックを漁り目当ての名簿を見つける。
参加者の名前を確認し、荒木打倒の仲間がいるか確認する為だ。

「承太郎さんに億泰と康一は頼れるな…由花子や露伴のヤローの手を借りるのは癪だがこの際贅沢は言えねーだろうな…
 重ちー…?嘘だろ…なんでいるんだ?あ、いやいや、考えても仕方ないのかぁ?次だ次。
 トニオさんに早人、じじぃも護らなきゃならないが…アンジェロに音石に…吉良だぁ?冗談じゃねぇぞ」

アンジェロは仗助が確かに岩に同化させたはず。音石は刑務所に閉じこもっていたはず。
そして吉良は…仗助だけではない、承太郎や康一達全員で死ぬ瞬間を見たのだ。そのはずなのだが…

「時間が戻ったような感じはしなかったが…おめーがそうやって蘇るってんなら、何度だってぶっ飛ばすつもりだぜ?俺はよ」

仗助の行動方針はシンプルに荒木打倒ッ!その為に護るべき者は護り、倒すべき者は倒す!

「しかし…俺一人ってのは現状キツイな。なんとか誰かと合流してーとこだけど…そんな都合よく承太郎さんが現れたりするわけねーもんなぁ」

ちょっと期待を込めて辺りを見渡すが承太郎どころか誰の姿も見えない事にガックリしつつ、デイパックの中を更に漁る。
変わった物は特に見当たらず、飲食料まで用意してあり無駄に気が利いていた。
そして最後に残る『折り畳まれた紙』2つ――
ちょっと嫌な予感がして…いつでも逃げれるように構えつつ1つ目の紙を開く。
するとまるで不器用な奴がポテトチップスの袋を強引に開けて中身が派手に飛び出すように…コインが辺りにちらばった。

「びっくりさせやがって…こいつは…?あぁ!あのギャンブルとかに使うチップって奴か!」

だがあまりにも数が多いので仗助はとりあえず20枚ほど回収して、デイパックの中に詰め込んだ。

「しかしこれで確信したぜ…やっぱりあの『紙』だったか」

そう、仗助はこの『折り畳まれた紙』に覚えがあった。
どんな物でも『紙』に閉じ込められるスタンド。以前に一度対決した事もあり、忘れようもない。
この『紙』は本当に何でも閉じ込められる。それこそタクシーから電気、果ては人間までも。
ふと思いついて散らばったチップを紙に戻せないか試行錯誤を繰り返すがどうやら一度紙を開いたらそれっきり、という代物のようだ。

「開くまでわからないってどんだけ不便よ…まぁ、なるようになりやがれってとこか」

覚悟を決め最後の『紙』を開く。

かなり巨大な…何か』と鋼鉄の弾が二つ、仗助の手の平に乗り…重さに耐え切れず落としてしまった。

「ってぇ~…なんだこりゃ。ボーガンって奴か?それにしたって…でけぇぞこりゃ」

両手で抱えてようやく持ち上げる事ができる、だがその重さよりも問題なのは…

「ひ、ひけねぇ!めちゃくちゃな弦じゃねぇか…『クレイジー・ダイヤモンド』!」

試しにクレイジー・ダイヤモンドで引いてみると時間をかければなんとか引ける、という程の固さで使い勝手はかなり悪い。
苦労しながらも弦はセットし、ボーガンを背負い込む。まるでRPGのキャラクターみたいだな、と仗助は自分を笑った。

「っと…笑ってる場合じゃねぇよな。早いとこ誰かと合流しねぇと…」
「おい」

突然声を掛けられ、振り向く。そこに立っていたのは――

「承太郎さん!」

恐らくこの場でもっとも頼りになる人物。空条承太郎がそこにはいた。

「承太郎さん!いるならいるで声掛けて下さいっスよ~!もう、びっくりしちゃうなぁ」
「…声は掛けたがな」
「あ、そ、それもそうっスね」

頼れる男と合流できた為か、仗助はやたらテンションが高くなり口も止まらない。

「いや~、しかし荒木の野郎なんでこんな事するんっスかねぇ?
 まぁ理由がどうあれぶっ飛ばすつもりっスけど、承太郎さんも同意見っスよね?
 それに荒木だけじゃねぇ、吉良やアンジェロもほっとくわけにはいかねぇっスね。音石はどうすっかなー…」
「…」
「まぁ承太郎さんがいれば百人力、いや、千人力?ポパイにほうれん草って感じでなんでもドンとこいっスよね!
 この調子で億泰や康一達共合流できそうって感じっスね!なんか希望がムンムン湧いて来たっスよー!」
「…そうか」

ピタ、と仗助はこれまで大声で続けたマシンガントークを突如としてやめ、承太郎を睨みつける。

「…どうした?」
「てめー…承太郎さんに化けようなんていい度胸だな…」
「言ってる事がわからない…イカレてるのか?この状況で…」
「イカレてんのはそっちだろ、タコ。本物の承太郎さんならこう言うぜ
 『静かにしろ早人、大声を出して無意味に敵を呼び寄せたいのか?』ってよぉー」
「…好きに喋らせて気持ちを落ち着けさせようとしただけだ…まぁ、確かに疑う気持ちもわかるがな」

承太郎は自らを証明するかのように『スタープラチナ』を発現させる。その姿は本物そのものだが、仗助の表情は崩れない。


「これでも信用できないのか?『早人』」

ニカーッと仗助は笑みを浮かべ、途端に緊張した空気が和らぐ。

「やだなぁー、冗談っスよ、冗談」
「冗談もほどほどに「『クレイジー・ダイヤモンド』」――ッ!?」

仗助の態度に油断した承太郎、いや、ニセ承太郎の右頬にクレイジー・ダイヤモンドの鉄拳が炸裂する。

「俺の名前は『仗助』だっ!まんまと引っかかりやがって偽者野郎!
 それに本物の『スタープラチナ』なら例え不意打ちでもすぐに対処するぜ!『ノロマ』なんだよてめぇーは――ッ!」

再び仗助に向き合ったニセ承太郎の顔面は裂け、まるで口裂け女のようになっていた。だがそれだけではない――

「ヒヒヒ…俺の変装を見破るとは…なかなかやるじゃねーかあ~、レロレロレロレロ」

ニセ承太郎の身長はどんどん伸び、大柄なはずの仗助でさえも見上げる大きさになっている。

「承太郎を知ってるとわかった時にゃラッキーと思ったんだがなぁ~、ヒヒヒ…」
「うるせぇー!さっさと正体現しやがれ!」

ニセ承太郎の顔面はどんどん歪み、そして破裂する!

「これが俺の本体のハンサム顔だ!」

彼の名前はラバーソール。スタンドは『節制』のカードの暗示を持つ、『イエローテンパランス』!

「どこがハンサムだ。億泰のがまだマシだぜ!」
「ハッ、言ってろよ…言っておくが、俺のスタンド『イエローテンパランス』に…」

ゆっくりとラバーソールは仗助へと詰め寄る。その姿はまさに、自信満々!

「弱・点・は・な・い・!」

          *   *   *

暗闇で馬の上でくつろいでいる男がいる。彼の目線の先には月明かりで照らされた男が二人。

「まぁ、じっくりと、見物させてもらおうか…」

そう言って男はタバコに火をつけた…

          *   *   *

「ホザいてんじゃねぇ!ドララアーッ!」

『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュが雨の様にラバーソールに襲い掛かる!
だがラバーソールは慌てた様子もなくその全ての攻撃を受けきった!

「…ッ!?どうなってんだ!?」
「弱点はねーといっとるだろーが!人の話きいてんのかァこの田ゴ作がァー!!
 俺のスタンドは言うなれば!『力を吸い取る鎧』!『攻撃する防御壁』!
 エネルギーは分散され吸収されちまうのだッ!
 てめーのスピードがいくら早かろーが、力がいくら強かろーが…
 この「スタンド」――『イエロー・テンパランス』の前には無駄だッ!」

ラバーソールの迫力に圧倒され仗助は飛びのき、距離を開ける。

「ほーれほーれ、ジョースケちゃんよぉ。手を見やがれえ!
 てめーの両手にも俺の『イエロー・テンパランス』が喰らい付いてるぜ!」

ハッとして両手を見るとウジュルウジュルと音を立てながら、なんとも気色の悪いスライムが付着していた。

「じわじわと食うスタンド!食えば食うほど大きくなるんだ、絶対に取れん!」
「…ふーん」
「ッ!?てめー、怖くねーのか!それともナめてんのかあ!?
 試してみな!火で炙ろうと、水で流そうと、氷で冷やそうとも!絶対に取れん!食ってやる!」
「へー、そりゃ厄介っスねぇ…それじゃ、返すっスよ。こんな気色の悪いスライムはよ」

仗助は慌てず騒がず、まずは右手に付着したスライムを左手で殴った。
次に右手で左手に付着したスライムを殴る。これで終わり。

「『クレイジー・ダイヤモンド』!分離したスライムを直す!」

分離したスライムはラバーソールの身体へと吸収される。仗助には『イエローテンパランス』は効かないッ!

だがその事実を前にしてもラバーソールは動揺しない。何故ならば――

「なるほどなるほど…確かにちょっとやそっとの量を付着させたくらいじゃぁ駄目なようだな。
 だが、全身を包んでやれば!ゆっくりと消化してやれるぜ!それに対しててめーの方はどうだ?
 俺の『イエロー・テンパランス』を打倒する術はない!絶望しやがれ、このビチグソがァー!」

確かに仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』の打撃は通用しそうにない。
だが仗助には絶望している暇などない。何故ならこんな所でくたばっては荒木を倒す事等不可能なのだから――

「誰が絶望なんてするか!『クレイジー・ダイヤモンド』!ドララアー―――ッッ!!!」
「何がドラだッ!消化する時その口の中にてめーのクソを詰め込んでやるぜッ!」

ラバーソールの身体全体からまるで宿主を移すかのように『イエローテンパランス』が仗助へと襲い掛かる!


ドコオーン!!


「ッ!」

仗助から飛び出した『何か』をラバーソールは咄嗟に避ける事ができた。避けてから気づいたが、何か鉄球のような物が飛ばされたのだ。
『イエローテンパランス』越しに仗助を見ると巨大なボーガンのような物が見えた。恐らくはあれが仗助の支給品だったのだろう。

「ハッ、残念だったな!あれだけの猛スピードだ、直撃したら身体をぶち抜かれてたかもなァー!
 てめーの執念に敬意を表して…髪の毛一つ残らず消化してやるよォー!タコ!ヒヒヒヒヒ!」

仗助の身体をコーティングするかのように『イエローテンパランス』が纏わり付く!
不細工なスライム人形の出来上がり、といった所だろうか。仗助はただひたすら中でもがく事しかできないようでいた。

勝利を確信したラバーソールの耳にヒュンッと、風を切るような音が聞こえてきた。
何事かと振り向いたその顎に、まるで狙い済ましたかのように『鉄球』が通り過ぎ、顎を砕いていった!

「ぷぎゃっ!」
「俺の『クレイジー・ダイヤモンド』は直す物の破片を固定してりゃ、その破片に向かって他の破片が集まり、直ろうとする。
 さっき発射した鉄球を少し欠かして、その欠片を俺が持ってたってわけよォー!
 つまり避けられても心配無用の二段構えのボーガンってわけよ!」

鉄球の一撃で『イエロー・テンパランス』の拘束が解かれ、その隙に仗助は拘束から逃れ、再びラバーソールと距離を開ける。
ラバーソールが体勢を立て直している間に仗助もボーガンをどうにかこうにかセットしなおし、構える。

仗助は恐らくラバーソールは『イエローテンパランス』を纏い、防御力を生かして突撃してくると考えていた。
だがその考えとは裏腹にラバーソールは『イエローテンパランス』を足元から放射状に広げ始めたのだ!

「…何のつもりだ、てめぇ」
「顎を砕かれた程度はラッキーなんだよ…俺はそう学んでるんだぜ。だから、そのラッキーは生かさなきゃなァ!」

ラバーソールの手元にはいつのまにかドラマや映画で見るようなサブマシンガンが握られていた。
恐らくは仗助がボーガンの再装填に気をとられた間にデイパックから取り出したのだろうが…

一瞬だが、サブマシンガンの存在に気をとられた仗助は行動が遅れた。その遅さが二人の明暗を分けた!
ラバーソールは躊躇無く引き金を引き、仗助へと弾丸のシャワーが降り注ぐ!

「くそっ!」

仗助はボーガンを捨て咄嗟に転がり、銃撃を回避する。弾丸シャワーを代わりに浴びたボーガンは粉々に砕けてしまっていた…

「チェスで言う所の『チェックメイト』ってやつだぜぇー、ジョースケ!
 てめーのスタンド。パワーとスピードはありやがるからなぁ!このマシンガンの銃撃を防ぎながら俺に突撃する事もできるだろう!
 だが、この足元に広げたテンパランスのエリアがそうはさせねぇぜー!このエリアにてめーが踏み込めばすぐにでもてめーを包み込む!
 包み込まれないようテンパランスにラッシュを仕掛けるかァー?そうなれば弾丸シャワーの餌食だぜ!
 弾丸シャワーか!テンパランスに食われるか!好きな方を選びやがれタコ!」
「…グレートにやばい状況だなこりゃ…」

チラリと、粉々に砕けたボーガンを仗助は見る。あちらの方に逃げ込み、ボーガンを直す事ができれば、この状況を打開できるかもしれない。
だが問題はボーガンの弦だ。『クレイジー・ダイヤモンド』の力でもすぐさまセット完了というわけにはいかない。
しかしここで仗助くんは閃いた!
ボーガンをそのまま直さず『弦を張り、いつでも鉄球を発射可能』の状態に直せばいいのだ!
直す瞬間から構えるまでの時間が多少ある。その間に銃撃を喰らうのはほぼ間違いないがこうしている間にもラバーソールは撃ってくるだろう。

(やってやるぜぇ、仗助くんの大勝負!)


――ボグオァァン!!――


仗助が大勝負を仕掛けようとしたその時、突如としてラバーソールの背中が火を噴いた。
ラバーソールはそのまま仗助のすぐ近くへと吹き飛ばされる。
背中には酷い火傷があり、どう見ても故意に狙った物ではない。

「ば、爆発ってよォー…まさか、吉良の野郎か!」

仗助がラバーソールが立っていた場所の先を睨むと、その暗闇から一人の男が徐々に姿を現した。
シュルル、と植物のぜんまいのような物が頭から数本生え、身体や顔には刺青が彫られている。
タバコをぷかぷかと吸う姿には余裕が感じられた。この男は――

(吉良じゃ…ないっ!)

吉良はこんな奇抜な格好はしていない。ならば誰か?見方によっては、仗助を助けてくれたようにも見えるが…

「そっちの黄色いのを纏う方が厄介だったみたいなんでなー…先にそっちから始末させてもらった」

(『先に』にだと…?つまりその次に狙われるのは…ッ!)

言葉の意味を仗助が理解するのと男が石ころを投げたのはほぼ同じタイミングだった。

とっさに転がり、石ころから離れる。地面に接触した石ころはピンッ、と音がした後に爆発した!

(やっぱり、爆弾だったか…こいつ、吉良と似たような能力を持ってるな…)

「勘が良いのか…?まぁ、石ころを避けた所で無駄だがな。そこは『風下』だ」

ボゴォ、と仗助の頬が爆ぜる。痛みに思わず怯むが、これで相手の男の能力が大よその検討がついた。

(自分が触れた物を爆弾化させる能力…っ!吉良と似てる点が多いが、微妙な違いがある!
 一つ、複数の物を同時に爆弾化できる!石ころとこのタバコの煙!これは明らかだぜ。
 二つ、これは不確定だが、おそらく爆弾は接触しないと駄目なんだ!吉良みてーに自分の好きなタイミングで爆発させる事はできない!
 そして極めて重要な三つめ!吉良の野郎よりもダメージという点では遥かに劣る!
 口内っていう急所もいいとこを爆破させられたっていうのに、俺がまだ動けるってのが最大の証拠!ってことは、つまりだ…)

仗助は口を手で押さえ、呼吸をしないように走り出す!爆弾魔の男、オエコモバは仗助の動きを黙って見守る。

何故なら呼吸を止めるのは不可能だからだ。生きている限り…
だからオエコモバは慌てずにタバコの煙を辺りに撒き散らす。もちろん、石ころを爆弾に変えておくのも忘れない。

仗助の目的は、不意打ちを喰らってやられたはずのラバーソールだった!
襟首をつかみ、揺する!

「てめぇこら!意識があるのは知ってるんだよ!さっさとスタンド出しやがれ!」
「ほぅ、意識があるのか…」

仗助の言葉を聞き、オエコモバは爆弾と化した石を3個ほどポイッと、投げつける。
「そうやって二人仲良く爆死しな」
「オラ!狸寝入りも終わりにしねーと死ぬぞ!」

ラバーソールがチラッ、と薄目を開けると石ころが3つ飛んでくるのが見えた。どうやら本当らしい。

「このタコ!てめーのせいでばれちまったじゃねぇか!『イエロー・テン…』は、離せ!」

爆発から身を護るためラバーソールは『イエロー・テンパランス』で自分を包もうとする。
だがその身体には仗助がしがみつき、離れようとしない!

「だが断るってか!俺も一緒に包んで欲しいんっスよねー!ケチケチしないでさァー!」
「くぅ…『イエローテンパランス』!」

根負けし、仗助共々包み込む。包み込み終わった後に鳴り響く爆音。あと少し判断が遅れていたらやられていただろう。

そうして残されたのは男二人を包む黄色い巨大スライムとオエコモバだけとなった。

「まぁ、精々そうやって震えてるんだな…」

オエコモバは慌てずに何本目かもわからないタバコに火をつけ、辺りに広めていった。

          *   *   *

「ジョースケ!てめーこのタコ!俺の『イエロー・テンパランス』に包み込まれたって事はどういう事かわかってるよなァ!」
「わかってるっすよー。だから、ビジネスといきましょうや」

仗助の右手がラバーソールの火傷の一部に手を触れる。するとその部分だけ火傷が治り、肌には元通りとなった。

「俺の『クレイジー・ダイヤモンド』は生物も治せる。あんたの怪我も同様だ。この窮地を乗り切ったら治すってのはどうだい?」
「タコが!これしきの火傷くれー大したことねーんだよ!このまま消化して俺一人で窮地を乗り切る!」

ボンッとラバーソールの足元が爆ぜる。『イエロー・テンパランス』に開けられた呼吸のための穴。
そこから爆弾化した煙が入り込み爆発したのだ。

「あ、足がぁーっ!俺の右足がぁーっ!」
「あーあー、言わんこっちゃない。空気穴、塞いだ方がいいっすよ。でないとまた同じ目に合っちまう」

仗助の助言に従い空気穴を塞ぐ。だが空気穴を塞ぐという事は…

「くそっ、すぐに呼吸なんかできなくなっちまう!このままじゃ、やられちまうーっ!」
「だーかーら、俺と組もうって言ってんじゃないっスか。俺と組んで、終わればその足の怪我も治せる。
 危機を乗り越え、怪我も治る。悩む必要なんか無いんじゃないっスかねぇー?」

ラバーソールは悩もうと思ったが、時間がほとんど無い事を考え、すぐさま首を縦に振った。

「うし、とりあえずあんたの名前だけ聞かせて欲しいんっスけどねぇー。名前知らないと不便だし」
「…花京院のr…」

グイッと仗助がラバーソールの首を絞める。

「嘘は駄目っすよー。こっちは嘘なんかぜーんぶお見通しっスから」

これこそ嘘だ。だがそう簡単に自分の名前を教えはしないだろう、という予想でカマをかけたのだが…

「うぐっ、分かった!言う!言う!俺の名前はラバーソール!ラバーソールだ!」
「うし、ラバーソール。あんたに頼みたい事があるんっスけどね。その『見事なまでの変装ができるスタンド』にね…」

          *   *   *

オエコモバは勝利を確信している。
先ほど小さな爆発が目の前の黄色いスライムの下部から起こった。
恐らくは空気穴でも開いていて、そこから爆弾化した煙が入り込み爆発したのだろう。
じゃぁ空気穴を塞ごう!となるわけで、今この空間には静かな時が流れている。
だが何度も言うように生きている限り呼吸は止める事など不可能なのだ。いずれは呼吸穴が開く。
呼吸穴が爆ぜた瞬間、ほんの少しではあるがこのスライムには穴が開く。そこに爆弾化した石ころを投げ込み、一気にケリをつけるのだ。
静かに、じっと待っているとスライムの上の方が爆ぜた!

(やはり、な!吸いたくて吸いたくてたまらない空気だ、そりゃ口から直接吸い込みたいよなァーっ!だがその一呼吸が命取りだ!)

爆ぜた呼吸穴の先に僅かだが人の口元が見える。その口元めがけ、石ころを投げ込む。

「俺からのプレゼントだ、ありがたく受け取りなァー!」

――ボグオァァン!!――

派手な爆発音が鳴り響き、スライムの上部はほとんどが吹っ飛んだ。恐らく今ので一人は始末できたろう。

「一人じゃ寂しいってよォォーーーッ!!」

そして今の爆発でポッカリと空いた穴めがけ再び爆弾化した石ころをオエコモバは投げ込もうとして、気づく。

ポッカリと空いた穴からは『二人』、覗いているのだ。

「これでいいのか?ジョースケ」
「グレートっすよ、ラバーソール。おかげで撃ちこめる」

オエコモバが騙された事に気づいた時には腹部に弾丸シャワーをもろに浴び、その痛みに耐え切れず気を失った――

仗助はオエコモバが爆弾の追撃を行なうであろう事を予測していた。
呼吸穴が爆ぜ、その衝撃で開いた穴目掛けトドメの一撃となる爆弾を放り込むであろう事を。
そこで思いついたのが二重の層を作り上げる事だ。
つまりダミーの呼吸穴を開ける外の層。そしてその中で『人の顔』に化ける層。この二重の層!
オエコモバが追撃の爆弾を放り込むと中の層は爆ぜ、その中に潜むラバーソールと仗助が姿を現すという仕組み。
二人がまずしなければならないことは『呼吸』。だが周りの空気はオエコモバの煙で危険な状態だ。
そこでこの二つの爆発。この爆風で煙を吹き飛ばし、救いの一呼吸を安全に行なったのだ!
最後の仕上げとして、残り一人のはずが二人共無事、という状況に驚いているであろうオエコモバへと冷静にサブマシンガンを撃ちこむ!
もっとも、その銃撃手はラバーソールではなく仗助だ。ラバーソールならば、この時に射殺しているであろうから――

気を失っているオエコモバの口元と手足を『イエロー・テンパランス』で拘束し、地面に大の字に寝かせる。
そうして動きを封じてから仗助はオエコモバの腹部を治した。

「治す必要なんかねーよ、ここで殺しちまえ」
「断るっス。少なくとも、こいつの事情くらいは聞いておきたい。或いは協力できるかもしれないわけだし」
「ふん…まぁ、いいけどよ。そんなことより俺の傷も治してもらいたいとこなんだがなぁ、ジョースケ」
「わかってるっスよ――ホイ、完了」

ラバーソールが負傷した箇所全てを仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で約束通り治してやった。
身体の調子を確かめるように動かしつつ、ラバーソールは問う。

「そういやなんでジョースケは自分の傷治さねーんだ?」
「…自分で自分の傷を治すのはちょっと疲れるから今はやりたくないんっスよ」

嘘だ。だがなんとなく、真実を話すわけにはいかない気がしたのだ。

「なるほど。自分で自分の傷簡単に治せたら不死身だもんなぁ…さてと、ビジネスは終了だよな?ジョースケ」
「…そーっスね」

ラバーソールと仗助が向き合う。穏やかな空気など一切無い、ピリピリとした空気だけがその場に張り詰める。

その空気をやぶったのはうめき声をあげたオエコモバだった。

「お、気が付いたみたいっすね。ラバーソール。悪いけどこいつの口元のスライム、外してくれないっすかね」
「はいよ…」

口元から『イエロー・テンパランス』が外され、オエコモバがホッとしたように見えた。
そのオエコモバの側に仗助がしゃがみ込み、話しはじめる。

「なぁ、まずは自己紹介からいこうぜ?俺の名前は東方仗助、あんたのな、ま…」

オエコモバの目や鼻、口、耳と穴という穴から黄色いスライムが流れ出てきた。
ウジュルウジュルという嫌な音が、仗助の耳に届いた。
悪趣味なゾンビ映画のように…オエコモバは死んでいた。仗助の目の前で。

「――ラバーソール!てめぇ!」

怒りの声を発しラバーソールが立っていたほうを見るとその姿はどこにもない。
辺りを見渡すと少し離れた場所に馬に乗るラバーソールが見えた。

「言ったろ?ジョースケ。ビジネスは終わりだってなッー!!ヒヒヒ!」

そう言ってラバーソールは馬を駆り、走り出す。

「逃がすかラbウゲェッ!」

オエコモバを喰らい終えた『イエロー・テンパランス』の一部が腹部にぶち当たり、仗助を怯ませる。

「ジョースケェ!そのまま食われちまいな!じゃぁなー!ヒヒヒ…」

ラバーソールの声は徐々に遠くなっていくのが聞き取れた。
腹部にはウジュルウジュルとスライムがうごめく。だが仗助は理解している。このスライムがどういう意図を含んでいるか、を。
だから仗助はすぐさまラバーソールを追わずにまずは粉々に壊れたボーガンを直し、背負い込む。
そして自分のデイパックも回収し、準備を整える。

「倒せるものなら追って来いってこったろ…ラバーソール!いいぜ、追ってやる!てめーは俺がぶっ飛ばす!」

そう、『クレイジー・ダイヤモンド』でスライムを直せば本体の『イエロー・テンパランス』へと、つまりはラバーソールの元へと飛んでいく。
飛んでいくスライムを追えば、ラバーソールを見失う事は無いのだ。

「『クレイジー・ダイヤモンド』!」

腹部に付着したスライムを直すと、スライムはラバーソールが逃走した方向へと飛んでいく。
仗助はそれを追う直前にチラッと、テンパランスに食われ、ボロボロになったオエコモバを見た。
ほんの少しだけ、悲しみの表情を浮かべた後、仗助は飛んでいくスライムの後を追い、走り出した。

          *   *   *

「俺ってラッキーだとは思わんかい~!?一人殺せておまけに怪我まで治っちまうなんてよぉ~!」

夜道を馬で駆け抜けながら、ラバーソールは笑う。

「この調子ならあっという間に優勝だぜ!優勝したら十億、いや、百億ドルは貰おうか~っ、ヒヒ!
 まぁ、実際にはそう簡単にはいかねーだろうがな。あのジョースケみてーにめんどくせーのが他にもいるのは間違いないだろうし…」

ニヤリ、と顔をゆがめるとラバーソールは『イエロー・テンパランス』で自分を包み込む。

「ジョースケ!俺の傷を治してくれた礼にてめーのタコみてーな顔を広めてやるぜ!
 何も知らずに俺の後をついてきた時が、てめーの終わりだ!」

馬の上で『仗助』が笑う。

「まぁ精々頑張りな!俺はてめーの顔を借りて好き放題させてもらうぜ!楽してズルして優勝だ!ヒヒヒ!!!」

馬の上で笑う『仗助』を、遥か後方から『仗助』が追う。この先何が起こるのか、『仗助』には想像もつかなかった――

【G-4/1日目 深夜】
【東方仗助】
[時間軸]:4部終了後
[状態]:両手にテンパランスに食われた軽い傷。右頬に爆発による傷。
[装備]:巨大なアイアンボールボーガン(弦は張ってある。鉄球は2個)
[道具]:支給品一式 、ギャンブルチップ20枚
[思考・状況]
基本行動方針:荒木を倒す。
1.とりあえずはラバーソールをぶん殴る為に追跡中(正確にはラバーソールに戻ろうとするスライムを追跡中)
2.荒木は倒すつもりだが何故かいる吉良やアンジェロも見逃せない。
3.仲間達と合流したい。(できれば承太郎さん)そういや何故重ちーの名前も?

※仗助の支給品「ジャイロが賭けた3000万円分のチップ」の大半がG-4のどこかに散乱しています

【G-4/1日目 深夜】
【ラバーソール】
[時間軸]:承太郎と戦闘中、ザリガニ食べてパワーアップした辺り。
[状態]:健康。現在仗助に変身中。騎乗中。オエコモバを食べてパワーアップ!?
[装備]:サブマシンガン@小消費(ヴェネツィア空港警備員の持ってたやつ)、ヨーロッパ・エクスプレス(シュトロハイムの愛馬)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、優勝。溺れるほどの金を手に入れる。
1.仗助の姿で好き放題暴れるつもり。おそらく追跡してきているであろう仗助を『ハ』める。
2.状況によっては承太郎、花京院にも化ける。
3.ディオからの報酬よりも美味しい褒美だ!ディオなんてどうでもいい!

※ラバーソールは承太郎、仗助、花京院に化けれます。偽のスタンド像も出せますが性能はイエロー・テンパランスです。
※ラバーソールは仗助が自分自身の怪我も治せると勘違いしています。
※ラバーソールがこれからどこへ向かうかはお任せします…

【オエコモバ――イエロー・テンパランスに文字通り『食べられて』――死亡】
【残り79人】


投下順で読む


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ラバーソール 58:釣る者、釣られる者
東方仗助 58:釣る者、釣られる者
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最終更新:2008年08月13日 13:28