深夜の路上で荒々しい足音を立てながら歩くウエストウッド。
肉の抉れて白い骨が覗いている左肩が痛々しいが彼は気にする様子を見せなかった。
応急処置すらせずに彼は銃声の聞こえた方向へと突き進む。
目は異様にギラつき、荒立つ息を押さえようともしない。

荒々しい足取りは怒りによって生まれているのではない。
興奮しきった心身を制御できずに自然と出してしまうのだ

銃声があったという事は戦闘があったという事。
彼が望む新たな戦闘が行く先にあるのだ。
この殺し合いで自分の最強を証明したい彼にとっては是非も無いチャンスである。
手傷を負わされた上にまんまと逃げられたサーレー戦の鬱憤。
ウエストウッド看守は次に会う相手で存分にストレスを発散するつもりであった。



その真後ろから彼を観察する露伴。
音を立てない様に慎重に、かつウエストウッドに追いつくように早歩きで来たので少々息が乱れている。
そこそこの距離はあるものの気配を隠したりはしていないので気付かれるのは時間の問題だろう。
が、ウエストウッドは露伴に気が付いていないのか、振り向く様子すら見えない。
スケッチの為に握っていた鉛筆を額に当てて男の印象を率直に出す。

(この男の雰囲気……普通じゃないな………)

漫画家、スタンド使いとして様々な物を見聞きした彼はこの男の只ならぬ雰囲気を一瞬で察知した。
一言で言えば殺気。
ゲームに乗ってるのか荒木に怒っているかは分からないが、とにかく男の背中からは殺気が感じられた。
だが、その殺気も彼の知るのとは少し違う。

(しかし……この男…何と形容したらいいのか……恐らく僕が初めて見るタイプの人間だろう…
 ふふふ『取材』がますます楽しみになってきたぞ)

歩く男の後ろ姿をジッと眺める事数分。
結局、露伴が察知できたのは男が常人ではないという事だけだった。

数え切れない程の人間と出会い、取材してきた彼は色々なタイプの人間を知っている。
寡黙な人、馬鹿な人、馬の合わない人、気の合う友人。
杜王町で暗躍してた殺人鬼を追いかけたことすらある。
確かな経験と、鍛錬により鍛え上げた観察眼は間違いなく超一流のもの。
その観察眼を以ってしても男の本質を見抜くことは出来なかった。
これは男が、露伴にとっては初めて出会うタイプの人間であるという事。

恐らく、露伴は彼の様な人間を漫画で書こうとしたはずだ。
が、露伴にとってそのキャラは満足の行く出来にはならなかっただろう。
元々は温厚な人柄であったウエストウッド。
しかし、特別懲罰房での経験が心の底にあった彼の本性を表面に引きずり出した。
その本性は戦闘狂。
快楽殺人者達とは違って、結果よりも過程に比重を置く者。
極々僅かにしか存在しない人種であるが、確かに実在はする。
ただ、岸辺露伴が出会った事がないだけで―――



(あぁ、好奇心がツンツン刺激されるぞ!出会った事が無いタイプの人間!
 コイツを取材すべきかもう少し泳がせるべきか……
 まぁ、どっちにしろ面白い結果になりそうだね)

内心ほくそ笑む岸辺露伴。

(それにさっきの隕石はコイツのスタンドかもしれない!
 もし違っても、目の前に隕石が落ちてきた体験は興味深い。
 殺し合いに乗ってたら動機が気になるし、荒木に歯向かう気ならどんな考えを持ってるか知りたい!)

隠し切れなくなった笑みが顔中に広がってゆく。
本当は高笑いの一つや二つやりたいのだが、微妙に残った理性がギリギリの所で押しとめた。



念のためにフォローしておくが、岸辺露伴はこの殺し合いには否定的だ。
誰も殺す気はないし、目の前で誰かが殺されそうになったら止めるつもりではある。
当然、最終的な目標は打倒荒木。
なんだかんだ言ってはいるものの彼は悪を許す気は無い。
吉良吉影の捜索中に抱いていた正義の心は心の中で燃え続けている。

ならば、何故彼は現在取材を優先させているのだろう?
理由は至ってシンプルなものであった。

“どうせ康一君達も呼ばれてるんだろ?情報が少ない序盤は彼らに任せて、僕はある程度情報が集まったら動き出すよ”

彼の判断が当たりか外れか答えを出せる者は誰も居なかった。
が、彼は知らない。
乗り越えたはずの因縁の相手、吉良吉影がこの会場にいる事を。
かなりの信頼を寄せている相手、空条承太郎がその吉良吉影と手を組んでいる事を。
表面上では毛嫌いしながらも、心の何処かでは信頼を寄せていた東方仗助がこの世の者で無くなった事実を。



★  ☆  ★



(そろそろ声をかけるかな?)

露伴が観察を止めて『取材』に移ろうとした。
現在の位置からだと、ヘブンズ・ドアーをかけるには距離が離れすぎている。
ゆっくりと、かつ確実に距離を詰めてゆく露伴。
しかし、射程圏内に入ったもののウエストウッドは未だに気付く気配すら見せない。

(こいつ……無用心すぎないか?
 一般人でもそろそろ気付く頃だろ?)

あまりにも鈍すぎるウエストウッドに疑問すら感じ始める露伴。
罠の可能性も疑ったが、疑いだしたらキリがないのでその可能性は考えない事にした。

彼は過信していたのかもしれない。
自分のヘブンズ・ドアーは無敵とは言わないが強力な部類に入ると。
罠を仕掛けてようが、一瞬あればヘブンズ・ドアーを使って解除できると。



「おい、そこの君。ちょっと待ってくれないかい?」

普通の口調で呼び止める露伴。
彼の言葉に従って歩みを止めるウエストウッド。
そして、そのまま振り返ろうとして―――

「ヘブンズ・ドアー!」

露伴のスタンドが現れたのをウエストウッドは理解する。
白い線でできた様なビジョン。
だが、それを見た瞬間に彼の意識は完全に途絶えた。



★  ☆  ★




轟音と光を伴って“それ”は落ちる。
大気圏外から猛スピードでやって来て、順調に着弾地点を目指す。
丁度岸辺露伴の背後にあったので彼は“それ”に気付かない。




★  ☆  ★




ここで、ウエストウッド側の視点から少し前に戻ってみよう。


さっきから後ろでコソコソやってる奴は何なんだ?
隙を突いて俺を殺す気か?
いや、それにしちゃ殺気も感じないな……。
気配すら殺せてねぇって事は完全に一般人か。
どうする?
結構距離がありそうだから隕石は当たりそうじゃないよな。
こっちから出向いてやってもいいが、逃げられたら時間を食っちまいそうだし、
万が一何もできないカスを追いかけてぶっ殺してる内にこの先でやってる戦いが終わっちまってたら最悪だ。

後ろから感じる気配に苛立ちを隠せないウエストウッド。
殺したくても、目前にある戦いを見逃したくないから簡単に手を出す気にならない。
そんな彼にとって、露伴が自分から近寄ってきた事はかなりの幸運であった。

ノコノコ近寄ってきやがってこのマヌケ野郎。
さぁ、もっと近くに来い。
射程に入った途端に隕石の餌食にしてやるぜ。

そして、露伴が数メートル後ろに来たとき、彼は自分の能力を発動した。
同時に呼び止められたので振り向こうとした時、肩に何かが触れるのをハッキリと感じる。
そのまま疑問を感じる暇もなく彼の意識は完全に途絶えた。



★  ☆  ★



「さて、『取材』を始めようか」

ウエストウッドがスタンドを使用した事に気付かないまま傍に近寄ってゆく露伴。
本になった彼の体を掴んで、ご機嫌な様子で最初のページを開いた。

「名前はヴィヴィアーノ・ウエストウッド。
 ふ~ん、アメリカのグリーン・ドルフィン刑務所で看守をしてたんだ」

ウエストウッドの個人情報を読み始めた露伴。
彼の簡単なプロフィールをジッと眺める。

「28歳で元はマイアミの税関で働いてた……えっと、転職の理由はっと――」

ここで露伴は気付いた。
何かがここにやってきていると。

(やっぱりコイツが隕石を落とすスタンド使いなのか?)

頭上をキョロキョロと見回して、隕石らしき光を視認する。
視認した後とっさにペンと紙を取り出した。

(ふん、僕を攻撃しようとしてたのか。無駄になって残念だったな)

露伴は誤解している。
ウエストウッドのスタンドは、狙った地点に隕石を落とすスタンドであると。
だから数メートルも移動した自分には隕石は当たるはずがない。
衝撃も本体が近くで使えるということは大したものではないはず。
隕石が落下した瞬間を見届けてからその様子をスケッチしよう。
そう考えていた露伴は完全に出遅れた。
自分の方に隕石が来ていると理解した時には既に手遅れ。
猛スピードで迫るそれにパワーの無いヘブンズ・ドアーがどうにかできるはずも無く……



隕石は露伴の右肩を大きく抉り取った。



一瞬意識が飛ぶ。
その一瞬はヘブンズ・ドアーを解除させるには十分すぎる隙。
復活したウエストウッドは露伴とは真逆の方向に起き上がり即座に距離をとる。

(コイツの能力は何だ!?肩に触られた途端に意識が飛んだぞ!!?)

何をされたか全く理解が及ばないウエストウッド。
唯一分かった事は目の前にいる男の能力が危険すぎるものであるという事だ。

(クソッ!ここで引くのか?いや、それだけはNOだ!!
 俺は最強なんだ!これ以上カス共を見逃すのは我慢ならねぇ!!)

さっきの現象を必死になって思い出すウエストウッド。
本能で戦う彼には思考は向いていないが仕方がない。
気付いたらやられていたのだ。
特攻した所で再び気絶させられるに決まっている。

(コイツの能力の射程は恐らく数メートル。
 じゃなかったら俺に近寄ってくるメリットがねぇよな。
 そして、恐らく発動条件は相手の体に触れる事だ)

露伴のスタンド能力を推測するウエストウッド。
大まかな予測であったが、全く分からないよりはマシだ。
ここで出てくる対処法は二つ。
相手の射程外に一旦引く事か、絶対に相手に触れられない様にするか。
既に最初に下した一般人という評価は撤回済みとなり、
対策を真剣に考え込むほど彼の中で露伴は大きな敵となっていた。


(距離を置くのは……駄目だな。相手の射程外に出ても、俺の隕石が届かないんじゃ馬鹿馬鹿しい)


露伴の位置を確認。
傷口を抑えながらこっちを睨みつけてくるがスタンドを発動させる様子はない。
それを見届けた後、体中の筋肉に力を入れる。
スタンドを出して不意打ちに備えた後、思いっきり大地を蹴った。

一蹴り毎に増してゆくスピード。
両腕を少し開いて、露伴を絶対に逃がすまいと構える。
その様はまさにラグビーのタックル。
筋肉質な肉体を武器にしたそれは凶器の域に達した。

パワー型のスタンドでないと止められないであろうスピードとパワー圧倒されて引き倒される露伴。
地面に思いっきり叩きつけられる羽目になったが、頭は庇えたらしい。
痛みに顔をしかめるも、意識はハッキリとしているようだ。

だが、ウエストウッドにとってはここからが本番。
突然の出来事に露伴が対応出来ないうちに少し目を開ける。
一瞬見えた情報を頼りに体勢を変えて、後ろへ回り込む。
手足をからめて四肢の自由を完全に奪い取り。

「プラネット・ウェイブス!!」

己のスタンドの名を高らかに叫んだ。

(これは…流石に不味いんじゃないか?)

露伴も焦りを感じ出した。
必死に抜け出そうとするも、がっちりロックされてる上に筋力の差が大き過ぎる。

「俺は毎日のようにクサレ囚人どもを押えつけてきたんだ!
 なめるなよこのカスがっ!!」

間接が悲鳴を上げだした。
露伴の顔が苦痛に歪む。
だが、ウエストウッドはサブミッションで止めを刺す気など毛ほどもない。
彼の本命は当然――――


自分に迫ってくる隕石の存在を知りながらも、何も出来ない露伴。
そして、炎をまとったそれがハッキリと目の前に映ったとき、彼は行動に出た。

「ヘブンズ・ドアー」

露伴の体から浮かび上がるスタンド像。
右手を突き出しながら、どこぞの変身ヒーローと同じポーズでウエストウッドの顔へと飛び掛った。
が、彼もそこまでマヌケではない。
体を本に変えようとするヘブンズ・ドアーを本体と同じような体勢でプラネット・ウェイブスが固定する。
両手首をガッチリと握られているので、手を自由に動かす事ができない。

「俺が最強だああああああああああああああ!はらしてやる!!」

叫ぶと同時に落ちてくる隕石は露伴の左腿を持って行った。
スタンド能力のおかげで本人に衝突する手前で隕石は消滅。
ウエストウッドには傷一つない。

トドメの一撃を放とうとスタンドパワーを再び開放するウエストウッド。

「これがとどめだあああああああ!!喰らえ、プラネット・ウェイブス!!」

このまま隕石を落とそうとしたのだが、何か違和感を感じる。
熱いのだ。
燃え盛る石が落ちてきた事や、露伴と密着している事を考えてもこの熱さは異常。

危険を感じた彼は自分の体に視線を向ける。
そこで見えたものは燃え盛る自分の服。

「な、何をしやがった!?」

突然の事に驚きを隠しきれないウエストウッド。
動揺はスタンドにも伝わり、一瞬拘束が緩んだ……

「後にでも自分で考えるんだな。大丈夫、殺しやしないよ殺しはね。ふふふ」

パワー型にも引けを取らないスピードでスタンドの腕が動く。
その指がウエストウッドの視界に入ったとき、彼は再び意識を失う事になった。

「ふぅ、上手く燃えなかったらどうしようかと思ったよ」

口調からは余裕が感じられるが、本人はかなり重症だ。
隕石の熱によって死なない程度に出血は抑えられているとはいえ、右肩と左腿の大半を失ったダメージは深刻すぎる。

「あ~あ、この辺はもう読めないか……非常事態とはいえ惜しい事しちゃったな……」

先ほどの攻撃時に、残った左手でコッソリと本に変えておいた右腕の一部。
隕石の熱で完全にコゲ滓となったそれを見ながら露伴は心底残念そうに呟く。

自分が勝つためだったとはいえ、貴重な資料を焼失したのは彼にとって大きな痛手。
下手したら、自分が負ったダメージよりもこっちの方が痛かったかもしれない。

「まぁ戦闘狂に会ったり、隕石にぶつかる体験も出来たんだし我慢するかな」

ブツブツ呟きながら、弱弱しい足取りでウエストウッドに接近してゆく露伴。
本となった顔を眺めつつ、彼の生い立ちについて読みながら貧血気味の頭を無理矢理フル回転させる。

(コイツになんて書き込むべきかな?仲間にしたって、コイツといる事がデメリットになりかねない……)

今までの言動の全てが彼の好戦的な性格を表していた。
と、いうことは恐らく仲間はいない。
いたとしても間違いなく、ゲームに乗るような奴だろう。
ならばコイツを洗脳して仲間にするのは得策とはいえない。

「とりあえずコレだけ書いておくか」

そういって露伴が書いた文字は『人を殺せない』
この一文でウエストウッドは人を殺すことが不可能となった。



フラッ



不意にバランスを崩す露伴の体。
平然としているように見えても、二箇所に大穴が開く怪我を負ったのだから無事なはずがない。

朦朧とする露伴はウエストウッドの体にもう一文だけ追加する。
『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』

書き終わった直後に気を失った露伴。
彼の体が地面に横たわるのと同時にウエストウッドは起き上がって露伴を背負う。

そして、月が薄く照らす道を歩き始めた。


【C-2南部/1日目 黎明】

【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:気絶、右肩と左腿に重症、貧血気味
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本.色々な人に『取材』したい。打倒荒木
1.気絶中
2.怪我を治したい
3.あとで隕石を回収しに来よう

[備考]
※まだ名簿・地図・不明支給品を確認していません。
※傷は致命傷ではありませんが治療しないとマズイです
※プッチ神父と徐倫の情報は得てません

【ヴィヴィアーノ・ウエストウッド】
[スタンド]:プラネット・ウェイブス
[時間軸]:徐倫戦直後
[状態]:左肩骨折、ヘブンズ・ドアーの洗脳
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
1.露伴を治療する
2.露伴の命令に従う
3.出会った人間は迷わず殺す(自分が人を殺せない事にまだ気が付いていない)

[備考]
※支給品を一切確認していません。
※自分の能力については理解しています。
※現在、意識があるかどうかは後の書き手様にお任せします
※どこへ向かうかも後の書き手様にお任せします
※ヘブンズ・ドアーの命令は
1.『人を殺せない』
2.『岸辺露伴を治療ができる安全な場所へ運ぶ。なお、その際岸辺露伴の身を守るためならスタンドを行使する事を許可する』です

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39:キラリりゅうせいぐん 岸辺露伴 97:I need you tonight
39:キラリりゅうせいぐん ヴィヴィアーノ・ウエストウッド 97:I need you tonight

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最終更新:2009年03月21日 22:49