ウェルカム・トゥ・アンダーワールド

―――Forget the hearse 'cause I never die♪
―――I got nine lives♪
―――Cat's eyes♪
―――Abusin' every one of them and running wild♪


(成る程、円盤に記録した音楽が聴ける道具なのか。説明書きによると『レコードプレーヤー』というらしいな!
 思えば人間共の娯楽品を使ってみる機会が無かった。カーズはこういった代物に一切興味を持たんからな)


―――'Cause I'm back♪
―――Yes, I'm back♪
―――Well, I'm back♪
―――Yes, I'm back♪
―――Well, I'm back, back♪
―――(Well) I'm back in black♪
―――Yes, I'm back in black♪


(しかし随分と奇妙な音だな。一体どんな楽器を使っているんだ?
 事が終わってからもっと人間の文化に触れてみるのも面白いかもしれん)


DIOの館―――1階のミュージックルーム。
年代物のレコードプレイヤーから流れているのは有名なハードロックバンドの楽曲。
柱の男『エシディシ』は未知の文化を満喫していた。
その身には数多の傷を負っているが、再生能力によって少しずつ塞がっている。



数時間ほど前にスピードワゴン、リサリサの攻撃によって手傷を負った彼はB-4に位置するDIOの館へと逃げ込んでいた。
施設内で休息を取ることも目的の一つだが、何より夜明けが近いということがあった。
闇の一族にとって日光とは最大の大敵。
故に日中に身を潜める為の拠点を必要としていたのだ。
こうして日が出てくる前に辿り着く事が出来たのが幸いだった。

再生能力を有する彼はある程度の傷を癒した後、DIOの館内の探索を行った。
その最中、好奇心からミュージックルームに置かれていたレコードプレーヤーで音楽を聴いていたのだ。
人間社会で似たような物は一応目にしたことがある。それ故に使い方は直感で理解出来た。


―――Back in the back♪
―――Of a cadillac♪
―――Number one with a bullet, I'm a power pack♪
―――Yes, I'm in a bang♪
―――With a gang♪
―――They've got to catch me if they want me to hang♪


(フフフ…気に入ったぞ。かつて滅ぼした一族の連中と違い、人間はたまにこういった興味深いモノを作り出す。
 我々を拉致した荒木に太田といい、先程のスピードワゴンといい、少しは奴らに対する評価を改めるべきか?)

エシディシは両腕を組み感心した様子でレコードプレーヤーを見下ろす。
興味深い。これで少し暇を潰してみよう。そう思っていたのだが―――



(…そういえば、そろそろ放送の時刻か)



ふとした拍子に彼は思い出す。
室内に飾られている時計の時刻は―――5時59分。
そう、気がつけばもう定時放送の直前なのだ。
音楽を流し続けるレコードプレーヤーの再生を止め、両腕を組む。


(さて…この6時間で何人墜ちたのか?まずは状況を見極めさせてもらうとしよう)


放送を目前にして不敵な笑みを浮かべるエシディシ。

一体どれだけの参加者が脱落したのか。
一体このゲームは6時間でどれだけ状況が動いたのか。
一体放送でどんな情報が伝えられるのか。

期待を膨らませる様に思考する彼はまだ知らない。いや、そもそも気付くことなど出来る筈が無い。

およそ1分後、彼の余裕はいとも容易く行われるえげつない宣告によって呆気なく打ち砕かれるのだ。




―――ッ岩マミゾウ ロバート・E・O・スピードワゴン エルメェス・コステ――――


どうゆう原理か、屋内においても問題なく第一回放送を聞くことが出来た。
部屋を見渡す限りでは放送の機器などは一切見受けられない。
にも関わらず、放送は滞りなくはっきりとこの耳に入ってくる。
一体どんな方法を使っているのだろうか。これも荒木や太田の能力の一つなのだろうか?


(スピードワゴン…)


一先ずは荒木が伝える死亡者の名を耳にし、数時間ほど前の戦闘を追憶する。
あの時、このエシディシに捨て身の攻撃で手傷を負わせた男。
はっきりと生死は確認していなかったが、あれから命を落としたらしい。
奴が何故若返っていたのか、その疑問は未だに解き明かせない。
やはりもう少し情報の収集が必要だろうか。
情報を元にした考察は寧ろカーズの得手である為、出来ることなら早い内に合流したい。


―――ウィル・A・ツェペリ シーザー・アントニオ・ツェペリ―――


(…フフフ、シーザーと言えばあのシャボン玉使いの小僧だったか?)


一人一人、はっきりと伝えられていく放送を聞く中で口元に僅かな嘲笑が浮かぶ。
彼の脳裏を過るのは波紋を帯びたシャボンを武器とする若き戦士。
どうやら奴もスピードワゴンらと同様この六時間のうちに命を落としたらしい。
一ヶ月の修行を経てどれだけ強くなったのかを確かめたかったものだが、所詮は青っちろい若造だったか。
シーザーの前に同じくツェペリ姓のウィルという人物が呼ばれていたのも気になるが、まあ死者のことなど気にかける必要も無いか。
そういえば名簿にはジャイロ・ツェペリとかいう名前も載っていたか?



――――――以上、18名だ。



(18名。もう少し多いかと思っていたが、まぁ十分な数だ。乗っている連中はそれなりにいるらしい。
 そしてカーズ!ワムウ!奴らはまだ生きている…やはり心配する必要は無かったみたいだな。
 それに軍人共から『サンタナ』と呼ばれていたあいつも生き残っているとはな)

同胞達が放送で名前を呼ばれることは無かった。その事実を知ったエシディシは感心の笑みを浮かべる。
カーズ、ワムウはこの6時間を生き抜いている。解り切っていたことだが、流石は我が同胞達と言った所か。
意外にもサンタナまで放送を越えられたらしい。まあ奴はどうでもいいが。

さて、次は禁止エリアだったか。
これも重要な情報だからな。しっかりと聞かなくては――――




―――ゲーム開始時に言った通り、これからは禁止エリアが一つ追加される。
―――追加禁止エリアは「B-4」だ。
―――そこにいるんだったらすぐにでも離れた方がいいぜ。
―――この放送が終わって10分してもいるようだったら、自動的に頭が「ドカン」だ。




(ん?)




┣¨┣¨┣¨┣¨…



(待て、今ヤツは何と言った)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…



(追加禁止エリアは『B-4』?)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…



(ここは確かDIOの館という施設だ。
 地図は焼失してしまったが、その内容は詳細に記憶している)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……



(では、DIOの館が配置されていたエリアは――――――)



疑惑が確信へと変わった瞬間。
彼の中の余裕が一気に瓦礫の如く崩れ落ちた。





(―――――――何イイイィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?)





そう、DIOの館が配置されているエリアもまた『B-4』ッ!つまりエシディシの現在地なのだッ!!



(は…早い!幾らなんでも早すぎるッ!まだ第一回放送だぞッ!?)


動揺の中で第一回放送が終幕を迎えた。
その顔に浮かぶのは隠し切れぬ驚愕の表情。頬を冷や汗が流れる。
予想外だった。拠点足り得る施設が存在するエリアをこうも早急に潰されるとは思わなかったッ!
闇の一族や吸血鬼のような連中を一カ所に留まらせるつもりはないというワケか!?
いや、そんなことを悠長に考えている場合ではないッ!
問題なのは『今いる場所が禁止エリアに選ばれた』ということなのだッ!


(このままでは!あと10分で俺の頭部は爆破されてしまうッ!!)


そう!今すぐにこのエリアを離脱しなければならない!
しかしどうする。DIOの館を飛び出した所で待ち受けているのは夜明けの空ッ!
闇の一族の弱点である日の光が照り付けているのだ!
その上まだ傷の治癒も終えていない。下手すれば負傷した肉体を曝け出しながら日陰をこそこそと進む羽目になる。
はっきり言って危険すぎる。乗っている参加者に見つかれば最後、格好の餌食になるだけだ。
その気になれば応戦することも出来るが、『日光』と『負傷』という点を考えれば余りにも状況は不利。
ましてや近場には先程の女波紋戦士もいる!今の状態で戦って無傷で済む保証は無いッ!



(どうするッ!無茶を承知で外へと飛び出すか!?完全に『賭け』だが、はっきり言って方法はそれしか―――――――)



なんでもいい。兎に角頭を回転させろ。
この状況を切り抜けなければ、自分はこの場で無様に爆死する!
どうする。やはり賭けに出るしかないのか――――――!?



『諸君の中には、日焼け厳禁な体質持ちもいるはずだ。
 そんな君たちは、会場のどこかに設置された出入り口を探すといい。
 ヒントを見た者なら分かるかもしれないが、実はこの会場には地下に面白いものが用意してあってね、
 そいつを見つければ、太陽だって怖くなくなるぜ?』



(…待てよ)


唐突に脳裏を過ったものは第一回放送の内容。
先程、荒木飛呂彦が口にしていた言葉を思い出す。
『会場のどこかに設置された出入り口』『会場の地下』。
数十分前のことを思い出せ。この館内を探索していた時のことだ。
このミュージックルームのすぐ側にある『図書室』を調べていた際の記憶を遡る。



(そういえば心当たりがある。あの部屋に妙な仕掛けがあったじゃあないかッ!)



絶体絶命の危機の中、微かな希望にも似た突破口を発見した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




DIOの館、1Fの図書室にて。

第一回放送前に館内を探索していたエシディシがミュージックルームに足を踏み入れる前、この部屋を調べていた。
柱の男の中でも比較的人間への興味を持つ彼は書物に対してもある程度関心を寄せている。
そんな感情もあって好奇心のままに本を手に取っていた最中、偶然部屋の隅の本棚で『それ』を発見したのだ。
きっちりと棚に揃えられた幾つもの本の裏に隠されているスイッチのような仕掛けだ。
館内全体の探索を優先して一先ずそれを後回しにしていたのだが、予想外の事態を打開するべく急遽その場へと舞い戻った―――。


(やはり!これは『隠し扉のカラクリ』ッ!)


ギィ、と鈍い音が静かに響き渡る。
本棚が回転扉の様に動き出し、隠し扉としての正体を現したのだ。
エシディシが本の奥に隠されていたスイッチを押し、棚を手で動かすことでその仕掛けは起動した。
どうやら見込みは当たっていたらしい。この隠し扉は地下へと繋がっている!


(兎に角急がねばならないッ!!)


隠し扉が開かれたのを確認し、エシディシはすぐさま階段を下っていく。
刻一刻と頭部爆破の時間は迫っている。
同胞達がこの会場のどこかで生き延び、戦い続けているのだ。
だからこそ自分もこんな所で死ぬわけにはいかない。
―――そもそも禁止エリアでの頭部爆破で死亡など、余りにも格好が付かない。
故に彼は地下へと下り続ける。
その先に待ち構えているのが地獄への門なのか、救いの道なのか。
今の彼には解らない。

尤も、答えはすぐに彼自身の目で明かされることになるのだが。




ガ ァ ン ッ ! ! !


階段を下った先に存在していた鉄製の扉が蹴りによって力尽くで開かれる。
轟音と共に破壊された扉は拉げた形で吹き飛び、けたたましい音と共に床を転がった。


(やはり、まず荒木と太田が用意したのはこれか)


力尽くで扉が開かれた先、エシディシの視界に入ったのは薄暗い通路だ。
天井はエシディシの身長の数倍程の高さであり、横幅もそれなりの広さを持つ。
まるで下水道か何かの如く冷たく湿った空気が漂っていた。


そして―――通路は果てしない長さで先へと続いている。


(荒木は俺達のような日光が弱点となる種族にとってのアドバンテージとなるものを地下に用意した。
 予想はしていたが、やはり当たっていたようだな…それは地下通路ッ!
 闇の一族や吸血鬼にとっての最大のネックといえば日中の行動制限。しかし日光の当たらぬ通路が存在すればその不利は補うことが出来る)


柱の男、吸血鬼が日中に行動を制限される理由。
それは『日光に弱い』という致命的な弱点を抱えているからだ。
どれだけ身を鍛えようと、どれだけ力を得ようと、種の運命として陽の光に抗うことは出来ない。
故に太陽が昇っている間に出来ることは身を隠すことのみ。

しかし、会場を移動出来る地下通路が存在していたとすれば?

そうなれば一気に行動が容易になる。
日中の一時停止を余儀なくされていた参加者が会場の中をある程度動くことが出来るようになるのだから。

(日中は退屈になると思っていたが、やはりある程度はゲームを公平にするつもりはあるようだな)

恐らくこういった仕掛けは他の施設にも用意されていると思われる。
そもそもこの通路がどこへと繋がっているのかも解らないが、少なくともエリアから離脱出来るだけの距離はあるだろう。

(っと、いかんいかん。思考よりも足を動かすことが先だ)

頭部爆破までの時間は残り半分を切っている。
闇の一族の脚力を駆使し、全力で地下通路を走れば助かる見込みはある筈だ。
尤も、その先に何があるのか。何が待ち構えているのかは知り得ない。
ただ今の自分に出来ることと言えば、只管に前へと進むことだけだ。
故に彼は己の両足に力を込め、冷たい床を蹴り出す。



(さて――――行くか)



光の存在しない通路を。
仄暗い闇の奥底を。
エシディシは、只管に駆け抜け始めた。


今の彼にとって『足を止めること』は『無様な死を迎えること』を意味するのである。



【B-4 地下道/朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:全力疾走中、疲労(中)、体力消耗(中)、上半身の大部分に火傷(中)、左腕に火傷(中)、左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:とにかく地下道を走ってB-4から抜け出す。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので焦る必要はない。サンタナはまあどうでもいい。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
※禁止エリア内にいます。頭部爆破までのカウントダウンは残り5分程です。

※B-4 DIOの館の1F「図書室」に地下道への隠し扉があります。
会場の何処に繋がっているのか、通路以外に何か存在するのかどうかは不明です。
他の施設にも同様の隠し扉があるかもしれません。

※DIOの館の1F「ミュージックルーム」には数多くのレコードが保管されています。
ジョジョの登場人物やスタンド名の元ネタかそれに関連する曲が殆どです。
尤も、B-4が禁止エリア化したので今後聴くことは出来ないでしょう。

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最終更新:2014年11月24日 20:18