Dirty Deeds Done by Dirty Hands

「さて、何を作ろうかな♪」

ようやく辿り着いた玄武の沢の河童のアジトにて、私は思わずそんな言葉を漏らした。
幸いなことに、懐かしの我が家には、愛用のリュックと共に幾らかの工具や材料が残っていたのだ。
既に作ってあった品々は、予想通り綺麗さっぱりに無くなっていたけれど、
その元となるものがあれば、救われるものがあるし、何より技術者として嬉しい。


私はウキウキと心を弾ませ、何度も首を左右に傾け、頭を悩ませた。
だけどランラン気分でいると、それを邪魔するかのように、
隣にいた康一が猛烈な勢いで私に怒声を投げつけてきた。


「にとりちゃん、早く皆の所に戻ろうよ!! 人がたくさん死んでいるんだ!!
いつまでもここにいては危険だし、皆もボク達のことを心配しているよ、きっと!!」

「ひゅい!?」


ビクッと私の身体は竦み、両目もギュッと閉じられた。別に私自身は殴られると思ってもいなかった。
だけどそれとは別に、怒鳴り声によってか、身体の方がギャグ頭の男を思い出してしまったらしい。
私の身体は、またぶっ飛ばされるのではないかという恐怖によって、無様にも硬直してしまった。


妖怪である自分が人間に対して、随分と情けないことだ。
このことが他の人妖に知られれば、河童の間での私の立場も危うくなってくるだろう。
だけど、今回はその反応が少しは役立ってくれたみたいだった。
その証拠に、康一はすぐさま私に謝罪を入れ、物腰もさっきとは違って、大分柔らかくなった。


「ご、ごめん、にとりちゃん。急に怒鳴ったりして」

「はは……いや、別にいいんだけどね。ただこれからは怒鳴るのを止めてくれると、嬉しいかなーなんて」

「うん、気をつけるよ」

「……ありがと」

「それはそれとして、目当てのものが見つかったんなら、やっぱり早く戻った方がいいよ。
さっきも言ったけれど、多くの人達が死んでいるこの状況で、二人だけでいるのなんて危険だし、
何より吉良吉影のこともある」

「それはそうなんだけどね」


と、私は首をウンウンと一応縦に振りながら、今も尚、ここに留まる理由も話してやることにした。


「さっきの放送を聞いていただろう? 死んだ人の名前にパチュリーさんが仲良しさんがいたんだよ」

「それだったら早く戻って……」

「……戻って、彼女に何をするの?」

「それは…………」


その先の言葉を発せないまでも、顎に手を当て、一生懸命に頭を巡らしている康一。
その様子から性根の良さを感じ取った私は、同時に彼の扱い易さも見て取り、思わずニョホッといじわるな笑みを浮かべる。
だけど、それを露骨に表してしまうのは、どう考えてもマイナスだ。
私は急いで気を引き締め、代わりに真面目で、それでいて優しげな表情を康一に贈ってやることにした。


「気持ちは分かるよ。慰めてやりたい。励ましてやりたい。
これ以上犠牲を出さない為にも、早くに皆と合流して、この殺し合いの解決に乗り出したい。
勿論、私だって、そういう気持ちはあるよ。だけどさ、ちゃんとパチュリーさんのことも考えてやらなきゃだよ。
大切な人を失った。そこに次の行動を急かすような言葉を、いきなり投げかけるのは、あまりに無遠慮で酷ってもんでしょ。
この場合、気持ちの整理をつける時間を与えてやることが、大切なんじゃないかな。
そこら辺の機微を蔑ろにしちゃ、心の中にしこりができ、後々の行動にも支障をきたしかねない。
私達は仲間なんだ、運命共同体なんだ。お互いが、お互いを思いやり、助け合わないと、
この殺し合いを解決することなんか、到底無理だよ」


そこで私は一旦言葉を区切った。
パチュリーの為にという、あまりにどうでもいい嘘を喋ることに辟易し、疲れてしまったのだ。
しかし、これ以上休むと、今の嘘に呼応したセリフを康一が吐き出し、私もそれに付き合わなければいけなくなる。
そんな面倒くさいのは御免だ。「それに」と、開き始めた康一の口を塞ぐように、私は急いで言葉を付け足した。


「それに折角こうした色々な材料があるんだから、利用しない手立てはないよ。
そりゃあ、康一なんかはスタンドがあるし、他の皆も何か強い力を持っているからいいだろうけれど、私は弱いんだ。
何か身を守るための道具が必要だし、何よりも無ければ困る。それとも康一は、私が死んだって構わないって思っているの?」

「そんなことはないよ、にとりちゃん! にとりちゃんは、僕にとって大切な人だから!」

康一はブルンブルンと慌てて首を振り、私に向かって盛大な告白をしてきた。
こいつは意味を分かって話しているのだろうか。まあ、恥じ入る様子がないから、趣旨は言葉通りでしかないのだろう。
とはいえ、盟友が真摯に好意を寄せてくれるのは、純粋に嬉しかったりもする。
私は頬に上った血を誤魔化すように、コホンと咳払いをしてから、なるべく平静な様子で口を開いた。


「ま、そんな訳だからさ、私が道具を作っている間、康一は外で誰か来ないか見張っていてよ。
見ての通り、河童の家なんていうのは、岩壁をくりぬいて作った洞窟だ。
ここで敵なんかに襲われたら、逃げ場もないし、いざっていう時に大変なことになりかないからね」

「……うん、分かったよ」


康一は少し思案する素振りを見せると、私の言葉に納得して外に出て行った。
殺し合いのこと、廃ホテルの皆のこと、そして私のことを、きっとその短い間で懸命に考えてくれたのだろう。
だけど、そんな康一の背中を見送る私の中に生まれたのは、感謝ではなく、それとは逆の単なる呆れだった。


「しっかし、随分と簡単に信じてくれるなー。人が良いのか、馬鹿なのか、はたまたその両方なのか」


逃げ道は用意されている。当たり前だ。
人間の家にだって、正面玄関の他に勝手口などが取り付けられているんだから、私の家にだって当然ある。
部屋の隅にある箪笥をどかせば、地下への入り口が登場。そしてそれはちゃんと外へ続いている。
だけど、私が康一に人の良さの他に馬鹿の烙印を押すのは、何も裏口の存在に気がつかなかったからだけではない。
彼のマヌケさを決定付けたのは、ホテルで吉良吉影をチェックメイトに嵌める実に簡便な手段を、
悠々と見過ごしてしまったからに他ならない。


「そ、実に簡単なことだった。パチュリーと吉良吉影を会話させる。ただそれだけで良かったんだ」


相手は平穏を望む殺人鬼。本性を隠すために嘘のオンパレードだ。
当然、嘘を見抜く能力を持つパチュリーは、彼に疑いを向ける。
そして康一とヘンテコヘアーが、その疑念を後押し、あるいは補ってくれる。
康一たちの言葉が嘘かどうかなど、それこそパチュリーなら簡単に分かるだろう。


そこまで来たら、その後の流れも、実に容易なものだ。
確かな信頼関係が窺えたパチュリーと岡崎夢美の二人の間に、嘘や欺瞞はない。
パチュリーの発言は、どんな突拍子ないものでも、夢美は信じてくれるだろう。
そして何だか頭良さげな二人が揃えば、残りの奴らから言葉巧みに信用を得るというのも、そう難しくはない筈。


そうなれば、実質八対一の闘いだ。
その勝敗など、火を見るよりも明らかと言える。


パチュリーが嘘を見抜くことは、あの場にいた康一も耳にしていたことだ。
そうでありながら、吉良吉影が吐いている嘘のことを知りつつ、そのままにした。
馬鹿と言うより他はないだろう。


「ま、パチュリーを恐れている私だからこそ、思いついた考えかもしれないけどね。
それにそれを提案しなかった私も、十分に馬鹿かもしれない…………」


吉良吉影は、私にとっても危険な存在だ。だから自らの身を守る為にも、彼は排除しなければならない。
だけど、私は彼をチェックメイトにする手段を思いつきながら、その話を持ちかけなかった。
そんな馬鹿をした理由は、パチュリーの手にある。


「ふっふっふ。パチュリーの手って、綺麗なんだよねぇ」


私はパチュリーの薄皮を剥いた様な、白くて瑞々しい手を思い出しながら呟いた。
労働を知らない日陰女の手は、一切の汚れもなく、一つの傷もない。
私には手の美醜というのは分からないけれど、それでも彼女の手が綺麗だというのは理解できた。
そしてそんな手なら、手に異常性癖を持つ殺人鬼の関心を寄せるのではないか、と私は思ったのだ。
そうなれば、私が懸念するパチュリーを労せず始末出来るというもの。


廃ホテルでの吉良吉影は、康一と奇怪な馬糞頭にばかり目を向けていたが、
こうして時間を与えてやれば、彼もきっとパチュリーの綺麗な手に気がついてくれるだろう。
これこそが私が皆との合流を遅らせる最後の、そして最大の理由だ。


尤も吉良吉影も危険人物であることに代わりはないから、私の命は依然と脅(おびや)かされたままとなる。
だけど、それでもパチュリーを相手にするよりはマシと言える。
パチュリーに敵はいないが、吉良吉影にはたくさんいる。
つまり彼と対峙する時は、必ずしも一人である必要はないということだ。
私のような弱者にとって、孤立こそ最も忌避すべき状況である故、そういった事実は素直に有り難い。


そして闘いの相性というのもある。大魔法使いが持つ豊富なスペルは、私の攻撃全てに対処が出来る。
それとは反対に吉良吉影は接近戦を得意とするスタンド。距離を取れば、私の弾幕でも優位に事を運べるだろう。
勿論、彼にも遠距離攻撃を可能とするスタンドがあることは、康一から聞いて知っている。
だけど、それが私にもたらす危険性は極めて少ないと言える。何故なら、私は水棲動物。当然、人間より体温は低い。
熱を感知して攻撃してくる爆弾に、何を恐れる必要があろうか。

ふふふ、と笑いが込み上げてくる。
私の前途に幾らかの光が差し込んできたんだ。これで笑わずにいられるか。
とはいえ、これからの展望に期待し過ぎな面もある。
吉良吉影がパチュリーを始末してくれるかは依然と分からないし、
爆弾化のことを考えれば、彼との闘いも有利に運べる保証はどこにもない。
私が辿るべき道筋が見えたが、それはいまだにうっすらとしたものなのだ。
安心するには、まだ早いだろう。だけど、やっぱり少しばかりの安堵は得られるのも確かなのだ。
何故なら、私の足を支えてくれるアイテムを、これから作るのだから。


「さて、何を作ろうかな♪」


私は再び頭を悩ませた。廃ホテルに戻るまでの時間は限られているから、急がなければならない。
あんまりグズグズしていたら、パチュリーの猜疑心は深まるだろうし、下手をしたらそれが他の皆にも伝播しかねない。
加えて、材料の問題もある。十分とは言えないそれらでは、複雑なものでは出来ないし、作れる道具も精々が一つだろう。
何を作るかは、慎重に選ばなければならない。敵を攻撃するものか、それとも敵の攻撃を防御したり、回避したりするものか。
はたまた、敵ではなく「仲間」を欺く為の物か。「仲間」をターゲットにするのも、生き残る上で重要な選択肢の内の一つだ。


「ん?」


と、そこで私は気がついた。
手に持って回していたスパナによって、いつの間にか油汚れが手についていたのだ。
不快な感触に、私は慌てて脇に置いてあったウエスを取る。しかし、それで油を拭き取ろうとした私は途中で止めた。
手が綺麗なら、それこそ吉良吉影の欲情の対象になるかもしれないのだ。
であるのならば、やはり手を汚なくしといた方が、私が生き残る可能性は上がるのだろう。
私は手についた汚れをそのままに、作業に取り掛かることにした。

【E-1 妖怪の山 河童のアジト/朝】

河城にとり@東方風神録】
[状態]:健康 手に油汚れ
[装備]:火炎放射器、河童の工具@現地調達、色々な材料@現地調達
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:何か有用なアイテムを作り、廃ホテルに戻る。
2:パチュリーをどうにかしたい(吉良の関心をパチュリーに向けさせてみる?)。
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する。
4:吉良吉影を警戒。自分が吉良の正体を知っていることは誰にも言わない。
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
 スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
 また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
 他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。
※怒鳴られると、身体が竦んでしまう癖がつきました。


広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりがアイテムを作るのを待ってから、廃ホテルに戻る。
2:仲間(億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
  露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫エルメェス・コステロウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1~Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
  この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いています。



<河童の工具>
河童愛用の工具。人間が使うような工具の他にも色々あると思われる。


<色々な材料>
河童謹製の道具の元となる色々な材料。人によってはガラクタの山。

087:ウェルカム・トゥ・アンダーワールド 投下順 089:その血のさだめ
087:ウェルカム・トゥ・アンダーワールド 時系列順 089:その血のさだめ
081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた 河城にとり 101:Strawberry Fields??
081:蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた 広瀬康一 101:Strawberry Fields??

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最終更新:2014年09月23日 20:54