リンゴォ・ロードアゲインは、くるりと踵を返した。
火傷だらけの人間から、
蓬莱山輝夜の名前を聞き出すと、早速彼は
八意永琳から預かってきた言伝を渡す。
そして彼女から
秋静葉と
姫海棠はたての情報が得られないと分かると、もう彼女には用はないとリンゴォは判断したのだ。
あまりに無体である。しかし、そんな愛想の欠片も見せないリンゴォの背中に向かって、輝夜の声が勢いよくぶつけられた。
「こら、ちょっと待ちなさい! 私だって、貴方に用があるのよ!」
「……何だ?」
重く溜息を吐いたリンゴォは歩みを止め、気だるげに輝夜の方へ振り返った。
リンゴォにとって、輝夜など興味の対象外。彼女を傷つけないという永琳との約束があるからとも言えるが、
それ以上に彼女には『魅力』がないのだ。確かに重傷とも言える身体を難なく動かしているその身体能力には目を見張るものがあるが、
そこからは『道』を切り開き、敢然と歩もうとする『気高き意志』が感じ取れない。それではリンゴォの食指を動かすには至らない。
だが、そんなものは知ったことか、とリンゴォの耳に輝夜の言葉が、ぶしつけに入れられる。
「貴方、私の仲間になりなさい。私は人間と協力して異変を解決するって決めたの!
苦節十数時間……いや、別に苦しんでなんかいなかったけれど…………。と、とにかく!!
ようやく……ようやく出会えた人間を、ここで手放す気は私には毛頭ないわ」
光を放つような晴れ晴れとした輝夜の顔が、リンゴォの目に入った。勿論、彼女の顔は依然と醜悪そのものである。
火傷によって瞼が剥がれ落ち、光をも失った右目はギョロッと気持ち悪く動き、唇も同様に火傷で無くなったそこは歯茎が剥き出し状態。
かつては白磁のようであった肌は表皮を失い、露になった筋組織が赤黒く糜爛(びらん)となって、体液がウジュルウジュルと汚らしく滲み出ている。
そんな中で努めては明るく振舞う彼女の姿は、もしかしたら人々に感動を呼び起こすものなのかもしれない。
しかし、当のリンゴォは輝夜の宣言を耳にすると、毛一筋分も眉を動かさず、氷のように冷たい表情で再び彼女に背中を向けるのであった。
異変を解決する。それは結局の所、殺し合いが起きたからという受け身の対応でしかない。
現に彼女の言葉からは、その行動を支える『信念』が何も感じ取れなかった。それでは自らの前に立つ資格はない、とリンゴォは判断する。
それに何より、彼には輝夜のご機嫌を取るとか、この殺し合いをどうこうするとかよりも、大事な目的があったのだ。
それは秋静葉、姫海棠はたて、
ジャイロ・ツェペリ、そして自らに恐怖を与えた八意永琳との決闘。
彼らとの決着を経ずして、『光り輝く道』を進めない。故にリンゴォは何の遠慮もなしに輝夜の提案に唾を吐きかける。
だが、そんなリンゴォの耳に、今度は聞き捨てならない輝夜の台詞が入ってくるのだった。
「って、無視をしない。それなら、私と勝負よ。私の出す五つの難題をクリアしたら、行ってもいいわ」
「……勝負……だと?」
リンゴォは、その言葉に反応して反射的に振り返る。
そしてそれを勝負を受け入れた、と輝夜に勝手に判断されてしまったのか、たちまち煌びやかな弾幕がリンゴォの視界を覆った。
――難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」
赤、青、黄、緑、紫の色取り取りの弾が、所狭しと列を成してやってくる。
それは弾幕初心者のリンゴォには間違ってもかわせない濃密な弾幕――難題だ。
しかし、リンゴォは突きつけられた「敗北」に焦ることも、嘆くこともなく、至って冷静にスタンド「マンダム」を発動させた。
時は六秒巻き戻り、弾幕を発することのなかった無防備な輝夜が現れる。
そしてそんな彼女の足元に向かって、すかさずリンゴォの銃から弾丸が放たれた。
それに驚いた輝夜が足を後退させるのを確認すると、リンゴォは銃をホルスターに収め、淡々と彼女に告げた。
「今のは警告だ。そしてそれで八意永琳への義理は果たしたつもりでいる。
もし次に同じようなことをしたら、オレは躊躇いなくお前に攻撃を当てるだろう。
オレの言っていることが分かるか? お前では、オレに勝てない。だから、オレにはもう構うな」
傲岸不遜とも言える言葉の内容だが、リンゴォの言葉の調子は至って真摯なものであった。
そこには見栄や自惚れもない。相手を気遣う優しさすら、垣間見えるものだ。
しかし、そんなリンゴォの表情が、突然と曇り始める。
目の前の女性が開く口によって、彼女が自分の言葉には何ら耳を傾けていなかったのを、リンゴォは理解したのだ。
「ふ~ん…………難題を解くには、難題を出させなければいい。
頓知が利いているようで、利いてないわよね。だって、結局の所、問題を解いていないんだから。
でも、まあ、今回は特別に合格ってことにしてあげる。それじゃあ、次、行くわよ」
――難題「仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-」
輝夜の手から放たれた幾つもの光の玉から、突然と放射されたレーザーを、リンゴォがかわせたのは単なる幸運だったのだろうか。
いや、それは幾多もの決闘を制してきた確かな実力だ、と冷や汗一つかかないリンゴォの毅然とした顔が告げていた。
とはいえ、咄嗟に横に飛び込む無茶な回避だったせいか、彼の態勢は崩れ、容易に反撃が許される状況にはない。
そしてその隙を狙っていたかのように、無数の緑色の弾が間髪入れずにリンゴォに殺到する。
「……つまらない」
絶体絶命のような状況で、リンゴォは僅かに動じることもなく、静かに呟いた。
輝夜の攻撃からは、何の危機感も得られなかったのだ。
確かに木々を簡単に薙ぎ払う攻撃の威力や、相手の回避を封じるような攻撃の巧みさには、舌を巻くものがある。
その点では、実力があると言えるだろう。だけど、そこには『気高き意志』も『漆黒の殺意』も無いのだ。
それがあれば、こんな己の能力にかまけた場当たり的な攻撃などしないだろう。
要するに、彼女は時間を巻き戻す「マンダム」に対応していないのだ。
勿論、そこにはリンゴォが自らのスタンド能力を話していなかったことも要因として挙げられるだろう。
しかし、勝負を不公平なものとしたは、間違いなく輝夜だ。
彼女はリンゴォの話を聞くこともなく、無思慮に、自分勝手に、いきなり勝負をけしかけてきたのだから。
彼女に、もし自らの『道』を踏破しようとする確かな『信念』があったのならば、そのような軽挙は起こさなかった。
彼女が掲げた目標――人と協力しての殺し合いの解決には、とても困難なものであり、自らの命をベットしている以上、失敗は許されない。
であるのならば、早まった対立や闘争は避け、それが避けられないようなら、敗北を免れる為にも、攻撃に慎重さや工夫を加えるべきなのだ。
一度はリンゴォもスタンドを発動させたのだから、それこそそれへの対処や対策があって然るべき。
それなのに彼女は、薄ら笑いを浮かべ、ただ漫然と攻撃を放つのみで、行動を終わらせている。
愚か者の極致だ。彼女は自分の目標にも、他者にも真面目に向き合っていない。
ただ何も考えず、ただどうにかなるだろうと思い、このような局面でも、いまだに精神を弛緩させたままでいる。
一体、どれだけの日々を怠慢と怠惰で過ごせば、このような醜悪なモノが出来上がるのだろうか。
時間にも、生命にも尊敬を払うことをせずにいた者の末路が、まさにコレだ。
そんなクズ、ゴミ、カス相手に、負けの目など、間違っても出ない。
リンゴォはその確信と共に、再び「マンダム」を発動させる。
今より六秒前は、ちょうど蓬莱山輝夜相手に警告射撃を行おうとした時間。
つまり、拳銃はもう既に構えているということだ。そこから繰り出されるのは、ゼロ・コンマ・ゼロ秒以下の射撃。
人間が回避出来る余地など、どこにもない。それで彼女は終わりを迎える。
リンゴォは輝夜に侮蔑の眼差しを向け、ついに腕時計のつまみを捻った。
カチリ
時は六秒巻き戻り、そしてリンゴォは目を剥(む)いた。
時間を巻き戻した直後、何故かリンゴォの目の前に蓬莱山輝夜がいたのだ。
「あら、知らなかったの? 聖闘士(セイント)に同じ技は二度も通用しないのよ」
輝夜は不敵に微笑むと、新たなスペルカードを展開。
――新難題「廬山昇龍覇」
金閣寺の一枚天井を持ち上げる勢いでの輝夜のアッパーカット。
あまりに威力により、リンゴォの身体は空高くにロケットのように吹っ飛び、
そのまま輝夜の頭上を背面飛びの様に超えて、地面へ勢いよく落下する。
(……聖闘士って、何……だよ……)
あっさりと敗北を刻まれたリンゴォは、最後にそんな胸中を残し、その意識を闇へと沈ませていった。
――
――――
――――――――
顎に走る鈍い痛みに気がついたリンゴォは、慌てて目を開けて、身体を起こした。
周りを見てみると、何かの乗り物のシートに座っている。どうやら、ここで寝かせられていたようだ。
ひょっとして看病でもされていたのだろうか。そのことにリンゴォが名状し難い感情を抱いていると、
彼の耳に何者かが走り寄ってくる音が聞こえてきた。
「良かった。起きたみたいね」
蓬莱山輝夜であった。彼女の顔は、さっきまでなかった皮膚に覆われて、今は大分直視できるようになっていた。
まだ所々、火傷は残っているみたいだが、そのどれもが軽症と言えるものだろう。
その驚異的な回復力に勿論リンゴォは驚きはしたが、彼女の姿を見て、何よりも先に彼の中に思い出されたのは、己の不覚であった。
次いで、それを決定づけた要因。あの勝負の最後の瞬間の出来事への疑問が、リンゴォの口から我知らずと零れ出る。
「……あの時……お前は、一体……何をした?」
「あの時? あー、あれは貴方と同じよ。貴方と同じく時間を、ちょっとね」
蓬莱山輝夜には「永遠と須臾を操る程度の能力」がある。
永遠とは無限の時間、そして須臾とは人が認識すら出来ない僅かな時間のこと。
それらを操る輝夜は、あらゆる変化を拒絶し、『永遠』を存在させることができ、
また一瞬以下の時間である『須臾』の中を、自由自在に動くことができるのだ。
もっと分かりやすく言えば、永遠を操るとは無敵状態になること、須臾を操るとは擬似的な時間停止のこと。
そして蓬莱山輝夜は須臾を操り、リンゴォが認識できない時間の中を移動して――つまり超スピードで動いて、彼をぶん殴ったのである。
実際には彼女はそこまで丁寧に説明したわけではないが、
同じ時間に干渉する者同士、リンゴォには輝夜の言わんとしたことが、何となく理解できた。
そして今度はリンゴォに代わって、輝夜が質問をすることになるのだが、
その内容は彼にとって、到底聞き捨てならないものであった。
「それで怪我はどう? 一応、手加減したから、大丈夫だとは思うんだけど?」
「て、手加減だと!? ……君は、あの勝負……手加減したと言うのか!?」
「当たり前でしょう。本気を出したら、貴方が可哀想じゃない」
「か……可哀想?」
「ま、とにかく、これで貴方は無事に私の仲間となったわけね。人間と一緒なら、さすがに妹紅も話は聞いてくれるだろうし。
フフ、私が地上人と一緒に仲良く行動をしているって知ったら、彼女はどんな顔をするのかしらね。今から、妹紅の反応が楽しみだわ」
輝夜の言葉など、もうリンゴォの耳には入っていなかった。
何の覚悟もなく適当に生きているような女に侮られ、哀れまれ、憐憫さえ抱かれて、負けてしまったことをリンゴォは知ってしまったのだ。
それはどんなに情けなくて、どんなに恥ずかしくて、どんなに悔しくて、どんなに惨めなことだろうか。
あまりの屈辱と恥辱で、リンゴォの顔はクシャクシャに歪み、目の端には涙さえ浮かんできた。
八意永琳の時は、まだ言い訳することできた。まだ『納得』できる余地があった。
だが、今回はどうだろうか。リンゴォを降した女は半死半生の怪我人。つまり、リンゴォより遥かに不利な立場にあった相手だ。
そんな彼女との勝負の結果に、言葉を差し込んで、異議を申し立てたら、余計に惨めになるのではないだろうか。
リンゴォの精神は、最早輝夜に陵辱されたに等しく、頭を上げることすらできずにいた。
(こ、これが『光り輝く道』の果てだというのか? こんな結末を迎えるために、オレは今まで『果たし合い』をしてきたというのか?
だったら、オレが感じていた生長とは、一体何だったというのだ! こんな最期を迎えるくらいだったなら、オレは…………ッッ!!)
肺を満たす空気は鉛のように重く、呼吸さえ困難になってきた。
日は差しているというのに、目の前は暗く、周りの風景はおろか、自分の足元にある道さえも、良く見えない。
もうリンゴォの中には絶望しかなかった。それだけが彼の中にうずくまり、彼の生きる意味を失わせていた。
否、とリンゴォは慌てて首を振った。
先ほどの勝負は、到底公平なものではなかった。蓬莱山輝夜は半死半生の大怪我で、お互いの能力も知らなかった。
そこには『神聖さ』も『公正さ』も、欠片もなかった。つまり、『公正なる果たし合い』ではない。なら、その結果など無効だ。
そうに違いない。でなければ、今までの人生全てが無意味なものとなってしまう。だから、気にしなくていい。
リンゴォは自分をそう励まし、残った気力で何とか身体を起こし、デイパックを開ける。
いつの間にか、じっとり身体を濡らした脂汗で、随分と喉が渇いた。それを潤そうと、リンゴォは水の入ったペットボトルを取り出す。
しかし、いざそれを口に運ぼうとしたら、ペットボトルを地面に落としてしまったではないか。
リンゴォはそんな自らに苦笑を零しつつ、地面に転がったペットボトルを拾い上げようとする。
だが、それは何度やっても決して自らの手の中には収まらず、ペットボトルは無様に地面に転がるのみ。
何故と思うまでもなく、リンゴォは気がついてしまった。自分の手足が震えているのだ。
それを見て、リンゴォは愕然とした。震える自分の手が、子供の時のように透き通った白色を見せ始めていたのだ。
そして追い討ちをかけるように、今度はポタリポタリと鼻血が落ち、リンゴォの手の甲を赤色に彩り始める。
その現実に、とうとうリンゴォは頭を抱え込み、咽び泣いてしまった。
リンゴォが自らの生長に疑念を抱いてしまった瞬間、
彼の身体は初めて生長を感じたあの運命の日の夜以前に戻ってしまっていたのだ。
【C-5南部 迷いの竹林/午前】
【リンゴォ・ロードアゲイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:微かな恐怖、精神疲労(極大)、左腕に銃創(処置済み)、胴体に打撲
顎ズキズキ、鼻血ポタポタ、涙シクシク、皮膚病、手足の震え、自信喪失
[装備]:一八七四年製コルト(6/6)@ジョジョ第7部、A.FのM.M号@ジョジョ第3部
[道具]:コルトの予備弾薬(13発)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生長したい
1:生長って、一体何だ?
2:妹紅……?
3:他の参加者……? 今はどうでもいい。
4:てゐと出会ったら、永琳の伝言を伝える。
[備考]
※幻想郷について大まかに知りました。
※永琳から『
第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託されました。
※公正なる果たし合いによる生長に疑念を抱き始めました。
※皮膚病はちょっとした傷で、すぐに出血するといったものです。
【蓬莱山輝夜@東方永夜抄】
[状態]:身体の所々に軽度の火傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:皆と協力して異変を解決する
1:人間の仲間ゲットだぜ!
2:というか、
第一回放送内容を知りたい
3:リンゴォと一緒に妹紅を探す or レストラン・トラサルディーに行く
[備考]
第一回放送を聞き逃しました
A.FのM.M号にあった食料の1/3は輝夜が消費しました
A.FのM.M号の鏡の部分にヒビが入っています
支給された少年ジャンプは全て読破しました
黄金期の少年ジャンプ一年分はC-5 竹林に山積みとなっています
干渉できる時間は、現実時間に換算して5秒前後です
制限には、まだ気づいていません
最終更新:2016年02月15日 02:05