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冬眠前夜

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モヤモヤとした感情が肥大していくと同時に、お泊りもといクリスマスイヴは明日へと迫っていた。
街のイルミネーションもより一層盛大に輝いていて、ピザの宅配バイトの人までがサンタ服になっている。
「お姉ちゃん、コレなんてどうかな?」
声のする方へと視線を向けると、赤いマフラーを差し出しているつかさがいた。
「ちょっと派手すぎない?」
赤いマフラーを巻いたこなたを想像してみる。
幼稚園児か、アンタは。
「ん~、じゃあコッチは?」
バルサミコ酢と書かれたTシャツを渡してくるつかさを制止して店内を見渡す。
どこもかしこもクリスマス一色の装飾がされている。
今日はまだクリスマスイヴにもなっていないのに、なんでこう日本人はイベント物に弱いのかしら。
「お姉ちゃーん、コレは?」
心底楽しそうに先程から色んな商品を持って来るつかさ。
今朝私がこなたの家に泊まりに行くと告げると、
「やったね、お姉ちゃん」
などと笑顔で祝杯された。
てっきり、「私も行く~」とか言うと思ってたのに…
「…だ、だって。その…ねぇ?」
モジモジと下を向いて赤くなるつかさ。
「な…ちょ、泊まるって言ったって、ふ、ふつーのよ?!」
つかさの反応で言いたい事が分かった私は必死に弁解する。
これじゃ、弁解というか言い訳だけど。
こなたと私が付き合ったということは既にみゆきとつかさには打ち明けている。
「そうなんですか?それはおめでとうございます」
「うん、おめでとー」
などと何の抵抗もなしに祝杯された事に私は心底驚いたが、こなた曰く「あの二人もフラグたってるしねー」らしい。
何の事かはよく分からないけれど、受け入れられた事には安堵したし、いいか。


「そういえばお姉ちゃん、こなちゃんにプレゼントは買ったの?」


正直このつかさの言葉を聞くまでプレゼントなんて考えていなかった。
悶々とした気持ちの整理が最優先されていて、まぁ答えなんて見つからないんだけど…
気分転換も兼ねてプレゼント探しに行くのもいいかもしれない、とつかさを連れて街までやってきたのだ。


『クリスマスセール品』とかかれたタグを見つめ、一体アイツは何が欲しいのだろう、と思案する。
漫画、ゲーム、ポスター、フィギュア、ラノベ…はあげても読まないだろうし。
こなたと付き合うまでロマンスの欠片もなかった私にとって相手を喜ばせるプレゼントなんて見当もつかない。
うーむ、と再び店内を見回すと、
『クリスマス、恋人に何をプレゼントする?』
そう書かれた雑誌の見出しを見つけ、手にとってみる。
手編みマフラー、時計、香水…どれもこうピンとくるものがない。
大体私の恋人は一般的じゃないもんなぁ、なんて失礼な事を思っていると…
『クリスマスイヴ、熱く燃えるお泊り特集』
と書かれてページが現われた。
「えぇぇ?!」
思わず出てしまった口を手で抑える。周りの皆さんごめんなさい。
落ち着くために深呼吸をして、ペラっとページをめくってみる。
『初めて恋人とクリスマスを過ごす人』という項目を見ると、YES・NO方式でクリスマスの過ごし方のアドバイスをくれるらしい。
…まぁちょっとくらいならやってみようかな。
『付き合ってから3ヵ月たった』
YES。
『クリスマスはお泊まりの予定だ』
YES。
『Dチューは経験済みだ』
い、YES…。
『自分はどちらかと言うと受け身的だ』
…い、YESかな。
『キス以上の事を求めている』
「えぇぇぇ?!」
本日二度目の叫び声。
あぁ、店員さん、そんな冷たい目で見なくても…。
周りの視線に逃げるようにその雑誌を買い、つかさを探す。
手に《どんだけー》と《いかほどー》と書かれているニット帽を持っているつかさが私に気付き、小走りで近寄ってきた。
「お姉ちゃん!!!」
「つかさ、私やっぱりプレゼントは…」
「コレとコレどっちがいいと思う?!」
「いや、だからプレゼントは…って、え?」
みるみる赤くなるつかさを見て、私に薦めるためのプレゼントではないことが分かった。
「……誰にあげるの?」
「うっ…え、えーと…」
ごにょごにょと話すつかさ。
姉妹揃ってすぐ顔に出ちゃうのね。
「えっとね、ゆきちゃんがね…その、えっと…」
「みゆきが?」
「明日泊まりに来きませんか…って」
「へー、だからプレゼント買うわけね」
「だからってわけじゃないんだけど…」


顔が真っ赤になるつかさを不思議に思いながら、つかさの持つニット帽を見比べる。
「ん~みゆきならコッチが似合いそうね」
と《いかほどー》の方を指差すと
「じゃあ、コッチ買ってくるねー」
とまた小走りでレジへと向う。
つかさの背中を見つめながら成り行きで買ってしまった雑誌を見つめ、とりあえず家に帰ったら読み直そうと雑誌を握り締めた。



『キス以上の事を求めている』
果たして私は求めているのだろうか。
結局プレゼントはつかさに手伝って貰ってクリスマスケーキにしようと決って数時間。
つかさの料理テクによって売り物のように綺麗に焼けたスポンジにフルーツをデコレーションしながら私は無限のループの如く自分に問いただしていた。
ちらっと時計を見ると8時を少し回っていた。
あの雑誌を見てから胸の奥らへんのモヤモヤはさらに大きくなって、考えるのはこなたの顔。
「電話、してみようかな…」
「え…?電話?」
心の中で思っていたはずだったがどうやら口に出していたらしい。
「いや、えーっと…いいかな?」
と聞くとつかさが笑顔で答える。
ありがと、と伝え部屋へと向い、電話をかける。

数回のコールの後こなたが電話にでた。
「ヤフー、かがみん」
「あ、こなた?今大丈夫?」
「かがみの為ならゲームくらい中断させるよ」
あぁ、ゲーム中だったのね。
「で、どったの?」
「え?いや…えっと…」
「ん?」
しまった、こなたに電話したいって気持ちだけでかけていて、用事考えてなかった。
「よ、用事はないんだけど…」
「私の声聞きたかったー、とか?」
電話越しなのにニヤニヤしてるだろうこなたが目に浮かぶ。
「ち、違うわよ!!」
ちくしょう、なんでコイツこんなに鋭いのよ。
「明日さー、楽しみだよね」
「また唐突だな」
「いやさ、なんかイベントものって燃えるじゃん」
あー、コイツも確かイベント好きだったな。
「しかもクリスマスイヴに二人きり…これなんてエロゲ?だよね」
「なっ、なに言ってんのよ?!!」
「ふぉ、かがみ声でかっ!」
全く、人の気も知らないで…と目に入ったのは先程買ってしまった例の雑誌。
『キス以上のことを求めている』
コイツは、こなたはそれを求めているのだろうか。
フッと浮かんだ疑問。
今まで自分がどうこう言っていたのも、こなたがそれを求めて事を前提に考えていたことであった。


確かに抱き締めたり、キスをするのはこなたからがほとんどで…私からこなたにすることは数える程しかない。
自分からするのが嫌というか、ものすっごく恥かしいからという理由なんだけれども。

「かがみ?」
急に黙り込んだ私を不思議に思ったのか、こなたが声を掛ける。
「あ、あのね…一つ聞いても、いい?」
ほぼヤケクソで質問する。
「こなたは…その、私と…キ、キ、キ…」
「気?」
「…キス以上の事したい?!!」
…って何言ってるのよ、私?!
言った後に後悔と体温が込み上げる。
こなたは驚いているのか呆れているのか沈黙が続く。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…あ、あの…こな」
「したいよ」
痺れを切らした私がこなたのを呼ぼうとした途中で、こなたが口を開いた。
したいよ、って…………ちょ、えぇぇぇぇ??!!!!!!
「え…あの、それは…」
驚いて言葉が上手くでない。「私はもっとかがみの事知りたいって思ってるしね」
優しくて、甘い甘いこなたの声が受話器を通して私の神経の細部まで伝わる。
心臓がこれ以上ないくらい全身に血液を運んでいるのが分かった。
こなたは狡い、私が数日にかけて持て余していた胸のモヤモヤを一言で拭い去った。
「こなた…」
「んー?」
堪らなくてこなたの名前を呼ぶと、いつものこなたの声に戻っていた。
「んにしても、唐突な質問だね、かがみん」
「いや、えっと…」
「もしかして最近ボーとすることが多かったのはソレのせい?」
だから、なんでアンタはそんなに鋭いのよ。
私ってそんな分かりやすいのか、と考えつつも図星のためこなたの質問に同意する。
「かがみんは乙女だからねー」
「…うっ」
「大丈夫だよー、いくらなんでも嫌がってる相手を無理矢理襲ったりはしないって」
え…いや、嫌がってるわけじゃ…
「あ、お父さん呼んでる。そんじゃ、かがみんまた明日~」
と切られてしまった受話器を戻す。
私はとんでもないものを盗…じゃなくて、とんでもない事を言ってしまったんじゃないかー?!!!
こなたは私がキス以上のことをするのを嫌がってるから、こなたに聞いたって思ってる…わよね。


―嫌がってるの?
いや、嫌がってるわけじゃないのよ。
―じゃあ、期待してるの?
期待…確かにほんの少し期待してる自分はいる。こなたに抱かれる事を妄想だってしたし…
―どうしたいの?
分かんないわよ、そんなの…

冷静な自分が混乱してる自分に問い掛けるが答えはやっぱり出ない。
先程目に入った雑誌を開く、
『キス以上のことを求めている』
………あーもう、じゃあYESよYES!!!
と半ばヤケクソで結果を見る。
『あなたはパターンA』
そりゃ全部YESだしね。
『相思相愛の理想のカップルであるアナタに必要なのは勇気と決断力。』
『キスはいいけどエッチには抵抗があるって反面、期待もしているアナタはまず相手に思いを伝えるべき』
こなたに、伝える…?
何を、どれを?
『アナタの本当の気持ちを』
本当の気持ち…。
私はこなたが好き、これは本当の気持ち。
こなたと手をつなぐのも、抱き締められるのも、キスするのも好き。
もっとこなたを知りたいし、触りたい、とも思う。
これも私の本当の気持ち。

なんだ、簡単な事じゃない。
胸に込み上げるこなたを愛しいと感じる感覚。
きっとこれが私の答えなんだ。
雑誌を閉じ、ありがとと雑誌相手に微笑む。
雑誌を本棚に入れ、居間でメールをしてるだろうつかさの元へと向った。
ケーキをとびっきり甘くする方法を聞くために。


クリスマスイヴまで後数時間。

続く













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