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Elope 第8話に戻る
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 (こなた視点)


「こなたお姉ちゃん。年越し蕎麦できたよ」
 エプロン姿のゆーちゃんが鍋から、お椀にそばを移している。
「ありがと」
 結局、私たちは、二人だけで大晦日を迎えた。
「さて、食べようか」
 テレビは、紅白歌合戦を放送している。
 どの歌手も、誇りをもって曲を歌っている。
 そして、映像に映っていない場所では、たくさんのスタッフが
表舞台に立つ歌手を支えているはずだ。

「お姉ちゃん。お味はどうですか? 」
 ゆーちゃんが、こくんと首をかしげて尋ねてくる。
「うん。おいしいよ」
 そばの腰がしっかりしていて、ダシも効いている。
「ゆーちゃん。本当に料理が上手くなったねえ」
 私の言葉に、ゆーちゃんは満面の笑顔を返した。
「こなたお姉ちゃんに教えてもらったから、少しは上達したんだ」
「ありがと」
 蕎麦をすすっていると、しみじみとした気分になってくる。

「今年はいろいろあったねえ」
 4月にゆーちゃんが家に来てから、本当にいろんな事があった。
「でも、まさか『嫁の家』で正月を迎えることになるとは
思わなかったよ」
「こなたお姉ちゃんの、『お嫁さん』に嫉妬しちゃうな」
 ゆーちゃんは、小さな口で少しずつお蕎麦を食べながら笑う。
純真で無垢な笑顔だ。

 ゆーちゃんの笑顔は、私にとっての無上の幸せだ。
 しかし、笑顔を取り戻す為に払った代償は凄惨の一言に尽きる。
 ゆーちゃんは、家族から勘当同然となってしまった。
 私は、大好きなお父さんと離れ離れになった。
 そして、私たちは高校生活を一緒におくった、大切な友人達の
ほぼ全てを、一挙に失ってしまった。
 いくら後悔しても、もはや、取り返しがつかない。


 地下街を駆け回った翌日の朝、ゆーちゃんが『家』に戻った日のことだ。
 ゆーちゃんの「海を見たい」という、希望に応えるために、
私達は地元の私鉄で、知多半島の先にある『内海』という場所まで出かけた。
 夏場は海水浴客で賑わう場所だが、冬場はほとんど人がいない。
 濃紺色をした海上は、はるか遠くに行き交う船が小さく見えるだけだ。

 それでも、冬の波は予想よりも穏やかだったし、柔らかい日差しが
私たちを包んでくれている。
「ねえ、ゆーちゃん」
 砂浜に靴の跡を刻んでいる、小柄な少女に声をかける。
「なあに? おねえちゃん」
 傾き始めた日差しが、長い影法師をつくっている。
「海って消えてしまいそうな、イメージがないかな? 」

 ゆーちゃんは、不安げな顔を浮かべる私の前で、くるりと回ってみせる。
「お姉ちゃんは、私が消えると思っているの? 」
 海辺で軽やかに舞う少女は、翼が生えた天使のようで、本当にいなくなって
しまうようで。
 私は、締め付けるような不安で、心が押し潰されそうになってしまう。

「生きるよ。私」
「ゆーちゃん…… 」
 大きな瞳を、まっすぐ私に向けている。
「私はお姉ちゃんが思っている程、純粋でも、無垢でもないんだ」
 私は、ゆーちゃんの後ろに黒い影を見出して、1歩後ろに下がってしまう。

「お姉ちゃん、私の自由を得るために、私がわたしである為に、あらゆる
策略を駆使して、大切な友達を騙したの。だから死を選ぶことなんてできないんだ」
 全てを突き放したような口調で言うと、ゆーちゃんは岸辺に座った私に寄り添い、
耳元で囁いた。
「私は、お姉ちゃん以外の、誰も信じないよ」


「ゆーちゃん…… 」
 私は、彼女の一途さを愛しいと思うとともに、危うさを伴っていることに
危惧を覚えざるを得ない。
 本当のゆーちゃんは、最初にあった頃のように、心が真っ直ぐで、
煌いていたはずなのに。

 だけど、過酷な状況に陥ったゆーちゃんは、純粋なままでは、
自分らしく生きることができないと理解してしまった。
 そして、本来持っている大切な人格の一部を、文字通り殺してしまった。
 私は、辛うじて保たれている平穏が破られた時、ゆーちゃんはどんな
行動をとるのか全く予測が出来ない。
 せいぜい、私ができることは、ゆーちゃんの心の均衡を崩さないよう、
出来る限り穏やかな生活ができるように、力を添えることだけだ。

「そろそろ、帰ろうか」
 いつの間にか、冬の太陽は後ろの山陰に隠れようとしている。
「うん」
 ゆーちゃんは笑顔で頷くと、コートの裾を翻して私に抱きついた。
「キスして…… おねえちゃん」
 浜辺の道を走る乗用車が一台だけ通った後、私は一人を除いて誰もいない浜辺で、
大切な想い人の唇を塞いだ。

(了)


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お風呂あがりにへ続く










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  • ウホッ!いいゆたこな! -- やらないか (2009-11-28 00:34:25)
  • 素晴らしいラストでした
    -- 九重龍太 (2008-03-23 14:52:27)
  • この後二人はどういう風になっていくのだろうか・・ -- ウルトラマンレオ (2008-01-27 23:54:01)
  • 退路なき恋、この話のこなたがゆうちゃんに注ぐ愛は、かがこな作品のかがみの無償の愛に近いものを感じます。
    -- 名無しさん (2008-01-01 03:06:45)

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